月下の花を摘むのは誰   作:ledi

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美味しい紅茶

 

 

「おはようございます。今日も素敵な朝ですね。」

 

 

ご機嫌な挨拶とは裏腹に、はれぼったい目をこすりながら気だるそうに部屋から出てきたシオリを一瞥し、スネイプは書類に目を戻した。

 

 

「とっくに日は高く昇っている。何をしていた。」

 

「明日から授業だと思うと嬉しいんだけど寝溜めしたくなって。朝ごはん逃しちゃったな。」

 

 

腹をさすりながら近寄ってくるシオリを無視していると、ぐうと品のない音がした。

 

 

「お腹すいた・・・なんかないですか?」

 

 

シオリが机をはさみスネイプの真ん前に立った。

それでも彼は顔を上げず、出来の悪いレポートに羽ペンを滑らせる手を止めない。

 

 

「水を飲んでいろ。」

 

「水じゃお腹は・・・あ、紅茶。今なら飲める気がする。蜂蜜とミルクたっぷりのやつ。」

 

「自分で淹れたまえ。」

 

「私が?棚を触っていいんですか?」

 

「・・・・・・」

 

 

スネイプははっきりと聞こえるように舌打ちをして、立ち上がった。

目の前にいるシオリの顔をわざと見ずにポットと茶葉のある棚へ向かう。

 

 

「セブルスの淹れてくれる紅茶を飲める人はなかなかいないだろうな。もし美味しくなくても記念になります。」

 

 

美味しくなくても、のところで茶器がガチャンと音をたてたがなんとか割れなかったらしい。

少しして湯気のたったカップと蜂蜜とミルクが宙を進んでテーブルにことりと着地した。

 

 

「ありがとうございます。いただきます。」

 

 

蜂蜜を何周も円を描きながら嬉しそうにいれる顔はただの子供だ。

ついでにミルクをいれすぎて紅茶はすっかり白くなってしまったが、スネイプは口許をわずかにひくつかせただけで何も言わず羽ペンを動かした。

 

ダイアゴン横丁から帰った次の日にはシオリの体は回復し、スネイプに変わらず軽口を叩いて全て元通りになったように思えた。

しかし、回復した後のシオリはもうホグワーツを歩きたがることはなく部屋にこもって魔法の練習に打ち込んでいる様子だった。

狭い部屋の小さなテーブルには開かれた教科書が重なりあうように置かれている。

扉の向こう、顔こそ見えないが必死なほどの集中を見せて魔法の腕はみるみる成長していった。

実際、たった今気分が悪くなるほどいれられた蜂蜜もミルクもひとりでに動いていた。

小さな口がそうっとカップをすする音がする。

 

 

「美味しい!セブルスすごい!」

 

「・・・お前が飲んでいるのは紅茶ではない。」

 

「いや本当に美味しいんだって!前にもこうやって飲んだことあるけど、全然美味しくなかった。淹れる人で紅茶ってこんなに違うんだなあ。」

 

 

無邪気に笑う顔の向こうに何が隠されているのか、気にしているわけではない。

だがシオリの顔を見る度に勝手に頭をよぎるのだ。

どんなに大きな使命を背負っていようと、彼女自身はごく普通の十四歳の少女。

ちぐはぐな印象がスネイプを戸惑わせ、黙らせた。

本来ならこんな無礼な子供と生活をともにするなど、ダンブルドアの命令とはいえ考えられない。

それなのに、この部屋で共に過ごすようになってもう一週間も経つがダンブルドアに直談判に行こうとは思わなかった。

不思議とこうして二人は同じ時間を過ごせている。

 

 

「この生活も今日で終わりか・・・変な感じ。今夜にはどこかの寮のベッドで眠ってるんだ。」

 

 

シオリがカップを置いて椅子の上に足を立てた。

念願のホグワーツ入学だというのに、膝の上に顎を乗せてどこかつまらなさそうにしている。

シオリはクィレルとの一件があってから学校生活が始まることへの期待をなくしていた。

もちろん楽しみなことはあるがどんなことが起こるのか考えると不安の方が大きすぎるのだった。

 

 

「それに・・・ハリーがホグワーツに来る。」

 

 

ぽつりと言ったその言葉が重苦しい。

その訳はもちろん分かっている。

羊皮紙にペン先のこすれる音が一瞬止まったが、また何事もなかったかのように動き出した。

 

 

「ここを出たら生徒として振る舞うことになるしセブルスと話すことはもう・・・ないのかな。今日までありがとうございました。」

 

「・・・何かあればダンブルドアに報告したまえ。一人で全てを負うには限界がある。」

 

「ふふっ。そうします。」

 

 

シオリが笑うと、小部屋の方でりんと鈴の音がした。

屋敷しもべ妖精が食事を届けると鈴をならすことになっているのだ。

 

 

「あ!お昼ごはんが来た!」

 

 

スネイプはばたばたと走って行く物音に顔をしかめながら、騒がしいのもこれが最後と思うと嫌味も言わずに書類に向かい続けた。

 

 

 

 

 

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