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神野決戦が始まり、
オールマイト、弔、出久、そして勝己の四人対オールフォーワンという、どこのRPGのラスボス戦だ、と突っ込みたくなるような構図が出来上がってから数分。
四人は互いの役割を瞬時に補い合い、オールフォーワンを徐々に追い詰めていた。
だが、均衡はほんの一瞬の綻びから崩れ去る。
「しまった!」
たった一度。
ほんの僅かに歯車が噛み合わなかっただけで、完璧だった連携に狂いが生じた。
特級A.Tライダー三人の支援を受けながら攻め続けていたオールマイトだったが、その連携はあまりにも高度だった。
オールフォーワンだけでなく、肝心のオールマイト自身も一歩遅れてしまったのである。
「マヌケめ!」
その隙を逃すオールフォーワンではない。
一瞬で全員の頭上を取り、これまで封じられていた”溜め”を必要とする大技を放つだけの時間を確保する。
「 大量因子解放 」
楔状の異骨を中核とし、その周囲を鋲突が幾重にも取り巻く。
さらに螺旋を描くように槍骨が伸び、無数の槍を形成していく。
一本一本に炎、雷、風、氷、岩石。
重量増強、加速、爆裂、毒付与、斬撃付与――。
数え切れないほどの個性が次々と重ね掛けされ、一本ごとに異なる破壊を宿していく。
まるで天を埋め尽くす災厄そのものだった。
「押し潰す!!」
叫びと同時に射出される、巨大な楔を中心とした死槍の雨。
空を覆い尽くす無数の槍が、一斉に四人へ降り注ぐ。
「チィッ! 世話の焼ける爺さんだ!」
「なんで俺がオールマイトを守る羽目になってんだぁ!?」
「いいから二人とも全力防御!」
爆風。
崩風。
炎風。
三種の力が互いを阻害しない絶妙な間合いで重なり合い、死槍の雨を迎え撃つ。
激突のたびに衝撃波が弾け、上空そのものが砕け散りそうな轟音を響かせる。
しかし――
「(押し……)」
「(返せねぇ!?)」
想定を遥かに超える圧力。
受け止めた瞬間、出久と勝己は本能的に理解する。
これは押し返せる攻撃ではない。
「(この範囲、この威力……)……よし、無理だ。」
弔は一瞬で結論を出した。
迎撃も、防御も、不可能。
ならば選択肢は一つしかない。
出久と勝己をそれぞれ小脇に抱え、その場から全速力で離脱する。
「なっ!?」
「おい! 何すんだ!?」
「この一撃を全力で防いで、その後はどうする!? 消耗したところを狙われて終わりだ! 街を守るのも大事だが、まずはテメェら自身が生き残れ!」
「でもオールマイトが!?」
「あんなんでも平和の象徴なんだろ!? だったら、自力で生き残るって信じとけ!」
なおも抵抗する出久を一喝しながら、弔は速度を緩めない。
一方の勝己は、弔の判断が最善だと即座に理解し、いつの間にか自力で飛び退いていた。
三人が攻撃範囲を離れた、その直後だった。
世界が震えた。
耳をつんざく轟音とともに、凄まじい衝撃波が神野一帯を揺るがす。
大気が爆ぜ、地面が軋み、巻き上げられた砂煙が戦場を一瞬で覆い尽くした。
ーーーーー
何故だ、何故私がこうも敗北する。
氷叢の最高傑作であるはずの私。
圧倒的な威力を誇る個性を扱える私。
A.Tもそうだ。
例のキーを使い、一般ライダーとは隔絶した技量を手に入れたはずだ。
なのに何故だ。
私は荼毘に勝てず、ガキども相手にも手こずった。
あまつさえ、同じキーを使っているはずの死柄木たちには、勝てる気がしない。
何故だ!
『そりゃぁ、お前がヘボいから以外、理由あらへんやろ。』
私のキーだけ不良品だったのか!?
そうでなければ、奴らと私の間にこれほどの差が生まれる理由が説明できん!
『訓練不足、経験不足、メンタルが弱過ぎる。……いくらでも説明できるわな。』
もしくはオールフォーワンから受けた調整、あれのせいで弱くなったのか!?
『一概には言えへんけど、要因の一つではあるかもしれんな。個性の威力や性能は上がったかもしれへんけど、その分、脳無化が進んでおつむが弱なっとる。……ん? おつむが弱くてメンタルもゴミクズっちゅうたら……。』
さっきからうるさいぞ!
貴様、キーを使った際に対話した男だな!
どういうことだ! 貴様の道だけ、他の風や炎の道に手も足も出んではないか!?
『なんや、聞こえとったんか。なら、お前さんに提案や。』
提案だと?
『ワイがA.Tの真髄の手本を見せたる。正直、このキーの技術は対オールフォーワン用やったけど、ワイはあんま興味なかったさかい。代わりに、さっきのエンデヴァーやったか? ぶち殺したるで?』
……良いだろう。
その真髄とやらがあれば、私はエンデヴァーにもあのガキどもにも負けんのだな?
『そこは努力次第やな。』
チッ、使えん奴め!
とりあえず、その真髄というやつを見せてみ――
…………待て。
なんだ、これは?
貴様、何をしている!?
『ん? お前の精神を籠に入れて、意識の奥の奥、そのまた奥へ蹴飛ばそうしとるだけやよ。』
『な!?』
安心せぇな。
さっきの約束、エンデヴァーとかいうヒーローをぶち殺すんは、約束通り実行したる。
意識の奥で眺めてたらええ。
『き、貴様ーーー!!』
さて。
ホンマもんのニケの力、見せたるかな。
ーーーーー
―――オールフォーワンが大技を繰り出す直前―――
神野市上空。
「ぐっ……!」
エンデヴァーは歯を食いしばりながら両腕を突き出していた。
灼熱の炎が噴き上がり、その推進力だけで巨体を空へ押し留める。
視線の先にいるのは、重力を失い宙へ浮かぶ巨獣――ギガントマキア。
その身体は、はるか下方で個性を維持し続けるお茶子によって無重力状態に保たれていた。
「チィッ……なんて面倒な微調整だ!」
オールマイトたちの激戦が生み出す衝撃波は、絶えずギガントマキアの巨体を揺さぶる。
万が一にもこの巨体が神野市に落下でもすれば街に甚大な被害が出る。
だからこそエンデヴァーは、一瞬たりとも集中を切らすことなく、全神経をギガントマキアの制御へ注いでいた。
その時だった。
視界の端で、オールマイトの連携が一瞬乱れる。
「(不味いっ!)」
援護へ向かおうと、意識を戦場へ向けた、その刹那。
地上への集中が、ほんのわずかに途切れた。
空気が裂ける。
轟音よりも速く、巨大な竜巻の砲撃が神野の空を切り裂き、エンデヴァーへ襲い掛かった。
完璧なタイミング。
一瞬でも注意が逸れることを見越した、狙い澄ました奇襲。
本来なら回避すら許されない一撃だった。
「ッッッ! 避けろ!!」
必死の叫びが届く。
「っ!?」
反射的に身を捻ったエンデヴァーは、紙一重で直撃を免れた。
だが、攻撃は終わらない。
二撃、三撃と暴風が連続して迫る。
迎撃しようと片手を地上へ向け、炎を噴き出したその瞬間――
「はっ、ひっかかりおったわ。」
嘲笑うような声が響く。
危機を知らせた声とは別人のものだった。
放った炎は、あまりにも手応えが軽い。
「本命は初撃や。」
嫌な予感が背筋を駆け抜ける。
エンデヴァーは勢いよく視線を地上からギガントマキアへ、さらにその背後の上空へと向けた。
「なっ!?」
「テーパリング・クラウドいうてな。小僧どもが使うパイルトルネードの超応用技や。」
ギガントマキアの背後では、巨大な竜巻が静かに完成していた。
先細りの渦が巨獣の背へと密着し、とてつもない圧力を一点へ集中させている。
次の瞬間。
竜巻は爆発するように回転を加速させ、ギガントマキアの巨体を地上へ向かって叩き落とした。
「せっかくの祭やろ? 派手に行こか。」
奇しくも、その瞬間だった。
オールフォーワンの放った死槍の雨が大地を穿ち、
ほぼ同時にギガントマキアが神野市へ落下する。
轟音が轟音を呑み込み、
爆炎が土煙を押し上げ、
超重量の衝撃が街並みを押し潰していく。
一瞬で景色は消えた。
そこに残っていたのは、神野市の面影を失った、瓦礫と土煙だけだった。
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