The Last Boss Master ~転生カードゲーマー、悪の組織のボスになる。~ 作:恋愛を知らぬ化け物
【
コスト10 呪文
・プレイヤーを選ぶ。選ばれたプレイヤーは指定された種類のカードが出るまで山札を表向きにし、残りを全て手札に加える。
『試合終了。勝者、黒井ナラク』
《ど、ドラ?オイラ達、生きてる?》
「死ぬわけないだろ、ただのホログラムだぞ」
デフォルメ状態に戻り困惑している【ビギニング】に、シャッフルしながらツッコむ。
俺のモンスターは、【ダークマイザー】含め全員ただの立体映像だ。まるで本物がそこに居るかのように精巧だが、所詮は虚像。言葉こそカードを通して本物の声が届いているが、それだけだ。
それだけなのだが、何故か実体化モンスターとホログラムモンスターが戦闘している時には、実体化モンスターがダメージを訴える描写が良く挟まれる。『ウォイト!!』の時からずっとそうなので、多分何らかの裏設定があるのだろうが………そこまでは知らない。
「負けちゃった………。やっぱり、ナラク君は強いね!」
「そっちこそ、かなり強かったな。正直、【ダイン】と【LAST BLASTER】が来てなかったら怪しかった」
まさか【ビギニング】と【ファブニール】の極悪コンボが展開されるとは思わなかった。リソース確保しながら相手の盤面崩壊させつつ山札まで回復できるという害悪コンビを、まさかストーリー序盤の主人公デッキで見る事になるとは。
「というか【ファブニール】ってかなりレアなカードだろ?どこで手に入れたんだ?」
「前に月夜ちゃんと交換したの!」
「一緒にパック剥いた時に、ちょうど二人とも、相手のデッキに合ったカードが出てきてね?せっかくだからー、って交換したの」
ねー、と笑顔を見せあう二人。
なるほど。俺の知らないところで、原作にはないエモいイベントが発生していたと。
―――なんか悔しい!!
「いやー驚いたよ黒井君!!まさかあの正体不明、最強無敗の絶対王者、Abyssに会える日が来るとは!しかも試合風景を生で、目の前で見られるだなんて!!握手してくれないかい?」
「い、良いですけど………」
目を輝かせながら駆け寄ってきた魅上さんに、若干引き気味になりつつも手を差し出す。
学園だとヒソヒソ話されるだけで特に反応無かったし、もしかしてみんなそんな感じなのかなー、とか思ってたからビビった。
悪い気はしないが、原作キャラがこうも荒ぶっているところを見ると───いや、魅上さんって原作でもこういうキャラだったし別に普通か。普通だな。
彼女は握った手を感慨深げに眺め、急に落ち着いた声で語り始める。
「この手が、あの白熱した試合を生み出してきた手。
「カード差別の撤廃って………そんな大層な事はしてませんよ。それに、まだ残ってるでしょ。闇のカード論も、それを信じる連中も」
運命のカード、という概念が、この世界には存在する。
その名の通り、運命的な出会いによって手に入るカードのことで、例えば空から降ってきたり、ショーケースやストレージでふと目に止まったものだったり、先祖代々受け継がれてきたものだったりと、「これだ!」となるカードの事である。
この運命ってヤツに導かれるように、人はデッキを作るらしい。その出会いの前になんとなく使っていたデッキが、実は後に出会う運命のカードが活躍できるデッキだった、という話は道行く人に聞けばいくらでも実体験を語ってくれるだろう。
―――では、そんな運命のカードが、悪のカードだった人間がいたとしたら。
闇のカード論は、大昔の学者が提唱したらしい学説で、未だに真実として扱われている
その理論は、極めて単純。『モンスターワールドで悪と扱われたモンスターを運命のカードとして手に入れた人間は、生まれながらにして悪である』この一言だ。
勿論だが、そんな事は無い。確かに運命は存在するが、生まれながらに悪と決めつける理由にはならないし、そうなる根拠もない。
だが悲しい事に、この世界に名を残した巨悪たちは皆、モンスターワールドでも伝説として語り継がれる域のカードを握っていた。
例えば【リベリオン・ダークマイザー】。彼は【マシン・ヒーロー】として守ってきた正義に疑念を抱き、【卍死】と呼ばれる悪の存在へと堕ち、果てにはモンスターワールド全域に宣戦布告をし、未曽有の大戦争を引き起こした過去を持つモンスターだ。
そんな【リベリオン・ダークマイザー】を握った代表的な人間と言えば、『カードハンター』と呼ばれる犯罪者集団の長、
彼は部下たちに奪わせ、集めさせたレアカードからモンスターワールドとこの世を繋ぐ力を抽出し、その莫大なエネルギーを利用して世界を滅亡させようと目論み、紅ヒイロとの命懸けのファイトに敗れ、死亡している。
彼以外にも、モンスターワールドで巨悪を起こしたモンスターを握る人間が悪事を働いた件は数多く存在する。勿論、善良なモンスターを使って悪事を働いた人間だって相当数いるのだが、そちらが取り沙汰されることは無い。
大事なのは『悪いモンスターと惹かれ合うのは悪い人間』という価値観。アイツは悪いモンスターを使ってるから悪いヤツだと、先入観だけで人を判断し、放逐しようとする流れが、確かに存在しているのだ。
「私も闇のカード使いだからね。色々されたし、今でもそういう目に遭う事がある。人間っていうのは残酷だ。理由があれば、すぐに他人を傷つけようとする」
………それに、カード差別問題について思うところが無いわけでもないしな。
俺の切り札だって、ほぼ全部闇のカードだし。なんなら全部ラスボスカードだ。今でこそ連戦連勝で、俺の実力を知る人間からは強さという絶対的な指標でリスペクトされることに成功しているが、実績がない頃は「お前そんなのが運命のカードなのかよー!」と後ろ指を差されていたし。
魅上さんも、それが理由で
「テレビで悪人が報道される度、恨んだよ。お前たちが悪に走るせいで、私たちみたいに善良なプレイヤーが、迫害されるんだと。闇のカード=悪という風潮が、ますます固定化されてしまうと。―――でも、そんな悪循環をAbyssが変えてくれた。断ち切ってくれた」
「そ、そんな大げさな」
「大げさなものか!闇のカード使いにも、応援したくなるような人間がいると!人を楽しませるファイトをし、善も悪も無く、ただウォイトを楽しむ人間がいるのだと!Masters Cupという大舞台で、全世界に見せつけた!君は闇のカード使いにとっての英雄だ。君が優勝したおかげで、闇のカード使いに対する視線が変わった!」
「はぁ………?」
絶対にそんな事は無いと思うが、否定しても聞いてくれそうにないので諦めた。
別に、大会に優勝した人が闇のカード使いだったからと言って、じゃあ闇のカード使いも悪くないじゃん!とはならないだろう。差別というのは、そんな簡単な話じゃない。
だというのに、何故か暁まで賛同するように何度も頷いている。桃倉もそうだ。
まぁ、悪い気はしないんだけどさ。しないんだけどさ!
《ちょっと良いドラ?》
「うん、何?」
「―――えっ、【ビギニング】?なんで?」
「もうファイトステージは動いてないはずじゃ………」
ふよふよ浮かびながら、俺の肩を叩いてくる【ビギニング】。つい普通に反応してしまったが、本来なら暁や魅上さんのように、何故か【ビギニング】が当然のように実体化している事に驚くべきだったと、遅れて気づく。
「カードの中には、この世界との結びつきが強いか、そもそもの力が強すぎるかで、実体化できるものもある。別におかしな話じゃない。レアケースだけどね」
「実体化も知ってるんだ!ナラク君ってすごいなー!」
「いや、流石に色々知りすぎじゃね………?」
《まぁなんでも良いドラけど。………ちょっと匂い嗅ぐドラよ?》
俺の返答を待たず、鼻をスンスン鳴らして体の周りを隈なく移動する【ビギニング】。彼は俺のカバンで突然止まると、目をカッと見開いて、こちらに詰め寄ってきた。
《この匂い、間違いないドラ!!【グランド・フィナーレ】ドラ!!》
「ッ!?」
「………あー」
龍牙が息を呑み、桃倉と暁の表情が一変する。唯一何もわかっていないらしい魅上さんだけが「ほえー、実体化ってすごいなー」とか呑気な事を言ってらっしゃる。
―――さて。バレたか。
『IGNITE』の最後のラスボスにして、【ビギニング】にとって因縁のモンスター。
龍牙と終ぞ和解せず、その命を悲願の為に捧げ、
そして俺の相棒でもあるモンスター、【
………どうやって誤魔化そうかな。
×―――×
「わざわざ放課後に、二人きりで会いたいとは。君も、僕に心を開いてくれたのかな?」
「つまらない冗談は不要よ。用件は一つ───単刀直入に聞くわ。黒井ナラクについて、知っている事を全て話して」
机を挟み、見つめ合う二人。歪は刺し殺さんばかりの視線に晒されてなお、その笑みを絶やそうとはしなかった。
黒井ナラク。世界最強のプレイヤー、Abyssの正体………と、思しき男。
同時に、意味深の塊とも呼べる
セツナは結局、あのファイトから彼の特異性を見つけ出すことは出来なかった。だが、その存在が異質であることだけは、彼女も理解していた。
故に、恥を忍んで尋ねたのだ。歪には───協力者には、何が分かっているのかを。
「知っている事を全て、ね。そう言われても、僕にわかるのは彼が北海道の皆山高校という学校から転入してきたという事と………まぁ、簡単な個人情報くらいだよ?」
「そういう話がしたいわけでは無いと、わかっているでしょう。―――あの日、あなたが言った同類とは何?まさか、闇のカードを使うというだけでそう呼んだの?だとしたら───」
そんなくだらない話なら、私はあなたに付き従うのを考え直す。
そう言いかけた彼女だが、すぐに言葉を止めた。
言葉の途中で、歪が突然笑い始めたからだ。
最初は押し殺すように、次第に大きく、高笑いへ変わっていくように。
「何がおかしいの?」
「はははっ………。いや、これは知らなくて当然の話だ。気にしなくて良い。―――そうだね、闇のカードについて、少し話す必要があるか」
そういうと、彼は立ち上がり、懐から1枚のカードを抜き取った。
そのカードの名前は【
「このカードは闇のカードだ。そうだろう?」
「?ええ。そうね」
「だが、これは単なる闇のカード。確かにモンスターワールドにて悪であったカードだが、それだけのモンスターだ」
「………それが何?まさか、黒井ナラクの使っていたモンスターはただの悪じゃないとでも?」
「
肯定の言葉に、思わず黙るセツナ。
ただの悪と、それ以外の悪。その違いが、彼女にはわからなかったからだ。
「モンスターワールドには、伝説というものがある。世界を揺るがす程の悪事を働いたモンスターや、多くの命を奪うきっかけとなったモンスター。或いは多くの命を奪ったモンスター。他にも、様々な理由から伝説に刻まれるモンスター………闇の伝説と呼ばれるモンスターが存在するんだ。君が目覚めさせた【フィーネ】、その最終段階である【グランド・フィナーレ】もまた、闇の伝説だね」
「まさか、黒井ナラクが【フィーネ】と同格のモンスターを!?」
「別におかしな話ではないよ。伝説と言っても、こちらの世界では所詮カード。運命に導かれ、誰かの手に渡ることもよくある話だ。かのユートピア・コーポレーションCEOも、カードハンターの首領も、
歪の発言に、思わず眉根を寄せる。
それはまるで、最近疑問視する流れが生まれつつある闇のカード論を、肯定するかのようなものだったからだ。
彼女の感情の機微を察したのか、先んじて歪が口を開く。
「闇のカード論は、まず正しくない。カードを握った人間が何を成すかなど、最初から決まっているわけがない。―――だが、闇の伝説だけは違う。アレは、存在の格がそもそも違うんだ。君もわかっているだろう。まだ幼い【フィーネ】から来る、負の力を。恐るべき闇の力を。闇の伝説だけは、人をゆがめられる。変えてしまう力がある。だから悪の道を進むことになるんだ。闇にあてられ、正気ではなくなる。己の意思を、知らず知らずのうちに失ってしまう」
「………じゃあ、黒井ナラクも───Abyssも、いつかは闇に染まると?」
「それはどうだろう───と、言いたいところだけれど。彼はとっくに正気ではないはずだよ」
窓の外へ顔を向け、見えないように表情を変える。
珍しく憐れみを込めた顔を見せた彼は、それを悟らせることの無いまま、ぽつりと呟いた。
「【ダークマイザー】、【
次回、ようやく闇の組織要素が出ます。きっと。