The Last Boss Master ~転生カードゲーマー、悪の組織のボスになる。~ 作:恋愛を知らぬ化け物
【IN THE NEW WORLD~創造の刻~】
コスト2 ストーリー・フィールド
・このフィールドが手札にある時、自分のエナジーゾーンにカードが置かれていなければ、コストを支払わずにバトルゾーンに出して良い。
・自分がカードを引くとき一枚多く引いても良い。
・自分がエナジーゾーンにカードを置く時、一枚多く置いても良い。
俺は、自分がいわゆる『チート転生者』だと自覚している。
まず転生というのがチートだ。一生分の経験と、成熟した思考、精神。普通の子供が一段ずつ踏みしめていくべき階段を、既に中腹………ともすれば最上段まで登った状態でスタートできる
それだけではなく、俺の手元には前世で持っていたカード達がある。
何故か知らんが、ある朝クローゼットの中に出現していたのだ。かつて使っていたカード収納棚が。愛用していたデッキが。ついでにスリーブやプレイマット等のサプライ品が。
ただの現代日本や、良くある中世ヨーロッパ風の異世界であれば無用の長物だったかもしれないが、ここはウォイトが至上とされる世界。資産としても、生き抜く術としても、この大量のカードは有用だった。
そしてさらにもう一つ、特別な『力』というか、この世界のシステムがあるのだが………
「うぉー!【シャイニング・ゲンヤ】でライフを攻撃!」
「【守護】は無いので受けます。―――【反撃】発動、【切断死体ナタギロ】。効果で山札の上から三枚を墓地に置いて、その後俺の墓地にあるカードの枚数以下のコストを持つモンスターを選んで破壊する。選ぶのはまだ攻撃していない【シャイニング・ゲンヤ】」
「あぁっ!ぼくの相棒ー!!」
休日のカードショップは、人が多い。前世でもそうだったが、こっちの世界ではそれとは比べ物にならない人口密度だ。
なぜならウォイトは人類の義務。老いも若きも男も女も、誰だってカードを握り、勝負の機会に飢えているのだ。
おかげでフリー対戦やり放題だ。今戦っている少年で、本日26戦目である。
試合の方は、俺の【反撃】のせいでトドメを刺せなくなった少年が泣く泣くターンを返し、そのまま俺が大量に展開して質量で押し切るように勝利。
ぐわー!と叫びながら倒れる演技をする少年に、思わず笑ってしまう。
「にいちゃん、強いね!オレ、学校だと負けなしなんだぜ」
「お、奇遇だね。俺も負けなしだよ。今のところね」
学校で、じゃなくて、この世界で、だけど。
カードを片付ける俺に、少年は目を輝かせながら喋り続ける。どうやら、自分に勝ったことが余程珍しかったらしい。
実際この世界基準ならかなり強かったので、学校以外でも勝ち試合が多かったのかもしれない。
ルールも効果も、しっかり把握してたしな。
「そんなつえーのに、なんでランク隠してんの?」
「実力を誇示すると………あー。自慢すると、引きが弱くなる気がするから、かな?」
「えー?引きなんて、
前世から引きずっているジンクスを語るも、少年には響かなかった様子。それどころか、無邪気な笑みと共に「そんなわけがない」と否定される始末だ。
───何度でも言うが、ここはカードアニメの世界。
カード関係なら、ある程度のファンタジーも存在する。
例えば、カードの意思、とか。
「オレ、【ゲンヤ】とすっげー仲良いんだぜ!父さんが誕生日に買ってくれたパックで出てきたんだ!毎日一緒に寝て、一緒に遊んでるんだぜ!」
「凄いね、まるで家族だ」
「うん!でさでさ、【ゲンヤ】だけじゃなくて、【スガヤ】とも仲良しでー!」
カードを見せながら、思い出話を始める少年。まるでカードが生きているかのような口ぶりだが、この世界ではなんらおかしくない。
だって、生きてるし。なんなら喋るし。
《この前は海に行ったな、コウタ》
「うん!そうそう、海と言えばさー!」
ほら、今も喋った。
スリーブも何もつけられていないカードから、頭の中に響くように、声が聞こえた。
カードの販促アニメだと良くある事だろ?カードの精霊とか化身とかが実体化して、マスコット的な立ち位置になったりするヤツ。
『ウォイト!!』の場合、実体化こそ主要キャラの相棒カード限定だが、会話やら友情やらは、モブ住民も当たり前のようにやってる。
なんでも、カードはモンスター達が暮らす
で、交流を続けて絆を深めたプレイヤーは、向こう側の力をより多く引き出せるようになり、引きが良くなったり、相手の引きを悪くさせたり、他にもファイトを優位に進められる力を得られるのだ。
「あのー、もし終わってるんでしたら、良ければどちらか私と勝負していただいても………」
「あっ、いっけね!終わったらすぐ移動するのがマナーだもんな!オレ、そろそろ帰らなきゃだから、にいちゃんがやってあげなよ!」
「うん。―――俺で良ければ、是非」
眼鏡をくいっ、と動かしながら、禿頭のサラリーマンが声をかけてくる。
【ゲンヤ】が会話に参加してからますます話が止まらなくなっていた少年も、そこで対戦台に長く居座りすぎた事を思い出し、帰っていった。
「お友達、ですか。先ほどの子供は」
「いいえ。さっき対戦したばっかりです」
「ははぁ、それなのにああも話せるとは、やはり若さですかねぇ」
シャッフルをしながら談笑し、山札を所定の位置に置く。
手札とライフを五枚ずつ用意し、対戦台にスマホを翳せば、互いに表情が真剣なモノへと変わる。
「では、始めましょうか。………キェエエエエイッ!!私のッ、ターン!!」
―――うん。そういう人か。
突然奇声を上げて立ち上がり、激しく動きながらエナジーをチャージするサラリーマンに、俺はなんとも言えない顔になる。
カードゲームが至上とされる世界。子供向けの、販促アニメの世界だ。キャラの濃い一般人なんて沢山いるし、こうして豹変する人も沢山いる。
いる、けども。
何年住んでも、このテンション感だけは慣れないな───と、苦笑しつつカードを引いた。
×―――×
「全戦全勝、気分上々~」
『ウォイト!!』の主題歌を歌いながら、帰路につく。
あの熱い曲は、もう15年も聞いていないというのに耳に残っている。魂に刻み込まれている。
人気のない道という事もあって、無意識に声が大きくなる。もちろん、誰かがいつの間にか背後を歩いていても良いように、腹の底からは出さないようにはしているが。
「お~れとお前の友情と~」
「ボス!!」
「うぉぁっ!?」
突然の大声に、思わず肩が跳ねる。振り向くと、そこには俺の友人―――友人?の姿が。
「
「うっす、すんません!ボスを見かけちまうと、ついテンション上がっちまって!」
「そのボスってのもやめろって何度も………はぁ。ま、良いけどさ。」
筋骨隆々、背丈は脅威の二メートル越え。スキンヘッドで、頬には大きな裂傷があり、サングラスをかけていて───うん。どう頑張ってもカタギに見えない。
実際、元は裏社会の人間だったらしいし、あながち間違いでも無いんだけど。
「散歩でもしてたの?」
「いえ。少しこの辺に用事があって」
「この辺?ただの住宅街だけど………」
「へへへ、俺にも色々ありやして」
「………悪い事だけはすんなよ?」
「わかってますよボス!」
んじゃ、さよなら!と言って、そのまま去っていく葛原。挨拶をする為だけに、わざわざ声をかけてきたらしい。用事の方優先して、そのまま俺を無視してくれても良かったのに。
「
転生してから今日まで、目立たないように~とか、自重~とか、そんな事は一切考えないで、好き放題やってきた。
そのせいか、俺の強さに憧れたり、自由さに憧れたりした奴らが、俺を慕って集まるようになった。
葛原もその一人だ。路地裏で今にも殺されそうなところを助けたのが出会いだっけか。
………あぁ、そうそう。この世界は命がかなり軽い。他人のカードを奪う為に殺したり、大会で不戦勝をもぎ取る為に殺そうとしたり。正義側も、カード関係の犯罪を犯した時点で人権剥奪!みたいなテンション感だし、ぶっちゃけ治安は最悪だ。
「ただいまー」
「おかえり。お客さん来てるわよ」
「え?」
母さんの声が告げた通り、玄関には見知らぬ革靴が一足。とはいえ、俺の友人知人に革靴を好んで履くような人間はいないし、家に訪ねてくるような友人がそもそもいない。
葛原をはじめとした俺を慕ってくれてる連中とは、基本的に別の場所で集合するようにしてるし。
手を洗ってリビングへ向かうと、そこでは初対面の──―しかし知っている人物が、優雅に座っていた。
「な、
「おや、私をご存知でしたか」
思わず名前を呼んでしまう。
だって、彼がここに居る事が、俺にとっては意外も意外―――というか、
「ですが礼儀として、自己紹介はしておきましょう。初めまして、黒井ナラク君。私は永川神徳。永川ウォイト学園の理事長、兼、学園長を務めている者です。以後、お見知りおきを」
「ご、ご丁寧にどうも………」
恐る恐る一礼し、永川さんの前に座る。
永川ウォイト学園。勿論知っている。
ウォイト教育に一際力を入れている、全寮制の私立高。各生徒の戦績をデータ化し、数値の多寡によって順位付けする『学内ランキング制度』を日本で最初に導入した高校で、
あぁ、そうだ。知っている。ウォイト学園の生徒会は選挙では無く『学内ランキング』上位五名によって構成され、学内において絶対的な権力を持つという事も。毎年一人、秋ごろになると、学校長が直々に選んだ『転入生』が迎え入れられるという事も。
そして何より───
「さて。私は無駄が嫌いでしてね。変に遠回しに伝えるような事でもありませんので、手短に、単刀直入にいかせていただきましょう。―――黒井ナラク君。
意味深な、しかし特に裏があるわけでは無い笑みを前に、俺はゆっくりと目を閉じた。
彼の申し出を、噛みしめているかのように。実際には、全く違う事への驚きを噛み殺すために。
―――この世界、『IGNITE』要素もあったのかーッ!!
単語とか説明が足りない部分は今後紹介が入る予定なので、取り敢えず雰囲気だけ掴んでいただければ………。