月下の花を摘むのは誰   作:ledi

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食べるものと食べられるもの

二人は魔法薬の材料を見ていた。

シオリがずらりと置かれた瓶に触れようとする度、スネイプがぱしっと手を払うということを何度か繰り返した後、これじゃ生殺しだとシオリは店を出た。

 

一歩外に踏み出した瞬間、目の前を大きなフクロウが飛んでいった。

驚いてのけぞりながらも颯爽と町を翔け抜けていく美しい姿に目を奪われる。

 

 

「本当に魔法使いのいる世界に来たんだ。杖まで手に入れちゃって・・・」

 

 

かさかさと音がしてそちらに目を移すと、店先に並ぶ樽に気味の悪い虫が蠢いていた。

その隣の樽には"新鮮な目玉"と書かれていて、もちろん目玉がこれでもかと詰めこまれている。

シオリは目に入るもの全てに気を引かれながらも、なんとか店の前でスネイプを待った。

 

 

「わっ!」

 

 

シオリは少しずつ道に出てしまっていたのか、横から歩いてきた男にぶつかった。

小さな身体が跳ね返って地面に転がる。

強く打った腰をさすっていると、嗅いだことのない不快な臭いが鼻をついた。

 

 

「いたた・・・なんだろうこの臭い?」

 

「あ、あ、あの、すみません。だ、大丈夫ですか?」

 

「はい、大丈夫で、す・・・!」

 

 

声のする方を見上げると、鼻の高い神経質そうな男が慌てた様子で手を差しのべていた。

何重にも巻かれた紫のターバンが目を引く。

シオリは心臓をぎゅっと握りつぶされたような感覚になった。

 

 

(クィレル!ということはヴォルデモートも・・・)

 

 

突然のことに頭が真っ白になる。

 

 

(ハリーを助けるならいつかとは思ってたけど、まさかこんなに早く接触するなんて・・・本来ここにいるはずのない私にクィレルがぶつかったのは、話がもう変わりはじめてるってこと?)

 

 

冷静に考えようとしても目の前にヴォルデモートがいるということに現実感がない。

シオリはとにかく自然に振る舞わなければと、おずおずとクィレルの手をとった。

細く長い指は顔と同じく色が悪く、白くて筋ばっている。

触れるとひやりとして、ますます気味が悪い。

その時二人を不思議な感覚が襲った。

 

 

「「・・・!?」」

 

 

シオリとクィレルは目を見開き、互いに見つめあった。

一人は苦痛に顔を歪め、一人は感じたことのない充足感、いや快感に目を見開いた。

 

 

「はぁ、はぁっ、」

 

 

シオリの息がたちまち上がって体がふらつき出した。

手を引くクィレルにもたれかかるように倒れこむ。

 

 

(なにこれ、触れられたところから何かが流れ出ていって止められない・・・苦しい・・・力が入らない!)

 

 

「これは一体・・・?」

 

 

クィレルは腕のなかで苦しそうにもがいているシオリをじっと見た。

 

 

(ただの子供、だが、この子から私に何かが流れ込んで力が満ち溢れてくる。触れている手がお互いの中まで繋がっている感覚がある。なんと心地よい・・・)

 

 

「何をしている!」

 

 

クィレルがシオリに目を奪われていると低く唸る声がした。

 

 

「セ、セブルス!わ、わたしは何も、」

 

「そやつをこちらへ渡すのだ。」

 

 

スネイプはクィレルから引ったくるようにしてシオリを抱き寄せた。

ぐったりともたれかかったシオリの顔は白く、肩で息をしている。

 

 

「何があった?」

 

「なんでも、ない・・・気分が悪くなっただけ・・・」

 

 

スネイプは怪訝そうにシオリを見たが、それ以上何も聞かなかった。

 

 

「と、突然倒れてしまったのです。だ、大丈夫ですか?」

 

「迷惑をかけて・・・すみませんでした。失礼・・・します。」

 

 

よろよろと立ち上がろうとするシオリをスネイプが支える。

シオリは体が動かなかったが、できる限りはやくその場を離れたかった。

さっき起きたことが何を表すのか分からない。

一つだけ分かることは、この物語の渦に今まさに足をとられ、巻き込まれたということだ。

ハリーを守るためとはいえ、何のためらいもなく数多の命を奪ってきた闇の帝王と対峙しなければならない道筋ができあがっていく。

スネイプに支えられているシオリの手は震えていた。

ヴォルデモートが恐ろしいからだけではない。

本の筋書きにないことが起こる怖さを身をもって感じていた。

 

 

(ものすごく苦しいけど・・・今起きたことが何だったのか誰にも聞けない。聞いたことでダンブルドア達がクィレルを疑って、ヴォルデモートが憑いているとばれてしまったら話が大きく変わる。これからは・・・どんなことが起きても一人で考えなきゃいけないんだ。)

 

 

シオリの小さな後ろ姿が人混みで見えなくなった後もクィレルはじっとその方向を見つめていた。

いつものおどおどした様子はなく、じっと動かないその目は酷く冷たい。

 

 

「あやつの魔力が流れ込んだことで俺様の魂が安定した。あの娘・・・使えるぞ。いいなクィレル。」

 

「はいご主人様。」

 

 

頭の中に響く声に小さく答える。

恐らく、不安定になるほど魔力が枯渇している魂に強大な魔力をもった者が触れたことで、強い引力が生まれたのだろう。

そして、どちらにも制御不能なほどに魔力の流出が起こった。

 

 

(スネイプが知っているということはホグワーツ生?しかし見たことのない顔だった。ダイアゴン横丁にいるならば新入生か、スネイプから聞き出せばいい。あれほどの魔力を持つ者は魔法生物でもそういない・・・何としてもご主人様にあの娘を捧げなければ・・・)

 

 

クィレルはシオリの苦しむ表情と魔力が流れ込む感覚を思い出し、口の端を上げながら町の中へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・以上です。」

 

 

スネイプはシオリをなんとか連れ帰り部屋に寝かせた後、ダイアゴン横丁であったことをダンブルドアに報告した。

 

 

「そうか。ご苦労じゃった。」

 

「校長はシオリに何が起きたのかお分かりですか?呪いがかかっている様子はないので寝かせてありますが・・・」

 

「心配なかろう。しかし、なぜそのようなことが起こったのかはよく考えねばならん。」

 

 

青い瞳がスネイプを真っ直ぐに見たが何を考えているのかは読み取れない。

この老人の算段は誰にも分からない、しかし全てが終わって答えを合わせる時には必ず間違いがないということを誰もが分かっていた。

賢者の石を狙っているかもしれないクィレルを何度進言してもホグワーツに放ったままにしていることについて、スネイプは不満ではあったがダンブルドアに逆らわないのはそういうことだった。

今回の件もすでに何か策を思いついているのだろう。

スネイプはなにも言わずに校長室を去ろうとした。

 

 

「ところでセブルス、シオリと良い時間を過ごしたようじゃな。」

 

 

ダンブルドアが微笑んだ。

スネイプはシオリが倒れたというのに何を言っているのかと眉をひそめたが、さっき自分が"シオリ"と口にしてしまったことに気付いた。

この老人は面白がっているのか、まだにこにことこちらを見つめている。

今朝まで鬱陶しく思っていたあの少女をシオリと、なぜ名前で呼んだのかスネイプにも分からなかった。

彼女のペースにあてられたのかもしれないし、他の理由があるのかもしれない。

しかしスネイプは考えるほどのことでもない、今はとにかくダンブルドアが嬉しそうなのが面白くないと、悪態を尽きそうになりながら静かに咳払いをした。

 

 

「・・・命じられた通りに役を果たしました。それだけのことです。」

 

 

スネイプはダンブルドアの目を見返すことなく、足早に校長室をあとにした。

 

 

 

 

 

 

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