月下の花を摘むのは誰   作:ledi

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そしてもう一人

 

シオリは止まらない動悸に胸を押さえながら、夢から覚めたことを実感したいとカーテンを勢いよく開けた。

椅子にかけっぱなしのローブ、積み上げられた教科書、雑多なものであふれている景色にほっと息をつく。

ベッドの端に腰かけて床に足をつけると、こっちが現実なのだとやっと生きた心地がした。

 

 

「あれは・・・本当に夢・・・?」

 

 

ゆっくりとこちらを向こうとする影が脳裏に焼き付いて離れない。

顔が見えなくとも分かってしまった。

恐怖そのもののような圧倒的な闇をまとい、そこに存在しているだけで死を思わせる。

あんな人間が他にいるはずがない。

しかしなぜ夢に出てきたのか。

そもそもあの森は夢の中のものなのか。

シオリは考えるうちに自然と杖を取り出してそれを眺めた。

 

 

「初めてあの場所に行ったのはあなたに出会った日。あなたが連れていってくれたんだよね。さっきのもあなただとしたら、何のために・・・あの森は一体どこ・・・?」

 

 

返事があるはずもないが杖とあの森に答えがある気がしてそのまま考え込む。

ふと、杖の向こう、視界にある机の上に見慣れないものが置かれているのに気付いてシオリは立ち上がった。

そこには小さな皿に乗ったパンとソーセージ、オレンジがあった。

おまけに蛙チョコレートが二つ、隣に並んでいる。

シオリは下に敷かれている羊皮紙を見て目を細めた。

 

"夕食をとっておいたから目を覚ましたら食べて。明日も具合が悪いなら今度こそマダムポンフリーのところに行きましょう。 ハーマイオニー"

 

"フレッドとジョージに聞いたよ。大丈夫かい? 無理しないで。 ハリーとロンより"

 

 

「・・・皆優しいなあ。」

 

 

羊皮紙に書かれている字が涙でぼやける。

 

"この世界を愛し、人を愛し、ありのままでそれを成し遂げることができる"

 

いつかのダンブルドアの言葉が今、シオリの心の中にたしかな重みをもって落ちる。

今なら分かる、人は一人では生きられない。

ホグワーツでの生活ひとつとってみても、本の中だと割りきって人との関わりを諦めることはできない。

望んでも望まなくても、誰もがどこかで繋がっている。

それに気付くだけでこんなにも心が満たされるなんて知らなかった。

何かも分からない使命とやらのために気を張り過ぎることはやめて、ダンブルドアの言う通りこの世界で自分らしくありのまま生きてみよう。

 

そう決めるとシオリは急に腹が減った。

そう言えば昼間から何も食べていない。

きっともう乾いてしまっているだろうオレンジが輝いて見える。

 

 

「いただきます。」

 

 

隣で眠っているハーマイオニーに小さく声をかけて、どれもこれも勢いよく頬張った。

湿気て噛みごたえのあるパンに苦戦しながらも、恐怖に強ばっていた体がほぐれていくのを感じる。

あっという間に皿は空になり、シオリはハリーとロンがくれた蛙チョコレートの箱を開けた。

初めて食べる魔法のお菓子に胸が高鳴る。

 

 

「あっ。」

 

 

つやっとしたチョコレート色の蛙が手のひらから飛び下りた。

そんなのは予習済みだと、ベッドの下に入り込もうとする蛙を追いかけたが見失ってしまった。

垂れ下がった布団をめくってベッドの下をのぞき込むと、一枚の木の板が床に埋め込まれているのを見つけた。

 

 

「なにこれ・・・?」

 

 

このベッドを使って数日経つが全く気付かなかった。

金属の取っ手がついている。

シオリはとっくにどこかへ行ってしまった蛙のことを忘れて、さっきよりもずっと強い胸の高鳴りに任せて取っ手を引っ張った。

 

 

「どういうこと・・・どこなのこれ・・・?」

 

 

それは木の板ではなく、子供一人が通れるくらいの小さな小さな扉だった。

ギィとわずかに軋んで開いた扉の向こうは薄暗い上にすぐ壁のようなものに突き当たっている。

怪しいことこの上ないがシオリは好奇心を押さえきれず、向こう側に頭を突っ込んだ。

 

 

「こっちもどこかの部屋だ。しかもこの向きが正しい・・・こっちに入ったらあっちが下で・・・何て言ったらいいんだろ?」

 

 

シオリが見たのはベッドの下からの景色だった。

すぐそこに本棚の足が見える。

あとは小さな机に椅子があるだけの簡素な部屋だ。

部屋本来の扉の下に隙間があって光がうっすら差しこんでいる。

さらに部屋が続いているのだろうか。

シオリは両手も通して、向こう側の床をはってベッドの下から出た。

 

 

「なるほど。私のベッドの下と、こっちのベッドの下、扉は両方の床にあって上下逆さまに部屋が繋がってるんだ。面白い!」

 

 

体中にくっついたほこりも構わず、いかにも魔法という仕組みに興奮して思わず声をあげると、部屋の扉が勢いよく開いた。

明かりに目がくらんでいるうちに、素早く踏みいってきた人影がシオリに鋭く杖を突きつける。

突然のことに何もできずに硬直していると、逆光で真っ黒なシルエットになっているその人影もなぜか固まって動かなくなってしまった。

 

 

(誰だろう、なんで攻撃してこないの・・・?)

 

 

シオリの目が明かりに慣れてきた。

段々と見えてきたその人の顔は、ひどく驚いた様子で眉間に深いしわを寄せていた。

 

 

「セブルス?」

 

「・・・何をしている。」

 

 

スネイプはシオリの声を聞いて、停止していた思考がやっと動いた。

夜中に使っていない部屋から物音と人の声がして扉を開けてみると、侵入者の正体がシオリだったのだから無理もない。

ここ最近、彼女の顔が頭から消えないことに苛まれていたせいで幻覚を見たのかと思ったくらいだった。

 

 

「ここ、私が使ってた部屋か。なんだ・・・どこに繋がってるのかワクワクしたのに。」

 

「アオツキ、聞こえなかったのかね。こんな夜更けに我輩の部屋へどのようにして侵入し、何をしていたのかお聞かせ願おう。返答によっては・・・罰則で済まされることではあるまい。」

 

 

シオリは先に離れたのは自分なのに、一生徒に対するようなスネイプの態度に違和感を覚えた。

あの時は離れる方法しか思い付かなかったが、スネイプもこんな風に妙な気持ちになったのだろうか。

シオリは一瞬後悔に襲われたが、本の中で見てきた彼のイメージ通りの冷たい目と言葉にこれでいい、これが正しい関係だと思い直した。

 

 

「私のベッドの下とこの部屋のベッドの下が扉でつながってます。何か聞いてますか?」

 

 

スネイプはもちろん何も聞かされていなかったが、こんなふざけたことをするのはダンブルドアしかいないと歯をくいしばった。

部屋の主に黙って魔法の扉を取り付けるなんてことがあっていいはずがない。

しかもよりによってシオリの部屋と繋がっているとは。

スネイプは罰則で最後に見た彼女の瞳が何を語っていたのか未だに分からず、勝手に何度も頭に浮かんでくるその顔を疎ましくすら思い、決して会いたいとは思っていなかった。

むしろこのまま離れていればシオリのことなど忘れて、全ての煩わしさから解放されるはずだった。

余計なことを、と心の中でダンブルドアに悪態をつくと同時に、久しぶりに言葉を交わしたシオリにこれまでの苛立ちがつのる。

 

 

「もういい。部屋に戻りたまえ、今すぐ。」

 

 

スネイプはそれだけ言って腕を組んでシオリを睨んだ。

質問の答えとして全く成り立っていないが、スネイプの様子にシオリはダンブルドアの仕業だろうと察した。

シオリがホグワーツに慣れた今、スネイプはもう自分の世話をする必要はない。

なのになぜダンブルドアはこんなことをするのか。

二人を繋ぎ止める理由はもうないというのに。

 

シオリは言われた通りに来た道を戻ろうとベッドの前にしゃがみこんだが、スネイプの前で床をはってベッドの下に潜り込むのはあまりにも格好がつかないと床に置いた手を止めた。

この部屋の本来の扉から帰ろうか悩んでいると、スネイプがあることに気付いた。

 

 

「なぜ・・・この夜中に制服を着ている?」

 

「ああ、着替えずにそのまま寝ちゃって・・・」

 

「なぜだ?」

 

「なぜって・・・気分が悪くなっただけ。それでとにかく眠りたかった・・・んです。」

 

 

気分が悪くなっただけ。

聞いたことのある言葉にスネイプの眉がぴくりと動いた。

 

 

「いつから眠っていた?」

 

「んーと、四時くらい?」

 

「夕食はどうした。」

 

「・・・ハーマイオニーが夕食をとっててくれました。それに・・・ハリーとロンもお菓子をくれたからさっき食べました。」

 

 

スネイプはハリーたちのところでシオリが思いつめた様子で少し言いよどんだことには気付かず、その様子を観察していた。

顔色が良くない上に、気分が悪くなったと言って長時間眠るのはダイアゴン横丁の時と全く同じだ。

言動におかしなところがないということは呪いにかかっている可能性は低い。

恐らく以前倒れた時と同じ症状で、本人もそれを自覚しているが症状のきっかけについて話す気はないらしい。

シオリはやはり何かを隠している。

今回倒れたこともクィレルに関係しているのか。

そうだとすれば・・・

 

 

「私、セブルスに話したいことがある。」

 

 

スネイプは突然かけられた改まった言葉にシオリを観察するのを止めて顔を見た。

真っ直ぐにこちらを見つめている瞳に前のような揺らぎはなく、やはりこんな暗い部屋だというのに光が映っている。

しかしその表情は固く、口が重いのかなかなか次の言葉を発しない。

シオリは何度か深呼吸をし、ダンブルドアの言葉を心の中でなぞってから、再び真っ直ぐにスネイプの目を見て口を開いた。

 

 

「私、セブルスを避けてた。でも本当は逆。すっごく言いたいことがあったの。それを言うべきじゃないって思ったから、言わないで済むように離れた。失礼な態度だったと思う・・・・・・・・・ごめんなさい。」

 

 

シオリは謝るのが嫌だったのか途中しばらく口を尖らせていたが、きちんと言葉に出すことができると満足そうにふうと息を吐いた。

 

 

「今から言うことは、私が言いたいだけだから分かってくれなくていい。聞かなくてもいい。でも、言いたいから・・・ちゃんと言うから・・・だからそこにいて。」

 

 

初めて見るシオリのすがるような表情に、言われずともスネイプはなぜか動けないでいた。

 

罰則での感情的な態度、無礼な言葉遣い、この少女は今までの価値観で測れば関係を持つに値しない人間のはずだ。

彼女の知る未来のことも、利用するにはあまりに危険すぎてなんの価値もない。

そう、だからこの部屋を出ていったあの日、シオリはダンブルドアに押し付けられた面倒事からただの一生徒になったはずだった。

それなのになぜ自分はシオリのことが頭から離れないのか。

彼女と関わると自分の中に理解できないずれが生じて居心地が悪い。

書類を処理する手が思うように進まないことも、魔法薬の研究中に思考が途切れることも、グリフィンドール生をいびっても気が晴れないことも、すべてが不快だった。

この問題を解決する方法が分からずなす術がないというのは、優秀かつ他人に干渉されることを嫌うスネイプにとってかなり屈辱的なことだった。

彼女の言葉に、この問題の答えがあるのだろうか。

 

スネイプは何も言わず、シオリを見つめ返した。

シオリがゆっくりと口を開いた。

 

 

「私は・・・ハーマイオニーが好き。ハリーとロンも好き。友達と言えるほどの仲じゃなくても、私は皆のことが好きなの。だから皆を傷つけられたら・・・すごく腹が立つ。」

 

 

シオリは慎重に言葉を選んで話したが、授業でのことを思い出してスネイプを睨んではっきりと怒りを見せた。

シオリはスネイプが変わらない、変われないとしても、思ったことは伝えるべきだという自分らしい生き方をダンブルドアの言葉通り貫くと決めたのだった。

シオリはまた落ち着いた声でゆっくりと続けた。

 

 

「私はこの世界でこれから色んな人に出会って、きっとたくさんの人を好きになる。そのせいでセブルスとぶつかって腹を立てることがきっと・・・いや絶対、何度も何度もあると思う。」

 

「でも私は・・・皆を好きなのと同じようにセブルスのことも・・・・・・きっと嫌いになれない。」

 

 

嫌いになれない、そう言ったシオリの顔は悲しいとも嬉しいともつかない、スネイプが見たことのない笑顔だった。

 

 

「それが辛くて離れた・・・でももうやめる。こんな風にはっきりしないのは性に合わないし、思ってることを伝えたせいでセブルスに嫌われたっていい。どっちみち私は嫌いになれないから・・・黙ってるの苦手なのに言わないでおこうって、慣れないことして・・・この数日すごく苦しかった。」

 

「だから、これからは生徒として普通にセブルスに接して、言いたいことも言う・・・・・・それだけ、です!」

 

 

シオリは一方的に話し終わると同時に、顔を真っ赤にしてほとんど駆けるようにして部屋から出ていった。

今言われたことに頭が追い付かず、呆然としていたスネイプは、体調が悪いはずのシオリが逃げたことにはっとして後を追った。

 

 

「待て!」

 

「いや!恥ずかしい!帰ります!」

 

 

すでに扉を開けて廊下に出ようとしているシオリをスネイプが捕まえ、体に異常がないか調べようと部屋に引き戻した。

顔をのぞこうとするのを、シオリが必死に押し返してスネイプの顔に指がめりこむ。

 

 

「その症状は調べるべきだ、手を離したまえ・・・!」

 

「いーーやーーー!」

 

「っ、人の話を聞くように教わらなかったのかねっ、」

 

「今は疲れたから聞きたくない!恥ずかしい!かえ、る・・・」

 

「シオリ!」

 

 

シオリの体から急に力が抜けて、スネイプの胸に倒れこんだ。

真っ赤だったはずの顔が白くなっている。

 

 

「馬鹿者・・・!無闇に動くからだ。」

 

「馬鹿じゃ、ない・・・」

 

「口を閉じていろ。ベッドに戻って体を診る。」

 

「顔見れない・・・帰る・・・」

 

 

スネイプは腕からどうにか抜け出そうと力なくもがくシオリを鬱陶しそうに押さえつけて、懐から杖を取り出した。

 

 

「え?ちょっと・・・!」

 

 

ロープが手足に巻き付く感覚がして見てみると、ロープは見えないが両手と両足がそれぞれきっちりくっついて動かなくなっている。

力を入れてみてもびくともしない。

 

 

「わあ、すごい。」

 

 

なんて役に立ちそうな魔法なんだと感心していると、スネイプに体を抱き上げられてしまった。

シオリは逃げることを諦めてため息をついた。

 

 

「生徒を縛るなんて・・・そんなとんでもない先生どこにいるんですか。」

 

「今はお前は生徒ではない。」

 

「じゃあなんなの?」

 

 

スネイプは一瞬考えるような顔を見せたが言葉が見つからなかったのか、そのまま小部屋に行ってシオリをベッドに横たわらせた。

スネイプがその隣に腰かけると小さなベッドがぎしっと音を立てた。

 

 

「顔を見せろ。」

 

 

スネイプがシオリの顎に指を添えてよく見えるように自分の方に顔を向けさせた。

視界いっぱいに眉間にしわを寄せた難しそうな顔がある。

暗い瞳が何も見逃すまいとゆっくりとシオリの顔を観察している。

まばらに垂れ下がったスネイプの黒髪を、案外きれいだなと思いながらシオリはされるがまま大人しくした。

 

 

「睡眠と食事は十分とっていたか?」

 

「うん。」

 

「今日以前に同じ症状は?」

 

「いや、なかったけど・・・それよりこれ・・・」

 

 

シオリがくっついたままの手足を持ち上げて見せたが、スネイプは一瞥しただけで動けないシオリをおいて部屋の外へ出ていった。

こんな時に限って背中がむずむずしてくる。

どうにかそこを引っ掻こうとやっきになって腕を振り回したが、肩の関節あたりで不吉な音がしたのでそれ以上はやめた。

しばらくしてスネイプが小さなゴブレットを持って戻ってきた。

嗅いだことのない濃い土のような臭いの黄土色の煙が立っている。

この煙の色もかなり不吉だとシオリは思った。

この色で味がいいということはないだろう。

 

 

「・・・嫌だからね。そんな気持ち悪い煙が出てるもの飲んだらもっと元気なくなるって。」

 

 

スネイプはゴブレットを持ったまま、もう片方の腕でシオリを抱き起こして背中を支えた。

目の前に来るとまた臭いが強烈だ。

シオリの顔がひきつる。

 

 

「飲みたまえ。」

 

「話聞いてます・・・?」

 

「ダイアゴン横丁の時と同じ症状だと分かっているだろう。これはあの後煎じておいたものだ。」

 

 

あの時、シオリはホグワーツに着くと起き上がることもできずそのまま朝まで眠ってしまったが翌日には回復していた。

それなのにわざわざ次のために薬を用意していたということか。

使う日が来るかもわからないのに、自分のために薬の調合をしているスネイプの姿を想像してシオリは胃のあたりがむずむずとした。

ゴブレットとスネイプを交互に見てシオリは小さく口を開けた。

ゴブレットが唇にあてられた。

 

 

「ぅぅぅうわ!なにこれ!うわ!」

 

「・・・騒げるのなら問題あるまい。」

 

 

想像以上の臭いと味にシオリが叫んだ。

舌触りまで最悪で飲み込んだ後も口の中がべたついてざらざらとしている。

しばらくシオリの騒がしさと離れていたスネイプはこめかみがきんと痛んで顔をしかめた。

 

 

「しばらく寝ていろ。朝まで経過を見る。」

 

「・・・ねえセブルス、さっき言ったことだけど・・・私のことおかしなやつだと思った?」

 

 

薬の効果なのか、シオリがほんのりと頬を赤く染めてスネイプを見上げた。

スネイプは少しの間その顔を見て黙っていたかと思うと、立ち上がって私室の方へと向かった。

 

 

「論理性に欠き、騒々しいことこの上なく、なんとも煩わしい・・・お前のことを理解できるとは思っておらん。」

 

「ふふっ、奇遇ですね。私もセブルスのこと全然理解できない。」

 

 

スネイプは何も言わず、背を向けてただ扉の側に立っている。

シオリは段々と意識がふわふわとしてきてぼんやりと見慣れた天井を見つめた。

やっぱりこの部屋が自分の部屋で、一番落ち着く場所だ。

ゆっくり近付いてくる眠気を心地よく感じていると口の中がまだべたついていることに気付いた。

 

 

「ねえ、やっぱりさっきのやつ、味酷すぎるよ。あとで何か飲み物ちょうだい。ミルクと蜂蜜たっぷり・・・紅茶、と、か・・・」

 

 

言い終わらないうちにシオリはくったりとして動かなくなった。

小さな寝息がすうすうと聞こえてくる。

スネイプがベッドに戻って杖を振った。

自由になったシオリの手足がぱたっとシーツに倒れる。

スネイプは小さな体に布団をかけて部屋を出た。

 

今あったことをダンブルドアに報告しなければならない。

繰り返される症状、不規則なタイミング、訳を話さないシオリ・・・考えることはたくさんあるが、さっきの穏やかな寝顔はスネイプの胸のつかえをとるのに十分だった。

解決してしまえば、なぜ自分がシオリの態度にこだわっていたのか、なぜ自分があんなにも苦しんでいたのかはどうでもいいことに思えた。

 

お互いを理解できなくてもいい。

もう浮かんでこなくなったシオリの揺れる瞳のかわりに、この言葉がスネイプの頭に強く残った。

 

 

 

翌朝早く、スネイプが紅茶を淹れた。

シオリはミルクと蜂蜜をたっぷりと入れてそれを飲みほした後、ベッドの下からこそこそと寮へ戻っていった。

その日からスネイプの私室へと繋がる小部屋の扉は常に開かれ、紅茶用の戸棚には一人で使うには多すぎるたっぷりのミルクと蜂蜜が置かれるようになった。

 

 

 

 

 

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