The Last Boss Master ~転生カードゲーマー、悪の組織のボスになる。~ 作:恋愛を知らぬ化け物
【シシシ・シンフォニック・ソング】
コスト10 呪文
・この呪文を唱えるコストは、墓地またはエナジーゾーンにある種族に【ブレイブリー】を持つモンスターの分だけ少なくなる。(コストは0にまで下げられる)
・バトルゾーンにあるカードを好きな数選び、持ち主の墓地、またはエナジーゾーンに置くか、手札に戻す。こうして選んだ枚数が5枚を超えていれば、相手は次の相手のターンの終わりまで、カードを出せない。
・自分の種族に【ブレイブリー】を持つモンスターを、墓地またはエナジーゾーンから好きな数選び、コストを支払わずに召喚しても良い。こうして出した数が7枚を超えていれば、このターンのあとにもう一度自分のターンを行う。
【
コスト2 モンスター 種族:少女、救世教団 パワー3000
・相手が自分のバトルゾーンのカードを選んで能力を使う時、または効果を発動する時、このモンスターを破壊しても良い。そうしたら、その能力、または効果は発動しない。
・このモンスターが破壊された時、全てのプレイヤーは山札の上から二枚を墓地に送る。
・【終焉1】
授業中、板書を取りつつカードのエネルギーを扱う練習をした結果、色々な事がわかった。
まず、エネルギーはカードに触れずとも、知覚さえできていれば操る事が出来る。操るには、ただ念じれば良いだけ。「こうなって欲しい」と思えば、基本的にその通りになってくれる。
と言っても出来る事はそこまで幅が広いわけでは無く、モンスターを実体化させるかどうか、カードから声を出せるようにするかどうかを決められたりするのが主で、何でもやり放題なチート能力というわけでも無かった。
『ウォイト!!』の名物こと
《いや、使いこなすの早すぎるよねあまりにも。流石はボクのマスター!………って、手放しに褒められないレベルだと思うんだけど》
あぁ、あと、カードから出る声が聞こえる範囲も調整できるようになった。
今は俺だけが聞こえるように調整しているので、こうして越智が喋っても、教室中の誰も気にしない。気になるはずがない。
「ねぇねぇナラク君!もうすぐ新しいパックが発売されるらしいよ!」
「もうそんな季節か。ドラゴンの強化、来ると良いな」
「うん!そういえば、ナラク君もドラゴンデッキ持ってたよね?Masters Cupの試合映像でしか見たこと無いけど」
「普段から持ち歩いてるよ?ここ最近は【埋葬墓地ソ】か【卍死スクランブル】の気分だったってだけで」
それに、切り札組の中でも【ドラゴン】の切り札【バハムート】は聞き分けの良い子で、【フィナーレ】達のように自分を使えと主張する事が殆ど無い。
故に、彼女の方から頼まれるまで、後回しにしがちなのだ。
勿論、俺の方から選んであげる事もあるのだが………そういえば、
「せっかくだし、後でドラゴンデッキ対決でもするか?」
「する!―――えっへへ、実は私、
え、何それ怖い。
いや、俺に憧れて、俺に寄せた構築に~っていうのは全然、もう身に余る光栄なんだけども。
原作主人公のデッキ構築理由とかいう、カードアニメで1、2を争うくらい重要な部分に『俺』という不純物が混じってるのが、何か良くない影響を及ぼしていそうで恐ろしい。
「元々は【竜の財宝】とか【ドラゴン・ステーキハウス】とか使ってエナジーを大量に貯めてから動くデッキだったんだけどね。【輪廻龍転】を入れたら、もっと早く動けるなーって、ナラク君の試合を見て思ったの。それ以外にも、ドラゴンデッキを使う時の考え方とか、すっごく参考にしてる。―――そ、そういう意味だと、実は私も月夜ちゃんたちと同じで………ナラク君の、弟子、だったりして」
「俺もう死んでも良いかも」
「なんで!?」
おこがましい、と思わないわけでは無い。いや、おこがまし過ぎる。
でもそれはそれとして超うれしい。死ぬほどだ。実際心臓が止まったかもしれない。
照れくさそうにしながら、憧れの少女に「ナラク君は私の師匠だよ」的なことを言われる………俺が転生した意味はここにあったのかもしれない。
不満げな顔をして近づいてくる桃倉から一旦目をそらして、この望外の喜びを全身で味わう事、数秒。
俺を現実に引き戻したのは、弟子一号こと桃倉でも、龍牙でもなく。
教室のドアを開け放ち、静かな───しかし良く通る声で俺の名を呼んだ、『彼女』の声。
「―――黒井ナラク」
「セツナちゃん!?」
【IGNITE】のラスボス。【フィーネ】を目覚めさせ、いずれは【フィナーレ】を操るに至る『終わりの巫女』。
龍牙が救おうと手を伸ばし、終ぞ届かなかった少女―――羽々斬セツナ。
白銀の髪を揺らし、こちらに近づいてきた彼女は、その名を呼んだ龍牙の事を一瞥もすることなく、その深紅の瞳を俺に向け続ける。
「お、俺に何か用ですか?」
「話があるの。少し、時間を貰えるかしら?」
×―――×
桃倉から「ほんっと、黒井っちはモテモテだねぇ~~!!」とか嫌味を言われながら見送られ、羽々斬セツナに従って歩くこと数分。
連れていかれたのは、校舎の屋上だった。
誰もいないことを確認した彼女が、ゆっくりとこちらに振り向く。
放課後になってまだ間もない事もあって、下の方から下校中の、或いは部活中の生徒たちの元気な声が聞こえてくる。
この微かな喧騒が、
「それで、話って言うのは?」
「単刀直入に言うわ。私と戦いなさい」
さながら銃を抜くガンマンのように、太もものデッキケースに手を伸ばし、カードを取り出して見せる。
40枚1束のデッキは、きっと前世で見たものと同じ【騎士フィーネ】。
「戦うのは良いけど、随分と急じゃないですか?羽々斬セツナさん?」
「私の事は既に知っているようね。―――戦う必要が、私にはあるの。諸事情あって貴方について調べたけれど、結局私が求めるような情報は何一つ得られなかった………だから直接戦って、貴方を見極めようと思った。それだけよ。………それと、敬語は不要よ」
「そう。なら遠慮なく」
羽々斬セツナが俺に興味を持つ理由として、まず第一に思いつくのは、切り札【グランド・フィナーレ】の存在だろう。
だが、彼女が俺の手元にある事を知る人間は、桃倉と暁を除けばいないはずだ。龍牙や魅上さんには、【越智終奈】という別のモンスターだと思われているはずだし。
つまり、羽々斬セツナが俺に興味を持つ理由はソレでは無い。
なら、一体何が彼女を惹きつけ、わざわざ調査までした上で、こうして俺と戦うような事になるのか………気になるが、もはやこの際どうでも良い。
彼女がこうして俺を呼び出し、2人きりで、しかもウォイトに誘ってくるという状況。あまりにも好都合すぎる。
遅かれ早かれ、彼女には接触しようと思っていたのだ。
万が一に備えて後ろを見て、この場に俺達以外誰もいないことをしっかりと確認した上で、懐のデッキに手を伸ばす。
「実を言うと、俺も羽々斬には用があったんだ。自分から来てくれて、手間が省けた」
「………用、とは?」
「もちろんコレだよ、ウォイト。羽々斬は学年2位の実力者で、ぜひ一度戦って───」
そこまで言った上で、言葉を切る。
なんのために周囲に誰もいないことを確認したのか。そもそも、俺はこれから何をしようとしているのか。ソレを考えた場合、こんな適当な言い訳をわざわざ宣う必要は無かった。
そう。
「―――いや。羽々斬セツナ。俺は、お前を救いたい」
「はぁ?」
「断言するよ。今のままだと、お前は絶対に幸せにはならない。願いも、希望も、何も叶わずに終わる。
「ッ!どういう意味!?」
俺の本当の目的を言ったその瞬間、彼女は呆れたような、バカにするような表情を見せた。
だが続く言葉で豹変し、普段ならば見せないはずの激情を剝き出しにして、俺に詰め寄ってくる。
「そのままの意味だよ。―――これ以上会話に時間を使って、誰かに見られたり聞かれたりするのも面倒だし、さっさと始めようか」
「………そうね。無駄な問答に割く時間は、確かに無いわ」
数回深呼吸して冷静さを取り戻した彼女は、屋上に備え付けられた対戦台へ向かおうとする。
そんな彼女の腕を掴んで止めて、俺はカードのエネルギーへと意識を向けた。
突然腕を掴まれた事に驚いた彼女は、俺の手を振り払いながら不快そうに顔を顰め、「なんのつもり?」と口を開き───。
「
ぞぷんっ。
俺の懐から溢れだした漆黒のエネルギーが、俺と彼女を呑み込み、異空間へと誘う。
そこは、まさにフィールド・ボムによって生成される異空間。
四方を暗闇に囲まれ、中央に対戦台が1つあるだけの殺風景な場所。
フィールド・ボムも無しに異空間へ幽閉した俺を、彼女は呆然と見つめる。
「何を、したの?これは、フィールド・ボムが生み出す異空間………?」
「カードのエネルギーを使って、空間を形成したんだよ。フィールド・ボムが勝手にやってくれることを、人力でやったって事」
《………ボクのマスターは何を目指しているんだろう》
《さぁな》
「っ、誰!?」
フィールド・ボムの原理はアニメでも説明されていたし、カードのエネルギーを使用する事もわかっていた。
そして、俺にはカードのエネルギーを自在に操る才能がある。つまり、持つだけで逮捕厳罰不可避の違法アイテムを所持せずとも、いつでもどこでも異空間を生成できるようになったのだ。
これが、ビーム攻撃と対を成す便利能力。これさえあれば、巻き込まれた時にしか絶対服従を賭けたファイトが出来ないなんてことにならなくて済む。
能動的に誰かを支配し、或いは殺すことが出来る。この先の俺に、必要不可欠な力だ。
………まぁ、この空間の中だとカードが勝手に実体化できるようになるから、声も姿も消せなくなっちゃうって欠点があるんだけど。
「俺の切り札。実体化したモンスターだよ。こっちのボーイッシュな方………あー、ボクッ娘の方を今から使うから、そのつもりで」
《えっ!ついにボクの出番!?―――ふふふっ、待ちわびたよマスター。さぁ、全てを蹂躙し、終焉へ至ろう!》
「未確認のモンスター………。良いわ。聞くべきことも、聞く理由も増えたことだし。闇ファイトだというのなら、絶対服従を賭けてもらうわ。情報も、あなたの持つカードも、異空間を生み出す謎の力も………全て差し出してもらう」
ついさっきまで動揺していたとは思えないほど冷静に、カードをシャッフルして対戦台の前に立つ。
声高に絶対服従を賭けさせる姿からは、自分が敗北する可能性を微塵も感じていない事が伺える。
………さて。怪しまれる可能性や、この先の関係性が崩壊するリスクを背負った上で、
「絶対服従させて好きに使えるようにしちまえよ」と、この世界に来てから緩みに緩んだ倫理観が囁くが、ソレを一切無視して告げる。
「なら、そっちには試合終了後に命令する内容に従ってもらおう。命も、尊厳も、別にもらうつもりは無いからな。ただ言う事を聞いてもらう、それだけで十分だ」
「無欲ね。………いいわ、始めましょう」
対戦台が光る。
つまらなそうに唇を尖らせ、カードの中に戻っていた堀出と対照的に、いつになく目を輝かせた越智が俺に並び立つ。
ファイトスタート。先行プレイヤーは、羽々斬だ。
登場順で言えば後なのに、桃倉、暁よりも先に、
なるほど、これが原作主人公ってヤツですか………。