A.T使ってガチバトル   作:ken4005

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第90話 スーパーヒーロー・スーパーヴィラン

 

「………まあ、当然そんなアッサリは終わらんわな。」

 

 

 

弔はたった今放った叛逆の狼煙の一撃に、

 

手応えを感じていなかった。

 

 

 

敵を倒した時特有の感覚がない。

 

崩れた建物の音と、舞い上がる粉塵だけが辺りを満たしている。

 

 

感知に意識を回して周囲を探る。

 

瓦礫の崩れる音。

 

遠くで響く怒号。

 

混乱するヒーローや警官たちの気配。

 

それらを一つずつ切り分けるように探っていくと、

 

 

 

「(いた。)」

 

 

 

上空に、明らかに異質な存在感を見つけた。

 

 

 

「上がってこい、ってことか?」

 

 

 

明らかに誘いではある。

 

それでも、弔の口元には小さく笑みが浮かんだ。

 

 

 

「上等。」

 

 

 

弔は地面を蹴って飛び上がる。

 

そのまま空中機動を使い、A.Tを走らせ、一気に上空へと駆け上がる。

 

 

途中、アジトだったビルの周りに、

 

突如として突入予定先が崩壊し、

 

慌てているヒーローや警官たちがいるのに気付く。

 

 

何人かは上空へ向かう弔を見上げていた。

 

敵意。

 

困惑。

 

焦り。

 

色々な視線が突き刺さる。

 

 

しかし、余計な気を回している余裕などない。

 

 

最近ボコられている機会が多く、

 

忘れてしまいそうになるが、

 

今、弔が戦っている相手は、

 

 

 

「黒霧と麗日お茶子たちに何をさせているのかと思えば。随分と頑張って舞台を整えたものだ。」

 

 

 

個性社会を裏で牛耳り続けてきた魔王である。

 

崩壊したビルの残骸を見下ろし、

 

避難が進む街を眺め、

 

それでも、オールフォーワンは余裕を崩していない。

 

 

 

「さて、こんな組み合わせはどうだろう?」

 

 

 

上空で街の様子を確認したオールフォーワンは眼下の弔、

 

ビルの周囲を囲い自分を睨むオールマイトとエンデヴァー、

 

その他の有象無象扱いのヒーローと警官たちに手を向ける。

 

 

 

その仕草だけで、空気が変わった。

 

 

 

突風、と表現すれば良いのか。

 

 

 

出久やお茶子、そして弔も使う“空気を押し出し”相手に撃ち込む技。

 

それと同系統の技が個性で再現され、

 

オールフォーワンから放たれる。

 

 

 

ただし、出久たちの風が対人、対集団レベルだとすれば、

 

オールフォーワンの風は、

 

対軍レベル。

 

 

 

空気そのものが巨大な壁となって落ちてくる。

 

街全体が揺れ、

 

ビルはおろか、

 

周囲の建物を余裕で圧壊させる規模の風圧が襲いかかってくる。

 

 

 

「チィッ!」

 

 

 

「スマッ、」

 

 

 

街の一部を更地にする威力の攻撃が迫る中、

 

舌打ちしたエンデヴァーが赫灼熱拳を、

 

オールマイトが剛腕を、

 

迎撃のために繰り出そうとする。

 

 

 

だが、

 

 

 

「おいおい、先生。そりゃ悪手だぜ!」

 

 

 

二人よりも早く、

 

両手を突き出した弔が突風の前に躍り出る。

 

 

 

「そぉらっ!」

 

 

 

弔は暴風に正面から突っ込んだ。

 

 

 

突き出した両手を、

 

突風に接触すると同時に、勢いよく回す。

 

 

 

手首を返し、腕を捻り、荒れ狂う空気の流れを制御する。

 

まるで暴れる猛獣の首根っこを掴み、無理やり躾けるように。

 

 

 

たったそれだけで、

 

この場に配置されていたヒーローや警官たちを圧殺したであろう突風が掻き消えた。

 

 

 

「ほう?」

 

 

 

その光景にオールフォーワンが感心したように声を上げる。

 

いや、掻き消えた、という表現は正しくない。

 

圧倒的暴力を内包していた突風は、

 

弔によって躾けられ、

 

その手の中にいた。

 

 

暴風が弔の掌の中で唸る。

 

荒れ狂う風が、急激に収束していく。

 

 

 

「ガスト・ディザスタ!!!!」

 

 

 

放たれるは超圧縮された暴風。

 

 

 

球体と化した風は弔によって押し出され、

 

真っ直ぐオールフォーワンに向かって飛んでいく。

 

 

 

空気が裂かれ、

 

風の球体が通った軌道だけ、空が歪んで見えた。

 

 

 

「(今の弔は崩壊を風にすら伝播させることができる。異骨や鋲突だけで防ぐのは不可能。ならば、)」

 

 

 

オールフォーワンは冷静に判断する。

 

 

 

光輪を足元に展開。

 

 

 

触れれば即死の攻撃。

 

回避することが賢い選択。

 

 

 

しかし、

 

 

 

「鋲突×槍骨×異骨×光輪×噴射!」

 

 

 

鋲突と槍骨で形づくり、

 

異骨で硬度を補強し、

 

光輪と噴射で推進力を与える。

 

 

 

オールフォーワンの目の前に、歪な槍が形成されていく。

 

白い骨。

 

鋭い棘。

 

異様な硬質感。

 

そこに推進力を与える光と噴射が重なり、死を振り撒く槍が完成する。

 

 

初撃の、

 

無作為に放たれた風撃とは訳が違う。

 

他者を害し、

 

殺めることだけを目的とした個性、いや異能の掛け合わせ。

 

 

ヒーローや警察、

 

宿敵であるオールマイト、

 

そして何より、

 

その中にいるであろう“ ”に向けて、

 

オールフォーワンは小さく笑った。

 

この場にいる全員の視線が、

 

自分から離れられなくなっていることを分かった上で。

 

 

 

「さぁみんな。僕を見ろ。」

 

 

 

圧倒的暴力を内包した歪な槍が解き放たれた。

 

神野市の空で、

 

暴風と暴力が激突した。

 

 

 

轟音が夜空を裂く。

 

衝撃波は街へと広がり、

 

多くの窓ガラスが砕け散る。

 

 

 

空そのものが、巨大な悲鳴を上げた。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「塚内、作戦は中止だ! 警官たちを退がらせろ!」

 

 

 

エンデヴァーが叫ぶ。

 

 

 

「しかし!」

 

 

 

警察としてのプライドからか、

 

長年追ってきた宿敵が目の前にいるからか、

 

塚内は撤退することを躊躇ってしまう。

 

 

 

この機会を逃せば、次はないかもしれない。

 

そう思ってしまうほど、目の前の敵は大きすぎた。

 

 

 

しかし、叫んだ直後に強烈な悪寒を感じる。

 

 

 

上空を見上げれば、

 

自分たちどころかヒーローたちも一撃で壊滅するであろう風撃が襲いかかってきていた。

 

 

 

「チィッ! (威力が高い上に範囲まで広いときた。俺ではこの場にいる奴らは守れても街は、)」

 

 

 

「スマッ、(シット、これは撃たせてはいけない攻撃だった!)」

 

 

 

オールマイトとエンデヴァーが即座に迎撃態勢をとるが、

 

トップツーヒーローだからこそ、分かってしまう。

 

 

 

「「(守りきれない!!)」」

 

 

 

その絶望的な状況を、

 

 

 

「そりゃ悪手だぜ!」

 

 

 

一人のヴィランがあっさりと覆す。

 

 

 

絶望的な攻撃を防ぎ、

 

あろうことか圧縮して撃ち返してみせたのだ。

 

 

 

誰もが一瞬、言葉を失った。

 

 

 

オールマイトとエンデヴァー、

 

そして漸く思考が追い付いたベストジーニストとグラントリノ以外は、

 

ヒーローも警察も、絶え間ない状況の変化を唖然と眺めることしか出来ていない。

 

 

 

つい数秒前まで自分たちを消し飛ばすはずだった攻撃を、

 

一人のヴィランが受け止め、

 

それをさらに強烈な一撃として撃ち返した。

 

 

 

その光景は、彼らの常識から大きく外れていた。

 

 

 

そして今度は、圧倒的な死を予感させる巨大な槍が出現。

 

 

 

風と槍の激突で発生した衝撃波によって転がされ、

 

漸く我に帰るのであった。

 

 

 

「警官隊、全員退避ー!」

 

 

 

「ジーニスト! ヒーローたちも退がらせろ!」

 

 

 

塚内が叫び、エンデヴァーも吠える。

 

 

 

ジーニストも戦闘力の桁が普通ではないことを理解したのか、

 

周囲のヒーローに後退の指示を出していく。

 

 

 

「全員、退がれ! この距離では巻き込まれる!」

 

 

 

ジーニストの声が飛ぶ。

 

ヒーローたちが動き出し、警官隊も慌てて後退を始める。

 

 

 

もう作戦どころではない。

 

ここは災害同士が激突する、

 

悪夢のような場所となった。

 

 

 

「オールマイト! どうする!?」

 

 

 

援護に回るのか、

 

それとも、

 

両方を相手取るのか。

 

 

 

当初は、雄英生二人の保護を最優先とし、

 

可能ならヴィラン連合の捕縛する予定であった。

 

 

 

それがいつの間にか、自称魔王との決戦に変わっている。

 

 

 

戦力は足りている。

 

しかし、それはオールフォーワンのみを相手取った場合である。

 

 

 

オールフォーワンとヴィラン連合、

 

その両方を相手にするのであれば、

 

戦力は足らないどころの話ではなくなる。

 

 

 

もっとも、近くにいるであろう二人組が合流すれば話は変わるのだが。

 

 

 

「計画は変更! 全力で奴を、オールフォーワンを叩く!」

 

 

 

オールマイトは強く拳を握り締め、

 

弔と戦闘中のオールフォーワン目掛け飛び上がろうとする。

 

 

 

「(個人的な感情が無いとは言わない。しかし! グラントリノにエンデヴァーが援護に回ってくれるこの状況は、奴を討つ絶好のチャンス!)」

 

 

 

一度だけ息を吐く。

 

 

 

胸の奥で燃える怒りも、

 

積み重なった因縁も、

 

その一息と共に押し込めた。

 

 

 

覚悟を決め、いつもの笑顔を作る。

 

 

 

ヒーローは笑う。

 

人々に安心を与えるために。

 

どんな相手が目の前にいようと。

 

 

 

「HAHAHAHAHA!!」

 

 

 

笑い声を上げながら、

 

オールマイトはオールフォーワン目掛け、一直線に突っ込んでいった。

 

 

 

「私がッッッ、来たァ!!」

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「無計画に突っ込むバカがいるか!」

 

 

 

空へ飛び上がるオールマイトを見て、思わず叫んだ。

 

 

 

「どうする轟? 正直、おぬしぐらいしかあの中に入っていくのは無理じゃぞ?」

 

 

 

隣に立つご老体、グラントリノが尋ねてくる。

 

 

 

その小さな身体からは想像できないほどの闘志を纏い、上空の戦闘、

 

いや、

 

オールフォーワンに意識を向けつつ、

 

目は冷静に戦場全体を見ていた。

 

 

 

だが、

 

 

 

「………先にやることが出来ました。ハァッ!!」

 

 

 

炎を纏わせた腕を振るい、

 

コチラを狙って放たれた氷を薙ぎ払う。

 

 

 

炎と氷がぶつかり、白い蒸気が一気に広がった。

 

 

 

「報告にあった………ヴィラン名はニケだったか?」

 

 

 

元々ビルだった瓦礫の山から現れた男。

 

 

 

報告にあった、冷と同じ強力な氷の個性を扱う氷叢の一族。

 

 

 

その男は、瓦礫の上に立ちながら笑っていた。

 

両手からは冷気が漏れ、

 

足元の瓦礫はすでに薄く凍りついている。

 

 

 

「この俺に、フレイムヒーロー・エンデヴァーに氷で挑む、というのはなかなかに無謀だと思うが?」

 

 

 

「無謀? 何をバカなことを。」

 

 

 

口角を上げ、こちらを嘲笑ってくるニケ。

 

 

 

両手に冷気を纏わせ、

 

足に履いたA.Tを駆動させながら、

 

 

 

「炎なんぞ、この氷叢の最高傑作たる! このニケの相手にならんわ! 事実、蒼炎使いであるヴィラン連合の荼毘は私を足止めしただけで倒せていない! 貴様の息子は、私の相手にすらならなかった!」

 

 

 

奴が感情に任せて叫んでくる。

 

 

 

同時に、両手の冷気が一気に勢いを増していく。

 

空気中の水分が凍り、細かな氷の粒が周囲に舞った。

 

 

 

加えて操作もしているようで、

 

一部を脚に纏わせている。

 

 

 

「焦凍と戦ったのだったな。それにそのA.Tの使い方。デク………緑谷の模倣か。」

 

 

 

「その通り! 私ならば、見るだけで相手の技を再現するなど容易い! これで、」

 

 

 

A.Tから脚にかけて、

 

周囲を凍てつかせる冷気を纏ったニケは、

 

気が付けば目の前で蹴りを放っていた。

 

 

 

確かに速い。

 

踏み込みも悪くない。

 

 

 

加えて、纏う冷気も尋常ではない。

 

モロに喰らえば、俺とて危険だろう。

 

 

 

・・・だが、

 

 

 

「フンッ!!」

 

 

 

「ぶべらっ!?」

 

 

 

身体をずらす。

 

 

 

最小限の動作でニケの蹴りが頬を躱し、一歩手前へ。

 

炎を纏わせた拳で、

 

相手の顔面にカウンターを叩き込む。

 

 

 

拳がめり込み、ニケの身体が大きく仰け反った。

 

・・・薄いが強固な氷結を纏っているのか、今の一撃で致命傷にはなっていないな。

 

 

確かに強いヴィランだ。

 

トップヒーロー、それこそ普通に戦えはジーニストですら危うい相手であろう。

 

だが、

 

 

 

「貴様が再現したという緑谷のイフリートソールは、攻撃の威力と移動速度を極限に、かつバランスよく向上させる絶技だ。」

 

 

 

それに比べ、

 

 

 

「技の威力のみを注視し、移動速度の向上と制御は最低限。加えて、貴様のA.Tの走りには、熟練者のキレがない。」

 

 

 

悪魔、いや魔神の炎とすら表現できる緑谷の炎。

 

あれはこの俺の火力に勝らずとも劣らない炎だ。

 

 

 

だが、威力だけなら俺たちの攻撃なんぞオールマイトの足元にも及ばない。

 

 

 

期末試験で戦った爆豪の個性の使い方を学び、

 

一瞬だけならオールマイトに匹敵する加速も手に入れたが、

 

爆豪の小僧も、俺も、

 

常時速度ではオールマイトに追いつけない。

 

 

 

だからこそ、俺たちは、

 

戦い方を工夫しなければならない。

 

 

 

技術を身に付けなければならない。

 

策を練らなければならない。

 

誰かと協力しなければならない。

 

 

 

ただ力任せに突っ込むだけでは、

 

本物には届かない。

 

 

 

拳の炎の圧縮を始める。

 

 

 

炎のサイズは変えずに、

 

火力のみを上昇させる。

 

 

 

赫い炎が、拳の周囲で密度を増していく。

 

 

 

「そんな攻撃が、この俺に当たるわけがないだろう。」

 

 

 

高速移動に必要な箇所に炎を溜める。

 

 

 

足。

 

腰。

 

背中。

 

肩。

 

 

 

身体の各所に、推進のための炎を灯していく。

 

 

 

「緑谷や爆豪が異常なだけで、貴様が相手にしたのはまだまだヒーローの卵だ。」

 

 

 

一瞬で間合いを詰めつつ、

 

姿勢を崩さないため、

 

炎の出力を細かく調整する。

 

 

 

「そんな未熟者たちであっても、報告では貴様に一矢報いた、と聞いている。」

 

 

 

奴に気付かれないよう、

 

挑発も忘れない。

 

 

 

「荼毘とも戦ったそうだが、貴様が今無事なのは、」

 

 

 

ニケの表情が歪む。

 

冷気の量がさらに増えた。

 

 

だが、

 

だからどうした。

 

 

 

「単純に、奴にやる気がなかっただけだろう。」

 

 

 

ーーー『荼毘、君やる気ないだろ。』ーーー

 

 

 

ーーー『ねぇな。』ーーー

 

 

 

「………死ねぇぇぇ!!!」

 

 

 

こちらの挑発が思いの外効いたのか、

 

ニケは怒り狂いながら突っ込んできた。

 

 

 

冷気を撒き散らし、

 

A.Tを唸らせ、

 

真正面から距離を詰めてくる。

 

しかし、その走りに、脅威は感じない。

 

 

 

「赫灼熱拳」

 

 

 

では遠慮なく、潰させてもらう。

 

大物が控えているのでな。

 

 

 

背から炎を噴射し、

 

一瞬の超加速。

 

 

 

空気が爆ぜる。

 

 

 

赫く燃え上がる炎を滾らせ、

 

拳を振るう。

 

 

 

「バニシング・ジェットフィスト!!!!」

 

 

 

炎の噴射による超加速で間合いを詰め、

 

灼熱の拳を奴の腹に叩き込む。

 

 

 

ニケの身体がくの字に折れた。

 

 

 

直後、

 

ジェットバーンを放つ。

 

 

 

「ギョォッッッ!!??」

 

 

 

灼熱が爆ぜる。

 

 

 

氷の冷気も、防御のための氷結も、

 

まとめて焼き払いながら、

 

ニケの身体を瓦礫の山へと吹き飛ばした。

 

 

 

轟音と共に瓦礫が崩れ、

 

白い蒸気と黒い煙が混ざり合う。

 

 

 

炎に吹き飛ばされ、

 

奴が元いた瓦礫に再度呑まれたことを確認し、

 

 

 

「償わなければいけないことが山積みなのだ。貴様ごときに俺の命はやれん。」

 

 

 

振り抜いた拳を下ろした。

 

 

 

瓦礫の中から立ち上る熱気を一瞥する。

 

すぐには起き上がれないだろう、

 

そう判断し、

 

 

 

空で起きている戦闘へと意識を向けた。

 

 

 

あちらが本命だ。

 

 

 

炎を噴き上げ、

 

次の戦場へ向かうため、地面を蹴った。

 

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