The Last Boss Master ~転生カードゲーマー、悪の組織のボスになる。~   作:恋愛を知らぬ化け物

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【始開宣言】
コスト1 呪文
・自分の手札から1枚選んで、相手に見せる。その後、相手は自身の手札を1枚選び、自分に見せる。


 ‐熱き戦いが今、始まる!!‐


コスト1 【始開宣言】

 

 説明しよう!WAR・FIGHT・BATTLEとは、40枚のデッキから手札に5枚、ライフを5枚用意しスタートする、1対1のカードゲーム!

 

 エナジーを支払ってモンスターや呪文などのカードを実行(プレイ)し、相手のライフを全て破壊して、最後はダイレクトアタックで勝利!!

 エナジーは各ターンの初めに手札から一枚ずつチャージすることができるほか、カードの能力でも増やす事ができるぞ!!

 

 とってもシンプルで、奥が深く、そして何より楽しいWAR・FIGHT・BATTLE!

 君も今から、プレイヤーだ!!

 

(公式スピンオフ『うぉいと部っ!』1巻1ページより抜粋)

 

 

 

 

×―――×

 

 

 

 

「………はっ!?あ、朝!?」

 

 カーテンの隙間から差し込む光に目を覚ます。フローリングの上で、大量のカードに埋もれながら寝ていた………もとい、気絶していた俺は、慌てて体を起こし、時計を見た。

 

 10時24分。なるほど。もうすぐお昼時か。

 

「な、なんかの間違いで休日でしたって話は───無さそうですねありがとうございますぅうううう!!」

 

 スマホで日付と曜日を確認する。もちろん、平日。最も休日から離れた、水曜日である。

 

 そう。遅刻だ。

 

「教科書持ったノート持った筆箱持った財布持った()()()()()()───まず着替えてねぇ!!しかも寝癖ひっでぇ!!」

 

 大慌てでカバンの中身を確認し、遅れて俺自身の準備が整っていないことを思い出す。

 階下に降り、洗面所に駆け込んだ俺は、わずか5分で寝癖を直し着替えをすませ、家を飛び出した。

 

 ───黒井(くろい)ナラク。15歳。今は、2()()()()高校1年生をやっている。

 

 別に留年したわけじゃない。確かに大遅刻の真っ只中だが、これは稀有な例だ。普段は時間通りに登校してるし、成績だって悪くない。授業態度だってかなり良い方だという自覚がある。

 

 なら何故2度目なのか?

 それは、俺が()()()だからだ。

 

 15年前、俺は命を落とした。いくつだったかは覚えていないが、成人していた事は覚えている。

 死因も覚えていない。15年も前の事だからな。一生に一度のビッグイベント(笑)とは言え、曖昧になって当然だろう。

 ただ、死んだと思った次の瞬間には赤ん坊になっていて、助産師さんに抱えられていた事は覚えている。

 

 この世界も前世も、同じく現代日本だった。剣も魔法も無いし、ダンジョンも魔物も無い。

 ()()()()()()()()、この世界は前世とほとんど変わらない。

 

「げほっ、げほっごほっ!!つ、着いた………」

 

 全力疾走すること十分。家から近いという理由で通っている学び舎に到着した。

 速度を落とし、息を整えながら校舎に入ろうとしたところで、校庭の方から怒声が聞こえてくる。

 

「ふざけるなァッッッ!!!」

「うぉぁっ!?ご、ごめんなさい!?」

 

 反射的にその場で謝ってしまうが、多分怒声の対象は俺じゃない。

 それに、聞き覚えのある声だ。ただ、俺の知る通りの人物ならここまで感情に任せて声を荒げるような事はしないはずなので、見に行く事にした。

 

 そこには、何故か全校生徒が整列していた。それだけではない。見知らぬ制服を着た集団………他校の生徒が、向かい合うように整列している。

 

 まるで戦争───というか、まさに()()なのだろう。この世界では、良くある事だ。

 

「ふざける?おいおい酷いな、僕はいつだって本気だよ。―――それに、最近鰻登りにスクールレートを上げている君たちなら、どんな条件を付けられたところで問題ないだろう?」

「だからと言って、敗者は勝者に絶対服従などと………!!よくもそんな下卑た発想を、神聖な勝負の世界に持ち込めたものだ!!」

「下卑た、とはまた凄い発想だなぁ!僕はただ、()()が欲しいだけだよ。ウチはスパルタでね。ストレスを溜めた生徒が多いんだ。その発散のお手伝いをしてもらおうって話さ。それだけだよ」

「屑め………ッ!!」

 

 飄々とした態度の金髪優男と、憤怒の表情を浮かべた我らが生徒会長。

 青年誌の悪役みたいな事を言ってる男に溜息を吐いて、俺は生徒たちの合間を縫って前に向かった。

 

 突然現れた俺に、生徒会長も優男も驚く。………が、生徒会長だけは、すぐに表情を明るい物に変えた。

 

「黒井君!おはよう───と言うには遅いな。遅刻は良くないぞ」

「うっ、すみません………。それで、一応なんですけど、今はどういう状況ですか?」

「うむ。見ての通り、エクセレント西高校の連中がスクールレートを賭けた対戦を申し込みに来たのだが………」

「スクールレート以外にも、もう一つ。お互いに賭けようじゃないかという話をしたのさ」

 

 前髪をかき上げながら、優男が会話に割り込んでくる。

 溢れんばかりの自信を感じさせるソイツは、すぐ隣に置かれた巨大なテーブル─――『対戦台』を指さした。

 

「さぁ、そろそろ始めようか皆山高校!スクールレートと尊厳を賭けた『ウォイト』を!!」

 

 ウォイト─――正式名称を、WAR・FIGHT・BATTLE。

 いわゆるTCG(トレーディング・カード・ゲーム)で、知名度はそこそこ───()()()タイトルだ。

 

 懐から取り出したカードをシャッフルし、台の上に置く優男。慣れた手つきでライフを展開し、初期手札五枚を用意すると、彼はスマホを対戦台の側面に翳した。

 

『承認。プレイヤーネーム・光森(みつもり)統夜(とうや)。ランク・A』

 

「Aランクプレイヤーだと………!?だがそもそも、俺達はそんな条件の勝負を受けたつもりは無いぞ!!」

「けど承認は成された!既にスクールレート・ファイトとしての申請は済ませてあるからね。このまま誰も僕の前に立つことなく、勝負を受けなかった場合………君たちにどんなペナルティが下るだろうね?」

「貴様………ッ!」

「―――どうでも良い事かもしれないっすけど」

「うん?」

 

 実質人権を賭けた勝負という重さと、対戦相手がAランク(高ランク)のプレイヤーだという事に尻込みし、誰も動こうとしない中。俺は特に緊張感も無いまま、対戦台へと近づいた。

 

「そっち、男子校でしょ。男の()()なんざ誰も欲しがらないでしょうし、そもそも賭けとして成立してないじゃないっすか」

「ぷっ、はははっ!!何を言うかと思えば、酷いなぁ。男に価値は無いって?そんな差別発言、イマドキ許されないぞ?」

「どうせ賭けさせるんならそっちも相応のモン出せって話ですよ。―――あ。すんません、そんなもん無いっすよねー。だって名門とか言われてますけど、所詮は万年2位の()()()ですから」

「―――へぇ、言うね」

 

 俺の煽りに、優男―――改め光森が、ついに態度を変える。真っ向からの侮辱発言に、わかりやすく苛立つ。

 

 とっくにシャッフルは済ませているので、こちらもライフを展開し、手札を用意する。対戦台にスマホを翳せば、いつでも試合が始められる状態だ。

 

「んじゃ、始めましょーか。勝った方に負けた方が服従、スクールレートも賭けた一本勝負」

「あぁ。僕たちを侮辱した事、後悔させてあげるよ」

 

『承認。プレイヤーネーム・黒井ナラク。ランク・秘匿』

『プレイヤーが揃いました。山札、ライフゾーンに規定枚数のカードを確認。試合を開始します』

『JUDGE SYSTEM起動。先行プレイヤーを選出します。―――ファーストプレイヤー・光森統夜。ターンを開始してください』

 

 対戦台に内蔵されたAIが、審判としての機能を覚醒させる。同時に先行プレイヤーが決定され、光森の側がほんのりと光る。

 

 さぁ、楽しい楽しい、ウォイトの時間だ───。

 

 

 

 ―――と、ここまで黙って見てくれていた方々は、きっとこう思っていることだろう。

 

 なんだこの茶番は。一体、何の話をしているんだ、と。

 

 平日の真昼間から、校庭でカードゲーム?AI搭載の対戦台?プレイヤーランク?ウォイト?

 色々な事が分からず、疑問符が頭の中で小躍りしている事だろう。

 あと、エクセレント西高校ってどんな名前だよ!とか。

 

 ぶっちゃけ俺も最初の方は思ってたし、気持ちはわかる。良くわかる。

 だが思い出して欲しい。ここは異世界だ。現代日本でありながら、しかし明確に変わった点が一つ、存在するのだ。

 

 そう。この世界―――アニメの世界なのである。

 

 作品の名は、『ウォイト!!』。WAR・FIGHT・BATTLEのメディアミックス作品で、放送開始から6年の時が経過してもなお続いているご長寿番組だ。

 元は児童向け雑誌で連載されていた漫画で、主人公の男子小学生『(くれない)ヒイロ』と仲間たちが、ウォイトの力を悪用する敵達を倒しながら、プレイヤーの頂点、『MASTERランク』を目指す物語だ。

 

 なぜ『ウォイト!!』の世界と判断できたのかというと、作中に登場する敵組織と遭遇したことがある上に、ヒイロが戦う姿を実際に目にしたからである。

 

 でも直接会ったわけじゃないぞ。シーズン2『ウォイトG(ガッツ)!!』のクライマックスシーンに当たる、全世界同時生中継下でのラスボスとのファイトをテレビで見ただけだ。

 だから、未だにヒイロさんとはお会いできていない。せっかく同じ世界に居るのだし、一度はお会いしてみたいが………今、どこにいるんだろうか。

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 俺が転生したのは、大好きなカードゲームが世界レベルで愛され、日常の一部として浸透し、政治や経済にまで影響を及ぼす程に重要視される、アニメの世界。

 

 

 だから、今の状況は、なんらおかしなものではない。

 人としての尊厳を賭けた勝負も。単なるお遊び(カードゲーム)の行く末を、大勢で囲み、固唾を呑んで見守っているのも。この世界では、それこそが普通なのだ。

 

 ───そして。

 

「【終焉覇王(カイザー・オブ・エンドロール)グランド・フィナーレ】の登場時能力を発動します。バトルゾーン、手札、墓地のカードを全て山札に加えてシャッフルしてください」

 

 顔を歪め、カードを山札に加える光森。とはいえ、壊滅的な被害を受けたというのに、彼の表情はそこまで危機感がない。

 

 理由はわかる。彼のデッキは【機神兵】。自身のバトルゾーンにあるモンスターの数が多ければ多いほど強くなるデッキであると同時に、大量展開をする為のサポートカードや、大量展開をするまでの時間稼ぎになるカードが無理なく多く採用できるデッキでもある。大方、受けきることができると考えているのだろう。

 実際俺のバトルゾーンには、【グランド・フィナーレ】一体しかいない。コイツを出す為には、一度自分のモンスターを全て破壊する必要があるのだ。当然と言えば当然である。

 

 確かに、ライフが全て残っている状態で、相手モンスターが一体のみとなれば、ターンが返ってくるモノだと考えてしまうかもしれない。

 

 だがソレは、【グランド・フィナーレ】の能力を知らないから、だ。

 

「【グランド・フィナーレ】は【速攻】を持つモンスター。そのままプレイヤーに攻撃―――する時に」

 

 【グランド・フィナーレ】で攻撃を行った瞬間。

 対戦台が発動した能力を認識し、『カード自動操作技術』というオーバーテクノロジーを発揮して、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ───!?」

「『このモンスターが攻撃するとき、相手のライフを全て破壊する』。勿論【反撃】は使えますよ。なければこのままダイレクトアタックですけど」

 

 俺の説明を聞き、慌ててライフゾーンから吹っ飛んできたカードを確認する光森。

 

 まぁ、唯一無二だからな。他のカードと組み合わせたりしないで(コンボも何も無しに)、攻撃しただけでそのままダイレクトアタックになるカードって。

 

 血の気が引いていた光森だったが、【反撃】があったらしく、顔をほころばせる。

 

「───フッ、【反撃】発動だ!!【機械神団(マシーナリー・デウス・ブリゲイド)の逸話(・ミトス)その7(Vol.7)・天砕く光撃】!効果で、相手のモンスターを全てレストさせる!!」

「えっ?」

 

 あまりに自信満々だったので、「もしかして【機神兵】に入る余地ないよなー、って思考から排除していた謎カードとか来る………?」と少し身構えていたが、そんな事は無かったらしい。【機神兵】と言えば、の受け札、【天砕く光撃】だけが宣言された。

 

 ウォイトはカードが攻撃(アタック)、ブロックを行った、またはエナジーとして消費された事を示すなど、『使用済みor使用不可』である時、そのカードを横向きにする。横向きの状態の事をレストと言い、逆に縦向きの状態の事をアクティブと言う。

 

 確かにレスト状態のモンスターは攻撃できない。

 

 だが、既に攻撃を宣言し、実行されている最中のモンスターなら?

 

 その答えは、対戦台に浮かぶホログラム─――特別イラストバージョンの、いわゆる王子様系女子な【グランド・フィナーレ】が、光森へと刃を振り下ろしたことで示される。

 

「なッ─――」

 

『試合終了。勝者、黒井ナラク』

 

 音声が俺の勝利を告げ、カードが自動でまとめられる。ホログラムも消え、後には訳が分からないと言った表情を浮かべながら項垂れる光森と、何を言えば良いのかわからず立ち尽くす俺が残される。

 

 敗者は勝者に服従ー!とか()()()()()みたいなこと言っておいて、この裁定(ルール)知らなかったのかよ。

 

「この、僕が………負けた?この、光森統夜が………!?」

「えー………っと。対戦、ありがとうございました。じゃあ、今後はエク西の方々は俺らに絶対服従って事で」

「そんな事はどうでも良い!!今のは、今のは一体なんだ!?何故僕が負けた!?」

「既に攻撃宣言がなされたカードをレストさせても攻撃は中断されないってルールがあるから………ですかね」

 

 ホントに知らなかったの?と首を傾げると、光森は呆然自失と言った様子で崩れ落ちた。

 

 ………とにかく、俺の勝ちだ。随分呆気ない幕引きだったが、よくよく考えればこの世界だと()()()()()なのでおかしくはない。

 

 キャラクター達が隠された能力やらルールやらに衝撃を受ける、という展開の為か、カード効果やルールを理解できていない人や、把握しきれていない人が多いのだ。この世界は。

 なんなら自分が持ってるカード以外のカードを知らずに戦ってる人もいるし。

 

「流石だ、黒井君。いつもすまないな」

「いえいえ。俺も皆山の生徒ですし。それに、今回のは誰かが受けなきゃもっと良くない事になってましたから。───じゃあ、スクールレートとかそこら辺の事は任せますね」

「あぁ、任せてくれ。───光森、立て。ああも巫山戯た事を宣って勝負を強制しておきながら、責任から逃れられる等と思うなよ」

 

 生徒会長に後の事を丸投げした俺は、そのまま生徒の列へと紛れ込む。勝負に勝った事で浮き足立っている今の空気感ならば、遅刻も有耶無耶に出来るのではと判断した為だ。

 

 だが、クラスメイト達から「良くやった!」と迎え入れられてすぐ、先生に首根っこを掴まれる。

 視線を向ければ、なるほど。笑顔ながら、青筋がこめかみに何本も。

 

 うーむ、流石はご長寿アニメの世界。体罰もしっかり残っているとは。

 

 痛む脳天を撫でながら、俺は溜め息を吐いた。







 TCG架空原作モノ、どうしても書きたかったら書きました。
 カード効果とか棋譜とか、考えるの難しいですね、凄く。
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