5月9日20時→ご指摘をいただき、内容を一部訂正いたしました。
「物間!」
拳藤が駆け寄ってくる。
「大丈夫かよ!? 血吐いてたよな、……医者ぁ!」
「呼んでも来ないですよ。」
慌てふためく鉄哲を庄田が嗜める。
「とりあえずブラド先生たちと合流を――」
「ゲホッ、まだだ!」
喉が焼ける。
込み上げる血を吐き散らしながら、それでも物間は叫んだ。
「警戒を解くな!」
蹴られた箇所が痛む。
視界も揺れる。
だが、気にするな。
今、倒れるわけにはいかない。
奴はまだ――
「風が冷たく――」
異変を察知した瞬間、隣に来た拳藤の腕を掴み、強引に後方へ引き下がらせた。
「わっ――」
「轟くん!」
「ああ!」
フェニクス・スマッシュモドキ!
同時に、轟くんの業火が壁のように噴き上がる。
二人分の炎熱が展開された――直後。
大寒波が襲来した。
「ぐぅっ!」
「力の規模がデカ過ぎる!」
押し寄せるのは、津波じみた氷結。
地面が、木々が、空気そのものが白く凍てつき、森を侵食していく。
「褒めてやる、小僧。」
警戒、していたのに!?
奴は、いつの間にか真横に立っていた。
「時っ――」
「凍つけ。」
「よっ、足が!?」
足元が凍った――違う。
脳裏に、一瞬だけ見えた光景が再生される。
小さな踏み込み。
ほとんど“足踏み”に近い動作。
そこから導き出される答えは、
「振動!」
「気づくか。やはり貴様は面倒だ。」
周囲では仲間たちも、まるで氷像になったように動きを封じられていた。
この状態なら――
「轟くん! 氷で僕らを打ち上げて!」
「ッ!? 氷嶽連峰!」
無数の氷柱が足元から噴き上がり、僕らを強制的に押し上げた。
「よし、動ける! ラグドール!」
この場唯一のプロに向かって叫ぶ。
「僕と轟くんが殿をします! みんなを連れて退いてください!」
全員が一箇所に集まる中、
「残るならアチシも――」
「ラグドールの個性は、万が一森に残されている人がいるなら広場で必要になります。」
視線は切らない。
一瞬でも目を離せば死ぬ。
そう思いながら、奴を睨み続けた。
「足止めなら俺だって――」
鉄哲が残ろうとするが、
「奴のスピードに対応できないだろ。」
「なら私が!」
今度は耳郎が食い下がる。
「耳郎さんの技とアイツの技は相性が悪い。」
冷静に、突き放す。
でも、
「二人がいれば、みんなが広場に行ける確率がグッと上がる。頼むよ。」
「物間、もう一度僕の個性を。時とツインインパクトのコンボなら、ダメージが入るはずだ。」
「ありがとう庄田。」
「物間、死ぬなよ。」
「委員長命令なら死ねないね。」
さて、覚悟を決め――
「作戦会議中すまんが、」
え?
「どこに逃げるつもりだ?」
なんで後ろから、奴の声が――
しかも、複数。
総毛立つ。
反射的に振り返ったその先にいたのは――
麗日と発目を担いだニケが、
二人。
並んで立っていた。
ーーーーー
「麗日!」
「発目ちゃん!?」
耳郎たちが叫ぶが、担がれた二人に反応はない。
「気絶しているだけだ。」
「気にするな。」
二人のニケが口を動かす。
「なんで……二人の反応は別の場所に。」
ラグドールが狼狽する。
サーチが捉えていた位置情報と、目の前の光景が一致しない。
「今、この辺では遠距離通信がジャミングされているが、」
「それの影響でも受けたか? 何にせよ、この二人は貰っていくぞ。」
「そんなこと!」
「させるわけねぇだろ!」
ハートビート・インパクト!!
氷華偏在!!
強力な音撃と、咲き乱れる氷結の華が繰り出されるが、
「「弱い。」」
重なった声と共に、寒波が全てを押し返した。
「くっ――」
援護に行きたい物間だが、
「正しいぞ、その判断。意味があるかは知らんがな。」
先ほどまで戦っていたニケに意識を集中させていた。
「なんであの野郎が三人も!? 氷が個性じゃねぇのか!?」
鉄哲の叫びに、
「氷の個性だとも。」
ニケ自身が答える。
「氷を媒介に、まるで本物そっくりな人形や分身を作り、操る力。」
ゆっくりと、三人のニケが距離を詰めてくる。
「オールフォーワンから分割思考の個性を与えられたおかげで操作が楽になったが、まだダメだな。使っている時は実力の半分も出せん。」
個性を与えられた。
実力の半分も出せない。
最悪な情報がどんどん増えていく中、
「オールフォーワンだとっ!?」
「知ってるのですか、轟さん!」
「……職場見学で遭遇した奴だ。個性を与える力を、本当に持ってる。」
「職場体験で、ということは――」
「緑谷、爆豪、ついでに親父も入れた三人がかりで取り逃した奴だ。」
「……そんな人物がバックにいるのですね。」
「さて。私も自分の目的をそろそろ果たすか。その前に――」
お茶子と明をそれぞれ担いでいたニケたちが近づいたかと思えば、
融合し、一人――いや、一体になる。
「分割思考も切った。人形はオートに。近付いた相手を問答無用で凍らせる仕様に変更。」
一歩、また一歩と近づいてくるニケは、
「少し、真面目にやろう。」
そう宣言した。
直後、
ドゴッ!!
鈍い衝突音が連続で炸裂する。
反応できたのは物間だけ。
それ以外は――八百万を除く全員が、一瞬で吹き飛ばされた。
「蹴っても良かったが、下手に返り血を浴びるのは嫌だからな。」
ラグドール、焦凍、耳郎、葉隠、鉄哲、庄田、拳藤、取蔭は容赦なく殴り飛ばされた。
物間は辛うじて防御に成功した。
だが蓄積したダメージは限界に近く、片膝をつく。
「え?」
そして、八百万一人が残された。
ニケは八百万の前に片膝をつき、
「創造の個性を持つ、八百万百だね。」
紳士的な態度をとっているにも関わらず、
八百万には、ニケから感じる気配が、
声音は穏やか。
仕草も紳士的。
なのに。
気持ち悪い。
纏う空気が。
視線が。
存在そのものが、生理的嫌悪感を掻き立ててくる。
「私はニケ、と名乗っている。氷の名家、氷叢の当主だ。」
「(氷叢だと……)」
親戚の名前に反応する轟。
しかし、先ほどの一撃で体が思うように動かない。
「君には私と来てもらう。」
「(あ゛?)」
焦凍の額に青筋が浮かぶ。
「君の個性、創造と私の氷が合わされば、全てを氷で創造できる個性になるだろう!」
高らかに勝手なことを言うニケ。
「そ、それは……私の個性を奪うとでもいうのですか?」
後退る八百万。
目の前の男から、どうしても距離を取りたかった。
「んーん、違うな。」
立ち上がり、八百万が離れた分の距離を詰める。
「私は基本、戦闘に役立つ個性や、支配に必要な力を自分用に求めている。」
八百万の顔色はみるみる青ざめていく。
ニケは満面の笑みを浮かべながら、
「喜びたまえ。君に私の子を産む権利をやろう。個性婚というやつだ。」
「ヒィッ――」
ブチッ。
ゴウッッッ!!!
凄まじい炎が立ち昇る。
「八百万を怖がらせてんじゃねぇよ。」
轟焦凍が立ち上がる。
ーーーーー
「ふっ、氷叢の穢れ。燃え滓以下の分際で私に歯向かうんじゃぁない。」
ニケと名乗った男が冷え切った、見下した瞳で睨みつけてくる。
だが、
「うるせぇ。」
炎が揺れる。
「テメェが強いのも、氷叢なのも、そんなことはどうでも良いんだよ。」
感情に呼応するように、炎が膨れ上がる。
揺らぐたびに熱量が増していく。
「それで良い。」
遠くで、誰かがそう呟いた気がした。
「(個性は身体機能、感情と――)」
怒りを抑えるな。
押し殺すな。
胸の奥で渦巻く激情を、ただ昂らせろ。
「(直結する!)」
「その怒りを、乗りこなせ。」
脳裏を掠める。
ほとんど記憶にも残っていない、燈矢兄の顔。
『限界まで引き上げろ!』
今度は親父の怒鳴り声が聞こえた気がした。
『「「爀灼熱拳」」』
まだ教わってもいない技。
なのに。
どうしてだろう。
今なら撃てる。
そんな確信が、あった。
「その位置で、そんなモノを撃てばどうなるか――」
「ファイア!」
「カペッ!」
「こっそりカウンターをね。」
物間が八百万を抱え、一気に後退する。
今なら射線上に誰もいねぇ!
『「「プロミネンスバーン!!!!」」』
ーーーーー
迫る。
巨大で、
暴力的で、
圧倒的な熱量を孕んだ業火の奔流。
「グレイシャル・タイダル!!!」
だが、氷叢の最高傑作たる私に、穢れ如きが勝てるわけがない。
氷河の波でそんな炎、かき消して――
「グッ――」
押される?
私の氷河が、放った傍から溶かされ、蒸発している?
荼毘の蒼炎に迫る火力ということか。
轟焦凍。
未完成の半端者。
「……フッ、フハハハハ! 良いではないか!」
怒りの覚醒? 火事場の馬鹿力?
悪くない、悪くないぞ。
「ハァッ!」
流石にこの炎を直撃されるのは不味い。出力を上げ――…………チッ、遊び過ぎたか。
仕事が優先、仕方がない。
大丈夫だよな私、死なないよな。
…………クソがっ! 何が覚醒、何が火事場の馬鹿力だ! そんなものに――
「この私の、ニケの氷河が負けるものか! 死ねぇ!!!」
「死んでたまるかぁ!!!!」
私の氷河が、炎に呑み込ま――……
ーーーーー
「ぜぇっ、ぜぇっ……」
焦凍の呼吸は荒い。
全身から立ち上る熱気が、周囲の空気を歪ませている。
「くっ――」
半燃半冷。
自らを冷却できることこそ、この個性の真骨頂。
焦凍は即座に半身を使い、自身を冷やしにかかる。
しかし、
「直ぐ……には、ゲホッ。冷やし、きれねぇか。」
エンデヴァーですら解決しきれなかった問題。
個性使用後のクールタイム。
しかも今放ったのは、そのエンデヴァーの切り札だ。
熱が体を蝕み、思考を鈍らせている。
「轟さん!」
八百万が焦凍に近づいていく。
「だっ、めだ。今、俺、熱いから。」
意識が朦朧とする中でも、
焦凍の口から先に出たのは、
「八百万が……火傷する……のは、嫌だ。」
そんな言葉だった。
「問題ありません! 耐熱素材、冷感素材です! これを使ってください!」
八百万が即座に素材を創造する。
焦凍はそれに包まれながら、どうにか冷却を続けた。
やがて。
ようやく、人が触れられる程度の温度まで落ち着く。
「悪ぃ、八百万。ちょっと、疲れた。」
「え?」
ヴィランの撃破も確認できていない状況とは思えない発言。
しかし、
焦凍の視界には、
これ以上なく頼れる仲間たちの姿が映っていた。
「緑谷、爆豪。後は……任せた。」
焦凍の身体から力が抜ける。
そのまま八百万へ体重を預け、意識を失った。
「八百万、状況説明。」
「ヴィランは一人、ニケと名乗っていました! 個性は氷、森を氷結させた犯人と思われます! 氷で分身も作って――そうです! その分身に麗日さんと発目さんが!」
「わぁっとる。あんまコイツを刺激すんな。」
「え?」
勝己の隣。
出久は一言も喋っていなかった。
ただ、
真っ直ぐ。
ヴィランだけを睨み続けている。
八百万には分からない。
だが、
「心地良い狂気だ。」
出久の周囲から、凄まじい圧が放たれていた。
怒気とも違う。
殺気とも違う。
深く沈むような狂気。
「そんな!?」
気づけば、
お茶子と明を背負った氷人形が移動していた。
その隣には、
服だけを焼かれながら、無傷のニケ。
「あ、有り得ません! 轟さんのあの一撃を受けて無傷なんて!」
「いやいや、八百万百。無傷だから無事なのさ。」
「直撃の瞬間、氷の幕をA.Tの技で固めたのか。」
物間が即座に答えへ辿り着く。
「振動。それがお前のA.T技の根幹だ。」
「その通り。大地の道の技を自分なりに改良、個性と併用することで、私専用の氷河の道となるわけだ。」
バレたからなのか、堂々と己の道について語るニケは、
「さて、緑谷出久に爆豪勝己だな。」
笑みが消える。
「オールフォーワンがね、言っていたのだよ。」
感情が読めない、氷のような表情で、
「私では君たちに勝てないから、戦うな、と。」
出久の狂気と、勝己の闘気を真正面から受け止めながら、
「試させてもらっ――」
臨戦態勢を取った。
しかし、
フルクラスター・ターボ&インパクト
イフリートソール&イフリート・スマッシュ
「おうっ!?」
平和の象徴すら沈め得る爆光と業炎。
ニケがそれを視界に収め、理解した頃には、
暴風と鋭牙が、
真正面から迎撃していた。
「死柄木か!!」
「スピナー!?」
「悪いな、爆豪勝己、緑谷出久。ちょっと付き合ってくれ。」
「こっちにも色々あってな。」
特A級のライダーたちが激突する。