The Last Boss Master ~転生カードゲーマー、悪の組織のボスになる。~ 作:恋愛を知らぬ化け物
【暴虐死体アバレヌス】
コスト4 モンスター 種族:アンデッド・ドラゴン パワー1000
→このモンスターが出た時、手札を全て捨てる。その後、捨てた枚数より1枚多くカードを引いても良い。
→【埋葬】
‐かつて英雄と呼ばれた竜でさえ、死ねば朽ちて骨になる。
昔っから、夢を抱いて東京に行った田舎者が、都会の人の冷たさに心痛めて………と言った話は良く聞く。俺としては田舎も田舎で冷たいというか、よっぽど排他的な空気感があると思うが、まぁソレは良いとして。
───今はこの『歓迎していません出て行ってください』ムードを、どう乗り切るかだ。
「えーっと、北海道から来ました、転入生の黒井ナラクです。どうぞよろしくお願いします」
ぱちぱちぱち。一人だけ、見知った顔の少女が拍手をくれた。
笑顔の素敵な、金髪ゆるふわサイドテールの少女。ギャル
暁は別のクラスなので、それ以外はまるで知り合いがいない。当然歓迎ムードも無く、睨みだけをこちらに寄越してくれる。一部そうでもない人はいるけど、今の俺は天井の方を向いているのでどんな人が、までは分からない。
………さて。どうしてこうなったのか、一度振り返ってみよう。
そう、アレは今日の朝、学生寮を出たところから始まった───。
×───×
「改めて、特別待遇部屋広すぎるだろ。一人用じゃないなコレ」
十数年ぶりの一人暮らしに、思わず独り言が大きくなってしまう、そんな朝。
日曜の内に桃倉&暁コンビに付き添われ買い溜め食材を適当に取り出して、簡単な朝食を作る。
長い事やっていなかったが、体(この場合は魂というべきか)が覚えていてくれたようで、存外上手く作れた。
と言っても、単なるベーコンエッグなんだけど。
「いただきまーす」
朝の情報番組をBGMに、静かに朝食を済ませる。
一人部屋での物寂しい食事というだけで、映画の登場人物になった気がするのは俺だけだろうか。ちょっと気取って、時にオーバーな演技だったり、無意味な独り言なんかを挟んでみたりしつつ、十分もしない内に食べ終わる。
時間もあるし、洗い物はさっさと済ませてしまおう───とか考えていたところで、玄関のチャイムが鳴る。
食器をシンクに置いてからインターホンを確認すると、そこには昨日、一昨日と会った2人の少女が。
『黒井っち〜!迎えに来たよん!』
「ん、おっけー」
食器を水につけて、玄関へ。ドアを開ければ、朝から元気いっぱいの桃倉と、なんだが居心地悪そうにモジモジしている暁がいた。
暁のソレはいつもの事なのであまり気にせず、片手を上げて挨拶する。
「おはよ。まだ準備終わってないし、部屋で待ってて」
「えっ、へ、部屋!?ボスの!?」
「い、いい、良いんですか!?」
「別になんか盗んだりとかしないでしょ。あとボス呼びはやめろ」
「あっ、ごめん」
同級生(桃倉も暁も俺と同い年だ)にボスとか呼ばせたら、絶対に面倒なことになる。
だから気持ち強めに言ってしまったが、萎縮させてしまったようだ。怒ってるってわけでは無いんだけど………まぁ、それで今後こういうミスをしなくなるってんなら、良しとしよう。
2人揃ってオドオドしながら部屋に入り、居間で縮こまる。別にくつろいでくれて良いのだが、そうもいかないらしい。
「教科書類は、もう持ってるんですか?」
「うん。転入生用に元から用意されてたっぽい。選択科目も、転入生は強制的に『ウォイト応用』になるし」
音楽、美術、そしてウォイト応用。この世界の選択科目といえば、この3つだ。
なお音楽では対戦台から流れるBGMをメインに扱い、美術ではカードイラスト、カードデザイン等の勉強をするのが、どこの学校でも基本とされている。なんだこの世界。
「ウォイト応用って何やるんだっけ」
「基本的には
「え、そーだっけ?普通に美術取る気満々で聞いてなかった」
「もー、ちゃんと聞いてないとかザ───んっ、んんっ。ダメだよ?」
今、
誤魔化すように微笑む暁を見つつ、デッキを4つほど鞄に入れる。
普通は相棒カード一つと、それを活かすためのデッキ一つしか持たないらしいが、俺は違う。相棒に相当するカードは8枚ほどあるし、ガチも趣味も合わせれば、20を超えるデッキが手元にある。
ま、本当の意味での相棒は1枚だけなんだけど。
着替えなどはとっくに済ませていたこともあり、持ち込むデッキさえ決まればいつでも行ける状態になる。
2人に待たせてしまったことを謝罪しつつ、一緒に寮を出る。
「人が多いな」
「日本有数のマンモス校でもあるしねー。それに、今日は皆早起きだと思うよ?」
「なんで?」
「今日転入生が来るって、みんな知ってますから。早く見たいんですよ、黒井君の事を」
確かに、視線を感じる。てっきり美少女2人を侍らせて歩いていることへの嫉妬かと思っていたが、見知らぬ生徒に、「もしや噂の転入生か?」と反応していただけだったのか。
………いや、にしては視線に敵意を感じるんだけど。
「んー。………ね、瑠璃っち。これ、見せつけとくべきじゃね?」
「同感。ちょっと嫌な視線多いし」
「え、何?何の話?」
「んっふふ〜。こーいう話!」
ムギュッ。柔らかな感触に、突如包まれる。同時に、腕を組まれる。
桃倉が抱きつき、暁が腕を組んできたのだ。
あまりに唐突な事に反応が遅れると、先に暁が声を荒げた。
「はぁっ!?月夜ちゃんズッルい!!来る前に『腕組みくらいなら許してくれるくね〜?』とか話してたじゃん!!」
「えー?それは大胆になりきれない瑠璃っちの為にしてあげた、瑠璃っち向けのアドバイスじゃん。ウチは全然、こーいうのヘーキだし」
「いやあの俺がヘーキじゃないんですけど」
言うまでもない事だが、俺は魂レベルで童貞だ。彼女とか居なかったし。恋愛経験も勿論なかったし。
だから、こうして意味もなく密着されるとキョドる。舌を噛み締めてなかったら社会的に死んでたかもしれない。
ってか視線!!周りの視線がヤバくなってますお二人さん!!
「ごめん、ヤだった?」
「ヤではないです最高です。………最高なんだけど!!TPOとかあるよね!?ってか今までこんなことされた事無いけど!?え、なんで急にくっついてきた!?」
「んー………黒井っちに注目してる人多くて、嫉妬した的な?」
「なんだそりゃ」
何にせよ困ったことになっているのは事実なので、離れてもらう。
だが、今更だったようだ。
「ねぇ、あの人もしかして………」
「転入生だよね。なんか桃倉さん達に抱きつかれてたけど……」
「もしかして二股?サイテー」
「あんの男ォ………!!俺らのアイドルに良くも………ッ!!」
「暁を
聞こえてくる、軽蔑と怨嗟の声。今の一瞬で、女子にも男子にも嫌われたらしい。よしんば嫌われていなくとも、第一印象最悪に変わりはないだろう。
もっと楽しく、和気藹々とした雰囲気で、憧れの永川ウォイト学園での日常を過ごす予定だったのに………。
とは言え溜め息をついては2人を傷つけることになりかねないので、沈んだ気分は隠しつつ。
一度刺すような視線の数々は思考の外に放り出して、校舎へと向かった。
………そういえば、わからせるって言われてたけど。暁のやつ、
×───×
「黒井くんは、龍牙さんの隣に座ってくださ〜い。窓側の一番後ろの〜、空いてる席で〜す」
「えっ」
圧倒的
窓際列最後方、いわゆる主人公席だ。
だがそれよりも、よっぽど気になる名前が聞こえた。
───龍牙?永川ウォイト学園、1年の?
空席の隣に目を向ける。そこには、レッドブラウンの髪をポニーテールにした、小麦肌の可憐な少女が───。
「………龍牙、カイナ」
「へっ!?」
「あら〜?お知り合いでした〜?」
知っている。が、知り合いではない。
思わず口から零れた名前は、紛れもない彼女のモノ。
目を白黒させている彼女の方へと歩み寄り、空席に鞄を置く。
言葉は無いが、あと俺が知る彼女と少し雰囲気が違うが、間違いない。
『
「あ、あの、私達どこかで会ったことあったっけ……?」
「いや、別に」
困惑されているが、こっちも困っている。もちろん、良い意味で。
俺はてっきり、もう『IGNITE』は終わっているものだと思っていた。この転入も、聖地巡礼程度の気分で居たのだ。
だが、龍牙カイナがここに居る。一年生として、
そうか。終わってるどころか、始まったばかりだったのか。『IGNITE』。
今にして思えば、永川神徳があんな高圧的な視線を向けてきたのも、反省していなかったのでは無く、そもそも反省させられるシーンまで行っていなかったという事だったのだろう。
なんか違和感あるなーって思ってたんだよ。マジで。
───ってか、待て。今の俺、明らかに不審者では?
突然初対面の女子の名前呼んだかと思えば、会ったこと無いけど?とか言ったり………しかも突然の原作主人公に緊張して普段通り話せなかったし!
そもそもなんで主人公の隣!?確か原作での転入生って、別のクラスに来てたって話がチラッと出る程度だったはずでは!?
「じゃ、じゃあなんで私の名前を知ってるの……?」
「それは───」
教室内の全員が、耳を傾けている中。
俺は、なんとか答えを絞り出そうと頭を悩ませ、結局───
「───か、可愛い子は事前に調査してたから………」
「ゔぇ゛ぇッ!?」
桃倉、暁コンビとの登校で、女好きという誤解が広まっているだろうと判断し。
それに賭けて、嫌われてしまうことを覚悟して、渋々答えたのだった。
前置きが長すぎていつまでも対戦シーンに入れない悲しみ。