月下の花を摘むのは誰   作:ledi

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不味い紅茶

 

 

風が強く吹いてさらに冷たくなってくる夕方。

ローブを閉じてマフラーをしっかりと巻き直した四人が足早く校庭を横切る。

ハリーは今日のクィディッチデビュー戦で見事にスニッチをつかみ、試合はグリフィンドールの大逆転に終わった。

その興奮はなかなか冷めず競技場からはまだ騒がしい声が聞こえていたが、四人はハグリッドの小屋へと向かっていた。

ハリーがスニッチを取ったことよりも重大なことが起こったからだった。

 

 

「スネイプだったんだよ。」

 

 

神妙な顔のロンをおかしく思いながら、シオリは固そうな毛皮で被われたハグリッドの大きな背中を見てそれから部屋の中を見回した。

初めて来たハグリッドの小屋は外から見ると薄汚れたまさに小さいただの家屋だったが、中にあるものはどれもシオリの知るものより二回りは大きくて自分が縮んだような不思議な気分になった。

その家具にぴったりの大きさのハグリッドが、四人も詰めかけて狭くなったテーブルに客人用だろう人間サイズのティーカップを四つ並べた。

ハグリッドの淹れてくれた濃い紅茶を一口飲んで、さあとロンが息巻いた。

 

 

「ハーマイオニーもシオリも、僕も見たんだ。ハリーの箒にブツブツ呪いをかけてた。ずっと君から目を離さずにね。」

 

「バカな。なんでスネイプがそんなことをする必要があるんだ?」

 

 

どすんと大きなソファに腰かけながらハグリッドが笑った。

三人が顔を見合せどう言おうかと迷っている中、シオリはファングの歓迎を受けてびちょびちょになった手をどうしようか悩んでいた。

ハグリッドがカビが残って黒ずんだクロスのような大きな布をくれたので、シオリはその端のまだ少しピンク色が残っているところで一生懸命に手を拭いた。

 

 

「あいつ、ハロウィーンの日に三頭犬の裏をかこうとして噛まれたんだよ。あの犬が守ってる何かをスネイプが盗ろうとしてるんじゃないかと思うんだ。」

 

 

ここ何日もかけてたどり着いた推測をハリーが意を決して隠さず言うと、ハグリッドはティーポットを落としてしまい、熱い紅茶が机に広がった。

それをぼろぼろのタオルで乱暴にぬぐいながらハグリッドは怒ったように四人を見た。

 

 

「なんでフラッフィーを知ってるんだ?」

 

「フラッフィー?」

 

「あいつの名前だ・・・パブで会ったやつから買ったんだ。俺がダンブルドアに貸した、守るために・・・」

 

「何を?」

 

 

ハグリッドはそれから色々なことをしつこく問い詰めようとする三人をかわすのに四苦八苦だった。

シオリは拭き終わる度に舐められる手を諦めてファングの口に入れっぱなしにして紅茶をすすった。

 

 

「ハグリッド、私、呪いをかけてるかどうか一目で分かるわ。じーっと目をそらさずに見続けるの。スネイプは瞬き一つしなかったわ。この目で見たんだから!」

 

「お前さんらは間違っとる!」

 

 

もうたくさんだとハグリッドが声を張り上げた。

 

 

「俺はハリーの箒がなんであんな動きをしたかは分からん。だがスネイプは生徒を殺そうとしたりはせん。よく聞け。お前さん達は危険なことに首を突っ込んどる。あの犬のことも、犬が守ってる物のことも忘れるんだ。あれはダンブルドア先生とニコラス・フラメルの・・・」

 

「ニコラス・フラメルって人が関係しているんだね?」

 

 

ハリーは聞き逃さなかった。

ハグリッドは口を滑らせてしまった自分自身に強烈に腹を立てて、ついに四人は小屋から追い出された。

シオリはローブを噛んで引き留めようとするファングを一撫でして一番最後に小屋を出た。

 

 

「ハグリッド、紅茶ごちそうさま。」

 

「おい、シオリ、やっこさんらは完全に熱が入っちまってる。お前さんはちいとましなようだから言っとくぞ。これは本当に危険なことなんだ。ハリー達が余計なことをせんように見張っとってくれ。」

 

 

シオリがこくこくと頷いて、さも真剣に話を聞ているという顔を見せたのでハグリッドは少し安心したようだった。

 

 

「任せて。ハリー達がやり遂げられるようにちゃんと見守るよ。」

 

「そうだ、しっかりやってくれるように・・・ん?」

 

 

シオリは手の匂いを嗅いで顔をしかめながら、ハグリッドの叫びを背中に受けていそいそと三人の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寮に戻ってからも陰謀渦巻くスネイプ悪人説の熱は冷めることはなかった。

ニコラス・フラメルが誰なのかという話題とを行ったり来たりしながらハリー達のひそひそ話は消灯まで続いた。

シオリは時々相づちをうって議論を加速させながら、これからずっとこうしてハリー達に憎まれ続けるスネイプを憐れに思い、今頃どうしているだろうとぼんやり考えていた。

 

 

 

 

 

 

みんなが寝静まった夜中、シオリはそっとベッドを降りて床に這いつくばった。

一見なんの変哲もない木の板に手をかけて、もう一つの部屋に頭を突っ込む。

 

 

「あれ?なんで扉閉じてるんだろ。」

 

 

スネイプの私室から射し込んでいるはずの明かりがなく、小部屋の中は真っ暗だ。

いつものようにベッドの下から這い出して、ノブに手をかけてみるが動かない。

鍵までかかっているらしい。

シオリはためらわず杖を出した。

 

 

「アロホモラ。」

 

 

かちゃりと小気味いい音をたてた扉を開けてスネイプの部屋に入ると、部屋の主が真正面に立って明らかに不機嫌な顔でこちらを見下ろしていた。

 

 

「こんばんは。」

 

「我輩はその扉に鍵をかけたはずなのだがね。」

 

「開けときました。」

 

「寮に戻りたまえ。」

 

 

冷たい声がはっきりと拒絶を示している。

不機嫌なのにも関わらず妙に凪いでいる部屋の空気が嵐の前の静けさのようで皮膚がひりつく。

二人はじっと互いを見つめて動かなくなった。

ジリジリと音がしそうな視線のぶつかり合いは、意外にもシオリが先に顔をそらして途絶えた。

シオリは部屋の中を見渡した。

机の上にいつもの書類の山はなく薬を調合している様子もない。

 

 

「何してたんですか?」

 

「今日の件で我輩には考えるべきことが山のようにあるというのは君も知るところだと思うがね。君のお相手をする時間はない、ゆえに寮に戻りたまえ。」

 

 

もちろん分かっている。

クィディッチの試合で箒が暴走し、ハリーが殺されかけたことだ。

あまりにも直接的な方法をとってきたことは彼の想定外だったのだろう、しかもこのホグワーツで。

普段はハリーを見ればジェームズを憎む感情のままに虐げて、ハリーが危険な目にあえばリリーのことを想って胸を割かれたように苦しむ。

なんて生きにくい人なのだろう、改めてこんな風にはなりたくないと思う。

しかしスネイプが今や他人ではなくなったからなのか、同情と言うにはもう少し複雑な感情に連れられてシオリはここに来たのだった。

 

 

(来てみたものの、私には何もできないしな・・・ハリーが助かるって知っている私じゃ共感もしてあげられないし。)

 

 

そういう時は側に人がいるだけでも違うものだと母が言っていたのを思い出す。

母がこれほどややこしい人間に会ったことがあるかは置いといて、シオリには少なくともスネイプをこのまま一人にすることはできなかった。

 

 

「そういう時は・・・」

 

「今すぐその口と扉を閉じて去るのだ。今、すぐに。」

 

 

いつもと変わらぬ調子のシオリのせいか、スネイプが耐えきれないという風に突然声を荒げた。

やはり相当虫の居所が悪いらしい。

シオリは何も言い返さず肩をすくめて大人しく引き下がるかに思えたが、小さい体でするりとスネイプの脇を通り抜けた。

 

 

「このっ・・・!」

 

 

首根っこを捕まえようと乱暴に伸びてきた手をしゃがんで避けて紅茶棚の方へと向かっていく。

まるで自分の部屋のようにごく自然にポットと茶葉を出した。

スネイプが地を這うような低い声で、シオリの背中に怒りを投げかけた。

 

 

「何をしている。」

 

 

シオリはくるりと振り向いたが、聞こえていないという風に何も言わずまた前を向いた。

カチャカチャと食器を動かす音がする。

 

 

「君の耳は実に都合よくできているようですな。人の部屋でなぜそのような横柄な振る舞いができるのか我輩の理解の範疇には・・・」

 

 

ネチネチと続く嫌みを遮るように、また振り返ったシオリが杖を振った。

白い火花が線を描き、空中に文字が浮かぶ。

 

 

"口を閉じろと言われたから閉じている"

 

 

スネイプのこめかみにいくつもの青筋が立った。

この極めて不愉快で無礼な子供を追い出すためなら多少手荒い手段を使っても構わないだろう、いや痛い目に合わせてもいいくらいだ。

そう思いながら杖に手をかけて何の呪文にするか怒りに唇を震わせていると、目の前に一杯の紅茶が差し出された。

カップをかかげる幼い少女は真っ直ぐにスネイプを見つめている。

 

 

「・・・何の真似だ。」

 

「・・・・・・」

 

 

スネイプはシオリと紅茶を見比べて、大きな舌打ちをした。

 

 

「口を開いて返事をしろ。」

 

「紅茶でも飲んで一息つきましょう。」

 

 

何を言っているのか、これほどはっきりと怒りを露にしている相手に紅茶を飲め?

シオリの全てに腹が立つのはしばらく離れていたせいなのか、それとも元からこうだったか。

どちらにせよ、スネイプはシオリがしばらく訪ねて来なかったことへの苛立ちがつい口をついた。

 

 

「もう随分と顔を見ないと思っていたらこれか。一体どういう神経をしているのか・・・」

 

「来てほしかったんですか?」

 

「黙れ。」

 

 

スネイプが歯を剥き出して怒鳴った。

暗い瞳にはっきりと怒りが見える。

シオリは恐ろしい形相に少し体を反らしながらも、その怒りから目をそらさず再び杖を振った。

 

 

 

"私は恋しかったです"

 

 

 

目の前でパチパチと音を立てているそれは間違いなく今シオリが紡いだもので、地下室で眩しいほどに輝くその文字をスネイプは凝視した。

本当にぴくりとも動かなくなった。

何か言おうとしていたのだろう、口を開けたまま固まっている姿には滅多に見れない滑稽さがある。

 

 

”この部屋と紅茶がないと疲れがとれない”

 

 

そう続いた文字を挟んで、二人は長い間見つめ合った。

言葉の通りなのだろう、シオリの顔にはなんの思惑もなく、刺すような部屋の空気が次第に和らいでいった。

やがてスネイプは口を閉じて作業机へと向かいどさりと腰を下ろした。

いつもより乱暴で品のない動作に、やはりスネイプは心労で弱り果てているのだと、シオリは紅茶を持って駆け寄った。

 

 

「セブルスと同じようにしたから美味しく入ったと思う。冷めないうちにどうぞ。」

 

 

スネイプはシオリを見ずにカップに口をつけた。

 

 

「・・・茶葉が多い。」

 

「え?同じようにしたのに・・・あっ、二人分の茶葉で一人分だけ淹れたかも。」

 

 

スネイプはもう一口飲んでカップを置いた。

引き出しを開けて生徒のレポートを大量に取り出した。

書き込みだらけのレポートはすでに採点済みのようだ。

このうちの一体いくつが再提出を免れるのだろう、そしてなぜこの男は自分の仕事を増やすのだろうか。

シオリがスネイプの理解できない部分の一つに苦笑していると、すっと一つのレポートが差し出された。

 

 

「今修正するならば受け取ってやる。教科書はそこにあるものを使いたまえ。」

 

「あちゃあ、ここ足りてなかったか。ハーマイオニーの言うこと聞けばよかった。」

 

 

シオリはスネイプの右隣に椅子を置いた。

教科書を開いて俯く顔に、すっかり元の長さに戻った黒髪がかかる。

シオリが髪を耳にかけて背にやった。

ハロウィーンの夜の傷ついた姿が思い出せないくらい、まるで何事もなかったかのようにさらりと流れたその髪をスネイプが見つめる。

見られていることに気付かず黙々と羽ペンを動かすシオリが足を組んだ拍子に、寝巻きの裾がめくれあがって左足の太ももが露になった。

ふいに見えた白い肌に視線が動く。

 

 

「・・・なんだそれは。」

 

「え?」

 

 

スネイプの視線の先には、白い足にはっきりと浮かぶ紫色のまだら模様があった。

 

 

「あー、トロールにつかまれた時に内出血してこんな感じに・・・」

 

「マダムポンフリーのところへ行ったのではなかったのか?」

 

「行ったけど、折れてるわけでもないし日にち薬だって。もうほとんど痛くないし大丈夫だよ。」

 

 

もう数日経つというのにあまりにもはっきりと残っているそれに違和感を覚える。

魔法生物の中でも狂暴さと力の強さでは軍を抜くトロールに捕まってよく平気な顔でいれたものだ。

下手をすれば内臓を全て絞り出されていたかもしれないのに。

あの日、四人の中で誰よりも酷い格好で立っていた小さな体を思い出す。

 

 

「なぜあのような愚かな真似をした。」

 

 

突然また刺々しくなったスネイプにシオリは首をかしげた。

 

 

「どれのことですか?」

 

「お前ならば助けを呼ぶ呪文を思い付いただろう。なぜポッター達とトロールを仕留めようとした?」

 

「・・・そうしないといけなかったからです。」

 

 

求めている答えではないのだろう、スネイプはまたシオリを睨んだ。

 

 

「もし命を落としていたらどうなったか、考えてみたのかね?お前のいた世界に戻れる保証はどこにもありはしない、非常に愚かな行為だった。なぜそこまで軽率になれるのか我輩には分かりかねる。」

 

「そんなの考えてもなかった・・・そんな暇なかったし。その時の私が私の体を動かすから、後の事は後の私がまたどうにかする。そうやって決断していかないと・・・じゃないと大事なことを逃すと思います。」

 

 

シオリがなんでもないことのようにレポートを書き足しながら言った。

 

 

「それがグリフィンドールの勇敢さだとでも言うのか。短絡的なお前たちの言いそうなことだ。」

 

「もちろん死ぬのは怖かったですよ。でも、どんな形であれ私がいつかこの世界から消えるのは決まってることだから。あの時はハリー達の命が危なかったし、私が死ぬべき時が決められてるならそれが今なんだって、それだけだった。」

 

 

シオリが顔をあげた。

何を考えているのか、いつもと変わらず光を映す瞳がスネイプを見た。

 

 

「私がいつ消えてもおかしくないってこと、セブルスは分かってるでしょ?」

 

 

スネイプは驚いたような妙な顔でシオリを見て動かなくなった。

シオリ自身も、自分の言葉がやけに悲しく聞こえて次の言葉が出なかった。

ハリー達と過ごす時間が楽しく、幸せだと感じる度に自分に言い聞かせていたのだ。

これは夢で、明日には家族と元いた日常を送っているかもしれない。

この世界を救うために定められた死が明日にも待っているかもしれない。

人を愛しながら頭ではいつも別れのことを思わなければならないなんて。

今こうして過ごす何気ない時間も、いつか来る別れと悲しみを育てるだけのものなのだろうか。

しばらく沈黙が続いた後、スネイプがふいに立ち上がりシオリの前に膝をついた。

 

 

「えっ、なに?どうしたの?」

 

 

突然のことに椅子を引いて立ち上がろうとしたが、大きな手がシオリの足をつかんでそれを止めた。

 

 

「わっ。」

 

 

冷たい手が温かく柔らかい肉をつかみ、彼の年相応の手のひらの固さが直に伝わってくる。

決して乱暴ではないが強引に足を引かれて座り直させられ、椅子から落ちそうになりながら机と座面をつかんでなんとか姿勢を保つ。

戸惑うシオリを見もせずに、スネイプはまるで薬を調合する時のような迷いのない動きで寝間着の裾をめくりあげ、現れた痛々しく大きな痣をじっと見つめた。

シオリは自分の足元に跪いているスネイプのズボンが上がって足首が見えていることに気付いた。

 

 

(包帯・・・足を引きずるくらい痛いのにこんな風に膝ついて・・・)

 

 

真っ黒な服にやけに浮いて見える白い包帯は血に汚れてはいないが傷はまだ痛むはずだ。

この世界に来るまでは、自分のことは構わず人のことばかりの彼を愚かだと思っていた。

こんな風になりたくないと今も思う。

だが今はまだこの程度で済んでいる傷がいつかもっと大きく恐ろしい力に変わって彼を襲う時、自分はどうしたいと思うのだろう。

そう遠くない定められた未来がちらりとよぎり、シオリは頭を振った。

そうして気を取られていると、スネイプが今度は痣の模様に杖を沿わせ始めた。

ふいに与えられた刺激に息が止まる。

 

 

「・・・っ、」

 

 

シオリは決して心地よくはないその感覚に身を引きながらも、それ以上動かなかった。

くすぐったい感じがしてびくっと跳ね上がりそうになる体を抑えることにいっぱいいっぱいだったのもあるが、スネイプが優しくも無機質に自分を扱う姿に目が離せなかった。

小さな胸で心臓が大きく脈打つ。

 

 

(この人、何してるんだろ・・・変な感じがしてどうしたらいいかわかんない・・・)

 

 

焦らされるようなゆっくりとした杖の動きにどれだけ耐えてもスネイプが手を離してくれることはなく、それどころか彼の杖は広がっている痣を追ってシオリの太ももの内側を丹念になぞり出した。

 

 

(あっ、我慢できな、い・・・・・・)

 

 

体の内がじんと熱くなって反応しそうになるのを唇をぐっと噛んで耐える。

杖先が敏感なところを這う感覚と、スネイプの骨張りつつも整った指先が足をつかんでいる感覚とが混ざって、どちらに撫で回されているのか分からなくなってくる。

それにスネイプの暗い瞳が余りにもじっとそこを見るものだから、シオリは触れられているところだけでなく背筋までぞくぞくとしてきてしまった。

快とも不快とも言いがたい感じたことのない刺激に脳が溶けて使い物にならない。

自分を押さえているスネイプの手がわずかにずれて肌を撫でた時、シオリは堪えきれずつい小さく息を漏らしてしまった。

 

 

「あ、んっ、・・・」

 

 

急いで咳をして顔を反らしたが誤魔化せただろうか。

顔に集まる熱をどうしようかと慌てていると、スネイプは跪いた時と同じく突然ぴたりと手を止めた。

一瞬の間の後にすっと立ち上がり薬棚へと向かう。

 

 

「お前はまだ子供だ。その身を捨てるように使う前に学ぶべきことがある。多少は魔法を使えるからと言って己を過信するのではなく更に精進しろ。」

 

 

薬を探していて顔は見えないが、いつもと変わらぬ低く厳しい声にシオリも顔の火照りを冷まして調子を取り戻した。

 

 

「別に、うぬぼれてるつもりなんかないけど・・・」

 

 

口を尖らすシオリに小瓶が差し出された。

 

 

「一日三回、食事の後に飲みたまえ。その痣には魔力や呪いの類いが込められている様子はない。瓶が空になる頃にはその痣も消えるだろう。」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

「我輩は校長からお前のことを一任されている。お前に何かあれば我々の計画に支障が出るのだ。今後、その使命とやらに直面した時は一人で動くのではなくまず我輩の手を頼りたまえ。不本意とは言えいつでもお前はここに来ることができるのだから容易いことだとそう思うが・・・どうかね?」

 

「できる範囲で・・・あ、いや、そうします。」

 

 

ぎろりと睨まれて付け足した言葉は決して嘘ではない。

言えないことばかりの中でスネイプを満足させられる可能性は低いだろうが、以前よりずっと分かりやすくなった心配の言葉にシオリは応えようと思った。

それからスネイプの機嫌は戻ったようで、シオリの淹れた紅茶をのむ時だけは毎回顔をしかめていたが、空になったカップを嬉しそうに片付けるシオリを見ている時は眉間の皺がいつもより和らいでいた。

 

 

 

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