とある廃工場
シャー、シャー、とA.Tを走らせる音が響く。
「なぁ、あそこにいるのって雄英体育祭で優勝した緑谷じゃね?」
「やっぱそうだよな。A.T使ってたから印象残ってたんだわ。」
「俺知らね。今年の体育祭はねじれちゃんこと波動さん一択だわ。」
「「それはそう。」」
「隣の奴知ってるか?」
「名前は知らねぇけど、結構有名だぜ。あの人もA.T超上手ぇしよ。」
「ああ、フリーター疑惑のあの人な。ここもたまに利用してるぜ。」
「なんでフリーター?」
「平日の昼間に4日連続来て、土日もいたことあるからよ。」
「分らねぇじゃん。就職活動中かもしれねぇじゃん。」
「じゃあフリーターか無職の二択か?」
「「・・・それで。」」
ーーーーー
「なあ緑谷出久、あの三人半殺しにしてきても良いか?」
死柄木は座っていたベンチから指をペキペキ鳴らしながら立ち上がり、こちらを見て話している三人組の所に行こうとする。
そして、それを宥める出久。
「どうどう。・・・でもヴィランって職業ではないから無職は正解なんじゃ。」
「・・・。」
出久のツッコミに、確かに、という表情で止まってしまう死柄木だった。
「はぁ。もういいよ。」
再度ベンチに座り直し、出久と死柄木が共に同じベンチに座る、という状況が再開される。
「今日は何しに?」
「聞こえてただろ。たまに利用してんだよ、ここ。レベル的にもちょうど良くてな、練習っつうよりストレス解消目的だな。」
「確かに、僕も今日はA.Tを走らせたくて来たんだ。」
「お前もストレスか?学生も大変だな。」
「ストレス解消じゃなくて、熱冷ましかな?昨日ちょっと本気でバトルして、その興奮が冷め止まなくて。」
「ふーん。あの幼馴染と再戦でもしたのか?」
「試験でオールマイトとエンデヴァー、それにベストジーニストを相手にしたんだ。」
「ヤベェな雄英!?」
心底驚愕した顔でツッコミを入れる死柄木。
「って、思わずツッコンじまったが、今日は面倒ごと無しにしようぜ。ああ、それだと、流石に何も無しに俺を帰すそっちが迷惑被るか。」
「他の利用者を人質にされてました、で通そうと思うけど。」
「んじゃ、そんな感じで。」
風探知を最大、加えてアメリカで磨いた視線や殺気を感じる感覚を意識して広げ、周囲を警戒、問題ないことを確認してから、
「・・・死柄木、オールフォーワンは何が目的なんだ?」
出久が鋭い視線を死柄木に向ける。
「オイオイ、面倒は無しにしてぇ、って言ったじゃねぇか。」
「一応ね。オールフォーワンから直接狙われた手前、もし知っているなら聞いておこうと思って。」
オールフォーワン。目の前の男は、超人社会初期から裏社会に君臨してきたとされる自称魔王と関わりがある。
死柄木か少し悩む素振りを見せてから口を開いた。
「俺が知る限り、先生が明確に個人を狙ったのはオールマイト、それともう一人、俺だ。」
「死柄木もオールフォーワンに狙われている?」
「先生は俺を自分の後継者に、とか言ってるがな。緑谷、お前から見たあの人は自分が築き上げたもんを他者に譲るような人に見えたか?」
出久は保須市で遭遇したオールフォーワンを思い出す。
「全く見えなかったですね。むしろ執着の化身みたいな感じだった。」
自分の目が弟そのものだというオールフォーワン、あの粘着的な執念を発する怪物が築き上げたものを他人に明け渡す?
「ないでしょ。」
「だろ。だが、だったらなんで俺を育てていたのか、って話だ。」
「奴の行動の理由に心当たりとかあったりするんですか?」
「あー、あるにはある。だが、それに関しちゃ、今は言えねぇ。」
「・・・正直、身の危険があるならオールフォーワンの下から去れば良くないですか?貴方たちが離れるだけでも戦力的に助かるんですが。」
「まだ時期じゃねぇな。」
「そうですか。」
「「・・・。」」
互いに無言になる。警戒はしている、だが、あの粘着質魔王がどんな手段で話を聞いている、または監視しているか、把握しきれていない分お互い情報を出しきれない。
「んじゃちょっくら走るか。緑谷、お前も走れ。」
「そう指示された、って事です良いですが?」
「おう、共闘するわけじゃねぇ。お互い好きに走ろうぜ。・・・だが、俺の方が年上だからな、サポートが必要な時はしてやるよ。」
そんな会話をしてからしばらく自由に走り出す。
廃工場に来ていた他のライダーたちはその走りのレベルの高さに盛り上がり始める。
「やっぱ上手ぇな。キーだけの走りじゃねぇ。」
「鍛えましたから。」
お互い、ストレス解消、熱冷ましのための走りであるため、得意なトリックなどを決めつつ会話を続ける。
「努力もだが、環境もだろ。良いライバルと、良いメカニックと、あと良い女か?」
「ブッ!最後のは何!?」
「あ?あの麗日って奴がお前の女じゃねぇのか?それともメカニックの発目って方だったか?ん?それとも二股か?」
まっさかなー、という表情で死柄木が出久を見ると、
出久は滝のような汗を流し始めていた。
「オイ、ヒーロー。お前マジか。」
「違う、二股違う。ただ二人のどちらかを選ぶなんて烏滸がましいこと僕には出来なくて、今は学業もあるし、二人とも僕には勿体無い人だし。好意を寄せてくれてるのは嬉しいけど、どう答えるべきか分からなくて、」
「どうどう、落ち着け落ち着け。お前が不純な気持ちではないのは分かったから。」
先ほどとは逆の立場で、死柄木が出久を宥める。
「・・・大切ならなるべく一緒にいてやれよ。旅行とか合宿とか一緒に行けると良いな、二人に差が出来るのは良くねぇよ。」
「・・・そのアドバイスもサポートの一環ですか?」
「・・・そうだな。なんなら機会があれば俺が二人と話してやろうか?これもサポートの一環だ。」
「・・・機会があれば。」
「・・・そんときはウチの女性メカニックや女性A.Tライダーも紹介すっかな。」
「・・・それなら安心ですね。」
そこで会話が途切れる。
「さて、そろそろ言い訳がキツくなる時間か?」
「そうですね。ブッ飛ばしにかかって良いですか?」
「お前さっきのイジリちょっと怒ってんだろ?」
「まっさかー。ただUSJ襲撃の後、色々大変だったのを思い出しただけです。」
「怒ってんのは事実なわけね。」
死柄木が真上に風弾を撃ち出し、天井の一部に穴を開け、外に飛び出る。
出久もターボソールを発動し、死柄木を追う。
死柄木と出久、二人は向き合いながら廃工場の屋根の上に立つ。
「先に言っとくが、今日は本当に気まぐれだ。俺はヴィランで今の世の中が大嫌い、っていう考えは変わらねぇ。平和の象徴なんて呼ばれるオールマイトも心底気に食わねぇ。だから、一度本気でぶち壊す。」
「そんなこと、させない。」
「お前だって被害者の一人だろ、緑谷出久。無個性なんてのは、下手すりゃ俺たちより生きづらかっただろうに。」
「オイ。」
ズッッッン、と周囲に圧が広がる。
「(これだよ、この狂気の圧。ほんと勿体無ぇ、ヴィランになりゃ世界をひっくり返す集団の旗印にだってなれる素質だ。)」
「分かった。本音だから謝るつもりはねぇが、もう話題には出さねぇよ。」
死柄木の言葉を聞き、出久は広げていた圧を収める。
「あと、今の圧で下にいた何人か腰抜かしてんぞ。」
「え、ヤバ!」
「それと、・・・A.Tのパーツを良く点検しておけ。内側から変な音がしてるぞ。」
「・・・分かった。」
死柄木の背にワープゲートが展開される。
「最後にサービスだ。オールマイトはもう気づいているらしいが、先生は長年進めていた計画や、本人のやり方を変更し始めた。警戒しとけよ。」
ワープゲートに身体を沈めながら語る死柄木。
「次会う時は改めてヴィランとヒーローだ、共闘は期待すんな。」
「・・・サポートは?」
「はっ、・・・期待しておけ。」
死柄木がワープゲートへと消え去る。
死柄木が消えていった空間を見つめながら出久はスマホを取り出す。
「あ、オールマイトですか?すみません実は、」
保須市の戦い後、出久と勝己にはオールマイト、エンデヴァー、そしてベストジーニストへの直通の連絡先が教えられてた。
ーーーーー
その後、駆けつけたオールマイトや警察、特に警察側からは、また君か、的な反応をされていた。
「緑谷くん、君はオールフォーワンから狙われているんだ。休日とはいえ、一人でこんな場所に足を運ばないでくれ。」
額に手を当て、疲れた表情をする塚内。
「何かすみません。」
その後、簡単に調書を取られてからオールマイトに家まで送られた出久は帰宅後、死柄木の言葉を頭で反芻し続けていた。
「(死柄木からの言葉。サポートしてやる、二人と一緒にいろ、旅行と合宿、死柄木が二人と話す、向こう側の女性A.Tライダーと女性メカニックの存在、サポートを期待して良い。お茶子さんと明さんが狙われる可能性がある?タイミングは旅行か合宿、つまりI・アイランドか夏合宿?確信は持てないけど、情報的にはこんな所かな。どうする、皆んなに相談するべきか、何より、」
『・・・A.Tのパーツを良く点検しておけ。内側から変な音がしてるぞ。』
「内側から変な音、内側がおかしい、内側を調べろ、内側が怪しい。内通者?」
迫る旅行と合宿に不安が募るが、
「どの道、僕らは受け身に回るしかない。ならどっしり構えて待ってやる。かかってこい、オールフォーワン。」
ーーーーー
ヴィラン連合アジト
「大丈夫でしたか、死柄木弔?あの緑谷出久と二人で会うとは。」
「偶々だよ。本当に偶然会っちまったんだからしょうがねぇよ。だが、スピナー以外のA.Tの実力者と走れんのはなかなかない機会だからな、良いストレス解消にはなったよ。それに、」
「それに?」
言葉を止めた死柄木に黒霧が聞き返す。
「いや、なんでもない。(伝わったかねぇ、こっちの言いたいこと。まあ、気が付いてないならないでやりようはあるか。)」
「この夏は大きく動きます。ここから先はあまり自由に動けなくなりそうですよ。」
「だろうな。まあ、先生に協力はする。その上で俺は、」
死柄木が歩み先には、スピナーを始めとしたヴィラン連合の面々が集まっていた。
「俺たちは好きに動くビャ!?」
歩み寄った死柄木の顔面にスピナーの拳が炸裂した。
「テメェ死柄木!自分で打ち合わせの時間決めたんなら、その時間を守りやがれ!」
「リーダー。数分なら遅刻で許すが、1時間越えとはどういう要件だ?」
「弔くん。約束を破るのは良くないと思います。」
顔面パンチを喰らい、床に倒れ込んだ死柄木に向け、荼毘やトガが追撃のキックを入れていく。
そんな死柄木の様子をミスタやトゥワイスは指を指し、笑いながら見ていた。
今日も仲良しヴィラン連合。
「おい、トガ!A.Tで踏むな、蹴るな!」
チャンチャン。
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