実技試験会場
その中心部に、試験を行っていた5名が集まっていた。
「さて、本来ならば直ぐにでも治療にかかって欲しい、なんなら私が一番治療を受けたい、・・・のだが。」
チラッとベストジーニストが視線を送る先には、
疲労からか地面に座り込んではいるが、先ほどまでの、闘志に満ち溢れた視線とはまた別種の、熱い視線を向けてくる出久と、
疲れてんだよ、早くしろ、だが忌憚なき意見寄越せゴラ、とでも言いたげな視線を送ってくる勝己がいた。
二つの視線を向けられたベストジーニストは大きなため息を吐いてから、
「両名とも、実際に戦った我々からの講評が、今、欲しい、とのことです。」
「向上心の塊といえど、限度があるぞ貴様ら。」
呆れ顔になっているエンデヴァー。
しかし、同様に呆れ顔になった勝己は、
「人のこと言えんのかよエンデヴァー。学生との試験中、相手の学生の技パクった上で、オリジナルに昇華しやがって。力の収束、今度コツ教えろや。」
「はい!僕も、僕らほどの感知能力がないにも関わらず、あらほど迅速な判断、行動ができるコツ、教えてほしいです!」
エンデヴァーが口を開いた瞬間、次々に質問を投げかけ始める出久と勝己。
「限度がある、と言っとるだろうが!」
講評の前に質問会が始まりそうな雰囲気になったため、
パンッパンッ、とベストジーニストが手を叩き、
「まず講評。それが終わり次第治療だ。あれだけの激戦の後なのだ、体を休めなければ。」
「ジーパン、ダメージでけぇのアンタだけだからな。講評終わったら、俺らはエンデヴァーに質問させてもらうぞ。」
「痩せ我慢をするな、爆豪。君も最後、エンデヴァーの拳をモロに喰らっていただろう。」
「ちゃんと感知用の風を防御に回してっから腹パンされた以上のダメージはねぇよ。火傷もしてねぇ。」
「なに?では緑谷、君はどうだ?途中、体調も悪そうだったが、」
自分が治療を受けたい、というのも本音ではあるが、何よりあれ程の激闘を乗り越えた若人たちに休息を、と気を回した結果、
「僕もダメージはほぼありません。直撃は一発ももらっていませんし。疲労はありますが、まだまだ元気です!」
その若人たちに裏切られた。
ベストジーニストは額に手を添え、一層疲労が溜まったような表情になってしまう。
「君らの出鱈目っぷりにはまだ慣れんな。では、私からの君たちの評価より、先に君たちの私たちへの評価を先に聞いても良いかな?」
「僕らからの評価ですか?」
講評を貰おうとしていたら、まさかの評価する側に回されたことに出久はポカンとしてしまう。
「ああ、君らの評価だ。」
ベストジーニストは先ほどのまでの疲労が溜まった顔から、深刻そうな顔へと表情を変える。
「知っての通り我々は現時点でのトップヒーローだ。だが、我々は君たちに負けた。これから巨悪と対決するため、我々こそ改善を果たさねばならない。」
「おお!実は私も聞きたいと思っていた。今回のチームアップに対する君ら二人の意見、是非聞かせてもらいたい。」
まだマッスルフォームを維持できているオールマイトもベストジーニストに同調する。
出久と勝己は一度互いに目を合わせてから前を向き直り、
「オールマイトが完全に足を引っ張ってました。」
「はうっ!」
出久の馬鹿正直な意見が今日一番のダメージをオールマイトに与えた。
「試験であることも考慮してもおしゃべりし過ぎだったな。初手の襲撃時、もっと熾烈に攻められてたら、ジーパンの所に行く余裕なかっただろうしな。」
「ぎゃふんっ!」
勝己からの補足も入り、
「あと、受け癖を治したいですね。あの鎧のような肉体があるにしても、安易に攻撃をもらい過ぎです。」
「見てから反応、行動する癖もあるな。先読み、相手が次どう動くか、あんま考えて戦ってねぇだろ。」
「おふっ!」
「戦い方がスペック任せなのも改善するとこですね。後半キレが出てきましたが、戦い方がゴリ押し気味です。」
「あとは・・・」
次々出てくる容赦のない忌憚なき意見に、本気でヘコまされるオールマイトであった。
少し離れた所に蹲み込み、ドンヨリとした空気を出し始めたオールマイトを一旦放置し、オールマイトからベストジーニストへと向き直る出久と勝己。
「ジーパンに関しては、前に出てきたことがそもそも完全に判断ミスだったと思うわ。」
「ぬぅ、」
「そうですね。最初の接敵で逃げに徹されて、十分な量のワイヤーを持ったままのベストジーニストにサポートされたオールマイトとエンデヴァーは、正直対処仕切れなかったかもしれません。」
「にも関わらず、前に出てきて、大技まで出してくるもんだからよ、狙いやすかったぜ。まあ、あの包囲がかなりヤバかったのも事実だけどよ。」
「でも、このメンバーならやっぱりベストジーニストが前に出なかった方が良かったのは確かです。」
「アンタがオールマイトとエンデヴァーの後ろからサポートに徹していたら、多分どっかで負けてた。まあ、そうさせねぇように立ち回ってはいたんだがな。」
「クッ、反省する。」
本人も、前に出過ぎてしまった自覚があったのか、反省の色が濃く出しているベストジーニストである。
オールマイトにしても、ベストジーニストにしても、ここ数年チームアップを組んだ場合、自身を中心に立ち回ってきた弊害であろう。どうしてもピンチを前に自分が前に出る癖がついてしまっていた。
そして最後に、エンデヴァーへと向き直る出久と勝己。
「エンデヴァーに関して、えーと・・・オールマイトに気を使いすぎ、なとこですかね。」
「今回の試験で一番厄介に成り得たのは、アンタがオールマイトとベストジーニストを上手く指揮した場合だ。もっとアンタの意見を言ってけよ。」
「フンッ!」
「・・・以上ですかね。」
「・・・え?それだけ?」
隅っこでのの字を書いていたオールマイトが、自分はあんなに指摘されたのに、という表情でこちらを見てくるが、
「まあ、ミスらしいミスは無かったしな。」
「流石事件解決数史上最多ヒーローです。」
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その後、プロヒーロー側からの講評も無事に終わり(ほぼ褒めただけ)、出久たちが質問タイムを始めよう、というタイミングで、なかなか戻ってこないことに業を煮やした相澤が怒り顔で到着した。
話し合いもそこそこに即、出久と勝己を拘束、
二人と、ついでにベストジーニストを治療室へと連行していった。
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「・・・すまなかった、エンデヴァー。」
「それは何に対しての謝罪だ?」
「彼らにあれだけ大見栄を切っておいて、無様を晒してばかりだったことに対してかな。」
「それは。それはこれまで、誰も貴様の歩調に合わせられなかったからだ。」
ナンバーワンヒーロー、そして平和の象徴と讃えられ、コミックから抜け出してきたような実力と成果を出し続けてきた英雄、オールマイト。
「小僧どもも言っていたが、どこかで俺は貴様に遠慮をしていのかもしれん。」
ただひたすらに、越えるべき存在としか見ていなかった。そして越えることの出来ない存在であった。
「俺よりも上な貴様に、作戦などを提案すること躊躇っていた。」
「エンデヴァー。君は、」
「だが、遠慮はもうやめだ。」
「え?」
エンデヴァーがどこか吹っ切れたような声を出したことにオールマイトは驚く。
隣を見ると、明らかに怒っているエンデヴァーがいた。
「改めて言わせてもらうが、なんだあの体たらくは!?」
「え、あ、はい。すみません。」
「なによりも、戦闘中の集中力が足らん!」
ガミガミガミガミ、とエンデヴァーによるお説教が始まり、その説教は二人が校舎に戻るまで、延々と続けられたそうだ。
しかし、その様子はまるで出久と勝己ような、ライバルにも親友にも見える姿であった。
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校舎に戻ってから、出久と勝己はリカバリーガールによる診察を受けるも、多少のダメージと疲労のみだったため、そのまま教室に戻されることなった。
そんな二人を、マジか、という表情で見送ったベストジーニストは、一番ダメージが大きいと思われていたが、勝己の爆破が絶妙に調節されており、軽めの治癒で無事回復した。
オールマイトも持ち前のタフネスで、ダメージはあれど個性による治癒が必要なほどでは無かった。
ただし、
「ありゃ。折れとるね、これ。」
「ぬ。」
イフリートソールを纏った出久の蹴りと、勝己渾身の蹴りを相殺した拳がものの見事に砕けていたエンデヴァーが一番重症であった。
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「緑谷。次、あの投げ技使ったら除籍だからな。」
「出久。お前、あれ使ったんか?二度と使うなって言ってあったよな。」
「緑谷!あれ、絶対に人に使っちゃいけないやつだからな!人が死んじゃうやつだからな!」
出久は、一本背負からの脳天落としが完全に封印指定を受けることとなった。
「それと尾白。お前、何故試験での出来事を知っている?」
「あっ。」
A組、B組の生徒一同、発目のハッキング映像を見ていた生徒は、相澤からの説教を受けることとなった。
「尾白!!」×A組、B組生徒たち
「ご、ごめん!」
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緑谷宅
その日の緑谷宅では、
「あら、また無茶したの出久?」
帰宅した出久を出迎えた引子は、頬に手を添えながら軽くため息をつく。
「・・・なんで僕が無茶した前提なの、お母さん?」
「お茶子ちゃんと明ちゃんの様子で分かるわよ。二人ともいらっしゃい。夕食食べてくのよね。」
「「お邪魔します、いただきます。」」
右手をお茶子に、左手を明に握られた出久は、
「今回はそんなに無茶は、」
「「してた。」」
「してました、すみません。」
お茶子と明のコンビはオールマイトたちより手強い、と思うのであった。
毎度の流れ通り、二人はそのまま緑谷宅に泊まることとなり、
「(つ、疲れてるのに、寝れない。)」
これまた毎度の流れで、お茶子と明の間に寝かされた出久は、なかなか寝付けない夜を過ごすのであった。
「良いのか、引子?出久は疲労が溜まっている。ゆっくり寝かすなら二人は離した方が良いのではないか?」
護衛として緑谷宅にいるコーラルQ1号が引子に尋ねると、
「ふふ、良いのよ。ああやって、無理無茶をした時に、怒って、心配してくれる人はとっても貴重なの。無茶ばかりの出久には良い薬ね。」
「そんなものか。」
「そんなものよ」
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爆豪宅
「ん?メッセージが何通か来てんな。」
部屋で少し寛ごうとした勝己のスマホに、
『爆豪!お前のバトル、やっぱスゲェ!俺もあんな漢らしい走りがしてぇ。またA.Tの指導、よろしく頼む!』
『試験お疲れ〜!最後のA.Tだけで戦ってた爆豪、凄かった〜。私も早くA.T使って活躍したくなったよ!また教えてね〜。』
切島、芦戸から労いのメッセージが、届いていた。勝己は短く、
『おう。』
とだけ返したが、
「あ?」
スマホが再度鳴る。今度はメッセージではなく通話であり、
『あ、出た。ごめん爆豪、疲れてるだろうに電話しちゃって。』
「耳郎か。どうした?こっちは流石に疲れてんだが。」
『あ、いや。ごめん。都合悪かったらまた、後日にするんだけど。』
「今で構わねぇよ。なんだ?」
『いや、試験の労い、ていうか、日々のお礼というか。今日は、試験、その、凄かった。お疲れ様。』
「わざわざ通話で、あんがとな。」
勝己の意外な反応に戸惑う耳郎。
『爆豪、疲れてんの?』
「あ?疲れてんだよ。最初に言っただろうが。」
『ああ、ごめん、そうだった。でも改めて、私は凄い奴からA.Tを習ってるんだな、ってら思ったら、労いの言葉はせめて声で伝えようと思って。』
「・・・おう、ありがとうよ。」
『じゃあ、疲れてるだろうから切るね。あ、また、練習見てよね。』
「ああ。」
『ゆっくり休みなよ。』
「ああ。またな。」
通話が終わり、改めてベッドに寝転ぶ勝己の顔には、微かに笑みが浮かんでいた。
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