駆けろ、駆けろ、駆けろ――!
肺が焼ける。
心臓が破裂しそうなほど脈打っている。
それでも、
止まるな。
「ハッ、ハァッ!!ちゃんと10秒待ってやったぞ!テメェのルール通りだ、ガキ!そら逃げろ!逃げ切ったならお前の勝ち!捕まったらお前の負けだぁ!」
背後から迫るのは、血狂いマスキュラー。
凶悪なヴィランで、僕のパパとママを殺した仇。
僕は、出泉洸汰は、そんな化け物に勝負を挑んだんだ。
なぜその選択をしたのかは分からない。
緑谷兄ちゃんからのアドバイス。
冷静な部分が、あのまま泣き叫んでも殺されるだけだ、ということを察したのかもしれない。
「さぁ逃げろ逃げろ!まだ1分も経ってねぇぞ、大丈夫か、そんなんで!」
後ろを向くな、前を見ろ。
大丈夫、風を切って走っている時は、なんとなく周囲の流れが分かる。
アイツは、マスキュラーは後ろにいるけど、まだ追いつかれない。
後ろを向く時は、本当のピンチの時だけ。
それまでは、
全力で走れ、ライダーだろ、出泉洸汰!
「良い逃げっぷりだな、小僧!そういや一昨日、二人組のライダーをぶっ殺したんだがな、アイツらも逃げっぷりだけは立派だったぜ!」
――二人組のライダー?
頭が、揺れる。
「なんだ、知り合いだったか?悪いな、殺しちまった!」
思考が一瞬、止まる。
その一瞬で、
距離が――縮まる。
「無様だったぜ?最後まで勝とうとしてやがった。無駄な努力だったのによぉ!」
耳障りな笑い声。
軽い。
あまりにも軽い。
――命が。
……だから、なんだよ、
歯を食いしばる。
だからどうした!
今は――僕とコイツの勝負だ!
逃げ切れば、
それでいい!
「お前も、アイツら同様、肉片にしてやるかよ。俺に、血を見せろやぁ!!」
ドンッ――!
空気が爆ぜる。
――来る!
流れが変わる。
背後の気配が、
消えた。
「上!」
反射で軌道をずらす。
直後、
轟音とともに地面が砕けた。
「いいねぇ、よく避けた!」
――上から、落ちてきやがった。
「狩りは獲物の活きが良いほど面白ぇってのは本当なんだな!」
楽しんでいる。
完全に、遊ばれている。
(それでも――)
まだ、いける。
涙は流すな。視界が濁る。
声を出すな。酸素が減る。
怒りは吐くな。溜めろ。
燃やせ。
エネルギーに変えろ。
駆けろ――!
頑張れ、僕。
頑張れ、出泉洸汰!
――――ッ!
「!」
あと30秒。
あと30秒、逃げ切れば――勝ちだ!
「2分も逃げてるぜ、ガキ!だがそろそろ、」
ゾワリ、と背筋が凍る。
――ヤバい。
何かが来る。
避けられない。
逃げられない。
「血ィ――」
なら。
ここで勇気を絞りきれ!
「おい、血狂いマスキュラー!」
足を止める。
振り返る。
ほんの一瞬の“間”。
「見せって、ああ?……諦めたのか?」
その隙に、
叩きつける。
「お前のそのヴィラン名、ダサくない?パパとママのウォーターホースの方が格好良いよ!」
空気が、止まる。
「ああそうか……そんなに、死にてぇか!」
――よし、乗った!
これで……あ、僕が足を止めたから、ちょっとズレた。
わぁぁぁぁぁあああああ!
まずい、マズイ、不味い!
もう後は、最後の切り札しかない!
急いで手に水球を作る。
今の僕じゃ、水を噴射してもアイツを止められない。
だから、A.Tで生み出した風で、
水球を蹴り飛ばす!
「ウォーター・スマッシュ!」
風で加速した水球が、
一直線に、顔面へ。
「ワップッ!なんだ、水?個性か?」
直撃。
足が、止まる。
「これが、最後の悪あがきかぁ!?」
拳を振り上げ、突っ込んでくる。
圧倒的な暴力な。
それでも、怖くない。
「大丈夫!」
来てくれるって信じてる。
「僕のヒーローが来た!」
「イフリート・スマッッッッシュ!!!!」
ゴッッッッウ!!!!
炎が閃く。
炎を纏った脚と、ヴィランの巨大な拳が激突し、衝撃が弾ける。
世界が塗り替わる。
そして、
「ゴッッッッ!」
まるで激突なんてなかったように、血狂いマスキュラーの巨体がを吹き飛んだ。
…………あれ?アイツ、死んでないよね?
ーーーーー
「洸汰くん!大丈夫?」
マスキュラーを蹴り飛ばした出久が洸汰に駆け寄る。
「緑谷兄ちゃん、僕勝ったよ!」
「勝った?」
「うん!アイツとバトルしたんだ。逃げ切れば僕の勝ちって。」
その言葉を聞いた瞬間。
出久の胸の奥で、
張り詰めていた何かが、
――切れた。
「(……間に合った。)」
本当に、ギリギリであった。
あと一歩遅れていたら。
あと一瞬遅れていたら。
――届いていなかった。
出久の中で怒りが燃え上がっていた。
猛烈な怒りは脳無を瞬殺した所から始まっている。
洸汰とヴィランの位置、自分と洸汰との位置、そして距離。
もし、ヴィランがすぐに洸汰を殺そうとしていた場合、完全に間に合わない致命的な距離だった。
だからこそ、一縷の望みに賭けて、全身全霊で駆けた。
間に合え、間に合え、間に合え!と何度心で唱えたか分からないほどに駆けた。
しかし、状況は予想外な方向に傾き、洸汰はA.Tを駆使し、自力で生き残る術を見出した。
「す、凄いよ洸汰くん!」
出久の声は、震えていた。
「本当に凄い……!」
心の底からの言葉と涙が溢れる。
「へへっ、緑谷兄ちゃんとマンダレイのお陰だよ。緑谷兄ちゃんが向かってくれてるって教えてくれたら、勇気が出たんだ。」
「(そんなことはない。この子は、自分の力だけで――生き延びたんだ。)」
「ガァァァァァァ!!」
「え!?」
「………。」
出久に蹴り飛ばされたはずのマスキュラーが、
再度、動き始めた。
焼けただれたはずの腹部。
それが、
――再生していく。
「ふぅ、危ねぇ危ねぇ。危うく一発で終わっちまうところだったぜ。」
笑う。
平然と。
立ち上がった頃にはマスキュラーの体から火傷の跡は消えていた。
「な、なんで!?」
「強ぇな、お前が緑谷だろ。」
「回復の個性、ですか?」
「そうだ!」
笑いしながら近づいてくるマスキュラー。
「オールフォーワンの奴がくれてよぉ。回復よりも強化の個性を寄越せって言ったんだが、役に立つっていうから受け取ったんだ。そしたら本当に役に立ったよ!」
出久は洸汰に一声かけ、前に出る。
「そうだ緑谷!そんなお荷物は放っておけ!俺は映像を見せられてから、お前と殺し合うのを楽しみにしてたんだ、ハァッ!」
マスキュラーが吠えると同時に、体から蒸気が上がり始める。
「俺の個性は筋肉増強!さらに筋力増強も与えられたことで、増やした筋肉をさらに強化!今の俺を止められる奴なんざ、」
「時間が勿体ない。」
「ああ?なにッ――、」
次の瞬間、
膝が砕けた。
「ガァァッ!?」
無言。
躊躇なし。
ただ、叩き潰す。
隙だらけで間合いに入ったマスキュラーの膝にイフリート・スマッシュを放った出久。
マスキュラーの左膝が粉砕される。
「ガッ、ギッ、そ、そうだ、やろうぜ緑谷、い、今回復さ、せ、え?」
マスキュラーの目の前に立つ出久は、
脚を振り上げていた。
「全力で防御しろ。」
「ちょ、待ッ、」
咄嗟に両腕に全力の筋肉増強、筋力増強、さらに回復まで発動して防御したマスキュラーだったが、
「ハァッ!!!!」
ゴッッッッウ!!!!
そんな防御などものともせず、踵落とし×イフリート・スマッシュを、マスキュラーの脳天に叩きつけた。
「―――――ッ!」
声なき叫びを上げ、叩きつけられたマスキュラーの頭蓋が地面にめり込む。
沈黙。
完全に沈黙。
それっきり動かなくなった。
「………え、死んでないよね?」
まさかの展開に唖然とする洸汰。
先ほど一声かけられた際、
『すぐ戻らなきゃいけないんだ、ごめんね。』
と言われていた洸汰。
ピクリとも動かないマスキュラーに、ヤバいのでは?と思ってしまうが、
「大丈夫。」
出久は淡々と言う。
「防御の上からだったから死んではいないよ。回復持ちは厄介だから、当分動かないように本気で叩きつけたけどね。」
「へ、へーー。」
洸汰は思う。
「(緑谷兄ちゃんの本気とか絶対に喰らいたくない。)」
「さぁ乗って、戻るよ。」
「う、うん!」
戦いは、まだ終わっていない。
次は――、
第79話 洸汰くんライジング & 怒り100パーセント
やっぱこの展開はダメだったのでしょうか?
洸汰くんが活躍する場面を書きたかった。
A.Tがあれば逃亡戦ぐらい行けると思いました。
頑張って書くので、感想、評価お待ちしています。