別題 脳無祭
出久が洸汰救出に成功したと同時に、
「良し!」
サーチで状況を確認していたラグドールがガッツポーズを取る。
「どうかしましたか?」
炎で凍らされたB組生徒を救助していた焦凍が声をかける。
「ちょっと待って。先に通信を入れさせてニャ!」
「轟さん、もう大丈夫です。火を止めてくださいまし。」
「大丈夫?取蔭さん、動けそう?」
葉隠が氷から助け出された取蔭に声をかける。
「うー。爬虫類系に氷はキツイって。他のみんなは?」
「あとちょっとで生徒の救助はなんとかなるニャ!問題は――」
ラグドールの視線の先、
森の奥から氷結が何度も放たれ、
そのすべてを蒼い炎が壁となって防いでいた。
「アレはUSJ襲撃時に現れたという――」
「確か、荼毘、だったっけ?そいつの個性だよね、アレ。」
八百万と耳郎が確認し合う。
「(俺よりも強い炎……)」
焦凍も戦いが止む気配のない森の奥を見つめる。
「(それにあの氷も……)」
完全にレベルが違うあの力がこちらに向けられた時、
自分は仲間を守れるのか。
そう自問する焦凍だが、答えは出ない。
「良し!動けない生徒の救出は完了!反対側に物間くんがいて良かったニャ!」
ラグドールが再度通信を使用し、
『連絡!凍らされた生徒の救助完了、みんな戻って!』
「それじゃあ、アチキらも急いで戻っ――」
その瞬間。
――轟音。
空気を震わせる、爆発。
これまで聞こえていたものとは、明らかに質が違う。
遠慮が、消えた音だった。
「……ハハッ、爆豪の奴、ちゃんと加減してたんだね。」
「…… 高火力を出す時は上空に打ち上げてからでしたし。」
「……あの気遣い、日常生活にも出せればモテるのにね。」
張り詰めた空気が、ほんの僅かに緩む。
「え?アイツ、言動はキツいけど行動は紳士的だと思うけど。」
ぽつりと零した一言に、
女性陣の首が、一斉にこちらを向く。
「耳郎、今度詳しく。」
「あらあらまあまあ。」
「耳郎ちゃん、まさかいつの間に?」
「へ?なに、なに?どうしたのみんな?」
詰め寄られ、狼狽する耳郎。
「はい、ガールズトークは後!」
パン、とラグドールが手を打ち中断する。
「広場まで撤退するニャ。みんな、移動するよ!」
「「「「「はい!」」」」」
周囲の警戒をしていた他の生徒たちも合流し、
「いや、それは困るね。」
ゾッッッ、
空気が凍る声、
聞くだけで身体が凍える声がした。
ーーーーー
少し遡り、
蒼炎と氷結の迫り合いは泥試合と化していた。
「荼毘、君やる気ないだろ。」
ニケの声には、苛立ちが滲んでいた。
攻めてこない。
だが、通すきもない。
「ねぇな。」
即答する荼毘にニケの表情が歪む。
「だが、テメェの狙いは轟焦凍だろ?」
蒼炎の圧が変わる。
「なら邪魔だけは真面目にするわ。」
「チィッ!」
放たれる蒼炎は、これまでニケが潰してきた炎とは格が違う。
「(厄介!轟家以外にも目的があるというのに……)」
このままでは目的遂行は困難と判断したニケは、
己の手札を切る。
「私の邪魔――」
A.Tで地面を踏み締め、振動を伝播させる。
「出来るものならやってみろ!」
氷河の道!
「おぉ?」
氷結を警戒して炎を放つが手応えがない。
しかし、
ガキンッ、
「なに?」
足がまるで凍ったように動かなかった。
「ハッハァッ、ぬかったなマヌケ!」
A.Tを走らせ、
「貴様の相手など時間の無駄!」
ニケは荼毘の脇を駆け抜けていった。
「……まあ、これくらいが妥当か。」
荼毘は懐から端末を取り出し、
「ノルマは達成した。ある程度救助が終わるまでの妨害、あとは――」
動くようになった足の様子を確認しながら、
「あのキショい奴の道も分かったぞ。」
叛逆の狼煙は上がり始めた。
ーーーーー
「いや、それは困るね。」
身の毛もよだつ声に、焦凍がラグドールよりも早く反応した。
声の主、ニケに対し、
「極点氷ッ――」
考えるよりも先に技を放つ。
だが、
「遅い。」
無造作に振られた腕、
その一振りと連動して放たれた氷河に、
「がっ……ぁ!?」
「轟さん!?」
「そして弱い。」
弾き返された。
氷河が焦凍を押し流していく。
「みんな逃げて!ここアチキが――」
「いや、ここは最大火力でしょ!」
肝試しのお守り代わりに持ってきていたフル装備を身につけ、
「―――ッ!!!」
耳郎がハートヴォイス・インパクトを叩き込む。
「邪魔。」
「―――ッ、って。は?」
だが、音の壁は
たった一発の蹴りで砕かれる。
「その程度で私をどうにかしようなど――」
「拳藤!庄田!」
「分かってる!」
「行きます!」
周囲の警戒にあたっていた拳藤と鉄哲が両脇から、庄田が後ろから強襲する。
「声を上げては奇襲の意味がなくないか?」
ニケは瞬時に氷柱を展開、
三人を妨害する。
「舐めんな!」
「ハァッ!」
「セェイッ!」
B組の武闘派三人はそれぞれ個性を発動し、
氷に打撃を打ち込むが、
「かっ、」
「硬い!?」
「当然。」
ニケは微動だにしない自身の氷を勝ち誇り、
「氷は純度が高いほどその硬度を増す。私の氷は――」
「ツインインパクト……ファイア!」
「りっ、ごぱっ!?」
庄田の個性、ツインインパクトによって砕かれた氷の破片がニケの後頭部に直撃する。
「ナイス庄田!」
「やっぱ出来る男だぜ、お前は!」
まさかの反撃、
「……死にたいらしい。」
苛立ちを隠さないニケは三人に手を向ける。
その手が纏う冷気は、
ゾッッッ、
「みんな、回避!」
死を予感させた。
戦線に復帰した焦凍もそのヤバさを感じ取り、
「させねぇっ!」
出せる全力の炎を放つが、
「燃え滓未満が!」
妨害すら叶わず、
「そこで仲間が氷像となるのを眺めてろ!」
技の余波だけで掻き消された。
「グレイシャル・タイダッ――」
「代わりに、貴方が像になってみては?」
「!?」
ガッ、とニケの手が蹴り上げられる。
「も、物間!」
頼もしい援軍の到着に鉄哲が叫ぶ。
「遅くなってゴメン。」
「フンッ、その程度――ど!?」
ニケが腕を戻そうとするも、
「(う、動けない!?)」
自分の技とは違う。
身体が動かせず、動かしたい部位で痛みと熱だけを感じる。
「痛みと熱……炎の道か!?」
「脳無相手に上手く決められるか心配だったけど、」
物間が構えを取る。
「人、それもA.Tライダーなら好都合!」
「この!」
身体全体から個性を放とうとするが、
既に物間の攻撃は始まっている。
「時よ!!!」
超加速からの多連打が打ち込まれた。
ーーーーー
森の反対側
「ア゛ア゛ア゛、違ウゥゥゥ!」
刃が降り注ぎ、命が切り刻まれていく。
抵抗しようと試みるも、容赦なく輪切りにされる。
「違ウ゛ゥゥゥ!」
「悔い改めなさい、罪人(つみびと)!」
塩崎が、女の命である髪であり荊である個性を伸ばす。
「違ウゥ!肉面ンン、肉面が見たいんダァァァ!」
塩崎では躱しきれない攻撃も、
「飛ばすであります!」
「切り結ぶぜぇ!」
宍戸が背負って走り、鎌切が並走して危険なものを弾く。
故に切れるのは茨のみ。
切っても切っても望むものがないストレスが、
「モットォ!」
近づけば、と短絡的な判断に誘導する。
「今だ!」
「ツブス!」
「闇に沈め!」
常闇の叫びに呼応し、
ダークシャドウが普段の何倍ものサイズで顕現する。
「「ラグナロク!!!」」
「グギャァッ!」
巨大化した闇の一撃が罪人を叩き潰した。
「よし!」
「やったであります!」
指示役に徹していた障子の作戦がハマり、
最大威力を叩き込むことに成功した一同。
「危険すぎる敵だったな。」
「ああ。一歩間違えれば何人も犠牲者が出ていたはずだ。」
上手くいったのは適したメンバーが揃っていたから。
もし一人で襲われていればひとたまりもなかった相手。
「コイツどうする?刻むか?」
「鎌切殿、発言発言。」
「私の荊でぐるぐる巻きにしておくのが――」
「いや、それもはや刑罰で――」
「僕は〜」
一斉に距離を取る。
「コイツ!ラグナロクを受けてまだ!?」
「常闇、ダークシャドウ、もう一発いけるか!?」
「我慢できる子なんだ〜。」
ムーンフィッシュが立ち上がり、
纏っていた拘束具を切り刻む。
「我慢して、我慢して……でも我慢しきれなくて、」
たくさん殺して、たくさん肉面を見たんだ
ゾゾッッ、
殺意の濃度が一段上がる。
歯から伸びる刃、
加えてオール・フォー・ワンから与えられた新たな力。
拘束具から剥き出しになった爪が伸び、
「痛いのも、肉面のためなら、」
肋骨が皮膚を突き破る。
「ヒッ、」
「なんと……」
「我慢する!」
これまでの三十二だった刃の起点。
そこに、
両手足の爪、二十、
肋骨、二十四。
合計、七十六。
「七十六からさらに分かれる無数の刃に切り刻まれて、」
刃を伸ばす姿はまるで、
死神。
「僕に綺麗な肉面を見せてぇぇぇぇ!」
死刃が降り注ぐ、
より早く、
「危ねぇから、」
死神の背後、
「寝てろ!!!」
別の可能性で大爆殺神と呼ばれた男が現れた。
ブラスター!!
爆裂の閃光が死神を貫く。
「〜〜〜ッ!?」
流星の如き勢いで地面に叩き落とされるムーンフィッシュ。
悲鳴をあげる暇すらなく、
今度こそ完全に沈黙した。
「……た、助かったぞ爆豪。」
「流石に死を覚悟した。」
「アイウチガゲンドダ。」
安堵を漏らす障子たちが近づくと、
ギョッ!?
勝己はかつてないほど満身創痍だった。
息は荒く、
汗が滝のように流れ、
全身に刻まれた切り傷と打撲痕。
そして、
返り血。
「「返り血!?」」
「ぜぇっ……腕巻きつけてくる奴がいてな。……ふぅ、全身爆破で吹き飛ばした。」
息を整えつつ、勝己はたった今撃破したムーンフィッシュを見下ろす。
「テメェら、よく生き延びたな。」
「あ、ああ。爆豪のおかげで――」
「それはちげぇ。」
即答。
息を整え終えた勝己はストレッチを始め、
「コイツはもう虫の息だった。しかも慣れねぇ力を使って隙だらけだった。この勝負、お前らの勝ちだよ。」
勝己からの称賛に心震える面々。
しかし、
「まだ撤退できてねぇ上、ピンチの奴らがいる。」
勝己の探知が次の戦場を捉える。
「悪ぃがスタート地点まで自力で戻ってくれ――っ、チィ!」
勝己が塩崎を抱えて飛ぶ。
「きゃっ、」
茂みから犬型の上級脳無が現れ、牙を剥く。
「ガァッ!」
「まだいんのか!?」
咄嗟にブラスターで強制的に距離を取る。
「(風探知してんのに急に現れやがる、ワープがウゼェ。)」
仲間たちを背に庇い、勝己は状況を整理する。
「(出久はガキを助けて戻ってきてるが、足止めされてやがる。)」
洸汰を抱えて戻ろうとしていた出久だったが、
三体の上級脳無に襲われていた。
「(ガキを抱えながらじゃ瞬殺は無理、まだ時間かかるな。)」
荼毘と交戦していたニケも戦闘中であり、
「(一番援護が必要なのはここだ。あの氷使い、今の轟と物間じゃ荷が重ぇ。)」
さらに探知を広場まで向ける。
「(広場に上級脳無がいねぇのが救いか。一体ぐらいなら切島、飯田、芦戸でなんとかなる。)」
問題はお茶子と明。
「(クソ、麗日の火力が欲しいんだがな。)」
先ほど助けたB組集団は広場勢と合流済み。あとは後ろの集団を送り届ければ、勝己も自由に動けるのだが、
「(完全に俺と出久を狙って足止めしてやがる。)」
勝己は歯軋りし、
「オイ、テメェら!俺がコイツをぶっ倒すまで円作って警戒!」
まずはこの集団の安全を優先する。
「(耐えろよ。轟、物間。)」
ーーーーー