I・アイランド北ブロック
お茶子が向かった北ブロックの超巨大ロボットは、西側のロボットと同様に四足歩行であったが、その歩みは遅く、まだ大きな被害は出ていなかった。
しかし、このまま侵攻を許せば、被害は市民だけでなく、I・アイランド全域へと広がるのは明らかであった。
なぜなら、
「水の竜巻!?」
到着したお茶子の前で、大量の水が怒涛の勢いで逆巻いていた。
それはまるで、セントラルタワーと同サイズの巨大な塔がもう一つ出現し、そのまま襲いかかってくるかのようだった。
超大型ロボットは亀のような外見をしており、水の竜巻の中心に陣取っていた。
ロボットは、甲羅に位置する部分に設置された大量のファン、そして尻尾に位置する箇所から伸びる、まるで先端が蛇の頭のような機構によって風を操り、その風で海水を巻き上げ、制御しているようだった。
よく見れば、足止めとして派遣されていたロボットたちは既に粉砕され、水流に飲み込まれていた。
『なんて出力!?』
ロボットを遠隔操作していた八百万は、その力に驚愕していた。
それもそのはず。
災害に匹敵する力を有したこの北側の超大型ロボットは、四機存在する超大型ロボットの中でも最も破壊力に優れ、特に対外敵、外部から一国の軍隊が襲来した場合でさえ殲滅し得る力を持っているのである。
「(凄い、)」
そしてお茶子もまた驚愕していた。
しかし、それは目の前のロボットに対してではない。
自身が身につけた新型ヘルメットに備え付けられた機能に、である。
「(周囲の状況が、手に取るように分かる。)」
元々お茶子は、出久や勝己と比べて、A.Tを通じて操ることができる風の量が段違いであり、それは才能とキーから得た経験の差によるものであった。
そのため出久と勝己は、過去の戦闘経験から風探知を通じてより精密な情報を読み取ることができるが、お茶子はかつての戦いにおいて決戦までキーを使用していなかったため、戦闘経験に裏打ちされた技能は持っていなかった。
広範囲に風探知を展開し、敵や人の存在を把握することはできる。
しかし、風探知と戦闘の完全な両立は、これまでできていなかった。
他を圧倒する力は、万が一流れ弾として誰かに当たればひとたまりもない。
また、制御を乱せば当然、体育祭のように力加減が利かなくなってしまう。
オールマイトに匹敵する破壊力を持ちながらも、その力ゆえに、お茶子はこれまで本領を発揮できずにいた。
『風探知とセンサーの同期、問題なし。周囲情報を把握。ウラビティ、行けます。』
「ありがとう、メイメイ。」
その問題を、新型ヘルメットが解決する。
お茶子の広範囲探知とセンサーを同期し、得た情報を明が作ったAI、Mei2、(メイメイはお茶子が勝手に付けた呼び名である)が精査、必要な情報のみをお茶子に提示する。
「よし!」
お茶子が全力を解放する。
「ゼログラビティ・フィールド × エアフォース・トルネード。」
I・アイランドに、三本目の塔が建つ。
お茶子を中心とした竜巻が発生し、二つの竜巻が向き合うという、奇妙な光景が生まれた。
超大型ロボットの尾の先端、蛇の目が怪しく光り、制御する水の竜巻から細かな水流が枝分かれするように伸び、新たな竜巻へと襲いかかる。
だが、それらは拮抗することすらなく、お茶子の竜巻に呑み込まれていった。
『!?』
さらに、お茶子の竜巻はゼログラビティ・フィールドの領域内にある。
その領域では重さに意味はなく、北方を守護する竜巻が纏う水の鎧は、風の女王の竜巻の前では無力であった。
「私の課題は、探知と戦闘の両立と、」
逃げ遅れた人々や、まだ戦闘範囲内にいる人々の正確な位置を把握し、それぞれに簡易的な風壁を展開、ゼログラビティを付与して安全圏へと運ぶ。
動かせない者には、より強固な風壁を張る。
暴走するロボットの侵攻を止めながら、同時に救助を行う。
お茶子は、現場に到着してからわずか数分のうちに、これらすべてをやり遂げていた。
「全力の制御!」
あとは、障害を排除するだけ。
「私に力をくれた人の技、行くよ」
竜巻の中心で、お茶子が八発の蹴りを放つ。
竜巻によって十分すぎる出力を得た蹴りが更なる風邪を捉える。
一発一発が竜巻となり、うねりながら超大型ロボットへと向かう。
「ブレス・オブ・ドラゴニクス、エイティヘッド!!!!」
八岐大蛇のごとき風は、その進路上にあるすべてを粉砕し尽くした。
風が止む。
北側エリアの戦闘区域には、ただ一人、
風の女王だけが立っていた。
ーーーーー
I・アイランド南ブロック
出久は既にイフリートソールを発動し、最大速度で移動していた。
「(イフリートソールを使って全力で移動しているのに、熱くない。)」
これまで戦闘において出久を最も苦しめてきたのは、自分自身。
己の炎が、自らを焼いてきたのである。
その炎を、今まさに本気で使用しているにもかかわらず、熱によるダメージを感じない。
出久が纏うヒーローコスチュームが、完璧に炎から身を守っているのだ。
そのおかげで、これまで自身を守るために割いていた風のリソースを、制御と移動に回すことができていた。
「(明さんとメリッサさんは、全力でぶん回せ、って言ってたな。)」
出久は考える。
先日一度使ってしまった、かつて自ら使用を禁じたあの技を、今なら使いこなせるのではないか、と。
制御に回せる炎が増えたのなら、あの技をさらに改良できるのではないか、と。
前を見据え、A.Tを走らせ、神の炎を纏わせていく。
I・アイランド南に配置された超大型ロボットは、鳥のような外見をしており、他の機体と比べて小型である。
しかし、超大型の名に恥じない巨大な翼を有していた。
今まさに飛び立とうとするその鳥型ロボットは、足止めに来ていたロボットを蹴散らした後、すでに出久の存在を捉えていた。
戦闘用AIには、4体の超大型ロボットそれぞれに特徴がある。
その中でも、この鳥型ロボットは飛行戦闘を行うがゆえに、他より高度なAIが搭載されている、はずなのだが、
なぜか、異様に好戦的だった。
自分に迫る出久を外敵として認識。
即座に情報を検索し、体育祭のデータがヒット。
強敵と判断する。
ブースターを噴かした次の瞬間、音速へ到達。
機体を大胆に傾け、地面と平行に走る左翼による一閃で、大地ごと薙ぎ払うように出久を切り裂きにかかった。
迫るは鋼の刃。
迎え撃つは神の炎を纏うヒーロー候補。
その光景は、まさしく神話の再現であった。
「(あの人は呼びづらいからフェニックス・エンドって名前で使ってたけど、本来の名前は、)」
すれ違い様、一瞬の攻防。
「セントエルモス・クロスファイア!!!!」
炎の刃と鋼の刃が激突する。
音速の突撃から繰り出された斬撃は、
炎の十字斬撃によって焼き切られた。
片翼を半ばから切り落とされながらも、背部ブースターでバランスを保ちつつ高度を上げていく。
この鳥型ロボット最大の特徴、ナノマシンが起動。
翼を再構成する。
距離を取りながら回復を行い、戦闘用AIが導き出した結論は、
最高硬度の嘴を、最高速度で突き刺すこと。
完全に脳筋AIである。
翼どころか機体全体を再構成し、新たな姿となって再び突撃してくる敵を前に、出久は先ほどの技について考えていた。
「(最大火力を出したのに、足にほとんど違和感がない。それに、この前一度使っているおかげか、気持ち悪さも思ったほどじゃない、)」
思考とは裏腹に、身体はすでに迎撃の準備を整えている。
「(次だ。セントエルモス・クロスファイアを、自分の技に昇華させる。自傷ダメージを防ぐために使っていた風を、攻撃へ。斬撃じゃなく、打撃に。
もっと強く、もっと速く、」
無意識に口に出していた思考を整える。
ブースターが閃光を吐き、再び一直線に迫る鳥型ロボット。
先ほどとの違いは、攻撃手段が翼から嘴へ変わったこと。
そして、スピードが段違いに上がっていること。
トッププロヒーローですら反応できず、貫かれ、肉片となるであろう一撃。
だが出久は、微塵も焦らない。
迫る鋼の嘴。空気が裂ける。
相手の速度、自分の速度、そのすべてを捉え
「今、」
A.Tを全力で駆動。
地面を蹴り、炎を爆ぜさせ、風を逆巻かせる。
音速の嘴が空を切る。
その頭上へ、
「イフリート、」
炎が収束した脚に、これまで防御に回されていた風が加わる。
新たな推進力と破壊力。
「スマァァァァッシュ!!!!」
振り下ろされる右足。
神の炎を従えた一撃が、鳥型ロボットの頭部へ直撃した。
轟音。
機体は地面へと叩きつけられる。
衝撃で大地が抉れ、瓦礫と煙が巻き上がる。
だが、
「(まだ!)」
頭部を再構成しようとナノマシンを展開するロボット。
再び動き出そうともがく、その瞬間。
捻る。
「はぁっ!!」
出久の左足が真っ直ぐな軌跡を描きながら、振り抜かれる。
イフリート・スマッシュ、エアフォース!!!!
左足から撃ち出された風撃が、ロボットの頭部を完全に粉砕した。
着地した出久は両脚の調子を確認し、
「フゥ。……うん、痛くない!」
この日、出久は神の炎を従えた。
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