The Last Boss Master ~転生カードゲーマー、悪の組織のボスになる。~ 作:恋愛を知らぬ化け物
【神意の執行者マゼスタ】
コスト20 呪文
・この呪文を唱えた後、バトルゾーンに置く。バトルゾーンにある間、このカードはパワー20000のモンスターとして扱い、カードの効果で破壊されない。
・このモンスターがバトルゾーンに出た時、手札を全て捨て、カードを五枚引く。その後、もう一度自分のターンを行う。
・このカードがモンスターなら、各ターンの終わりに相手のバトルゾーンのカードを全て墓地に置く。
・自分の山札にカードが無くても、自分はゲームに負けず、相手はゲームに勝てない。
【太郎イモ】
コスト1 モンスター 種族:ベジタブルズ
‐食べないでー!―――太郎イモ
《ボクの出番、少なすぎると思わないかい?》
朝、今日使うデッキを選んでいた途中、突然実体化した越智が、胸に手を当てて抗議してきた。
顔色は窺うまでも無く不機嫌の色一色に染まっており、真面目に対応しないと後々面倒な事になると直感で理解させられる。
「それはつまり、お前の入ってるデッキを全然使ってないって意味か?」
《そういう意味だよ!!マスターってば、東京に来てから一度もボクを使ってくれてないじゃないか!》
「それはお前の正体が万が一にもバレたら大変だからだって、何度も説明しただろ?」
既存のカードを特別なイラストで復活させ、カードの新たな魅力を描く───をコンセプトとした、完全受注生産のセット商品『Specialセレクション』。
彼女、越智終奈は、そんな『Specialセレクション』の人気シリーズである【ラス
――――
越智終奈、否、【グランド・フィナーレ】は、【ラスGirl】シリーズに
その正体は、Masters Cup―――この世界ではなく、前世の
わざわざラスボス娘の企画を担当している偉い人とお話させてもらったりして、俺の好みに合わせた設定で生み出してもらえた、俺だけのモンスターだ。
というのも、そもそも前世のMasters Cupは、
そして、Masters Cupで優勝すると、2位以下が貰える報酬全てと、賞金50万円、さらに『自分だけのカード』が得られた。
この『自分だけのカード』というのは完全オリジナルのカードというわけでは無く、既存のカードの中から選んだ1枚を、自分好みのイラストにしたモノを指す。
構図も、内容も、イラストレーターも、全てを自由に選び、決め、世界に1枚だけのカードにしてくれるのだ。
これが驚くほど自由で、俺の前に優勝した人なんかは自分と選んだモンスターが結婚式を挙げる姿を描かせていたし、いつだかの優勝者はウォイトとまったく関係の無い有名漫画家にイラストをお願いしていた。
本当の意味で『何でもアリ』なのだ。
………で、俺はラスボス娘シリーズが大好きだったし、一番好きなラスボスカード【グランド・フィナーレ】が未だに登場してなかったのもあって、オリジナルのラスボス娘【越智終奈】を依頼したのだ。
《そう!つまりボクは、マスターが望んだから生まれたカード!マスターが求めてやまなかったモンスターなんだよ!?それなのに、ずっと懐にしまって温めておくだけで良いのかい?いや良くない!》
「人の
何の脈絡も無しに叫ばれるとちょっと怖い。
ただ【グランド・フィナーレ】の
「ってか、俺が声に出した方に答えろっての。お前の正体がバレたらめんど………大変なの」
《何が面倒くさいのさ》
「―――結局、お前は【フィナーレ】なんだろ?」
間髪入れずに答えた彼女は、それがどうしたと言わんばかりに腕を組む。
持ち上げられた胸に思わず視線が向かい、ソレを誤魔化そうとして───心が読めるなら関係ないか、とありがたく見せてもらうことに。
そう。結局、越智は【フィナーレ】だ。正真正銘、【ビギニング】の………龍牙達の、敵だ。
確かに越智が入っているカードは【終焉覇王グランド・フィナーレ】だし、【越智終奈】はそもそもカードになっていない。ラスボス娘たちを、擬人化体のまま新たなモンスターとしてカード化する試みは、俺が死ぬ前に予告されたばかりだったからな。
だが、それでも俺には確証が無かった。なぜなら、ラスボス娘周りの設定が入り組んでいたから。
まず、ラスボス娘の最初は【ラスGirl☆さいカワ学園】シリーズ、つまり特別イラストのカードである。
カードの背景ストーリーとして、モンスターをモチーフとした女子高生たちがハチャメチャな学園生活を過ごす日常モノが描かれていた。つまり、完全な擬人化であり、彼女たちは純度100パーセントの『人間』だった。
次に、ラスボス娘シリーズの人気が高い事から、彼女たちのストーリーをコミカライズした『ラスGirl!!』が発売された。
しかしその内容は【ラスGirl】の設定、ストーリーから大きく外れ、ラスボス娘たちが元は『モンスター』だったことにした。モンスターと似た見た目をしているのは偶然ではなく、本来の姿が表出しているのだと。力を解放すれば本来の姿に戻るのだと、そういう設定にしたのだ。
俺としてはちょっと納得してない作品なのだが、他のウォイトプレイヤーからはそれなりに好評だったし、何よりウォイトに触れていない層にウケた。
結果、『ラスGirl!!』の内容を本来の背景ストーリーと絡めながら昇華した新たな漫画『ラスGirl☆
で、そんな『プレプリ』が大成功した結果、某動画配信サイトでアニメ版を配信したり、日常パートに重点を置いたミニキャラアニメも作ったり、逆に『ラスGirl!!』版のアニメも作成したり、それら全部を無視して【さいカワ学園】シリーズは最初の設定を維持したまま次のセット商品を出したり………正直、どれが正史でどれが派生なのか、誰にもわからない状態になっていたのだ。
あの日、龍牙達の前で姿を現した時、俺も彼女の説明に自信が無かったのはそのせいだった。
まぁ、ちゃんと確認したら臆面もなく《え?ボクは【グランド・フィナーレ】だよ?越智終奈の見た目をしてるだけの、ね?》なんて言われる羽目になったんだけど。
「あのな、【フィナーレ】がいると知られたら、また【ビギニング】が騒ぐし、ソイツの相棒が完全に敵対するの。俺はソレをどうしても避けたいんだって」
《だから、前みたいに誤魔化せば良いって言ってるだろう?あの時のボクはかなりのファインプレーだった。困り果てたマスターの為に、わざわざあの【
「それについてはまぁ、感謝してるけどさ………そもそもお前が《ボクを連れ歩かないなんてやだー!!》とか駄々こねるから持ち歩いてただけで、アレが無かったら万が一に備えて家に置いてったし疑われる事も無かったんだぞ」
《だから、ボクがマスターのそばを離れるなんて、片時もあってはならないんだって!!》
《いい加減にしたらどうだ?
掴みかからん勢いで詰め寄ってきた越智を、テーブルから聞こえた声が止める。
本家ラスボス娘の一人―――【
《埋花………。止めないでくれるかな?これはボクとマスターの問題だ》
《ばーか。マスターの問題はオレ様の問題でもあんだよ。モンスターとして当然だろ?》
もちろん、堀出埋花も【堀出埋花】ではなく、【デッド・オ・コース】だ。越智にも言える事だが、俺は女子高生にマスター呼びをさせてる異常者では無い。彼女たち擬人化モンスターが、勝手に言っている事だ。
………俺は何に対して弁明してるんだろう。
《なァ、マスター。一つ提案があんだけどよ》
「どんな?」
《ソイツじゃなくて、オレ様を実体化させるってのはどーだ?》
シン………。と、室内の時間が停止したかのような静寂が訪れる。
実体化
『ウォイト!!』でも『IGNITE』でも、実体化については『世界との結びつきが強いから』とか『モンスター自体の力が強いから』みたいな説明が軽くされていただけで、詳しくは語られていないし………もしかして、俺の知らない法則があるのか?
「実体化させるカードって、選べるもんなの?」
《おう。オレ様や終奈みたいに強い力を持ったモンスターなら、所有者、つまり
「その1人につき1体しか呼べないって話はどこで誰から聞いたんだ?」
《あん?―――あぁ、いや、言われたわけじゃねェけどよ。わかるんだよ、感覚的に。なんつーかな、カードを通じてそっちの世界と関われる奴らは、そーいう話を全部刷り込まれんだ》
「大いなる力、ってヤツか………」
いわゆるご都合の力ってヤツが、この世界には働いている。少なくとも、俺はそう思っている。
運命力とか呼ばれている物は、大体この世界を面白おかしい物語として成立させようとしている『ナニカ』が干渉した結果起きるモノだと。
なんせ、元がカードアニメの世界だからな。運営とか制作会社とかその他諸々の思惑が乗っかって、それに従って『流れ』が決まって当然だ。
………しっかし、モンスターの実体化を所有者側が決める、か。アニメの描写だと、カード側が勝手に実体化している姿しか見れなかったけど………実体化可能なモンスターを複数所有するのがレアケースだからか?
「なぁ」
《ダメだからね?》
「………まだ何も言ってないんですが」
堀出に頼み事をしようと口を開いた途端、越智が手を突き出して止めてくる。
思わず半眼になり抗議するも、彼女は俺を止めたまま譲らない。
《ねぇ、マスター。ボクは世界を滅ぼす、ただそれだけの存在だった。知ってるだろう?【グランド・フィナーレ】は無限に存在し、無限に生まれ続ける
「あぁ、フレテキでも言われてたな」
《そんな、機械みたいに、死んでるみたいに生きていたボクを、君が。他でもない君が、この姿にしてくれた。そうなってくれと願ってくれた!―――嬉しかった。だってボクがヒトになることを望むということは、君の隣に並び立つ………共に生きて、共に死ぬ、そんな関係を望んでくれたという、何よりの証左だ》
「………まぁ、最初は俺の恋人という設定をつけようとしましたけど」
「ラスボス娘シリーズの正史に加えたいなら恋人設定は無理だよ」と、結構しっかり断られたからやめたけど。
《ボクは、その想いに応えたいと思っている。いいや、ボクもまた、マスターを愛していると言って良い。生憎、感情を知ったのはこの姿になってからだけれど………それでも、この想いを『恋』や『愛』と呼ぶことくらいはわかる!だからねマスター!》
「ボクをそばに置いて、って?」
《わかっているなら話は早い!さぁ、そんな粗暴な園芸部部長の事は放っておいて、ボクのデッキだけをもって登校しよう!もうこんな時間だ。このままだと、遅刻してしまうよ!》
《おいコラ》
キラキラとした笑顔を見せて、手を差し出してくる越智。しかし、堀出が黙ったままでいるはずもなく、カードのまま宙に浮いて、そこから手を伸ばし、越智の胸倉を───?
「えっ」
《え?》
《あ》
何かがおかしい、と気づいた時には、既に堀出が
当然、空中に投げ出された彼女がバランスを崩さないはずがなく、そのまま越智を巻き込んで、フローリングの上に転がった。
《オレ様に、体が………!?》
「1体ずつしか出せないって話じゃ………」
《オレ様にもわかんねぇよ!一体、どういう───》
《良いから、まずボクの上から降りて………》
《お、悪ぃ》
潰されていた越智が立ち上がり、仕返しとばかりに堀出の頬をつまみ、引っ張る。
痛い痛い、と抵抗する彼女を乱暴に解放して、困ったように溜息をつく。
《重さもあったし、今も頬肉をつまんでる感覚と、人肌特有の温かさがあった………。まず間違いなく、実体化してるね》
「大いなる力が嘘ついたって?」
それとも、
『死』を経験した魂は特別な力を得るとか、上位の世界から下位の世界に向かう形での転生だったが故に力を得た………とか。そういう話は、転生モノのアニメとかネット小説なんかでよく見る。
俺の場合は
そもそも、自称チート転生者だし。前世のカード以外にも、そういう特典があったのだろう。多分。
問題は、複数実体化を可能とする謎エネルギーを制御できないどころか、知覚すらできていないことなんだけど。
《ま、なんでも良いや。これでオレ様も、マスターと一緒に居られるってこったろ?―――うっし、そうと決まれば一緒に登下校だな!んで、帰りには花屋に寄んぞ。観葉植物の一つもねぇ部屋なんざ耐えらんねーからな!》
「【デッド・オ・コース】が花なんて愛でるのか?」
《あー………『器に引っ張られる』、だっけ?モンスター【デッド・オ・コース】としての記憶や力がオレ様の根幹にあるが、ガワの【堀出埋花】としての記憶なり感情なりも混ざってんだよ。
「混ざる、ねぇ………まぁ、時間無いし今は良いけど。あと、花屋に行くのは良いし買ってやるのもいいけど、登下校の最中………ってか人目に付く間は実体化禁止だから」
《えー!?》
《なンだよ、せっかく実体化したっつーのに!!》
2人からの抗議の声を聞き流し、忘れ物が無いかの確認等、デッキ以外の準備を完了させる。
色々掘り下げないといけない新しい情報が出てきてしまったが、特別待遇を受けている身として遅刻するわけにもいかない。
無視している間に《君まで実体化したら二人っきりじゃなくなるだろ!》、《うるせぇいつまで独占する気だ!》と喧嘩を始めたラスボス娘達の間を縫って、適当に使うデッキを回収する。
美少女2人に奪い合われるのは男として嬉しい限りだが、実体化したモンスター×2という面倒が勝つ相手なせいで喜ぶに喜べない。
桃倉、暁といい、俺に好意を寄せてくれてるっぽい子はどうしてこうも変な方向に振り切ったヤツばかりなんだろうか。
………ん?
【デッド・オ・コース】と【グランド・フィナーレ】を持った時だけ、なんか変な熱?みたいなのを感じるような気がするな。
もしかして、これが実体化に使う謎のエネルギーか?
《うぉぉぉッ!?》
《うわッ!?》
少しの間、謎エネルギーを何とか制御出来ないか試行錯誤してみた結果、思いのほか簡単に感覚を掴むことに成功。
カードと少女たちの間に見えないエネルギーのラインが繋がっているのに気付いたので、2人をカードの中に吸い込むイメージで力を操作してみたところ、狙い通り2人の体はカードに吸い込まれ、そのまま消えた。
《もしかして、マスターが戻したのか!?》
「お、ちゃんと戻せたのか。良かったー、流石に消えてたら嫌だったし」
《も、もう力を制御できるようになったんだね。流石マスター。………あの、出られないんだけど》
「勝手に出ないように、蓋をするイメージでやってみた。その様子だと成功したみたいだな。良かった良かった」
《良くないけど!?ちょっと、マスター!?》
驚愕の声がしっかりカードから聞こえてきた事に安堵して、ついでに試しにやってみた実体化封じの方も成功。
流石にこんな簡単に謎エネルギーを使いこなせるなんて普通じゃないし、これも転生者であるが故なのだろう。
そういえば『ウォイト!!』でカードのエネルギーを利用しようとしていた敵は、仰々しい機械とか、面倒な儀式とか、かなり周到な準備を必要としていた気がする。
それをせずに、ただ念じただけでエネルギーを操れるのは、なるほど。チート転生者だ。
儀式魔法を、個人で!?しかも、無詠唱!?みたいな、そういう
「………学校行くか」
気になる事はさらに増えたが、俺は一旦、考えるのをやめた。
伝説級!?Masters Cup優勝者の要求したカードランキング!
第3位 8代目優勝者マツタケ選手【孤高の才女ハル】
→自分と【ハル】が誓いのキスをしている瞬間をイラストに要求した男。報酬に望むカードを聞かれた時に、「【ハル】と結婚させてください!」と叫んだライブ映像は未だに伝説として残っている。なお、マツタケ選手は9代目優勝者でもあり、その時は「浮気は出来ない」等の理由から【太郎イモ】を優勝賞品に選んだ。
第2位 13代目優勝者Abyss選手【終焉覇王グランド・フィナーレ】
→『ぼくのかんがえたラスボスむすめ』を実際に本編に登場させた男。【ラスGirl☆さいカワ学園】シリーズのイラストを担当している「うささぎ」先生にイラストを依頼し、『ラスGirl!!』『プレプリ』の作者ら、そしてウォイト公式の面々と話し合いを重ね、アニメ版における担当声優すら選び、【越智終奈】を完成させた。
なお【越智終奈】はラスボス娘キャラ人気投票において3位にランクインする程の人気キャラであり、こうした事情からAbyss選手の【グランド・フィナーレ】が売りに出されればウォイト史上最高額をたたき出す可能性があるとされている。
第1位 5代目優勝者ねこねこ選手【極限英雄バルカン】
→公式に「イラストをお願い出来る相手にも限度があります」との声明を発表させた男。某大人気少年漫画の作者にイラストを要求し、【バルカン】と彼の仲間たちが映ったイラストを描かせた。この仲間一人一人を違う有名漫画家に描かせたことで、凄まじい予算を使う羽目になったようで、以降は「指名できるイラストレーターは1人まで」との但し書きが付くようになった。