実技試験会場
「「ジーニスト!?」」
勝己の爆破が直撃し、吹き飛んでいったベストジーニスト。
オールマイトが駆け寄り、エンデヴァーが警戒につく。
離れた地点に着地した勝己の下に出久も合流する。
「・・・悪ぃ出久。手間取らせた。」
「大丈夫。思っていたよりも平気。」
「(んな青い顔しながら言われても説得力はねぇな。)」
先ほど、出久が放った技を人に向けた場合どうなるか。
その結果を、出久はもちろん勝己、お茶子、明は知っている。だからこそ、使うこと自体を制限していた技の一つだったのだが、
「一旦下が、」
「カッちゃん。狙うは完全勝利、だよね?」
自身が掲げた目標、それを達成するためにはもう時間的に下がっている場合ではない。それは理解している。
しかし、オールマイトとエンデヴァーを相手に一人でその目標を達成できる可能性はゼロであり、前に出ようとする幼馴染の顔は決してさっきまでの調子ではない。
「ハァ。」
嘆息した勝己は、
「フン!」
「アギャ!?」
弱弱爆破を一発、出久の背中に撃つ。
「え、なに、なに!?」
懐かしさすら感じる幼馴染の凶行に狼狽える出久。そんな出久を無視し、前に出る勝己。
「俺が憧れたヒーローは、どんなピンチも笑顔で乗り越えちまう最強のヒーローだ。」
唐突な話題。それでも出久は、勝己が何か大切なことを伝えてようとしてくれているのは理解した。
「それで、テメェの憧れはなんだ?」
「・・・どんなピンチでも笑顔で助ける、そんな、最高のヒーロー。」
「だったら、」
勝己は話しながらも前を向く。その視線の先ではこの国のヒーロー、その頂点に座する、オールマイトとエンデヴァーがこちらに向かってきている。
「だったら、不景気そうな顔してねぇで笑おうぜ出久。いやデク。そんな感じじゃ、頑張れって感じしねぇぞ。」
最強たちを見据える幼馴染の横顔は、どこまでも不敵で、笑っていた。
出久は一度目をつむり、深く深呼吸を行い、
パンッ、と気持ちが良いほど綺麗な音が響いた。
「ごめん、ダイナマイト!でも、もう大丈夫!」
少し強く叩き過ぎたのか、両頬を赤くし、目尻に涙を溜めながら、出久も勝己と同様に笑う。
「僕は、頑張れって感じのデクだからね!」
ーーーーー
「何やら、緑谷の様子が変だったが、心配いらなかったようだな。」
勝己の爆撃の直撃をもらい、吹き飛んでいったベストジーニストの様子を確認したオールマイトとエンデヴァー。
気絶し、戦線復帰は無理だが大怪我というほどではない、という絶妙な力加減でベストジーニストを撃退した勝己の技量はトップツーが舌を巻くほどだった。
残り時間も僅かになり、これから最終ラウンドだ、という意気込みであった所に、出久の様子に違和感を覚えたため、少し歩みを緩めていた二人であったが、上手く切り替えたようである。
視線の先にいるのは相も変わらず、戦意に満ち溢れた目を向ける、若き怪物たちである。
「先ほど、ジーニストのラストアタックを打ち破った技に何か事情がありそうだね。」
「あれか。・・・あれを喰らったら流石にヤバいな。」
「ハッハッハッ。うん、あれ喰らったら流石に私も起き上がれないかもしれない。」
「いや、あれを喰らったら流石に倒れておいてくれ、人類として。」
少しの骨休めのつもりなのか、歩みながら雑談を重ねるオールマイトとエンデヴァー。逆方向からは出久と勝己もこちらに向かってこようとしてる。
「時間は味方であろうに。あの小僧ら、逃げ切りで試験を突破する気はないようだぞ。」
「望むところさ。逃げ腰の少年たちを追いかけまわすのは気が乗らなかったからね。」
残り試験時間、約6分。オールマイトの活動限界までまだまだ時間はあり、エンデヴァーも溜まっていた熱の冷却を済ませているようである。
「さて。それでは残り時間はストップなし、全身全霊ガチで行こうか。」
ーーーーー
先手をとったのは勝己。
閃光が煌めき、凄まじい衝撃が実技試験会場で炸裂する。
両腕と背面全てを起爆し、今出せる瞬間最高超爆速で突き進んだ勝己。狙いは、オールマイトの顔面。
「うぉっ!?(まさか速度において私を上回るとは!?)」
超爆速で進み、フルクラスターインパクトをブレーキとして使用した。オールマイトを上回る速度は現状の勝己では制御しきることが出来ない、それを勝己は、攻撃をブレーキとして兼ねることで、ほんの一瞬、平和の象徴の上をいった。
ベストジーニストへ放った、大怪我を負わないように配慮した一撃ではない。
オールマイトという正真正銘の怪物を相手取るため、加減なしの一撃を顔面に向けて叩き込んだ。
大爆発が起こり、衝撃で数十メートル先のビルに撃ち込まれたオールマイト。
「オール、!?」
遠目から見えた勝己の構え。突っ込んでくることを予測し構えていたエンデヴァーであったが、まさかオールマイトが反応しきることが出来ない速度で突っ込んでくるとは予想外であった。
しかし、勝己は悔しそうな顔でオールマイトが飛んでいった方向を睨んでおり、
「(クソが。エンデヴァーはこっちの狙いを読んでくるし、オールマイトもガードを間に合わせやがった。)」
技を繰り出す直前、風探知で感じたオールマイトの動き。少し後ろに飛ぶことで間合いを確保し、片腕だけだが、顔面への防御を間に合わせていた。
「(だが、悔しがってる場合じゃねぇ!)次ぃ!」
勝己はオールマイトに撃ち込んだ方とは逆の、左の手の平をエンデヴァーに向ける。
エンデヴァーが勝己の攻撃に備えようとした瞬間、これまで積み重ね続けた経験が、盛大に警鐘を鳴らした。
「吹き飛べや!」
勝己と向き合う形で立っていたエンデヴァーに向け、
十字砲火が放たれた。
勝己全力の爆砲と、出久が奇襲で放ったフェニクス・スマッシュによる十字砲火は完璧なタイミングで放たれ、
回避も迎撃もほぼ不可能のタイミングであった。
相手がエンデヴァー、努力を積み重ねるものでなければ。
「・・・そんな泥臭ぇ避け方できんのかよ、アンタ。それに、その個性の使い方は、」
十字砲火、正しくは正面と側面から同時のタイミングで放たれる面の攻撃。その攻撃範囲ならば左右、後方、上にも逃げ場はなかった。
故にエンデヴァーが見つけた唯一の安全地帯。
「今更泥を被ることに抵抗などあるものか。そして貴様の個性の使い方、参考にさせてもらった。」
勝己が突き出した砲門、腕の側面。
そこに、勝己の爆砲が放たれる前に滑り込むため、
エンデヴァーは勝己同様、背面で個性を発動。
違う点として、全面ではなく、複数箇所から点で炎を噴射することでスピードを確保していた。
そのスピードと、安全地帯に頭から体を滑り込ませたことでピンチを回避してみせたのである。
「良いな、この使い方。」
エンデヴァーは背中からの炎の噴射をコントロールし、神速で勝己に突っ込む。
攻撃のため、炎を集中させた拳を振りかぶり、突き進んでくるその姿に、勝己はオールマイトを幻視した。
「(このタイミング、マジい!)」
風探知で把握する限り、オールマイトは直ぐにでも飛び出してくる。
限界を超えた超爆速直後に、超爆破の連続使用。そして、既に15分以上フルクラスターを発動している自損ダメージ。
体が悲鳴をあげているとはいえ、一息の間さえあれば、まだ個性も使える。
まだ体も動く。まだ戦える。
だが、その一息の間を、エンデヴァーとオールマイトは潰しにかかった。
今、勝己のフォローに入りエンデヴァーを迎撃した場合、オールマイトの次の行動を対処することが出来ず、自分たちは負けてしまうだろう。
勝己のフォローに入ろうとしていた出久も状況を理解し、
エンデヴァーではなく、オールマイトの対処に動いた。
つまり、
「(このピンチは、自分で切り抜けるしかねぇ、てことか。)上等!!」
迫る拳、迫る猛火。勝己は個性の発動を完全に止め、全神経を風に委ねた。
勝己は戦闘時、A.Tを周囲の探知と自身のスピードを制御、安定させるために使用している。
目を閉じることで視界すら断つ。探知に全振りし、この瞬間、A.Tと体全体で感じる風だけを信じる。
「(完全に隙だらけ。だがコイツらがただ無抵抗な訳がない!)オォォ!」
拳に燈した炎を更に滾らせる、背中の炎を猛らせる。
「バニシング・フィスト!!!!」
先だって出久と打ち合ったそれよりも遥かに強く、遥かに速い炎拳。
勝己は迫る脅威に対し、
ほんの少し体の向きを調節、それ以外はただただ全身の力を抜いた。
A.Tはエネルギーを超効率で運用する機構であり、一切の力を絶った勝己のA.Tがエネルギーを拾うとすれば、
迫り来る拳からしか有り得ない。
勝己自身は何もしていない。いや、何もしない、をしたが正しい。エンデヴァーのバニシング・フィストの勢いに押され、勝己の体が宙を舞う。
エンデヴァーの拳は当たっていない、にも関わらず、吹き飛ばされることで間合いを作ることに成功した勝己。
「よく避けた、だが!」
脱力を用いて間合いを作った勝己であったが、既に地面に着地し、力んでいる。
背中から炎を吹かせながら、空いた間合いを詰めるエンデヴァー。
「次は無い!」
「(わぁってんだよ、んなことは。)」
先ほどの避け方は緊急時限定の手段であり、まだ勝己の技量では100%の確率で成功させることは不可能。
「(遠距離撃ってくれりゃ楽だが、保須市でプロミネンス操っちまってるからな。警戒はされるか。)」
迫り来るエンデヴァーを迎撃する最適の方法を模索する勝己。
「(個性は、まだだ。使えるが、次が無くなる。もう少し。後、一撃分の間が欲しい。)」
生き残るため、勝利のため、勝己は思考を回す。
「(真正面。炎を纏った右ストレート。さっきよりもキレが増した一撃が来る。)」
風探知で出久がオールマイトと接敵したことが分かった。
「負けてらんねぇんだよ。」
勝己はA.Tを全力駆動させ、前にでる。
「負けるわけにはいかねぇんだよ。」
無個性で、ヒーローの頂点に立ち向かっている幼馴染に、負けるわけにはいかない、と爆豪勝己は前に出る。
「俺も、A.Tライダーなんだよ。」
右前蹴りを放つ体勢で、タイミングを計る勝己。
勝己が再度、個性抜きで迎え討とうとしていることに気がついたエンデヴァーは、
「良いだろう!成してみせろ!」
小細工抜き、全力の炎の拳を勝己に向けた。
「バニシング・フィスト!!!!」
ーーーーー
「押し出される、空気。それを面で捉えろ。空気を面で捉え、俺も、押し出せ。」
稀有な巡り合わせで始めちまったA.T。
最初はただの道具だった。
無個性のデクが、それを身につければヒーローになれるかもしれない、なんていう寝言をほざく、そんな鬱陶しい道具。
A.Tなんて道具だ、オモチャだ。個性に敵うはずもねぇ。ましてや俺の爆破みたいな良個性には。
んで、負けた。
個性持ちではあるが、個性を使わず、A.Tのみで戦っていたあの男に。
そこから、まあ、色々あって、堕ちるとこに堕ちて、ヴィランになりかけたりもした。
その過程でA.Tを使うようになって、武器として優秀な道具だということは理解した。
なるほど、こんな優秀な武器を手にしたのであれば、あの幼馴染がヒーローになる、なんていう戯言をほざきたくなるのも少しは分かった。
その幼馴染は、身の程知らずにも、俺を助けにきた、と言った。止めてみせる、と言った。
俺は、殺そう、と思った。だから本気で殺しにかかった。
そして、無個性だと、雑魚だと、道端の石ころだと、そう思っていた幼馴染に、俺は負けた。
そっから、更に色々あって、出久同様にキーを使うことになって、なんども喧嘩して、それ以上に協力して、共に戦った。
戦い抜いたその先で、生き残って、そろそろ2年が経つ。
2年間、鍛えに鍛えた。
切磋琢磨なんて言葉、自分が使う日が来るとは思ってなかったが、出久と高め合うことで、同世代に敵う奴はいない、ってレベルにまでなった。
本人には絶対に言いたくは無いが、アイツと、出久と一緒ならどんな困難だろうが、乗り越えられる。そう思っている。
だから、
「だから、俺はもう、アイツの邪魔はしねぇ!」
全力でぶん回れA.T!全身に力を入れろ俺!
「空気の!面を!叩き!つけ!ろ!ダァァァッ!」
ーーーーー
サポート科発目専用区画
「やっぱりここだ!」
声を上げながら、物間や他のB組の生徒たちが発目専用区画にやってくる。
「教室にいなかったから気になって。発目さんのハッキングで緑谷くんたちの試験を見ているんだろ?僕ら、も、みせ、て、」
A組の面々から返事がないことを不審に思った物間であったが、彼らの視線の先を見て、同じく言葉を失った。
物間は見た、モニターに映し出される、勝己の顔を。
鬼気迫る、
死にものぐるい、
全身全霊。
言葉にすれば簡単だが、まるで己の全てをその一撃に込めて叩き込もうとしている形相で、
ただ一発の蹴りが放たれる瞬間を。
物間は聞いた、聴こえないはずの勝己の叫びを。
音声がカットされている映像のはずなのに、
物間以外のその場にいる全員も確かに聞いた。
咆哮を、
勝利に向けただ突き進む、
爆豪勝己の魂の咆哮が、確かに聞こえた。
そして、勝己の蹴りとエンデヴァーの拳が激突し、凄まじい衝撃が生じ、二人を吹き飛ばした。
「・・・なんでエンデヴァー!?」×20
B組生徒一同の叫びだった。
瀬呂が映像に集中しつつ、ボソッと呟く。
「ついでにベストジーニストもさっきまでいたぞ。やられたけど。」
「やられた!?」×20
「それより、親父と爆豪の激突とはいえ、なんで爆破の個性なしで二人はあんなに吹き飛んだんだ?」
B組総出のツッコミをスルーし、焦凍はエンデヴァーの炎の拳と勝己の蹴りの激突で、何故あれほどの衝撃波が発生したか気になった。
「お、おそらく、爆豪さんのキックで押し出された空気と、エンデヴァーが押し出した空気がぶつかり合うことで圧縮され、衝撃波に変わったのではないでしょうか?」
焦凍の隣で観戦していた八百万が衝撃波が発生した理由を考察する。
「そんなことができんのか?」
「い、いえ。私もあくまで見た限りの考察でして。普通はできませんわ。」
そんな話をしているとメインの映像が切り替わる。
試験用のリアルタイム映像をハッキングしているため、複数アングルの映像があり、発目作のAIが判断して最適映像を流しているのだが、
新しく流れた映像には世にも恐ろしいものが映っていた。
「オールマイト、ちゃんと加減、してるよな?」
最も出久との戦闘訓練を行ってきた尾白ですら顔を青くする映像、すなわち、
出久とオールマイトによる、近接ガチバトルである。
ーーーーー