月下の花を摘むのは誰   作:ledi

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医務室へ

 

 

「早く医務室へ行って戻してもらいなさいよ。」

 

「僕はそれはそれでいけてると思うけどな。」

 

 

自分でばっさりと切ってしまった髪の毛をそのままにしているシオリにハーマイオニーとロンが言った。

 

 

「なんだか、その、ロック歌手みたいだ。でも僕も元の方がいいと思う。」

 

 

子供にいたずらされた人形のような頭を見てハリーが遠慮がちに言った。

 

 

「別に私はこれが気に入ってこのままにしてるわけじゃないからね。ついつい医務室に行くのめんどくさいなーと思って気付けば消灯時間に・・・」

 

「じゃあ今から行きましょう。」

 

「え!今はダメだよ、あと十五分で昼食なのに。昼食の後に行ってくる。」

 

「分かったわよ。明日は絶対に連れて行きますからね。」

 

「大丈夫、ちゃんと今日行くから。」

 

「あなたの"大丈夫"を信じられると思う?あんなことして、本当に死んじゃうところだったのよ!もう二度と一人で・・・」

 

 

シオリが”大丈夫”と言って一人でトロールに立ち向かっていき、まんまと握り潰されかけたことはハーマイオニーのトラウマになったらしい。

今日も愛らしいハーマイオニーの小言にシオリはにこにこと嬉しそうにしている。

 

 

「でもみんな大丈夫だったんだからよかったよかった。」

 

「だから!あなたは・・・」

 

 

友人だとは思えないくらいずっと小言をくらい続けているシオリを横目に、ロンがハリーの肩をつついた。

 

 

「シオリってタフだよな。僕なら黙ってる分トロールの方がまだましに思えるよ。」

 

「タフっていうか・・・ちょっと変だよ。」

 

 

ハリーはシオリがよく笑い、よく食べ、時には怒るところを見てきたが、不思議といつも一歩離れたところにいるような遠い存在に感じられて、彼女が本当はどんな人間なのだろうと思うことがあった。

裏表があるとかそんなことではなく、何か浮世離れしたようなおかしな感じがするのだ。

 

 

「そりゃ変さ。スネイプに楯突いて、マルフォイをノックアウトして、トロールまで一人で倒そうとするんだから。」

 

「そうだね・・・噂をすれば、だ。マルフォイがいる。」

 

 

マルフォイがクラッブとゴイルを引き連れて廊下の真ん中を偉そうに歩いているのが見える。

お菓子を抱え貪っているクラッブとゴイルは廊下のほとんどを塞いでしまっていて、皆が壁に張り付くようにして二人を避けている。

このままだとハリー達にぶつかるだろう。

避ける気などさらさらないハリーとロンはずんずんと足を早めた。

 

 

「やあポッター。箒から上手に落ちる練習は順調かい?ロングボトムよりはましだといいが。」

 

 

明日はハリーのクィディッチデビュー戦だ。

学校はよくも悪くもその話で持ちきりでマルフォイはこの状況を気に入らないに違いなかった。

ハリーはマルフォイが内心うらやましくて歯軋りしているだろうことを分かっていた。

 

 

「君にもらった箒はとってもいい調子だから落ちるのは難しいかもね。それより君の友達が邪魔で通れないからちょっと痩せるように言ってくれないか。」

 

「そんな口を聞けるのも今日までだ。明日には学校中の笑い者さ。ウィーズリーとあと誰がマットレスで君をキャッチしてくれるのか決めて・・・」

 

 

ハリーの言葉にマルフォイは笑顔を崩し、次にハリーの後ろからやってきたシオリを見つけ、いつも意地悪くせせら笑っている口をあんぐりと開けた。

これでもかと見開かれた淡いグレーの瞳が丸いガラス玉のようだ。

 

 

「急にどうしたんだ?」

 

 

ロンだけでなく、クラッブとゴイルもマルフォイの様子に首を傾げた。

 

マルフォイは飛行訓練の授業以来、ずっとシオリを避けていた。

その後ろ姿を見かけるだけで目も足も釘付けになる自分を何かの病気じゃないかと疑ったり、ハリー達がトロールを倒した日から彼女がハリー達といるようになったと聞いて面白くなく思っている自分を認めたくなかったり・・・

とにかく、シオリに会わなくてもマルフォイの頭の中は彼女のことで忙しかったのでそれ以上の刺激は避けたかった。

冷静になって思い返してみると、大勢の前で女性に拒否されるという醜態をさらしたことは間違いなく、これ以上事態を悪くしたくないと思うのは当然ではある。

決して、嫌いとはっきり言われたこと自体に傷付いてシオリから逃げているわけではない。

決してそんなことはない。

 

そんな中で思いがけず一ヶ月ぶりにシオリを正面から見てしまったマルフォイは、彼女を避けなければならないことなど忘れて、まるで魂を抜かれた操り人形のようによたよたと歩きだした。

余りに異様な姿にハリーまでその様子を見守っていると、マルフォイがシオリの目の前で足を止めた。

 

 

「お前・・・その、その髪はどうしたんだ・・・」

 

「え?」

 

 

マルフォイはずたずたになったシオリの髪を見て震えた。

短くなってしまった髪に恐る恐る手を伸ばしてそっと触れる。

 

 

「どうしてこんな・・・トロールか、その時にこんな・・・」

 

「ちょっと、なんなの?」

 

 

ハーマイオニーのたしなめる声も聞こえていないのか、マルフォイが構わずシオリの体を隅々まで点検するように見る。

 

 

「怪我は?怪我はないのか?他にどこか・・・」

 

「あー、足をつかまれたのは痛かったけどこの通りまだくっついてるよ。」

 

 

シオリがトロールにわしづかみにされている所を想像してマルフォイは元から白い顔を真っ青にした。

見開いていた目が細められて、いつもは涼しい端整な顔が苦しそうに歪んだ。

シオリは今にも泣き出しそうに見えるその歪んだ顔を美しいと思った。

 

 

「もしかして心配してくれてるの?」

 

 

その言葉にマルフォイは目が覚めたのか、ちぎれてもなお艶やかな黒髪に触れていた手を素早く引っ込めた。

 

 

「そんなわけないだろう!お前みたいな・・・」

 

「ありがとう。」

 

「〜〜〜っ、は、早く医務室へ行って、治してもらえ・・・」

 

 

目の前にいるシオリにしか聞き取れないような小さな声だったが、それが彼の精一杯だった。

 

 

「うん。」

 

「お、お前達行くぞ!早く来い!」

 

 

(くそっ、くそっ、なんだこれは・・・心臓が痛い。最悪な気分だ、いっそ病気であってくれ・・・僕があんなグリフィンドールの女を・・・いやまさか・・・)

 

 

マルフォイはまだ木霊しているシオリのありがとう、という声に溶けそうになる頭を叩き起こして走るようにその場を去った。

 

 

「変なやつ。シオリ、あいつ君になんて言ったんだい?」

 

「髪の毛ちゃんとしろって。」

 

「わけわからないな、あいつは君のパパか何かのつもりか?」

 

「・・・シオリ、もう昼食の時間よ。」

 

「あっ、早く行こう!シェーマス達にお肉全部取られたら私・・・」

 

「僕のをあげるからこの前みたいに取り合いするのはやめなよ。」

 

 

何事もなかったように大広間へと向かう四人。

耳まで真っ赤に染まったマルフォイの顔をハーマイオニーだけは見ていたが、何も気付く様子のないシオリに教えてやるほどお人好しではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の休み時間、四人は凍りつくような中庭で身を寄せ合っていた。

背中にはハーマイオニーが作った青い炎の入ったジャム瓶が暖かく揺らめいている。

白い息を吐きながら取り留めもない話で初試合が迫ったハリーの緊張をほぐしているとスネイプがやってきた。

せっかくのすっきりと気持ちいい秋の午後を、冷たい黒い目と真っ黒の衣に身を包んだ姿が心寒く暗くさせる。

ハリーはスネイプが片足を引きずっていることに気付いた。

四人は火を使うことはきっと禁止されてるに違いないと、体をぴったりとくっつけて瓶を隠した。

しかし、さも悪さをしているという顔つきがスネイプの目に止まった。

さあどのようにして減点してやろうという声が聞こえてきそうなスネイプの表情が、シオリを見て一瞬陰った気がしてハリーは隣でくっついているシオリを見た。

 

 

「・・・ポッター、そこに持っているものは何かね?」

 

 

ふいにかけられた声にハリーは言われる通り持っていたものを差し出した。

ハーマイオニーが貸してくれた「クィディッチ今昔」という本だった。

 

 

「図書館の本は校外に持ち出してはならん。よこしなさい。グリフィンドール五点減点。」

 

 

ハリーは不満を隠さない目でスネイプを見上げたが、スネイプの暗い瞳はもうシオリを見ていた。

 

 

「アオツキ、いつまでその髪でいるのだ見苦しい。身なりくらい整えたまえ。今日中に医務室へ行くように。」

 

「はーい。」

 

 

気の抜けた返事にロンは吹き出し、ハーマイオニーはシオリを肘で鋭く突いた。

機嫌を損ねてさらに減点されると思いきや、スネイプは黙ってハリーに視線を移してそれからシオリとハリーがくっついて隙間のないはずの辺りを苦々しそうに睨んで行ってしまった。

ハリーは自分を憎んでいると感じるいつもの視線とはまた違うものを感じたが、スネイプが自分を嫌っていることに変わりはないと考えるのをやめた。

 

 

「規則をでっち上げたんだ。本を持ち出しちゃいけないなんて聞いたことないよ。」

 

 

ハリーがぶつぶつと怒りながら歩くのにシオリ達が着いていく。

 

 

「残念だったね。取り返しにいったら?」

 

「そうだな、そうしよう・・・ところで、あの足はどうしたんだろう?」

 

「知るもんか。でもものすごく痛いといいよな。」

 

 

ロンが悔しそうに言った。

 

 

 

 

 

 

 

その夜、ハリーは我慢できずに本当に本を取り返しに行った。

そこでスネイプの足にある大きな傷を見てしまい、たった今見てきたことを三人にひそひそと話した。

 

 

「わかるだろう、どういう意味か。ハロウィーンの日、三頭犬の裏をかこうとしたんだ。あの犬が守っているものを狙ってる。トロールはあいつが入れたんだ・・・みんなの目をそらすために。箒を賭けてもいい。」

 

「そんなはずないわ。確かに意地悪だけどダンブルドアが守っているものを盗もうとする人ではないわ。」

 

「おめでたいよ君は。先生はみんな聖人だと思っているんだろう。」

 

 

シオリは盛り上がる輪の中で、足を引きずるスネイプの後ろ姿を思い出していた。

マダムポンフリーのおかげですっかり元に戻った髪をくるくると遊ばせているとハリーと目があった。

 

 

「シオリもスネイプがやったと思うだろう?」

 

「うん、思う。」

 

 

ためらいなくそう言ってまだ続く三人の言い合いを遠くに聞きながら、明日の試合で闇の魔術相手になんとかハリーを守り抜き、ローブを燃やされるスネイプのことを思って、シオリは長いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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