The Last Boss Master ~転生カードゲーマー、悪の組織のボスになる。~ 作:恋愛を知らぬ化け物
【幼き勇者ティグル】
コスト3 モンスター 種族:ネオヒューマン、勇者 パワー3000
・このモンスターがレストしている時、パワーを+5000する。
‐オレひとりでも、たたかえる!───幼き勇者ティグル
‐それは勇気とは言えんぞ、息子よ。───父なる勇者ディエルゴ
『IGNITE』―――『WAR・FIGHT・BATTLE/IGNITE』は、その名の通りウォイトを題材にした作品だ。
主要キャラがほぼ全員女子だったり、アニメ版の放送枠が深夜だったり、過激な描写が異常に多かったりと、とても子供向けカードゲームの関連作品とは思えない異質な作品だったが、同時に『ウォイト!!』に並ぶ程の人気を誇っていた。
そんな『IGNITE』の舞台となるのが、永川ウォイト学園だった。
「………俺が、永川ウォイト学園に?」
「ええ。当然、皆山高校の方へは話を通してあります。お母様の方にも、同様に。―――我が校における『転入』が、どのようなものであるか、ご存知ですか?」
「一応は」
作中での説明は一字一句違えず覚えている自信があるが、こちらの世界でも全く同じという保証がない。なので、曖昧に肯定しつつ、確認するように知っている内容を口にした。
「転入生は、首席入学者、並びに成績上位者と同様の待遇を受けられる。ただし、順位は最下位から開始し、敗北回数が規定の数を超えた場合には特別待遇を剥奪する。………で、あってますかね?」
「ホームページに書かれているものと、一字一句同じですね。ただ一つ付け加えるならば、ペナルティには待遇の剥奪の他、退学などもある、と言ったところでしょうか」
物語に特に影響を及ぼすこと無く去っていった一年生編の転入生君も、確か成績不振と連続敗北を見咎められての強制退学だったっけ。
永川さんの言葉に、割と雑な扱いをされていたモブ顔男子を思い出す。あくまで転入生というシステムがある事を教える為の舞台装置的存在だったのか、活躍も出番も無く、ナレ死した男を。
「………正直、興味はあります。退学や権利剥奪のリスクも、日本一のウォイト教育機関に特別待遇で入れるのであれば、受け入れて然るべきモノですし」
「興味は、ですか。
やはり?
「えぇ、まぁ。………あの。やはり、っていうのはどういう………?」
「大した意味はありませんよ。ただ、君が何故我が校を受験しなかったのか、ずっと疑問だったもので。何か気になる点があったから受けなかった物かと、邪推していたまでです」
微笑みをたたえてはいるが、目は笑っていない。「私の学校の何が不満なのか」と、言外に詰められている気分だ。
………何故受験しなかった、か。
理由はある。永川ウォイト学園があると知らなかったからだ。
もし知っていたなら、『
ただ、俺はここを『ウォイト!!』の世界としか思っていなかったから、あるかどうかを探ろうともしなかった。
受験期にも、先生や両親には「絶対地元で進学するんで」とだけ伝えて、近所の皆山高校に進学したし。
今にして思えば、日本で一番有名な高校である永川ウォイト学園を、名前すら聞かずに生きてきたのは何か作為めいたものを感じるが………とにかく、知らなかった。
しかし、それをストレートに伝えて良いものか。永川神徳は物腰柔らかに見えるが、その実プライドの塊だ。功名心も中々のもので、それこそ『IGNITE』2期では目立ちたいが為に敵になった程だ。
そんな男に「お宅の学校、ご存知なかったんすわ」とか伝えて機嫌を損ねたら───ともすれば、転入の申し出が白紙になってしまうかも。
それは困る。だが、良い言い訳か………。
「…………距離、ですかね」
「距離、ですか。確かに、
「進学するにしても、地元………というか自宅を離れたくなかったんで、そもそも道外は選択肢に無かった………ので、受験しなかった、です」
嘘ではない。俺は今住んでいる環境がかなり気に入っているので、離れようと考えもしなかったのだ。
駅近いし、都心にも近いし、デカい公園あるし、徒歩圏内のカドショの品揃え良いし。美味いし安い中華屋もあるし。
俺の答えに、納得してくれたのか。永川さんは瞼を閉じ、何度か頷いて───
「なるほど。地元愛、ですか。それならば、受験を考えなくても無理はありません。………では、転入については?やはり、この地を離れるのは嫌、でしょうか」
「それは………」
そんな事ないです!めっちゃ通いたいです!!
………なんて、食い気味に答えられたなら良かったが。理由があって受験しなかったということになっている以上、即決というわけにもいかず。
取り敢えず悩んでいる振りをして、体感3分くらいが経過したところで、重苦しく口を開く。
「………いえ。わざわざ、こんな辺鄙なところにまで出向いてくださったわけですし。それに、ここに留まりたいという思いは変わりませんが、同時に内地───東京に興味があったのも事実。よろしければ、是非転入させていただきたいです」
「そうですか………!」
目を見開き、何度も頷く永川さん。作中では、本性を露わにするまで飄々とした、感情を表に出さないキャラとして描写されていたが、今は喜色が分かりやすく滲み出ていた。
そこまで喜ばれる………か?
確かに、
「では早速、手続きや詳細な説明をいたしましょう。お母様も、どうぞお座りください。保護者の方にお伝えしなければならないこと等がございますので」
………まぁ良いか。別に後ろめたい事は無いし。特に問題も無い………無い、よな?
×―――×
「って事で、俺東京に行くことになったから」
『───えぇえええええ!!?』
夜。例の俺を慕ってくれている連中───の中でも一際俺と距離が近い四人とビデオ通話でウォイトをしつつ雑談していた時、ふと思い出したので永川ウォイト学園に通うことになった事を口にした。
したら、凄い驚かれた。まぁ、俺がこの場所を離れたくなかったのは、みんな知ってることだしな。
『ボス、居なくなっちまうんですか!?』
『ボス、こっち来るん!?しかもウチと同じ学校!?』
この辺に根を張っている葛原と、今年上京したギャル
………え?桃倉、ウォイト学園に入学してたの?
「東京の凄い学校行くんだー、とは聞いてたけど………ウォイト学園だったのか」
『そだよー!どーせトーキョー引っ越さなきゃなら、一番良いとこにしよーと思って!スクールレート高いとこだと、色々豪華だし!』
『あ、あと、私も同じです。私も、ウォイト学園通ってます』
「暁も?」
オドオドした様子の、内気そうな少女―――
確かに同じところに行くことになった、と聞いていたが、まさかウォイト学園だったとは想像だにしていなかった。
『ボスまで向こうに行っちまったら、俺一人じゃねーっすかぁ!寂しいっすよ!!』
「一人も何も、博士がいるじゃん。ねぇ、博士?」
『ホホ。ワシ、今アメリカにおるのでな。お主がいなくなれば、
「え、アメリカいんの?初耳なんだけど」
腹あたりまで伸ばされた髭が特徴的な老人、博士が、なんかゴテゴテした機械をバックに笑う。
彼の本名は俺と家族以外誰も知らないらしく、教えてもらった時に「誰にも知られたくないんじゃ」と強めに頼まれたので、博士というあだ名で呼ぶように徹底している。
そのあだ名に恥じないくらい、発明品やら謎の薬やらを作っては遊ばせてくれたり実験体にしてきたりするので、一緒に居て飽きない人でもある。
いっつも
『ちょっと用事があってな。面白い土産は見繕ってあるから、期待しておれ』
『それウチらのもあるよねー?』
『お主らは買い物代行という形でなら買ってやっても良いぞ』
『ケチ!』
「はいソコ喧嘩しない。―――ま、退学処分でも受けない限り、残り二年ちょいは向こうで過ごす事になるかな。だから、この街の事は任せたぞ葛原」
『ぼ、ボス………ッ!!ハイッ、任せてくだせぇッ!!』
なんちゃって、とか言おうと思っていたが、予想以上に感激した様子で頷かれたのでやめておく。
葛原と言い、博士と言い、暁と言い桃倉と言い………俺としては普通に友達として、ウォイトとかその他娯楽に付き合ってくれるだけで全然十分なんだけど、彼らはそう思っていないらしい。
曰く、命の恩人。
曰く、唯一の理解者。
曰く、救ってくれた人。
曰く、尽くしたいと思えた人。
そんな重い事を堂々と、それも面と向かって言ってくるもんだから、強く拒否するのも難しい。別にみんなに傷ついて欲しいわけでもないし。
それに、
だからこそ、一応度を越した忠義忠誠には苦言を呈しつつも、なんだかんだ見逃しているわけだし。
『ボスは、いつこちらに来るんですか?』
「週末。飛行機はもう取ったし、荷造りもほぼ済ませてる。夕方に到着する便だし、ちょっと観光してから向かう予定」
『え、じゃあウチ迎えに行くから、一緒にトーキョー回ろ?カドショ見て、スイーツ食べ歩きして、カドショ行ってー』
『わ、私も!私も迎えに行きます!!』
「あー、うん。取り合えず羽田で会おうね、二人とも」
かつて愛読していたラノベの主人公を彷彿とさせるモテ具合だが、その実込められた感情は恋愛感情どころではなく、ある種信仰心にも似た重たい感情なので喜ぶに喜べない。
二人とも美人だし、おっぱいおっきいし、好かれる分には全然良いんだけど………なんか、ここまで来ると重圧がある。あまり下手な事が出来ないというか。幻滅されたくないというか。
ちなみに博士と葛原は蚊帳の外という事で、勝手に試合を開始している。おい、助けろ男たち。仲間だろ。
『あっ、そうそう。来る前に、一つ教えといた方が良いことあった』
「なにそれ」
俺もウォイトやりてぇ、とシャッフルし始めたところで、桃倉が何かを思い出したかのように口を開く。
引っかかる言い回しに思わず手を止めると、彼女は珍しく真剣な表情を見せた。
『―――最近、ちょっときな臭いんだよね。ウォイト学園』
×―――×
《ドラッ!?こ、この気配はッ!》
「わっ!?びっくりしたぁ。いきなり飛び出してどうしたの?」
永川ウォイト学園、女子寮一号棟302号室。
デッキの構築を見直していた、レッドブラウンの髪の少女、
デフォルメされたその竜は、カイナの相棒。【始まりを告げる者ビギニング】だ。
ビギニングは可愛らしい姿に似合わぬ危機感溢れる表情のまま窓の方へと飛行し、そのままベランダに出た。
突然の事に呆気にとられていたカイナだが、こうも取り乱すのには何か理由があるのだろう、と、落ち着いて後を追いかける。
「?外、何もないけど───あ、夕日が綺麗」
《そんなのどうでも良いドラ!カイナは感じなかったドラ!?あの気配を!》
「気配?」
《【グランド・フィナーレ】ドラ!!あらゆる
「嘘、【グランド・フィナーレ】!?」
ビギニングの言葉に、カイナもようやく慌てる。
【グランド・フィナーレ】―――【ビギニング】の宿敵にして、世界の敵。そして、カイナにとっても、因縁のあるカード。
「セツナちゃんの言ってた、世界を終わらせる為のモンスター………。でも、【グランド・フィナーレ】の目覚めにはまだ早いんだよね?」
《そのはず、だったドラ。セツナが目覚めさせた【グランド・フィナーレ】は、まだ幼体の【フィーネ】だったし………。でも、オイラがこの気配を間違えるはずがないドラ。力を失って弱体化しても、あの匂い、あの感覚だけは、絶対に間違えないドラ》
確信をもって告げるビギニングに、カイナの表情が曇る。
同時に、彼女の脳裏に過ったのは、つい先日争った少女の言葉。
『この世界は絶望しかない、救いのない悲劇だ。そんな物語に、続く意味も、意義も無い。だから終わらせる』
『違うッ!確かに、この世界には辛い事が沢山ある!けどッ!!絶対に、それだけなんてことはない!!』
『―――そう。やはり始まりの担い手。終わりの巫女たる私と、わかり合う事は不可能ね。………さようなら、龍牙カイナ。せいぜい、絶望に染まらない事ね』
それは、初めての敗北だった。
ウォイトには自信があった。無敗という輝かしい記録だけが、彼女の自慢だった。
だが、負けた。【
「………もっと強くならないとって、思い始めたばかりなのに。もう、【グランド・フィナーレ】まで復活しちゃったんだね」
《うん。───うん?いや、えっ?これ、どういう事ドラ?》
「どうしたの?」
カイナの質問に答えぬまま、空を見つめるビギニング。パタパタと翼を動かしながら目を細めていた彼は、思考をまとめるように独り言を続け………ついには、愕然とした表情を見せる。
《そんな。でも、もしかして………》
「ねぇ、どうしたのビギニング。何があったの?」
《………もしかしたら、違うかもしれないドラ。けど、オイラの感覚が正しければ、とっても不味くて、絶対にありえない事になってるドラ》
「不味くて、ありえない事?」
要領を得ない答えに小首を傾げる。そんなカイナに、ビギニングは再度「違うかもしれないけど」と前置きして、自分の考えを───感覚を、告げた。
《セツナが目覚めさせた【フィーネ】の感覚は、まだあるドラ。でもそれとは別に、もっと強く、完成された───完全体の【グランド・フィナーレ】が、こっちに向かってくる感覚が、あるドラ》
「じゃ、じゃあそれってつまり───」
《うん。───【
呟いたビギニングの視線の先には、飛行機が飛んでいた。