The Last Boss Master ~転生カードゲーマー、悪の組織のボスになる。~   作:恋愛を知らぬ化け物

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【真相究明の双剣士ホームズ(フォー)
コスト10 モンスター 種族:ネオ・ヒューマン
・相手のバトルゾーン、エナジーゾーン、墓地のいずれかに【リュ・パーン】と名の付くカードがあるなら、このモンスターの召喚コストを5少なくする。
・このモンスターが手札、またはエナジーゾーンにあり、それが離れる時、代わりに相手の手札またはエナジーゾーンのカードを山札の下に置く。
・相手がコストを支払わずにカードを使用したなら、自分はゲームに勝利する。
・このモンスターがバトルゾーンを離れる時、かわりにターンを終了する。

【四代目の大怪盗リュ・パーン】
コスト8 種族:ネオ・ヒューマン、アウトサイダー パワー10101
・このモンスターを召喚する時、コストを支払う代わりに相手の手札から1枚、ライフゾーンから1枚選び、捨てさせ、相手の山札の上から1枚を墓地に置いても良い。そうしたら、相手は墓地にあるカードを全てエナジーゾーンに置く。
・このモンスターはバトルゾーンに出たターン、相手プレイヤーに攻撃できる。
・このモンスターが攻撃する時、相手は自身の手札を2枚選んで捨てる。そうしなければ、自分は相手のエナジーゾーンから1枚選び、墓地に置く。
・相手の手札からカードが離れた時、自分は同じ枚数のカードをドローしても良い。
・相手のエナジーゾーンからカードが離れた時、自分は手札または山札の上から同じ枚数をエナジーゾーンに置いても良い。


コスト10+コスト8 【真相究明の双剣士ホームズⅣ】/【四代目の大怪盗リュ・パーン】

 

 ‐【四代目の大怪盗リュ・パーン】 パワー10101‐

 

 ‐男 ライフ4→3‐

 

「禁忌………!!なるほど、幹部を自称するだけはある。まさかワタシ以外にこの事実に気づいていた者がいたとは!」

「別に、アンタだけの発見じゃないと思うけど?」

 

 普通のプレイヤーならば気づくはずの無い、禁止カードを使う事が出来るというルール。まさか自分以外にも禁止カードを搭載している人間がいるとは思いもしなかった彼は、【リュ・パーン】の登場に戦慄(わなな)く。

 

 そんな男に冷たく返し、月夜は山札に触れる。

 それを合図に、カードが【亜POカ離プSU】へと送られていく。【リュ・パーン】の召喚コストによってカードが移動した事により、【亜POカ離プSU】の【魂成】が発動したのだ。

 

 【魂成】は上限の7枚に到達し、その姿が変化する。

 

 ギゴゴゴゴ、と錆びついた部品を無理矢理動かしているかのような音を立て、無機質な機体がヒトのカタチへと生まれ変わる。

 

 

 それはまるで、神のような。

 

 

「んじゃ、そろそろトドメ、刺しちゃおっかなー。―――【リュ・パーン】はバトルゾーンに出たターン、相手プレイヤーに攻撃できる。早速プレイヤーを攻撃………するときに、効果発動」

 

 呆然としていた男に、【リュ・パーン】が銃を抜き、引き金を引く。

 弾丸はライフではなく、男の手元へ向かい、カードを弾き飛ばした。

 

「相手は自身の手札を2枚選び捨てる。そうしなければ、自分は相手のエナジーゾーンから1枚選び、墓地に置く」

「チィッ、だが【トークン】が捨てられるくらいなんとも………ッ、何!?」

 

 弾丸は、手札を弾き飛ばすだけにとどまらない。あり得ない挙動で、そのまま男の対戦台―――エナジーゾーンへと落下した。

 全てのカードが巻き上げられ、月夜によって指された1枚が墓地へ送られる。

 

 手札を捨てればエナジー破壊は発生しないはずでは………と混乱する男を、月夜は嘲る。

 

「禁止カードが使えるのは知ってても、こういうオモシロ裁定は知らないんだね?―――【リュ・パーン】のテキストは、『相手は2枚手札を選び捨てる。そうしなければ、自分は相手のエナジーゾーンから1枚選び、墓地に置く』。絶対に2枚捨てないとダメなの。手札が1枚以下の時は、ランデス(エナジー破壊)されちゃうんだよね」

「そんなバカな!?」

 

 あんまりな裁定に、男が目を剥く。当然だ。手札を捨てるか、捨てずにエナジーを失うか。字面だけ見れば、その二択を迫る───或いはそうした状況に追い込むカードである事はわかる。

 だが、両方を同時に失う可能性もあるというのは、あまりにも強すぎるのではないだろうか。

少なくとも、相手のリソースをふんだんに利用して登場するモンスターが持っていて良い能力では無い。男の表情から狂気の色が抜け落ちる程に、【リュ・パーン】という禁忌は異常だった。

 

「………とはいえ、これでもエナジーは7。【リュ・パーン】召喚の代償は、確実に君の首を絞めているよ」

「それはそっちにターンが回った場合の話でしょ?」

 

 ‐男 ライフ3→2‐

 

 強がりとも、本心からの余裕ともとれる男の言葉に、月夜はまたしてもナラクの言葉を思い出す。

 

 彼女がまだ弱く、ナラクの指導を毎日受けていた頃。

 【リュ・パーン】がこの世界で禁忌指定を受ける前、相手のリソースを増やしてしまう弱点に悩んでいた時………当然のように【リュ・パーン】と、ソレを十全に活躍させられるデッキを所有していた彼が、実際に使った上で彼女に教えた考え方を。

 

 

『相手に大量のエナジー(リソース)を与えるのは、確かに弱点かもしれない。でも、手札が枯れた状態でエナジーだけあっても、余程良い引きをしないと逆転はまず不可能だし、そもそもターンが来なければエナジーがどれだけあっても意味がないじゃん?他の一般的なハンデス、ランデス効果持ちのカードだと難しいかもしれないけど………【リュ・パーン】はソレを簡単にやってくれるカードだから。だから、桃倉は誇って良いんだよ。その切り札(運命)をさ』

 

 

「そういえば、今手札に加えたそのライフ、【反撃】じゃなかったの?」

「あぁ、残念な事にねぇ。―――だが、一つ教えてあげよう。ワタシのデッキには、通常の人形デッキよりも多く【反撃】を持つカードが採用されていて………その大半が未だに非公開状態。ここまで【反撃】が来なかった事から鑑みて、確実にこの2つのライフは【反撃】を持っている。カードが、そう訴えているのだよ」

「だから、不用意な攻撃は控えた方が良いって?」

「いやぁ?全ての判断は君に任せるとも」

 

 軽薄な笑みを張り付けたままの男に、月夜はほんの一瞬考える素振りを───見せるはずもなく。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()と、迷いなく【亜POカ離プSU】へ手を伸ばした。

 

「【亜POカ離プSU】でプレイヤーに攻撃」

「迷いなし、か。―――そして、やはりワタシの読みは合っていた!【反撃】発動ゥ!!【イトマキ地―――】ご、く?」

 

 ‐男 ライフ2→1‐

 

 彼の予想通り、ライフに埋まっていたのは【反撃】を持つカード。それも、ちょうどこの状況を打開し得るカード………だったのだが。

 

 彼が掲げた瞬間、【イトマキ地獄】はするりと彼の手から滑り落ち、そのまま墓地に落ちた。

 慌ててソレを拾い上げるも、またしても墓地に戻っていく。そこでようやく、自分がうっかり落としてしまったのではなく、対戦台によってカードが操作されているという事に気づいた。

 

「ど、どういうことだ!?」

「【亜POカ離プSU】の【魂成(ソウル)7】。相手が手札にカードを加える時、それがそのターン最初に加えるカードでなければ、相手はかわりにそれを墓地に置く。―――要するに、疑似的なライフ焼却、ってコト」

「0コストのモンスターが、ライフ焼却だとォ!?」

「そ。さすが闇の伝説、って感じだよね~。………それと、ただのライフ焼却じゃないの、もう忘れちゃった?」

 

 【亜POカ離プSU】の瞳が、妖しく輝く。原則1ターンに1度という攻撃回数を無視して、闇の伝説が再起する。

 

 男の手札は、ライフ焼却により月夜の手札よりも少ない状態のまま維持される。

 そして【亜POカ離プSU】は、相手の手札が自分の手札よりも少ないならいつでもアクティブにすることが出来る。

 

 これこそが【亜POカ離プSU】の完成形。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ―――当時の主人公(紅ヒイロ)の切り札………否、当時推されていたギミックが、ライフ0の状態でのみ扱える逆転能力であったが故に生まれた、ナラクの前世では『所持品検査』と揶揄されていたモンスターである。

 

 ‐男 ライフ1→0‐

 

「ばかな、ばかなっ、ばかなぁっ!!ワタシが、ワタシが敗北するなど、あっては、あああ、あってはぁっ!!」

「んじゃ、サヨナラ~」

 

 【亜POカ離プSU】が蠢く。完成した機械の神は、その巨腕を振り上げ、半狂乱の男へと叩きつける。

 同時に、フィールド・ボムによって生成された空間が砕け、2人は元居た場所へと戻される。

 

 

 ――――勝者、桃倉月夜。

 

 

 

 

×―――×

 

 

 

 

「うわぁあああああッ!?」

 

 2人を呑み込んで消えたはずの靄が、逆再生された映像のように広がり、そして消える。

 その中心には、涙と鼻水で顔面をぐしゃぐしゃにした男と、余裕の表情を浮かべた月夜がいた。

 

「月夜ちゃん!!大丈夫だった!?勝てた!?」

「もち。見てのとーり、ウチの圧勝」

 

 駆け寄ってきたカイナにピースして見せる姿は、まさしくいつも通りの桃倉だ。

 良かった~!と叫びながら抱き着くカイナに、困ったような………それでいて、嬉しそうな笑みをこぼしている。

 

 ………()()()()、だからか?2人とも、随分と仲が良いというか………。

 龍牙に至っては、桃倉との距離が原作の親友(三塚井エル)よりも近い気がするんだけど。

 

「ほ、本当に、勝ったんですか?その男は、だって、あんな強力なカードを………」

「ん?―――あー、もしかしてコイツに負けて言いなりにされてた感じ?ま、禁止カード入れまくってたっぽいし、仕方ないかもねー」

「えっ、禁止カード!?対戦台で使ったら、強制的に負けになるんじゃないの?」

「それが、闇ファイトだけは例外なんだー」

 

 そういえば、龍牙が闇ファイトのルール(コレ)を知るのはこのタイミングだったっけ。

 本当なら龍牙自身がカードハンターを相手に戦って、そこで知ることになるんだけど………まぁ、結果は同じか。

 

「あれ?もう終わったんだ、お疲れー」

「ん、瑠璃っち、どっか行ってたの?」

「うん。ちょーっと電話をね。………で、何を賭けたの?」

「絶対服従。最初は色々細かい設定しようかと思ったけど、めんどーだったし。まー、カラオケとか適当な場所で情報聞き出す感じかなー」

「いやいや、警察に突き出すべきだと思うよ。クルーエルなんちゃらが何かわからないけれど、フィールド・ボムを所持し、使用までしたんだ。―――というか、暁ちゃんが電話してた相手って、警察じゃなかったのかい?」

「あー………ちょっと確認したい事が出来て、その連絡してたんです。ま、繋がらなかったんですけど」

 

 少女たち(うち一名は成人女性)に囲まれながら処遇について話されているが、男はピクリとも動かない。入店時のハイテンションはどこへ行ってしまったのだろう………まぁ、桃倉のデッキに、闇ファイトで負けたならああなって当然か。

 

 ―――フィールド・ボムによって生成される異空間では、全てのカードが実体化する。

 カードとの絆や、カードの種類、状態を問わず、強制的に『門』を開き、向こう側の力を引き出させる。

 

 桃倉の運命のカードは【四代目の大怪盗リュ・パーン】。あらゆる要素(名前・設定・イラスト)がどこぞの武装探偵を彷彿とさせる、前世では愛されつつも蛇蝎のごとく嫌われた禁忌(禁止カード)である。

 

 その凶悪過ぎる能力は収録弾発売初日から早速悪用され、「インフレしてこそウォイト!」と開き直っていた運営から名指しで「コイツは調整ミスでした」と開発部日記(運営の謝罪文掲載所)に書かれる程の騒動を引き起こしたのだが、別に単体で他の追随を許さない最強かと言われればそんな事も無い。相性の良いカード、上手く噛み合うカードを採用し、正しく運用しなければそこらのカードよりも弱いまである。

 まぁ、【リュパンロック(春のリュパン祭り)】は歴代屈指のクソデッキだったし、謝罪文掲載も仕方なかったとは思うけど。

 

 ………と、それはさておき。

 

 俺と会う前の桃倉は、はっきり言って弱かった。カード効果も裁定も碌に知らず、【リュ・パーン】を召喚しても利敵するだけに終始し、ビートなんだかコントロールなんだかよくわからない戦い方をしていた。

 

 そこを俺のレッスンで矯正し、相性の良い切り札級カード【亜POカ離プSU】と、その他のパーツを渡してビートメインのデッキに構築させ直したのが今の桃倉。

 戦略上、必ず彼女は【亜POカ離プSU】を召喚する事になるし、トドメも【亜POカ離プSU】で刺す。

 

 つまり、桃倉と闇ファイトをした相手は、実体化したラスボスカード(亜POカ離プSU)にやられるのだ。

 

 

 黙って成り行きを見届けていると、最終的に警察を呼ぶことになったらしく、魅上さんがスマホを取り出した。

 その間に桃倉が男に近づき、何かを話していたが、龍牙に聞かれてもはぐらかしていた以上、その内容を教えられる事は無いだろう。

 

 ま、狂わずしっかりと聞かれた事に受け答えするようにー、とかそんな感じの事だろうけどな。

 

 

 

 

 

×―――×

 

 

 

 

「でー?月夜ちゃんは結局、どうオチをつけたのかな?」

「どうも何も、ウチら(クルーエル・アビス)の事を話さないようにした上で、自分の罪をちゃんと隠さず話せーって言っただけ。―――アイツを勧誘したのが誰かとか、どうやって禁止カードが使える事を知ったのかとか、そういうのを聞き出せるような状況でも無かったし」

「ふーん。………ちなみに、誰が勧誘したのかだけはわかったよ。被害者の子から聞いた特徴が、どう考えても()()()だったから」

「アイツ?」

 

 人形デッキ使いの男が警察に連行され、そのまま解散となった直後。ナラクとカイナに「寄りたい場所がある」と言って離脱した2人は、路地裏で『ある人物』を待っていた。

 

 月夜の方は誰が来るのかを知らず、そもそも『誰か』を待つためではなく情報のすり合わせをするためにナラク達と別れたと思っていた為、瑠璃のぼかすような言い方に首をかしげる。

 当然だ。男とファイトしていた彼女は、彼に妹扱いされていた少女からの証言を聞いていないのだから。

 

「おっ、来た来た。―――おそーい!私、すぐに来いって言ったよね?」

「すんません!!良い言い訳が思いつかなかったもんで、抜け出せなかったんっす」

「え、()()?」

 

 ウォイト学園の制服を着た、身長2メートル程度の巨漢。瑠璃に呼び出されたのは、ナラクに『洗礼』を浴びせた2年生―――鬼神イカリだった。

 

 そこにいるだけで子供が泣き出す程の強面と、コンクリートを素手で破壊できるのでは?と思わせる程の筋肉を持つ彼は、狭い路地裏に無理矢理体を詰め込みながら、瑠璃に頭を下げた。

 

 意外な人物の登場に、月夜も素の声が出る。

 

「うっす。挨拶するのは、久しぶり………っすよね。ご無沙汰してます」

「ボスの転入初日に会ったくらいだよねー?まぁ、瑠璃っちの部下だし接点無いのも当然だけど」

「はい。―――えっと、それで、俺はなんで呼び出されたんでしょうか?」

 

 ナラクと戦った時とは打って変わってしおらしい姿を見せるイカリ。彼の素は当然『洗礼』の時の強気な姿なのだが、年下のはずの瑠璃相手に、面白いくらいに怯えている。

 

 それは、それだけ彼女とイカリとの間に力の差が存在しているからであり、何より彼女から呼び出される時は決まって説教か、或いは折檻が待ち受けているからである。

 

 業務用のダストボックスに腰掛けたまま、瑠璃はスマホの画面を突きつけた。

 

「まず質問。この写真の男、知ってる?」

「えーっと………ああ、俺が勧誘したヤツっすね。カードハンターの中でも腕利きだって言うんで、引き入れました」

「ふーん。………今日ね?私達がいたカード喫茶()にソイツが来たの」

「は、はぁ………あっ、もしかして、ソイツが何か粗相を!?すんません、まだメンバーの話も何もしてない状態で………」

「別に私達を知らないとかはどーでも良いよ?そもそも、クルーエル・アビス(ウチ)に入って長い鬼神だって、こないだまでボスの正体知らなかったわけだし」

「そ、そうっすよね、あははは………。では、一体何が」

 

 ガンッ、と、ダストボックスに叩きつけられた瑠璃の踵が、イカリの言葉を遮る。小動物のように全身を震わせた彼は、その冷たい視線に思わず目をそらした。

 

「あのさ、クルーエル・アビス(私達)のルール、忘れた?不必要な略奪、殺人の禁止。一番大事なルールだから絶対遵守って、散々言い聞かせたよね?」

「それはもちろん、知ってますが………あ、アイツにだって教えましたよ俺は!」

「お・し・え・たぁ~?」

 

 イカリに近づき、覗き込むようにして睨みつける。

 失言だったか、と訂正しようとした彼は、しかし自分は勧誘した者としてすべきことは果たしていると思っている為、すぐに口を噤んだ。

 

 確かに、勧誘した時点でちょっと頭がおかしいんじゃないかと思わなかったでもないが、それ以上にデッキ構築、プレイングの腕が高かった。ただ排除するよりは、仲間に迎え入れた方が良い。そう判断し、必要な事も全て教えた。そのつもりだった。

 

 それが、まさか自分のあずかり知らないところで、よりによって一番知られたくない人物の前でやらかすとは。

 舌打ちの一つでもしたかったが、今ソレをすれば瑠璃の顰蹙を買うどころでは済まない事くらい、考えずともわかる。

 

「教えたとしても、結局守ってないんじゃ意味ないし。言う事聞きそうにないんだったら闇ファイトで縛るとか、やりようはあったと思うんだけど?」

「すみません………」

「ま、終わった事だし、コイツの件についてはもう良いけど。―――でも、アンタの教育に問題があるのも事実だし、近い内に全員集めてもらうから。私の予定に合わせて………多分、三日以内になるかなー」

「そ、そんな急に言われても無理ですって!」

「無理かどうかは聞いてないから。―――やらかした分際で、言い訳しないでくださ~い。ざぁ~っこ」

 

(瑠璃っちの『メスガキ』っぽいセリフ、拝啓、敬具みたいな使われ方するの多いなー)

 

 まごうこと無きパワハラの現場を目撃したにも関わらず、月夜は興味なさげにどうでも良い事ばかり考える。

 実際、ミスをしたのはイカリの方。失敗の責任を取る方法として、部下全員を三日以内に集めるという罰を受けるのだとすれば、まだ優しい方である。少なくとも、瑠璃が部下に言い渡す罰の中ではかなり軽い方だ。

 

 とはいえ、無茶な事に変わりは無い。

 イカリは幹部程ではないにしろ、それなりに高い地位に居る人間だ。故に部下も相当に多く、全員が全員東京にいるわけでは無い。

 そうしたメンバーに、表向きの生活を切り上げて東京に集合するように指示するのは、土台無理な話なのである。

 

 だがこれ以上の文句も、譲歩を頼むことも不可能。イカリはどうしようもない胃の痛みを堪えながら、深く頭を下げた。

 

「んじゃ、帰って良いよ~。私たちはてきとーに寄り道してから帰るから」

「んぇ?瑠璃っち、どっか行きたいとことかあるん?」

「………ボスが、ラーメン頼んでたじゃん?それで、私もちょっと食べたくなっちゃって」

「あの時頼めば良かったじゃん」

「ボスにラーメンまで頼むわけにはいかないでしょ!それに、その………私、っぽくないっていうか。可愛くないじゃん!」

「ふーん。で、一人で行きたくない理由は?」

「………もぉ、月夜ちゃん、私が一人○○(まるまる)の類苦手なの知ってんじゃん。ヒトカラとか、一人焼肉とか」

「はいはい。―――じゃ、行こっか」

 

 頭を下げたまま動かないイカリを置いて、歩き出す2人。どこかいい店は無いかとスマホの画面を見ながら歩く彼女たちには、もはや(イカリ)の事など残ってはいない。

 

 だが、失敗した身として反省している姿を見せなければならない、と判断した彼は、2人の声が完全に聞こえなくなったところでようやく顔を上げ、その姿がどこにも見当たらないことを確認した上で、ようやく寮に向かった。

 

 

 

 なお、ナラクはラーメンを食べる事を恥じらう女子よりかは、一緒になって食べてくれる子の方が好みであるが、瑠璃がソレを知ることになるのは、もう少し先のことである。






クルーエル・アビス一般メンバーによる幹部組の評価

葛原 ☆4.5
→厳しい部分もあるが、基本的に『仲間』に優しい。ボス至上主義ではあるが、それ以外を蔑ろにするタイプでもないので、彼の下につければ、余程のミスや不敬でもしない限り安泰。

博士 ☆3
→可もなく不可もなし。そもそも部下を持たない立場であり、幹部以下のメンバーとの接点は無いに等しい。とはいえ上司であることに変わりはなく、人手を必要とする時には突然の引き抜きを躊躇なく行うので、ちょっと怖がられている。

桃倉月夜 ☆2
→ギャルっぽいが、怖い。まず部下に対して無関心。ボスに見せる姿がオタクの見る夢なら、俺らが見るのはオタクの見る現実。そんな感じ。

暁瑠璃 ☆1
→最悪。一番部下を抱えている癖に、根本的に人を信じていないため部下への扱いが一番酷い。常に高圧的で一挙手一投足がほぼ全てパワハラ。だが、人を信じていないが故に『報酬が無ければ人は動かない』『虐げすぎると反逆される』という事をしっかり理解しているらしく、幹部の中で一番給与を高く払うし、休みも多く取らせる。飴と鞭がどっちも振り切ってるタイプ。
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