俺らがアジトとして使っているバーは今、
異様な空気が漂っている。
原因は明白。
死柄木と、
その先生である、オールフォーワンが睨み合ってるせいだ。
「やあ。調子はどうだい、先生?」
カウンターに備え付けられた椅子に座る死柄木は軽い調子で先ほど唐突に現れたオールフォーワンに声をかけている。
つい先日裏切った相手への態度としては合って………るか。
別に、遜る必要はもうない………前から遜ったとこなんか見たことねぇわ。
「フフフフフ。教え子の成長をその身をもって味わったものだからね……絶好調さ。」
バーの雰囲気にはまるで似合わない重厚感のある椅子にドカリと腰を下ろしながら、
オールフォーワンも本当に絶好調そうな声で答える。
………その椅子、わざわざ持ってきたのか?
お互い友好的に言葉を交わしているように見えるが、
室内は重苦しい圧に満たされている。
巨大な怪物同士が睨み合っているみてぇな空気だ。
死柄木の後ろには俺と荼毘が待機している。
荼毘は終始無言だが、その視線は決して穏やかなものじゃねぇ。
「おや? 弔。黒霧はどこだい?」
「ん? ああ。先生がすぐ来ると思って昨日はみんな揃って待ってたんだ。」
大袈裟な動作で、失敗した、と言わんばかりに額へ手を当てる死柄木。
黒霧はトガやミスタ、トゥワイス同様、
別行動中だ。
「ただよ。緑谷出久や爆豪勝己に手酷くやられたって聞いてね。アイツには先生への見舞いの準備に行ってもらったんだ。」
明らかに、相手の意にそぐわない行動を取った俺たち。
直ぐにでも報復があると思っていたが、
昨日は何もなかった。
そして合宿を襲撃してから二日たって漸くオールフォーワンは俺たちのアジトに姿を現した。
「すまないな先生。全員で出迎えてやれなくて。」
一応謝罪の言葉を口にする死柄木だが、
その表情は完全にニヤけている。
「いやぁ、それは申し訳なかった。実際、とても強かったよ。僕のオモチャたちは。」
穏やかな声で返してくるオールフォーワン。
しかし、奴が言葉を発するたびに室内の圧が増していく。
死柄木の技みてぇに実際に空気や風とかで圧力が加えられているわけじゃねぇ。
なのに、
奴から発せられるプレッシャーだけで、
一般人はおろかプロヒーローですら立っていることが難しいだろう。
………まあ、死柄木は当然として、
俺も荼毘も、
今更この程度じゃ揺らぐことすらねぇ。
…………なんか、遠いところに来ちまったなぁ。
アホなことを考えていたら、
死柄木はオールフォーワンの後ろに立つ怪人のうちの一体に視線を向けていた。
「それが先生の新しい足かい?」
さきほど、
黒い霞のようなものが蠢いたかと思えば、
闇の中からオール・フォー・ワンが姿を現し、
最後に脳無らしくないこの怪人が現れた。
「足だなんて、そんな失礼な言い方は止してくれ。」
オールフォーワンが片手を挙げると、
当の怪人が前へ出てきた。
「ゴー。」
「彼は自ら考え、行動できる脳無。ハイエンド……いや、会話は出来ないからニアハイエンド、とでも言うべきか。」
オールフォーワンが肩を竦めながら、新しいワープゲート役を紹介してくる。
「ゴー、と鳴く脳無だからね。ゴームくんと呼んでいるんだ。」
安直だな、おい。
「ゴー!」
オールフォーワンの真似か、
それとも挨拶のつもりなのか。
よろしく、とでも言うようにゴームと呼ばれた怪人が元気よく右手を上げてくる。
「おう、よろしくゴーム。」
「仲良くしようなゴーム。」
死柄木が気軽に挨拶を返し、荼毘も続く。
「………よろしくな。」
俺も、あの元気な挨拶に思わず普通に返事を返してしまった。
すると、
「ゴ!? ゴーー!!」
何やら凄く喜んだ。
両腕を振りながら興奮した様子を見せてくるゴーム。
「……ふむ。これまで僕やドクター以外と交流が無かったからかな。どうやら他者とのコミュニケーションが新鮮なようだ。」
意外な反応だったのか、
オールフォーワンも興味深そうな声を漏らしている。
そんなやり取りに、
我慢の限界へ達した奴がいた。
「随分と余裕そうな態度だな、死柄木。」
「……ああ、いたのか。」
死柄木が心底興味がなそうな視線を向ける。
俺たちと同じでキーを使用したライダー、
かつ強力な個性を有するヴィランであるニケ。
なのだが、
コイツたしか緑谷にボコボコにされた筈だよな?
メッチャ元気だけど、
………改造でもされたか?
死柄木はというと、
マジで今まで存在を認識していなかった、ありゃ。
端から視界にすら入っていなかった。
そう言いたげな目だ。
「クッ……! そうやって調子に乗っていられるのも今の内だ! オール・フォー・ワンによる調整を受け、更なる進化を果たした私の力――味わうがッ!」
やっぱ改造されたっぽいな。
「ニケくん。少し黙りたまえ。」
「ぐっ……チッ。」
ニケの奴がオール・フォー・ワンの一言で言葉を飲み込む。
悔しそうに舌打ちする姿は、まるで主人に制止された犬だな。
「弔。あまり挑発しないでやってくれ。」
「挑発? ハッ! おいおい先生。いつ俺がソイツを挑発なんてしたよ?」
死柄木が椅子から立ち上がり、
ゆっくりと、
一歩ずつ、
前に出る。
その歩みに合わせるように、室内の空気が張り詰めていく。
椅子に座るオール・フォー・ワンの正面まで歩み寄り、
「俺は喧嘩を売ってんだよ。」
死柄木の瞳が真っ直ぐに鉄仮面を射抜く。
一切の迷いもなければ、
一切の恐れもない。
「先生。アンタにな。」
はっきりと言い切った。
明確な敵対宣言。
その瞬間――
アジトにいた全員に、
一つのイメージが叩き付けられた。
全身に暴風を纏った巨大な龍。
天を裂き。
地を砕き。
全てを飲み込まんとする災厄。
その龍が顎を開き、
オールフォーワンへと牙を向けている。
そんな光景を確かに幻視した。
「…………ふ。」
仮面の奥から小さな笑い声が漏れ、
「ふふふ。」
そして、
「フハハハハハハハハハハハハハハ!!」
爆発するような笑い声がバーの中で響き渡った。
誰も止めねぇし、
誰も口を挟まねぇ。
怒りからの笑い、じゃあねぇな。
「いや、すまない。」
不快感もない。
あるのは純粋な――
歓喜。
「よし。」
重厚な椅子から腰を上げ、
立ち上がる動作だけで、
周囲の空気が揺れたような錯覚を覚える。
「やろうか、弔。」
あっさり。
教え子に反旗を翻されたことへの不満も、
裏切られたことへの怒りも、
何一つ口にすることもなく、
オール・フォー・ワンは戦いを受け入れた。
それどころか、
待ち望んでいたかのようにも感じる。
もはや言葉は不要と言わんばかりに、
二人は向かい合う。
そして――
互いに相手を喰らわんとする怪物同士が、
「ハァッ!」
「シッ!」
次の瞬間、
極上の殺意を激突させた。
ーーーーー
ヴィラン連合アジト近辺
「さて、配置に付くぞ。」
ヒーローたちに指示を出すのはナンバーツーヒーロー、エンデヴァー。
「警察の地道な捜査から得た荼毘やスピナー、そして死柄木弔の目撃情報。そしてデクからの情報、合致したな。」
「ああ。しかしエンデヴァー、キミから連絡を受けた時は驚いたよ。」
その隣に立つのは塚内。
「オールマイトからオールフォーワン関係は貴様に連絡しろ、言われていたのでな。」
ついでに、出久がヒーローに情報を伝える相手としてオールマイトではなくエンデヴァーを選んだ理由は、
『一人で突っ込んじゃいそうだよな〜。』
だったりする。
「今回の作戦はスピードがカギ、期待しているぞエッジショット、それにシンリンカムイ。」
「ああ、任せてくれ。」
「ハイ!先輩方の足を引っ張らないよう、全力を尽くします!」
「………俊典。ああいうのは、ナンバーワンであるお前の仕事じゃないのか?」
「周りを鼓舞するだけなら私でも良いのですが、今はエンデヴァーの視野の広さやチームアップ経験が重要ですから。」
突入チームの先頭で、その瞬間を静かに待つ平和の象徴、オールマイト。
その隣に立つのは古豪ヒーロー、グラントリノ。
この二人に、先ほどのナンバーファイブヒーロー、エッジショットと若手ホープのシンリンカムイを加えた4名が、
最速で突入に、最速でヴィランを拘束するのに適した強襲チームである。
「おかげで、一人のヒーローとして大いに力を振るえます。」
加えて、アジトの周囲はベストジーニストを筆頭に並み居るヒーローたちが固めている。
「フッ、早速この三人が揃い踏み。加えて、他のヒーローたちも実力者や期待のホープ。まるで古着屋のヴィンテージ・プレミアムデニムコーナーのようですな。」
「例えがよく分からん。ん゛ん゛、今回はワープを最優先で封じる。そして、絶対に逃走を許さないためのこの配置だ。全員、頼むぞ。」
そして、
準備が整い、
いざ突入、と行動を開始しようとした瞬間、
突入予定のビルが、
吹き飛んだ。
「………オールマイトォ!?」
「えぇ!?私まだ何もしてないよ!?」