雄英訓練施設にて、
「根性!」
ガッガッガッ!と決して滑らかな音ではないが、窓枠など出っ張りを活用しながらA.Tを走ることで、
「うっしゃあ!」
4階建てのビルの壁を登り切った。
「どうだ、ぜぇっ、登れたぜ芦戸!」
「おぉー、ようやくじゃん。おめでとう切島。」
パチパチパチと座りながら拍手しつつ軽く褒めるのは、休みの日にも関わらずA.Tの練習に付き合っている芦戸である。
「いやー、連続ジャンプが出来るようになったけど、壁登りはまだ集中しねぇとキチィな。」
「アンタの場合、ジャンプする時に一々溜めるもんだから勢いが無くなってんのよ。というか垂直走りもやんなさいよ。」
「それな!どうしても踏ん張るイメージが強くてよ。変な癖がついてるみたいなんだわ。垂直走りはまだ課題だしな。」
自身の走りを思い返した切島は、あらためて視線を芦戸へと向ける
「なんつーか、芦戸みてぇに流れるように走ったり、登ったり、跳んだりが上手くできねぇんだよな。」
褒められて悪い気はしない芦戸は立ち上がり、
「ヒッヒッヒッ、なら次はこの芦戸先生が華麗なウォールランを見せてしんぜよう。」
華麗にポーズを決めるが、
「おう!お前、調子が良い時、まるでステップするみたいにA.Tを扱うもんな。ありゃ綺麗で見惚れる走りだぜ!」
切島の褒め言葉攻めを受ける。
「・・・、フン!」
「なんで!?」
無言で腹パンされた切島はなぜ殴られたのかも分からない。
「(褒められて悪い気はしないけど、褒められすぎると恥ずいわ!)」
少し顔を赤くした芦戸は、下に降りる準備を整える。
「ほら、切島も降りるよ!降りる方が難しいんだから、集中しな!」
「お、おう!」
なお、2人の監督として遠巻きに練習風景を見ていたセメントスは、
「ミッドナイトが好きそうな青春だな〜。」
なんてことを考えていた。
ーーーーー
別の訓練施設にて
「ハァッ!」
「セェイッ!」
「どっせい!」
B組の一部の生徒たちが近接戦闘の訓練に勤しむ中、
「・・・ここ!」
B組で最も近接戦闘への造詣が深い拳藤と物間が組み手を行っていた。
「外れ!」
「ふぎゃ!」
そして物間は、試そうとした技が見事に失敗し、顔面に良い一発がぶち込まれた。
「拳藤、流石に顔面にめり込むほどのパンチ入れんのは鬼すぎない?」
休憩のために座っていた取蔭が口を挟むが、
「いや、アレは物間のミスだって。コイツ、最近緑谷の攻めの防御の再現が上手くいってないぽくてさ。」
「あれ?でも前はほぼ百発百中で成功するようになった、みたいなこと言ってなかったっけ?」
「なんか、タイミングが合わなくなったんだって。」
「へー。」
なお2人が会話する傍らで、物間は顔面の痛みで悶え苦しんでいた。
「それで物間、不調の原因に見当はついたの?」
そんな物間を無視し、話を進める拳藤。
「少しは心配してくれ!あー、痛かった。正直自信はないが、多分拳藤が遅すぎるんだ。」
ゴスッ!と再度何かがめり込む音がした。
「殴るよ?」
「そ゛れ゛、殴る前に言うやつ。んん、悪口じゃなくて。攻めの防御は相手の動き出しを潰す技なんだけど、なんかタイミングが早すぎてしまうんだ。」
どうしたもんかな〜、と物間が悩んでいると、
「もういっそのこと、相手の攻撃を防御するどころか、止めちまえば良いんじゃねぇか?」
「また鉄哲が変なこと言い出したよ。そんな都合よく、」
取蔭が鉄哲にアホなこと言うな、と注意をいれようとした所、
「「いや、」」
物間、拳藤から待ったが入る。
「物間、今アンタが真似てんのは緑谷の攻めの防御だよね?」
「ああ。相手の攻撃に勢いが乗る前に、迎撃するスタイル。でも、その先が存在している?」
「もし、相手の動きを観察することと、初速で緑谷に追いつき、追い越せるなら、」
2人の会話に今度は鉄哲が待ったをかける。
「オイオイ。昨日の試験での緑谷は信じられない速さだったぞ。物間には悪いが別物、ありゃ規格外だろ。」
「最高速度では当然勝てない。それに緑谷くんの場合、風探知を使って相手の動きを先読みすることで、自分よりも速い相手でも対処できるんだ。」
「でも相手の動きを読むなら物間にもできる。コピーの個性を持っているからこそ身についている観察眼。それと初速。超加速とでも言えば良いのかな?それが出来るようになれば、」
「僕だけの道が開けるかもしれない!」
出久の真似ではなく、自分だけのオリジナルを見出せるかもしれないことに興奮を覚える物間。
「先輩たちの話だと、1年生の夏合宿じゃ個性強化がメインになるらしい。合宿までにA.Tの新技身につけられるよう頑張るしかないね、物間。」
「ああ。拳藤、申し訳ないが、君の武術への知見、貸してくれ。」
「任せな。」
「鉄哲、サンドバックよろしく。」
「おお!任せ、・・・なんでサンドバック!?」
B組に、新しい風が、いや新しい時が刻まれ始めた。
ーーーーー
さらに別の訓練施設
「・・・で、結局A.Tを始めるわけ?」
訓練施設にて、腕を組みながら、A.Tを履く耳郎の前には、同じくA.Tを履いてはいるが、プルプル震えている上鳴がいた。
「さ、最初は個性のコントロールを磨かなきゃいけないわけだから、諦めていたんだけどさ。この前受け取ったサポートアイテムがA.Tの技術を使ってるらしくて、も、もうせっかくなら始めようと思って。」
半泣きになりながら、少しずつ、移動を試みている上鳴。
そんな上鳴の様子に耳郎はため息を吐き、
「・・・今から個性の調整、A.Tでのラン、アイテムの操作を並列でやるのは厳しくない?」
「A.Tの方は、ゆっくりで良いと思ってるからよ。少しずつ身に付けていく第一歩ってね。」
半泣きになりつつも、上鳴の表情は真剣であった。
「昨日のバトル見て、なんも感じてねぇ奴は、多分A組にもB組にもいねぇと思う。」
早歩きと変わらない速度だが、上鳴はA.Tを履き、前に進む。
「他にも何人かA.Tを始めようとしてる奴らいたし、そうじゃない奴らは個性伸ばしに力を入れるみたいだった。」
今の時刻は午前。午後からはお茶子、切島、芦戸に加え、上鳴のように、このタイミングでA.Tを始めたい面々が合流し、基礎トレを行うことになっている。
「やっぱ、カッケェヒーローになるのも大事だけどさ、助けに間に合うヒーローって理想なわけじゃん。だからA.T習得して、颯爽と助けに現れられるヒーローになる。」
先ずゆっくりではあるが、施設内を軽く一周走った上鳴は、
「でも俺、皆んなと比べたら馬鹿だし要領も悪いからさ、耳郎先生、自主トレ相手よろしく!」
前向きなのか後ろ向きなのか判断に迷う所ではあるが、やる気はあるのだろう。
耳郎は再度ため息を吐いてから、
「はぁ。甘くはしないからね。」
練習に付き合うのであった。
「てか上鳴。アンタのサポートアイテムってどんな感じ?」
「最初はアーマーみたいの着て、ワイヤーを伸ばして、それに当たった奴を感電させる使用だったんだけどよ。」
ワイヤーを伸ばす機構がついたサポートアイテム、というよりスーツを思い出す。
「試しに使ってみて、二、三回自分で出したワイヤーに絡まってさ。」
「え、面白そ。」
「細いワイヤーだから、使い方間違えると自分が輪切りになるらしくてさ。」
「こわ!?」
「んで、結局これになった。」
上鳴は籠手型のサポートアイテムを見せる。
「なにそれ?」
「さっき言ったアーマーの籠手の部分。んで、」
バチッ、と空気が割れたかのような音が響き、
上鳴の手から真っ直ぐ壁に向かって電撃が伸びていった。
「な!凄いよ上鳴!電撃飛ばせてるじゃん!」
「いやー、これ実はタネがあって。ワイヤーを飛ばしてんのよ。」
「ワイヤー?」
電撃が収まり改めて耳郎が目を凝らすと、籠手の手首の位置からワイヤーが出て、壁まで伸びていた。
「電撃をぶつけたい相手までワイヤーを打ち出して、ヒットと同時に電気を流す、これなら弾切れの心配も無いし、鞭みたい使えば近接でも役立つって事らしい。」
一度感電を味わったことがあるならば分かることだが、家庭用コンセントレベルの電気が一瞬体に流れただけで、そこそこのダメージが入る。
「コイツを使い熟せるようになれば、もうウェーイ、になることもないぜ!」
「ふーん、良いじゃん。近接も考えてるんなら、それこそA.T頑張んなきゃね。」
現状の2人にラブな要素は無く、純粋に自己研鑽に励んでいた。
しかし、その後ろでは、
「あ、アオハルだわ。」
興奮のあまり鼻血まで出すミッドナイトが倒れ込んでいた。
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とある廃工場
中級から上級レベルのA.Tライダーたちの間で人気の穴場A.T練習スポット。
昨日の激闘の熱が抜けなかった出久は、軽めなら、とその場所に足を運んでいた。
そして予想外の人物と再会する。
「ん?よぉ、同類。」
「死柄木弔!」