発目ラボ(改名しました!)
カタカタカタカタ、とキーボードを叩く軽快なリズムがラボに響く。
休日だというのに、明は自身専用のスペースにて、あるデータをまとめる作業に勤しんでいた。
「はい、明ちゃん。とりあえずお昼やから一旦手を止めよか。」
そんな明に、引子作のお弁当を持ってきたお茶子が声をかける。
「はいです。」
以前までは一度しばかれないと作業の手を止めなかった明だったが、最近はその対応の方が時間のロスだと気付き、大人しく食事を取るようになっていた。
「今、明ちゃんがやっとる作業って、例の技の解析なんよね?」
声をかけた際、画面に映っていた様々な数字が何を示しているのか、お茶子には理解できない。しかし、なんに関してのデータかは、同じく画面に映っていた映像が教えてくれた。
「はい。未だ出久さんがあの技を扱えないのは、ひとえに私の技術が未熟であるからです。」
引子作のお弁当に入ったシャケを、ハムハムと食べながら、明が答える。
「あの炎を制御するためには、本来超精密なコントロールが必要です。炎と風だけでなく、様々なA.Tの走りの技術を掛け合わせて放たれるあの技を不殺の技とするには、出久さんに技を放つことだけに集中させる必要があります。」
「せやけど、それが出来とらん。・・・あれ?それって明ちゃんやのうてデクくんが改善するしかあらへんのやない?」
出久の集中が問題ならば、出久が改善するしか無いのでは、と思ったお茶子だが、
「出久さんはイフリートソール発動中、制御と、探知、それと防御に風を回しています。」
「せやね。」
「そしてあの技を放つ瞬間、探知は最低限になって制御に回される風が増えます。ですが、それでもあの技の完全なコントロールには不足してるんです。」
「そうなると防御の分も、あ、そういうことか。」
ポン、と手を叩き、理解したことを動きで表現するお茶子。
「はい。防御に回してる風の大半は防火対策、自分の炎に焼かれないためです。そして、それは防火スーツの性能が足りていない証拠なんです。」
明が珍しく悔しそうな表情を作る。
「ですが、現状私に作れる最高の防火スーツではイフリートソールの火力までが限度なんです。」
「それでも凄いことやよ。職場体験や試験であんだけイフリートソール使うてたデクくんの足、ほとんど火傷しとらんかったし。」
この数ヶ月、脳無戦と体育祭決勝でのデータから出久の防火スーツ、ついでに勝己の耐衝撃タイツは、その性能を大きく向上させていた。
しかし、
「まだです。出久さん、ついでに勝己さんがノーリスクで最大限の能力を発揮するためには、まだまだ技術が足らないんです。あむ、ご馳走様でした。」
話しながらも食事を続けていた明がお弁当を食べ終える。
「ですが、私が考えうる手段は可能な限りやり尽くしました。だから今はデータ纏めを中心に行っています。」
落ち込んだ表情から一転、気合の入った笑顔で作業に戻る発目。
「夏休みでI・アイランドに行けるのです。あそこなら世界中から集まった技術を見ることが出来ます。なんなら出久さんの話だと、オールマイトも一緒に行くらしいので、デヴィット・シールド博士を紹介してもらってご意見をもらいます!」
再度、軽快な音がラボに響く。
「オールフォーワンとかいう強敵が出久さんたちを狙ってくるなら、共に戦えない私にできる役割は最高最強の装備を準備することです!」
「明ちゃん。」
向上心の塊なのは出久と勝己だけではない。むしろ、挑戦し続ける天才、脅威の天災はこの発目明である。
「そして、お茶子ちゃんもです。」
「私も?」
「はい!体育祭の敗北以降、調子が上がらない様子ですが、大丈夫です。私の知る限り、お茶子ちゃんに確実に勝てそうなヒーローはオールマイトとキャスリーンさん、あとスカイクローラーさんだけです。」
「いやいや。そんなことは、」
「お茶子ちゃんが問題なく力を使えるようにするためのサポートアイテムも製作中です。楽しみにしていてください!」
本来、お茶子が戦闘において今の焦凍に負けること自体ありえない。それだけの実力差があるのだが、お茶子の性格と技の威力、そして範囲と規模故に出久とは別方向で制御しきれていないのである。
「3人が全力を出せるなら、キャスリーンさんもスカイクローラーさんも、オールマイトにだって負けません。ましてやオールフォーワンとかいう悪役なんて楽勝です。」
その声には自信と確信しかなかった。
お茶子は明からの厚い信頼に胸が熱くなる思いなり、
「さあ頑張りますよ私!今日は徹夜で、」
「却下や。」
「アイタ!」
スパコン、と頭を叩かれた明はお茶子からの説教を受け、夕食までには帰宅する約束をさせられるのであった。
ーーーーー
轟邸
「3人とも、これまで本当にすまなかった。」
冬美、夏雄、焦凍の前には信じられない光景が広がっていた。
土下座である。あのナンバーツーヒーロー、エンデヴァーが土下座をしている。
「え、ちょ、どうしたのお父さん、急に!?」
「前回の話し合いでも、これまでも、俺はお前たちにちゃんとした謝罪をしていなかったことに気が付いた。いや、気が付いてはいたが、下手な謝罪はお前たちの負担になると思っていたのだ。」
そこで顔を上げたエンデヴァー、いや轟炎司は娘と息子たちの顔をしっかりと見る。
「だが、許される、許されないは関係なしに、これまでの償いをしたいのであれば、先ず謝らねば、と思った次第だ。」
上げた顔を再び下げ、
「改めてだが、3人とも、本当にすまなかった。冬美、お前から家族の団欒を奪ってしまって、すまなかった。夏雄、お前に父親らしい愛情を向けてやれず、すまなかった。焦凍、家族との時間を、母親との時間を奪ってしまって、すまなかった。」
土下座しながら、子供たち一人ひとりに謝罪するのであった。
「・・・前、聞きそびれたけどさ、アンタはなんでヒーローを目指したんだよ。」
父親からの謝罪に、居心地の悪さを感じ、話題を変える夏雄。
炎司は一度、姿勢を正座へと戻す。
「俺の父、お前らの祖父がどう亡くなったかは知っているか?」
「確か個性の暴走で亡くなったって、」
「ああ。だが、正しくは暴漢から少女を守るために個性を使用し、その結果の暴走だ。」
「そうだったのか。」
ヒーローを目指したのは父親の、自分たちにとっての祖父の正義感を継ぐためだったのか、と思った3人であったが、
「そして、その暴走はヴィランも、助けようとした少女すら燃やし尽くした。」
まさかの内容に、3人は言葉を失う。
「俺は、償いでヒーローになろうとした人間だ。燃やすことしかできない、止まることのできない人間だ。」
「お父さん。」
夏雄は自分の父親が、あまりにも不器用すぎる人間なのだと、ようやく理解した。
「・・・はぁー。とりあえず、お父さんが真面目に償おうとしてることだけは納得するよ。」
「夏!」
これまで、父親に対して決して心を開くことの無かった次男の発言に喜びの声を上げる冬美。
「とりあえず!とりあえず、納得しただけだから!許す許さないの話じゃ無いから!」
姉兄のやり取りを見ながら、焦凍はあることを思い出した。
「そういえば、冬姉。この前、お母さんに会いに行ったんだよな。引っ越しの件、話したのか?」
「え?ああ!そう、その件も報告しなきゃね。」
冬美は、父の土下座のインパクトで忘れてしまっていた件を思い出す。
「お父さん、お母さんから引っ越しの件で伝言があります。」
真剣な顔で母親からの伝言を伝えようとする娘の言葉を聞き逃すまい、と同様に真剣な顔で言葉を待つ炎司。
「はっ倒しますよ?だって。」
「は?」
「「え?」」
ポカン、と間抜け顔を晒す轟家男性陣。
そんな様子の男共を無視し、冬美は伝言を続ける。
「辛い思い出や、悲しい思い出に満ちた家ではあるけれど、そこはあなたの家であり私の家。楽しかった思い出もちゃんとあるんです。だから勝手に決めないでください。・・・だって。」
「・・・本当に冷が、母さんがそう言ったのか?」
「うん。母さん怒ってたよ、半笑いだったけど。」
「そうか、そうか。」
拒絶ではない妻からの言葉にどう返せば良いか分からないが、それでも涙が出てくる言葉であった。
「お母さんが、そんなこと言うんだな。」
コクコク、と夏雄に同意する焦凍だが、
「まだ、お父さんが燈矢兄に訓練つけてた頃なんかは、お母さん、二人が全然訓練やめないから、個性浴びせて強制的に止めたりしたこともあるんだよ。」
「「へー。」」
「ん゛ん゛。と、とりあえず、今日の話はこの辺にしておくか。」
「「「えー。」」」
もっと話したい、話を聞きたい、と言いたげな返事が返ってくるが、
「すまんが勘弁してくれ。おそらく少し話したらすぐに暗い話になってしまう。」
「「「あー。」」」
忘れてはいけない、ここは地獄の轟君家である。
それでも、少しだけ明るい空気が流れ始めていた。
ーーーーー
ある病院の地下
「では、君は僕の陣営に加わる、ということで良いのだね?」
滅多に直接他者に会うことのないオールフォーワンが、秘密の地下室に自陣営でもない人間を招く。
長年オールフォーワンに仕えてきたドクターですら初めての見る光景である。
「そうだな。我が家が海外で得た様々な個性の因子。今後長い年月を経て完成したであろう最高傑作を、人工的とはいえ直ぐにでも作り上げられるというのであれば協力は惜しまない。」
「最高傑作は君ではないのかね?」
オールフォーワンと会話する人物。白銀に近い髪色をし、肌もまた雪のように白い。
「無論私は最高傑作ではあるが、それは現時点での話。記録とは常に塗り替えられるもの。」
「その先の記録を僕なら直ぐに出せると思って接触してきたのかい?」
「それと目的はもう一つ。」
オールフォーワンを相手に、恐れることも迎合することもない。かと言って反発することもない。
まるで対等だというかのような振る舞いをする男は指を一本立て、
「我が氷叢の血を得ながら、氷ではなく、炎を使う異分子の一家。折を見てあれらを排除したい。」
ニヤァ、とオールフォーワンの口に笑みが浮かぶ。
「それは助かる!あの一家は僕にとっても目障りだったんだ、よろしく頼むよ。ではこれから君のことをなんと呼べば?」
白い男は、待ってましたと言わんばかりにオールフォーワンの問いに答える。
「ニケ。今はそう名乗っているよ、魔王どの。」
名乗った男からは空間すら凍結させるような冷気が溢れ、その足にはA.Tが履かれていた。
ーーーーー
「良かったのかの?あんな野心まみれの男を味方に引き入れて。」
質問を投げかけるドクター。
オールフォーワンは笑みを浮かべながら、
「フフフフフ。彼、ニケくんはねドクター、実は以前から気にかけていた人材の1人で、弔の代わりに成りえた存在なんだ。」
「ほう。」
「氷叢家は身内同士での婚姻を重ねたがため本来混ざり合うはずの個性が混ざらず、氷に関する個性のみが発展していった。だが、」
モニターに先ほどまでいた男のデータが映し出される。
「ニケくんの一家は氷叢家の本家筋ではあるが、考え方が柔軟でね。外の血であっても、強力な氷の個性持ちなら積極的に取り入れたそうだ。それこそどんな手段を使っても。」
データの中には口にするのも悍ましい行いに関するものもあった。
「数年前までは海外で活動していたみたいだが、本家がエンデヴァーに縋らなければいけないほど弱まり、細々、とはいえないが、まあそれなり程度の生活を送っていたころ、彼の一家が戻り、本家を乗っ取ったそうだ。」
「なるほどのう。じゃが、それだと別段お主と組む理由はなさそうじゃが?」
「僕が彼に目をつけていたように、あちらも僕の個性に目を付けていたみたいでね。そしてレイコム、いやフリガロくんの件で確信したようで、コンタクトを取ってきたのさ。」
「ん?レイコムとは確か、保須市でお主が個性を与えた犯罪者ヒーローだったかの?」
「その通り。フリガロは僕が新しく与えたヴィラン名なんだかね、元になったレイコムくんは実は氷叢家の一員だったんだ。彼を強化する際、複数の氷系の個性を無理矢理与えたが、意識も記憶も割としっかりしていたんだ。」
「なんと!複数個性を調整もなしに与えて意識があったと!?」
「ああ。どうやら、元となる肉体と個性に合った個性ならば、複数入れても脳無状態にはならないようなんだ。」
「それは素晴らしい情報ではないか!なんで黙っておった?」
これは研究が進む、と喜ぶドクターであったが、
「まあ、この考えは君の個性終末論と似て非なるものだからね。」
オールフォーワンは申し訳なさそうな声を出す。
「ふむ、個性が混ざり合い限界を迎える理論と混ぜ合わせないことで限界を越える理論。確かに異なる。じゃが、それがどうした?ワシの理論も大事じゃが、お主に大望を果たさせる方が重要じゃて。」
ドクターからすれば自信を絶望の淵から掬い上げてくれたオールフォーワンこそが至高。
彼の野望が叶うのであれば、自分の理論にもはや未練などない。
「脳無状態にならぬとはいえど、肉体の調整と個性の選定は必要じゃろう?任せなさい。最高傑作とやらをさらに仕上げて見せよう。」
「・・・フフフ、フハハハハハ!素晴らしいよドクター!今日ほど君が私の同士であったことに喜びを感じたことはない!」
オールフォーワンは喝采をあげる。
「更なる準備を進めよう!緑谷出久、爆豪勝己。ついでにオールマイトにエンデヴァー。それに最近怪しい動きばかりの弔。彼らを蹴散らすための、最高で最強で最悪の魔王の軍団を!」
魔王の後ろに脳無が入ったカプセルが何本も並び立ち、
モニターにはニケを始めとした新たなる戦力候補たちが映っている。
「さあ、皆で楽しもう!」
魔王絶好調
ニケは宙ではなく、氷叢家の完全オリキャラです。技のみクロスで色々出します。