A.T使ってガチバトル   作:ken4005

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第68話 I・アイランド編⑥(副題切島鋭児郎ライジング)

 

セントラルタワー、庭園エリア

 

背を向け、ヴィランに向かって駆けていく芦戸を、俺はただ見ていることしか出来なかった。

 

今、芦戸は一人で二人のヴィランを相手取っている。

 

腕は痛ぇがまだ動く。個性は使える、足も動く。

 

ただ、

 

最初の一歩が踏み出せねぇ。

 

あの巨体を見た瞬間、過去の自分を思い出しちまった瞬間から、身体じゃなく心が動かせねぇ。

 

あの時、ヴィランかもしれない奴に声をかけられ、泣いていた同級生たちを前に、

 

俺は動けず、

 

芦戸は躊躇わず前に出た。

 

後悔した。

 

それで、クリムゾンライオットの言葉を聞いて、もう後悔しない為に守れるヒーローになる、って誓ったはずなのに、

 

また動けねぇ。

 

「クソ、動け、俺の足!動かねぇと、(・・・あれ?)」

 

動かないと、どうなる?

 

芦戸は懸命に戦ってる。

 

でも攻め手に欠けている。

 

避け続けても、どっかで避けきれなくなる。

 

そしたら、

 

・・・そしたら、

 

どうなる?

 

くり抜く個性も、あの巨体から繰り出される攻撃も、一撃でも当たれば致命傷になる。

 

・・・血の海に沈む芦戸を俺、切島鋭児郎は想像しちまった。

 

「・・・ぁぁぁぁあああアアアアア!!」

 

今想像してしまった光景を現実にしない。

 

そのためなら、なんだってやる気になれた。

 

ーーーーー

 

自分が持ち得る全感覚を総動員し、ヴィランたちの攻撃を避けることのみに専念する。

 

どれくらい戦ってるのかな?

 

個性は使わず、ただ回避することのみ集中し、待ち続ける。

 

あの日、踏み出すことのが出来なかったあの日から、どれだけ切島が努力を積み重ねてきたのかは、

 

私が一番良く知っている。

 

A.Tを始めてからは、それこそ放課後も休日も、いつも一緒にいた。

 

だから、アイツが直ぐには立ち直れないことも、私には分かった。

 

皆が皆、緑谷や爆豪みたいに躊躇なく駆けられるわけじゃない。

 

良いんだ。

 

アイツが踏み出すための時間ぐらい私が稼いでやる。

 

ほんと手間のかかる相棒よね。

 

でも、なんだろう。

 

風が肌を撫でる感覚、

 

そして、これは視線、というより気配。

 

ヴィランたちから感じるこの気配が敵意かな?

 

敵意を避ければ、相手の攻撃も避けられる。

 

この感覚を獲得できたから、まだ私は耐えられる。

 

切島のための時間を稼げる。

 

視覚以外の感覚を意識することが大切だって、改めて教えてくれた志村さんには感謝しなきゃ。

 

そういえば、志村さんはずっと観察するような気配のまま動かない。

 

きっと何か理由があるのだろう。

 

そして、

 

「・・・ぁぁぁぁあああアアアアア!!」

 

気配など読まなくても、相棒が復活したことが分かった。

 

思い詰めたような咆哮に、思わず苦笑していまう。

 

だから笑顔で声を上げる。

 

「頑張るよ、鋭児郎!」

 

ーーーーー

 

三奈からの声援が届いたのか、悲痛とも言えた咆哮に、

 

「オオオオオォォォォォォ!」

 

気合と勇気、根性が込められる。

 

『それ、成功させるコツとかありますか!?』

 

『テメェがやろうとしてんのは実質敵の目の前で隙晒す行為だ。我慢が出来たなら、次に必要なのは、』

 

『必要なのは?』

 

『ハートだよ。空に飛び出すつもりでぶん殴れ。』

 

A.Tを全力で稼働させ、真っ直ぐ突っ込んでいく鋭児郎。

 

「なんだ?さっきまでビビッて動けなかった奴が、今度は破れかぶれか?」

 

巨大化した紫肌のヴィランが切島に気づく。

 

「今度はペシャンコにしてやるよ!」

 

先ほどのような、巨大化した直後の雑な攻撃ではない。真っ直ぐ、全力で、鋭児郎を殴り潰しにかかる紫肌のヴィラン。

 

激突する直前、鋭児郎は普段ジャンプする際などにしてしまっている、一度停止する動作を意識して入れる。

 

これまで、無駄にしている、と思っていたエネルギーはA.Tの中に溜まり、解放の時を待つ。

 

攻撃が目前まで迫る中、

 

鋭児郎は恐怖を原動力に、

 

持ち得る限りの気合と勇気、根性を振り絞った一歩を踏み込み、

 

溜められたエネルギーを解き放った。

 

鋭児郎の拳とヴィランの巨大な拳が激突し、轟音が鳴り響く。

 

一瞬の拮抗もなく

 

紫肌のヴィランの腕が、後方に跳ね上げられた。

 

「「「なぁ!?」」」

 

沈めるつもりで放った攻撃が競り負け、巨腕が吹き飛ばされたことに、紫肌のヴィランと細身のヴィランの表情は驚愕一色に染まる。

 

なんなら、芦戸もあまりに予想外過ぎる威力に大口を開けて驚く。

 

「(おお、スゲェ。)」

 

観察に徹していた志村空も、土壇場で自分のアドバイスを実践してみせた鋭児郎に称賛を送る。

 

敵も味方も驚愕する中、鋭児郎だけが、次の行動に移っていた。

 

「(もう、一回!!)」

 

攻撃に、溜められたエネルギーを伝達することに成功した鋭児郎は、次の一歩を踏み出し、飛び上がる。

 

「レッドガントレット!」

 

飛び上がった勢いのまま、ヴィランの顎を拳で跳ね上げる切島。

 

急所への一撃により、紫肌のヴィランが背中から倒れかけるも、

 

「な゛め゛る゛な゛あ゛ぁぁぁ!」

 

ギリギリの所で踏みとどまる。

 

「早ま゛った゛な゛!虫のよ゛う゛に゛潰し゛て゛や゛る゛!」

 

「鋭児郎!?」

 

飛び上がり、空中にいる鋭児郎に回避する手段はないと考えた三奈だが、相手にしている細身のヴィランが邪魔で、名前を呼び、視線を送ることしかできない。

 

戦闘中の三奈と細身のヴィラン、たった今殴られガムシャラに反撃しようとしている紫肌のヴィランは気が付かない。

 

唯一、戦場を観察し続けていた志村空だけが、鋭児郎が次に何をしようとしているのかに気がついた。

 

「・・・オイオイ。それは教えてねぇぞ。」

 

ーーーーー

 

「(さっきのあの感覚。)」

 

迫り来る巨人とも言えるヴィランの攻撃から決して目を逸らさない。

 

「(最初の一撃であの巨大な拳を殴り飛ばした瞬間、その次の大ジャンプで踏み込んだ瞬間。あの2回、確かに感じた。)」

 

あの時、鋭児郎の拳と足は、確かに何かに触れた。

 

「(きっとあれが、爆豪や緑谷がたまに言ってる、風を捉える感覚の一つだ。)」

 

空中で移動できないはずの鋭児郎は、まるでこれから走り出すような姿勢を取る。

 

「(分かる。俺のA.Tの中に、まだまだ使い切れてないエネルギーが残っていることが。そりゃアイツらに勝てねぇよ。こんなに力の無駄遣いをしてたんだからよ。)」

 

なぜ出久の攻撃にあれほどの威力が乗るのか、なぜ勝己はあれほどのスピードを制御し切っているのか。

 

A.Tという超効率でエネルギーを運用する機構を、より正しく使うことで、人間はより自由になれる。

 

その一端を、鋭児郎は垣間見た。

 

「(だから出来る!風を捉える感覚とエネルギーを解き放つ感覚!この二つを使って!)俺が、三奈を守るんだよ!」

 

吠える鋭児郎は、

 

全力で空を踏みしめた。

 

ーーーーー

 

「「「はぁ!?」」」

 

足場のない空中でのダッシュ。

 

鋭児郎は風の面をA.Tで捉え、まるでそこに地面があるかのように踏み込んだ。

 

たった一歩で、文字通り紫肌のヴィランの目と鼻の先まで移動した鋭児郎は右腕を振り絞る。

 

「(だ、大丈夫だ。さっきの2撃目、空中での一撃は弱くはないが、一撃でヤラれるほどの威力はなかった。足場のない空中じゃそこまで威力は乗らねぇんだ。足場のな、い?・・・あれ?)」

 

拳が届く距離まで飛んだ鋭児郎はタイミングを測る。

 

「(拳に両足のA.Tからのエネルギーを乗せる!その為に、空を、踏みしめろ!)」

 

明らかに、空中に立った鋭児郎。

 

紫肌のヴィランは鋭児郎の背後に今の自分以上に巨大な、ハンマーを携えて赤鬼を幻視した。

 

「レッド・ハンマー!!!」

 

出久や勝己の本気の一撃に匹敵する威力の拳が打ち込まれた。

 

ドゴッッッ!!!

 

巨大化した紫肌のヴィランは、殴り飛ばされた勢いのまま壁に激突し、轟音が鳴り響いた。

 

「ば、バカな、」

 

圧倒的破壊力によってもたらされた光景を、細身のヴィランはただ唖然と眺めることしか出来なかった。

 

相方である紫肌のヴィランは、5m以上となった巨体のまま、壁に頭をのめり込まされ、完全に沈黙していた。

 

「し、信じられん。」

 

「ほんと、それ。いつのまにあんな事、出来るようになってんのよ、あのバカ。」

 

「しまっ、」

 

「アシッドベール!」

 

「ぎゃぁ!」

 

細身のヴィランよりも再起動するのが早かった三奈は、隙だらけになった相手を酸の刃で切り裂き、

 

「トドメ!」

 

その顔面に渾身の蹴りを叩き込み、行動不能にした。

 

ーーーーー

 

「(なんとかなったか。)」

 

死柄木は内心で安堵の声を上げる。

 

今回、死柄木がこの場に残った最大の理由が、壁にのめり込んでいる紫肌のヴィランであった。

 

「(このビルに、先生に個性を追加されたであろうヴィランはおそらく4人。残りは鉄仮面をつけたボスっぽい奴ともう一人。ただ、一番先生の気配が強かったのがコイツだったんだよな。)」

 

巨大化という個性にも色々あるが、紫肌のヴィランが与えられた巨大化はかなり良質なものであった。

 

5mを超える巨体になってもスピードも落ちず、特にデメリットが見当たらない。

 

「(先生が個性を与えた相手と今、直接事を構えるのは得策じゃなかった。だが、巻巻の機嫌を損ねるのも当然デメリットがデカすぎる。だから、素質がありそうな奴にアドバイスしてぶつけてみたんだが、)」

 

予想以上の成果となった。

 

「(A.Tに溜められたエネルギーのフル活用。アドバイスはしてあったから会得したことは、まあ納得できる。だが、精々数十パーセントぐらいの解放が関の山だと思っていたら、ありゃ完全解放だったな。)」

 

出久や勝己、死柄木やスピナーといったキーを使った者たちの領域、そこに鋭児郎は自力で足を踏み入れたのである。

 

「(加えて、まさか風を面で捉える感覚まで身につけるとはな。)」

 

風を面で捉え足場とし、空中での移動と攻撃に地上と同等以上の破壊力を与えることを可能とした。

 

「(しかし、ここまで強くなり過ぎると逆に邪魔か?)」

 

視界の先にはへたり込む鋭児郎と、駆け寄る三奈。

 

戦闘の疲労がある二人を再起不能にすることなど死柄木には容易いことである。

 

「(・・・ねーな。)」

 

ヴィランではあるが、外道になったつもりはない死柄木は、志村空として、自分のアドバイスを実践し、勝利した二人を労るために、歩み寄っていくのであった。

 

ーーーーー

 

「し、死ぬかと思った。」

 

「それはコッチのセリフ!なによさっきのは!?」

 

「イデ!」

 

へたり込んでいる鋭児郎の頭を叩く三奈。

 

「あ、そ、そうだ!芦戸、怪我ねぇか!お前に無茶させちまった。本当にスマねぇ!」

 

「大丈夫、大丈夫。志村さんのアドバイス通りにさ、視覚以外で感じる事を意識したらさ、全然余裕で避けられんの。」

 

「本当だな!?怪我はねぇんだな!?」

 

「しつこいな〜。何?怪我してたら責任でも取ってくれんの?」

 

「責任ならいくらでも取る!」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「「・・・。」」

 

「へ、変な意味はねぇぞ!」

 

「そ、そうだよね。変な意味はないよね!」

 

「「(・・・じゃあどんな意味だよ!?)」」

 

「(労るのやめようかな。)」

 

急に始まったラブコメに、近づきたくなくなってしまった志村空だが、巻巻たちを追いかけなければならない事もあり、意を決して二人に話しかける。

 

「二人とも、お疲れ。大したもんだ。」

 

「あ、志村さん!志村さんのアドバイスのおかげで芦戸を守ることが出来ました!ありがとうございました!」

 

「お、おう。良かったな。あれがA.Tのエネルギーを完全開放する感覚だ。しっかり覚えておけ。だが風を捉える感覚まで会得するとは思わなかったぞ。」

 

「そうだ!切島、なにアレ、いつの間にあんなの出来るようななったの!?私にも教えろ!」

 

鋭児郎の勢いに若干引く志村空。更に三奈と鋭児郎が戯れ始めたが、

 

「芦戸、お前も風を感じれてただろ。アレを続ければ、いずれ出来るようになる。だから今はとりあえず次の行動を確認するぞ。」

 

志村空の言葉を聞き、意識を切り替える鋭児郎と三奈。

 

「これから先に進んだ奴らを追いかける。巻巻のこともあるから俺は先行する。二人は自分たちのペースで登ってこい。」

 

「「はい!」」

 

「疲労はあるだろうが、今のお前らなら警備ロボット如きに遅れは取らねぇだろ。ちゃんと合流しろよ。」

 

「オス!志村さんもお気をつけて!」

 

「皆んなのことお願いします!」

 

「ああ。少し休憩してから登ってこい。じゃあな。」

 

そう言って、志村空は駆けていき、一瞬で見えなくなった。

 

「・・・流石に疲れたぜ。」

 

「本当にね。・・・ねぇ切島、さっき私のこと三奈って呼び捨てにしたでしょ。」

 

「ブッ、あ、あれは咄嗟に!そ、そういう芦戸も俺のこと名前で呼んでたぞ!?」

 

「わ、私も咄嗟だったし!」

 

顔を赤くする三奈だが、へたり込むの鋭児郎の隣に座り、

 

「・・・ありがとう、助けてくれて。」

 

感謝の言葉を伝えた。

 

「いや、途中足引っ張っちまったし。俺の方こそありがとうな。」

 

二人のヒーロー候補生たちは今日、それぞれの限界を、確かに突破してみせたのであった。

 

ーーーーー

 

タッグバトル

 

鋭児郎&三奈VS紫肌のヴィラン(凶暴化×巨大化)&細身のヴィラン(水掻きによるくり抜き×多腕)

 

鋭児郎&三奈タッグの勝利!

 

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