セントラルタワー最上階
「………随分と時間がかかっているねサム。」
「アナタが非協力的だからでしょう、博士!」
デヴィットの態度に苛立ちを隠さないサム。
「アナタに仕え、研究に全てを捧げてきました。なのに、その研究は取り上げられ、栄誉を得られなくなった。」
操作を終了させ、保管庫からケースを取り出したサムはデヴィットへと向き直り、
「だから、この装置で私自身をヴィランに売り込み、例え悪の道であってもお金も名声も、手に入れるのです!」
「なんと愚かな。いや、私にも責任の一端はあるのか。直前まで君の提案に乗っていた私にも。」
「そうだぜ博士。アンタが協力者だと聞いて、こっちも乗り気だったってのに直前で手の平返しやがって。」
作業を急かしにやってきたウォルフラムが会話に入ってくる。
「装置は取り出せたのか?」
「あ、ああ。これだ、作り方も私は正しく覚えている。これが量産出来れば最強の軍団だって、」
「分かった分かった。いいから、一旦ケースを寄越せ。」
雑に話を切ったウォルフラムはサムからケースを受け取る。
「用は済んだ、ズラかるぞ。博士、アンタにも来てもら、」
「ぼ、ボス!ガキどもが、」
「そこまでだヴィランども!人質を解放しろ!」
「メインコントロールルームも制圧した、観念するんだな。」
ウォルフラムが撤退しようとしていると部下が駆け込んでくる。
そして、最上階に到着後すぐにメインコントロールを奪還した雄英生たちの内、天哉、焦凍、耳郎、上鳴が保管庫に到着した。
八百万と峰田はメインコントロールルームに残り、システムを取り返している巻巻の護衛を継続している。
「……警備システムは?」
ウォルフラムは逃げ込んできた部下に小声で確認を取る。
「ボスに言われた通り、かなりキツめのロックを掛けておいたので暫くは大丈夫だと思いますが、」
「例の仕掛けの方は?」
「そっちは抜かりなく。」
「何をコソコソと相談している!」
天哉が声を上げるが、ウォルフラムは気にした様子もなく、自然な動作で胸元から銃を取り出し、デヴィットへ向けようとする。
その行動に驚きを見せる耳郎と上鳴だったが、
「させない!」
「フォロー任せろ!」
天哉と焦凍はウォルフラムの行動をいち早く察知する。
天哉がデヴィット救出に動き、
焦凍が最速で氷塊を展開し、ヴィランたちと天哉たちの間に壁を作る。
「チッ、(この二人は判断が早い、実戦慣れしてる感じか。狙うなら、)」
素早く銃を仕舞い、ウォルフラムは床に手を添える。
次の瞬間、まるで生き物のように床に使われている鉄が焦凍を無視し、耳郎と上鳴に襲いかかった。
「鉄を操る個性か!」
「回避!」
「お、おう!」
「(女の方も良い動きしやがる。だが、)お前が穴だな、金髪!」
物量重視の攻撃が上鳴、そしてデヴィットという荷物を抱えた天哉へと向けられる。
まだA.Tを始めたばかりである上鳴には回避不可能な攻撃、
「ハァッ!」
焦凍がフォローに入り氷壁で防御するが、
「舐めるなよガキども!」
今度は床だけでなく、壁や天井からも鉄が無数に生え、襲いかかった。
「グゥッ!?」
「おぅわ!?」
「ちょっ!?」
「大丈夫か、皆んな!?」
デヴィットを抱えながらも攻撃を回避しきった天哉が仲間たちに声をかける。
「無事だ!二人もだ。だが逃げれた。さっきの攻撃、出入り口から俺たちを遠ざけるよう誘導するためだったんだ。」
「クッ。まさか奴ら、またメインコントロールルームを、」
「いや、おそらく屋上だ。」
「博士?」
天哉に抱えられていたデヴィットが言い切る。
「奴らは既に目的の物を手に入れた。これ以上ここに長居する理由はない。」
「屋上、……ヘリか!」
ーーーーー
セントラルタワー、屋上ヘリポート
「ノロノロするなサム!貴様にはこれからこの装置を量産してもらわなければならないんだ。さっさと来い!」
「まっ、まってく、」
「待て!」
「チッ、もう追いついてきやがったか。」
ウォルフラムが振り返ると、息を切らした天哉と焦凍が屋上入り口に立っていた。
「学生の分際でよく働く。流石は雄英生、というわけか?」
余裕な態度を崩さないウォルフラムだが、内心はかなり苛立っていた。
「(クソが、計画が無茶苦茶だ。博士が土壇場で心変わりするわ、ガキどもが暴れるわ。このままヘリを飛ばした場合、最悪あの氷の小僧に墜される。なら、)持っていろ。」
やっとヘリに乗り込んだサムにケースを預け、ウォルフラムが前に出る。
「時間も惜しい。さっさと、……死ね。」
保管庫以上の力を込め、鉄がまるで大蛇ようにうねりながら天哉と焦凍に襲いかかる。
しかし、
「……何故当たらん!?」
どれだけ攻撃を繰り出しても、
高速で走り回る天哉と氷で加速する焦凍にかすり傷一つ付けられなかった。
「(耳郎くんと上鳴くんには悪いが、今の二人ではこの攻撃は捌ききれない。)」
「(だが、俺たち二人なら躱しきれる!)」
保須市の事件後から速さだけでなく機動性にも着目し、より繊細な動きが取れるようになった天哉は、迫りくる鉄の大蛇を右へ左へ駆け回り、回避していく。
「突っ込め飯田!迎撃は任せろ!」
「分かった!」
焦凍の言葉を信じ、回避を止めた天哉は迷うことなくウォルフラムに向かって真っ直ぐ突き進む。
「調子に乗るなぁ!」
これまで片手のみを床に付けていたウォルフラムは、両手を地面に付ける。
途端に攻撃の数、そして圧が増していき、先ほどまでの倍近い攻撃が襲いかかってくる状況であっても、天哉は決して減速しなかった。
「(信頼させたからには、絶対に守り切る!)オォッラ!」
焦凍は遅れながらも天哉を後ろから追従し、迫り来る鉄を無数の氷塊で撃ち落としていく。
自身の攻撃が対応され始めたことに焦り、
「このっ、テメェらみてぇなガキどもがオールマイトの真似事か!?無理なんだよ!だからデヴィット・シールドはオールマイトの力を維持することに逃げた!誰も、あの化け物には並べないんだよ!」
ウォルフラムは大声で吠える。
それでもヒーローたちは、より大きな声を張り返す。
「無理だと、限界だと言われても!」
「俺たちは、その限界を超えていく!」
決して並べない?そんなことはない。それが、不可能ではないことを自分たちは誰よりも知っている。
「(あの炎のように強く。)」
常に自分たちの遥か先を駆けているにも関わらず、追わずにはいられないあの背中が、
「(あの爆破のように速く。)」
圧倒的な力を持ちながら、いつでもかかってこい、と言わんばかりのあの背中が、
「「(俺たちを限界の、更に向こうに踏み出させる!!)」」
ただ前だけを見据える若きヒーローな眼差し、ヴィランは恐怖を感じてしまった。
「く、来るなぁ!」
「「プルス・ウルトラだ!!」」
最後の足掻きか、恐怖からの防衛本能か、持ち得る力を振り絞り鉄を操るウォルフラムだが、
「氷嶽連峰!!」
焦凍が連なる峰が如き氷柱が聳え立たせ、襲いかかる鉄の圧力を完全に押し返す。
降りそそぐ鉄が止み、回避を気にする必要が無くなった天哉が更に加速する。
「レシプロ・エクステンド!!」
「やめっ、」
真っ直ぐ駆け出し、
超加速した天哉の蹴りがウォルフラムに突き刺さる。
「ゴッ!?」
「なあっ!?」
蹴り飛ばされたウォルフラムの行きつく先は、いつでも飛び立てるよう準備をしていたヘリ。
戦いの様子を扉を開けて伺っていたサムは吹き飛んできたウォルフラムに激突され意識を失う。
「極点氷華!」
氷華遍在は広範囲であっても狙った相手を氷結させる技であり、
今回放った極点氷華は、範囲を絞りより強力な冷気を撃ち出す技である。
強力な冷気浴びたヘリを一瞬で氷のオブジェと化すのであった。
「よし!」
天哉がガッツポーズを取り、
「フゥ。」
焦凍は作戦が上手く行ったことに安堵のひと息を吐いた。
ーーーーー
メインコントロールルーム
天哉と焦凍の戦闘をモニター越しで見ていたデヴィットであったが、その目からは大粒の涙が流れていた。
「あの、博士、大丈夫ですか?」
八百万がそっと声をかけると、
「ああ。いや、すまない。私がどれほど愚かで、未来ある若者たちを信じられていなかったのかを、改めて気付かされてね。」
拭いきれない涙を流しながらも、デヴィットは笑っていた。
「トシが、オールマイトが築き上げた平和が崩れる事に怯え、あんな発明をしてしまったが、」
モニターに映る若きヒーローたち、その姿がデヴィットにはあまりにも眩しかった。
「オールマイトの後を継ぐヒーローたちは、ちゃんと育っていたんだなぁ。」
その声に宿るのは後悔であり、安堵であった。
「まだまだです。ですが、いつか必ずオールマイトが引退したとしても、揺るがない平和を築くヒーローに、私たちがなってませますわ。」
同じくメインコントロールルームに残っていた峰田、途中合流した耳郎、上鳴も、勿論だ、と言うように大きく頷く。
そこで峰田は違和感に気づく。
「あれ?巻巻どこ行った?」
その呟きは周囲には聞こえておらず、
「それにしても、やはり雄英は凄いな。今日オールマイトの紹介で緑谷くんや爆豪くん、麗日くんにも会ったが彼らも君らと同じくらい凄いのかい?」
「あ、アハハハ。私たちと同じくらい凄いというより、」
「俺らより強いというか、」
「桁違いというか、」
「オイラから見たら、アイツらはもはや別次元だな、うん。」
雄英生たちの反応を謙遜だと考えたデヴィット。
「ハハハ、流石は日本のヒーロー候補生たち、実に謙虚だ。オールマイトも見習うべきだな。」
「「「「ははははは。」」」」
気不味そうな笑い声が響く中、
モニターから轟音が響いた。
ーーーーー
「さて、そろそろ警備システムが復旧してくれると助かるのだが。」
「そうだな。いつまでも俺の氷で拘束し続けるわけにも、」
轟音が鳴り響く。
「なんだ!?」
「チッ、仕留め損なったか!」
これまで以上の量の鉄が操られ、
宙を舞う。
「アイツ、触れた所から繋がっている鉄しか操れないと思っていたが、」
「正解だ。本来は、だがな。流石デヴィット・シールドの傑作、個性社会を揺るがしかねない、と言われただけのことはある。」
現れたのは頭部にデヴィットが作った個性活性化装置を付けたウォルフラムである。
「ハハハハハッ、良い装置だ!個性が活性化し、力が漲る!ハァっ!」
ウォルフラムが手を翳しただけで、大量の鉄塊が二人を襲う。
そう簡単に相手の攻撃を喰らう二人ではないが、
「クッ、流石に数が多すぎる!」
「反撃する隙もねぇ、どうする!?」
徐々に追い込まれていく。
「さぁ、調子に乗った報いを受けろ!」
二人が合流した瞬間を狙い、これまでで一番巨大な鉄塊を作り、狙い落とすウォルフラム。
「潰れちまえ!」
「クッ、俺の最大出力でなんとか押し返して、」
鉄塊を押し返すため、力を振り絞ろうとしていた焦凍だったが、
「轟少年!ここは私に譲ってくれないか!?」
圧倒的な存在感を含んだ声が聞こえた。
風を切る音と共に、タワーの下層から屋上までを一気に飛び上がってきたその姿は、
雄英生たちに安堵を、ヴィランには動揺を与えた。
「「「オールマイト!」」」
「すまない皆んな!大遅刻の責任を取るために、」
空中を蹴ることで方向を変え、
オールマイトは巨大な鉄塊に突っ込んでいく。
「私が来た!」
「このぉ、クソッタレがぁ!」
狙いを天哉、焦凍からオールマイトに切り替え、鉄塊を叩きつけようとするウォルフラム。
しかし、セントラルタワーすら押し潰しそうな鉄壊も、平和の象徴を臆させるには不十分だった。
「なかなかの個性だが、今私は名誉を挽回するために必死でね、」
拳が握られ、
「悪いが、加減する気はぁ無い!」
本気の一撃が叩き込まれた
「デトロイト・スマッシュ!!!!」
パンチ一発、巨大な鉄塊はたったそれだけで屑鉄へとその姿を変えた。
さらにオールマイトは超高速で凍ったヘリコプターに取り残されていたサムを救出、
そのサムを背負って焦凍、天哉の側にやってきた。
「無事か、二人とも!」
「はい!大丈夫です!」
「よし!では後は私に任せ、」
「まだやれます!援護くらいはさせてくれ、…ください!」
オールマイトの登場でピンチを脱した二人は、戦意を滾らせる。
「本当は下がって欲しいが、ここまで戦い抜いたのは君たちだ。では共に、」
「こんな所で、俺の相手をしていて良いのか、オールマイト?」
先ほどまでの様子とは一転、余裕が見え隠れする表情を作るウォルフラム。
その脇では、保管庫へと駆け込んできた部下が何かの装置を操作していた。
「ガキども!テメェらがタワーで相手していたのは、タワー内を破壊しないように設計された安全面を考慮した警備ロボだ!だが、タルタロスと同レベルの警備システムを有するこのⅠ・アイランドの警備があんなチンケなロボだけだと思うか?」
ウォルフラムの宣言と同時に、Ⅰ・アイランドの四方で巨大な砂煙が上がる。
「あの方すら攻め込むことを躊躇する機械戦力!今、Ⅰ・アイランドの東西南北に配置されたロボットを起動、暴走させた!さあ、オールマイト!急がないと島の人間が大勢死ぬぞ!」
「馬鹿な!メインコントロールルームは既に取り戻している!いったいどうやって!」
「コイツの個性、機械の遠距離制御さ。本来の個性ではこの島の四方に展開するロボを同時に操作なんて芸当は無理だったが、あの方から与えられた遠距離通信の個性で、この通りだ!」
「別の個性を与える、だと!?」
目の前のヴィランの背後にオールフォーワンがいることに気が付いたオールマイト。
「そうだ!最初、この計画にはデヴィット・シールドも加担するはずだった!それを喜ばしく思われたあの方が支援してくださった!」
「まさか、デイブが。」
「だが、あの野郎は土壇場で裏切りやがった。まぁ、結果は変わらんがな。」
「くっ!先ず貴様を速攻で倒し、ロボットを止めに、」
「はぁ!」
大量の鉄塊がオールマイトに襲い掛かる。
オールマイトが剛腕を振るい、鉄を粉砕しにかかるが、
「砕けない!?」
風圧で吹き飛ばすことは出来ても、襲い掛かってきた鉄はヒビが入るだけで完全に砕けることはなかった!
「部下たちが個性を与えられているのに、俺が与えられていない訳がないだろうマヌケ!与えられた個性は鉄骨増強!鉄を操る個性に鉄の硬度を強化する個性、そして博士の個性増幅装置!今の俺をそう簡単にヤレるなんて思うんじゃねぇぞ、オールマイト!」
鉄塊による攻撃からワイヤーによる足止め、嫌がらせへと攻め方を変えたウォルフラム。
「(あの強化されたワイヤーで拘束されるのは不味い、しかし!)」
一瞬、天哉や焦凍へと視線を送るが、
「俺たちのことは気にしないで!」
「自分の面倒は自分でみます!」
オールマイトほどの圧は無いにしても、決して楽ではない攻撃に晒されている天哉と焦凍だが、その目は決して諦めの色は宿していない。
「むしろ行ってくださいオールマイト!コイツの相手は引き続き俺たちがやります!」
天哉が叫ぶが、オールマイトは悩む。
「(このヴィラン、今の二人では流石に手に余る。どうする、オールマイト!?)」
「どうするオールマイト!?悩んでいる間に一般人に被害が出るぞ!まぁ、俺を放置したら大事な教え子がどうなるかは分らんがな!」
悪意に塗れたヴィランの笑い声が響き渡る。
そして、それすら塗りつぶす……
愉快な声が響き渡った。
『そんな!』
『ことも!!』
『『あろうかと!』』
ーーーーー