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オールマイトとオールフォーワンの激突が続く神野決戦の中心地。
オールマイトが拳を振るえば暴風が巻き起こり、オールフォーワンが矛を振れば大地が割れる。
神話の一場面だと言われても納得できる戦いが繰り広げられていた。
出久、勝己、弔は戦いが地上へと移ってからは割って入らず、戦況を見守っていた。
「俺たちが援護に入らねぇほうが強ぇな。」
「まあ、オールマイトだし。」
「だが相手は先生だ。どのタイミングで絡め手を打ってくるか分かんねぇぞ?」
ナチュラルボーンヒーローの戦いは続く。
弔の心配をよそに、平和の象徴と魔王の戦いは実にシンプルだった。下手な小細工など存在せず、より強い攻撃をより速く繰り出した方が勝つ。
力と力のぶつかり合い。
そういった戦いになっていた。
「大分追い詰められてきたんじゃないか、オールフォーワン? 最初の勢いがないぜ!」
「そう言う君こそ教え子たちの前でこれ以上失態は重ねられないよねぇ、オールマイトぉ? ああ。君は一人で戦う方が得意だったものな。先生になったのは失敗だったみたいだねぇ!」
挑発めいたオールフォーワンの言葉を聞いたオールマイトは、
ニィッ、と笑みを深めた。
「失敗の連続だったとも!」
思い浮かぶのは、たった数か月とは思えぬ濃密な日々。主に担当してきた1年A組やB組の少年少女たちはもちろん、ヒーロー科以外のサポート科や経営科、果ては普通科の生徒たち、皆が素晴らしかった。
「教えるのは下手くそ。コミュニケーションを取るのも下手くそ。空気も読めず、渾身のギャグはスベりまくって、もう散々さ!」
だが、そんな私にも教えられるものはあった。実践経験に基づく立ち回り方なんかを教えることができた。組み手の相手だってした。ヒーローとしての心の持ちようの一例を示すこともできた。
体育祭前に、職員室で瓦斯島少年にアドバイスできたことなんかは良い経験になったな。
そして何よりも、雄英で先生を始めたからこそ、彼らに出会えた。
偶然の出会い。雄英での再会。そして知った、過酷などという言葉では言い表しきれない戦いの日々を送ったことを。
彼らにこそ、ワン・フォー・オールを受け継いでほしいと思った。
だが、
『僕は、A.Tと今の僕の力で最高のヒーローを目指したいと思っています。―――オールマイトたちを安心させられるようなヒーローになってみせます。』
『―――俺らはオールマイトを超える、最強最高のヒーローになる。だから、俺らがアンタを超えるその日まで、現役でいてもらわんと困るんだよ。』
継承することができる平和の象徴の個性は見向きもされず、フラれてしまった。
残念ではあるが、個性もA.Tもただの力、ただの道具。
ワン・フォー・オールの後継者でなくても、私を目標とし、憧れとしてくれるのであれば、下手くそなりに先生をやり切ってみせる、と改めて決意した。
だから!
今ぁ!!
私にできることはぁ!!!
とてもシンプルなのだ!!!!
「これからも先生を続けるためにぃ、オールフォーワン、貴様は今日ここで叩きのめす!!」
ーーーーー
オールマイトの叫びが神野に響き渡った、その直後――。
遠くから、低く唸るようなローター音が近づいてくる。
「……ヘリ?」
出久が空を見上げる。
戦場の上空に姿を現したのは、一機の報道ヘリだった。
機体の側面には大きくテレビ局のロゴが描かれ、機首のカメラは神野決戦の中心へと真っすぐ向けられている。
「まさか……テレビ局か。」
勝己が舌打ち混じりに呟く。
警察による規制線の外には、すでに数え切れないほどの報道陣が集まっていた。
だが、地上からでは瓦礫と建物に遮られ、決定的な瞬間は映せない。
だからこそ彼らは、危険を承知で上空へ飛んできたのだ。
ーーーーー
『こちら神野市上空です! ただいま映像が入りました!』
スタジオへ向け、興奮を抑えきれない女性リポーターの声が響く。
『現在、神野市中心部では、オールマイトとヴィランによる激しい戦闘が続いています!』
ヘリに搭載された高倍率カメラが両者を捉える。瓦礫を吹き飛ばしながら拳を振るうオールマイト。それを無数の黒い矛で迎え撃つオールフォーワン。一撃ごとに爆発にも似た衝撃波が発生し、瓦礫の山となった街をさらに破壊する。
『す、凄まじい……! まるで災害そのものです! これほどの戦いは、これまで一度も――』
言葉を失ったリポーターに代わり、実況アナウンサーが続ける。
『繰り返します。現在、平和の象徴オールマイトがヴィランと交戦中です! 周辺住民の皆様は、絶対に現場へ近づかないでください!』
映像はそのまま全国へ。
休日のリビング。
ファミリーレストラン。
駅前の大型ビジョン。
家電量販店のテレビ売り場。
そして、避難所となった雄英高校にも。
日本中のあらゆる場所で、人々は息を呑みながら画面を見つめていた。
「オールマイトだ……。」
「本当に戦ってる……。」
「まあ、どうせ今回もオールマイトならパパッと解決してくれるだろ。」
「そうそう。あの人が負けるわけないって。」
「終わったら『もう大丈夫!』って笑ってくれるさ。」
画面越しに安心したように笑う人々は誰も疑っていない。平和の象徴がいる限り、この事件もすぐに終わると。
だが――。
1分。
2分。
戦闘は終わらない。
テレビに映るのは、なおも激突を繰り返す二人の姿。
瓦礫は増え、街は崩れ続け、それでも決着だけが訪れない。
「……長くないか?」
「いつもは一瞬で終わるに。」
誰かが漏らしたその一言を皮切りに、画面の向こうの空気が変わり始める。
「オールマイト、押されてないか?」
「いや……そんなはずは……。」
「何で終わらないんだ?」
日本中に言いようのない不安が広がっていく、その瞬間だった。
オールフォーワンが片腕を持ち上げ、ヘリへと向けた。
「さあオールマイトォ、あそこは君の手が届く範囲かな?」
衝撃音と共に、圧縮された風が砲撃のように空へ放たれた。
「っ!?」
直撃コース。
あんなものが当たれば報道ヘリは木の葉のように吹き飛ばされ、搭乗者は当然助からない。
地面を全力で蹴り、最速の移動を行う。
疲労が溜まり、活動限界が迫るオールマイトは余力を吐き出し、一瞬でヘリまで辿り着く。
「スマッシュ!!」
風弾を撃ち落とすことに成功はするが、
「(SHIT!近過ぎた!)」
迎撃の瞬間に発生した衝撃波がヘリを襲った。
警報音。
激しく揺れる機体。
悲鳴を上げるキャスター。
『きゃあああっ!?』
『制御不能です! 機体が――!!』
ローターが軋み、ヘリは黒煙を引きながら市街地へ落下を始めた。
「くうっ――!」
あのまま墜落すれば、機内の人間は間違いなく助からない。
「(最速で乗組員を機体か助け出ーー)ッ!?」
オールフォーワンから追撃の砲が放たれる。空を蹴るオールマイト、ではなく、
落下するヘリに向かって。
「デトロイトォ、」
一発一発撃ち落としていては間に合わない。そう判断したオールマイトは、
「スマッシュ!!!!」
風弾を全て蹴散らし、オールフォーワンごと薙ぎ払える攻撃を放つ。
しかし、
「(ヘリから助け出すのはもう間に合わない。かくなる上はっ、)大丈夫!」
ヘリの予想落下地点に向けて飛ぶオールマイト。
なおも地面に向けて落下するヘリ。
五メートル。
三メートル。
そしてーーー轟音。
落下してきた数トンもの機体を、オールマイトは両腕だけで受け止めた。
膝が地面へ沈み込む。それでも、ヘリが地面に叩きつけられることはなかった。
魔王の口元が、ゆっくりと吊り上がる。
「その選択を待っていたよ。」
オールフォーワンの右腕から、鋲突、槍骨、異骨を掛け合わせた魔槍が、ヘリを守るため動きを止めているオールマイトに迫る。
ーーーーー
オールフォーワンがヘリに意識を向けた瞬間には既に、
「「させるかぁぁぁッ!!」」
A.Tを全力で駆動。イフリートソール、フルクラスターを発動して飛び出す出久と勝己。
超速で駆ける二人がオールマイトの援護に回るなら、自分は攻撃の起点を潰そうと、弔がオールフォーワンを攻撃しようとする――その刹那。
「ゴーーー!!」
低い鳴き声が響き、出久たちの進行方向に闇が広がった。
「触るな!ワープゲートだ!」
ワープゲート持ちの脳無であるゴーム。アジト崩壊後、忍んでいた脳無、ゴームが出久たちの邪魔に入る。
弔の叫びを聞いた二人は上へ、ワープゲートを飛び越えようとするが、
「ゴーーーッ!!」
闇の壁の一部が細く伸び、出久たちを襲う。
「カッちゃん、おそらく防御不可!」
「分かっとるわ!」
ゴームの闇、ワープゲートから派生している攻撃であるため、予想される脅威度は当然高い。しかし、それよりも出久たちを驚愕させたのは、
「(本気の僕とカッちゃんの機動力に対応して来る!?)」
風を読み、空中に道があるかのような機動を見せる出久と、A.Tで超爆速を制御し縦横無尽に空中戦を繰り広げられる勝己が、一瞬とはいえ前に出させてもらえなかった。
形を変えて襲いくる闇は当たらないまでも、出久たちを数秒足止めすることに成功したのである。
「チッ!!先行け、出久ぅっ!」
出久の手を掴み、爆破で加速。
エクス・デク・カタパルトを使い、出久を砲弾として放り投げる勝己。
予想外すぎる技にゴームの反応が遅れ、出久はワープゲートの壁を超える。
そして目にしたのは、
ヘリを抱えたまま迎撃へ移ることのできないオールマイト。
そしてーーー
そのオールマイトが貫かれる瞬間だった。