月下の花を摘むのは誰   作:ledi

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組分け帽子

 

 

夕方になり、たくさんの生徒達が長い休みからホグワーツに戻ってきた。

大広間には上級生達が座っていて組分けの儀式をまだかと待っている。

そのざわめきを聞きながらシオリは玄関ホールの隅で一年生達が到着するのを待っていた。

 

 

「あなたのことはダンブルドア校長から聞きました。にわかには信じがたい話ですが・・・ここではホグワーツの生徒として大いに学び、楽しみなさい。私も一教師としてあなたがこの世界で問題なく過ごせるよう導きます。」

 

「ありがとうございます。マクゴナガル先生。」

 

 

ダンブルドアはシオリが未来を知っているということだけは伏せてマクゴナガルに説明していた。

できる限り物語に影響が出ないよう未来の情報を持っているということは隠しておきたいらしい。

つまりマクゴナガルは異世界に来てしまった哀れな少女としてシオリに言葉をかけたのだ。

厳格な雰囲気とは別に愛情深い面も持っているマクゴナガルはシオリの好きな人物の一人だ。

想像通りの優しい言葉にシオリが心からにっこりと笑う。

しかしその様子は辛い思いをひた隠しに気丈に振る舞っているようにも映り、マクゴナガルは胸が痛んだ。

その時、ドンドンドンと大きく三回扉が鳴った。

 

 

「彼らが入ってきたらそこの影から紛れ込みなさい。さあ隠れて。」

 

 

シオリはさらに隅に押しやられ、開いた扉から大きな人影が一年生たちを連れて入ってくるのを見守った。

 

 

「マクゴナガル先生、イッチ年生の皆さんです。」

 

「ご苦労様、ハグリッド。ここからは私が預かりましょう。」

 

 

マクゴナガルは不安そうに寄り添い合っている一年生たちを小さな空き部屋へ案内した。

シオリも後ろから着いていき、窮屈な部屋に一緒に詰め込まれた。

 

 

「ホグワーツ入学おめでとう。新入生の歓迎会がまもなく始まりますが、大広間の席につく前に皆さんが入る寮を決めなくてはなりません。寮の組分けはとても大事な儀式です。」

 

 

(私はどこになるんだろう・・・ハリーを見張るならグリフィンドールがいいけど、選べないもんなあ。)

 

 

シオリとは少し違うが他の生徒も自分が一体どの寮になるのか、組分けの儀式がなんなのか、気が気でない様子だ。

 

生き残った男の子、ハリー・ポッターもその一人だった。

マグルの中で生活していたハリーは特に落ち着かないようで、顔が徐々に青ざめていく。

ハリーが不安なあまりきょろきょろと部屋の中を見渡していると、黒髪の女の子が近くにいることに気付いた。

 

 

(こんな子さっきまでいなかったような・・・?アジア人かな、僕と同じ黒髪なのにまるで違う。)

 

 

その子の黒髪は艶々として、暗い部屋でも毛の一本一本が蝋燭の明かりを反射して輝いている。

ハリーが思わずくしゃくしゃの自分の頭を触りながら見とれていると目が合った。

女の子は驚いた様子で丸い目をもっと大きくした後、少しだけ微笑んだ。

そしてすぐマクゴナガルの方に向き直った。ハリーも慌てて話に集中した。

 

 

 

「学校側の準備が終わったら迎えに来ます。それまでできる限り身なりを整えて待っていてください。」

 

 

マクゴナガルは何人かの生徒に視線を送ると部屋から出ていった。

途端に一年生達の不安そうなひそひそ声で部屋がいっぱいになる。

 

 

「試験のようなものをするらしいよ。フレッドたちはすごく痛いって言ってたけど本当かな。」

 

 

背の高い赤毛の男の子、ロン・ウィーズリーがハリーにそう話しかけたが、ハリーはまたさっきの女の子を見ていた。

どの子も興奮気味で騒がしくしているというのに、一人だけ誰とも話さずに突っ立っている。

あまりに動かないので何か見ているのかと視線の先を追ったが何もない。ただぼうっとしているだけのようだ。

ハリーはこの場とちぐはぐなその子のことが気になったが、ハーマイオニー・グレンジャーがどの呪文が試験に出るのかと早口で唱えるものだから、また心臓がバクバクとしてきてそれどころではなくなった。

そうしてるうちにまたマクゴナガルの厳しい声がした。

 

 

「さあ行きますよ。まもなく組分け儀式が始まります。」

 

 

ハリー達の不安を知ってか知らずか、マクゴナガルは一年生たちに気の効いた一言もなくきびきびと彼らを率いて大広間へと入っていった。

扉をくぐると、いくつも並べられた長テーブルにずらっと座っている全校生徒が一年生を見ていた。

同じように一面に浮かんだ蝋燭が彼らの顔を照らしているが、歓迎会を開くような明るい雰囲気には見えない。

それは一年生が緊張のあまり人の表情まで見てられないからかもしれないし、

上を見てもシャンデリアがついているべき天井はなくどこまでも夜空が続いていて、大広間が薄暗いからかもしれない。

 

ハリーと同じように目を輝かせて空を見上げているシオリは、こんなにも不思議で美しい大広間をじっくりと観察したかったが、職員席から嫌な視線を感じてそれどころではなかった。

そちらを見なくても見当はつく。

 

 

(物語が今から本格的に動き出す・・・私はとにかく大人しくして周りの出方を見よう。だからクィレルがどんなにじっとり見てきても何をしてきても無視。)

 

 

シオリは一所懸命、視線に気付いていないふりをした。

ただ見られているだけなのに背筋がぞくぞくと震えたが、とにかく遠くを見てただ立っていた。

 

少ししてマクゴナガルが一脚の椅子につぎはぎだらけの古い帽子を置いた。

古いの一言では足りないくらいかもしれない。

しかし、その見た目とは反対に帽子は軽やかに歌い出した。

 

 

私はきれいじゃないけれど

人は見かけによらぬもの

私をしのぐ賢い帽子

あるなら私は身を引こう

山高帽子は真っ黒だ

シクルハットはすらりと高い

私はホグワーツ組分け帽子

私は彼らの上をいく

君の頭に隠れたものを

組分け帽子はお見通し

かぶれば君に教えよう

君が行くべき寮の名を

 

 

歌が終わると大きな拍手が大広間に広がった。

シオリも思わず拍手しそうになったが、周りが固まっているので思い止まった。

 

 

「名前を呼ばれたら帽子をかぶって椅子に座り、組分けを受けてください。アボット·ハンナ!」

 

 

次々と名前を呼ばれて帽子をかぶっていく。

一人、また一人と列が短くなっていきロン、ハーマイオニー、ハリーはグリフィンドールのテーブルに走っていった。

 

 

「アオツキ・シオリ!」

 

 

シオリはゆっくりと前に出て椅子に腰かけた。

くったりとした帽子は意外に重く、頭をすっぽりと覆われてしまって視界が真っ暗になる。

暗闇のなかでしゃがれた声が聞こえてきた。

 

 

「ふうむ。君は不思議な魔力を持っている。人のそれとは少し違う・・・その力でやらなければならないことがあるね?そしてそれはとても恐ろしく、苦しみを伴う・・・しかし君の決意は揺るぎがない。強い心を持っている・・・それならば・・・」

 

「グリフィンドール!」

 

 

組分け帽子が叫ぶと、グリフィンドールのテーブルから歓声が上がった。

帽子を取り上げられて急に視界が明るくなる。

 

 

(強い心か・・・そんな大したものじゃないんだけどな。ただ・・・)

 

 

シオリは眩しさにふらふらとしながらテーブルへ向かった。

拍手をしているハリーと目が合う。

 

 

「あっ、ここ、よかったら座って。」

 

「・・・ありがとう。」

 

 

ハリーは輝く緑の瞳を細くしてにっこりと笑った。

 

 

(この笑顔を、皆を守りたい。私にできることがあるなら何でもするし努力も惜しまない。だって、この世界に呼ばれた私にしかできないことなんだから・・・多分。)

 

 

ダンブルドアが二言、三言話して、テーブルいっぱいにご馳走が並んだ。

一瞬のことにハリーが目をぱちぱちとさせる。

そしてこんなご馳走を食べたことのない彼が、おずおずとどれも少しずつとって味わって食べているのを横目に見ながら、シオリもチキンを思い切り頬張った。

同じく口の中にものを入れながらロンがハリーの向こうからテーブルに身を乗り出した。

 

 

「君ってアジア人?僕、ロン·ウィーズリー。」

 

 

シオリはもう一本チキンを取ろうとしていた手を止めて、ごくんと口の中のものを飲み込んだ。

 

 

「そう、日本人。私はシオリ・アオツキ。よろしく。」

 

「へえ!アジア人って幼く見えるって聞いたけど本当なんだね。背も小さいし。」

 

 

(私のが三つも歳上なんだけどなあ。でもたしかに皆大人っぽいしはっきりしたきれいな顔立ち・・・)

 

 

「ちょっと!いきなり人種の違いや見た目の話をするなんて失礼じゃない?あなた、気にしちゃだめよ。」

 

 

斜め向かいに座っているハーマイオニーがロンをたしなめた。

ロンはめんどくさそうに顔をしかめている。

 

 

「ありがとう。気にしてないよ。(近くで見ると本当にかわいい・・・これだけでこの世界に来た意味があるよ。)」

 

 

シオリがハーマイオニーの怒った顔もかわいいと微笑みながら次のチキンを頬張る。

ついでにソーセージとマッシュポテトも山盛りとった。

ハーマイオニーを見ていると食が進むのか、ソーセージとポテトの山もどんどん小さくなっていく。

 

 

「そう・・・みたいね。それならよかった。」

 

 

ハーマイオニーは顔をひきつらせて自分の食事に戻った。

シオリがなおも食べ続けているとハリーが手を差し出した。

 

 

「僕、ハリー・ポッター。よろしく。」

 

「よろしく。」

 

 

シオリが微笑むとハリーは驚いたような顔で頬を少し赤くした。

 

 

「き、君の髪ってその、とっても手入れされてるよね。同じ黒髪なのに僕とは大違いだ。」

 

「手入れ?何もしてないよ。私はハリーのそのくせ毛いいと思うな。」

 

「そう・・・かな?この髪の毛は父さんゆずりなんだって。あっちこっちはねて困るけど、僕も嫌いじゃないかも。」

 

「いいね。私の髪はお母さんゆずりなんだ。」

 

 

しょっちゅうシオリの髪を撫でながら、これは私の髪の毛だ、シオリは自分の子供の頃によく似ていると嬉しそうに話していた母。

次に会えるのはいつか分からない。

目が熱くなるのをぐっとこらえてうつむいていると、ほんの一瞬のうちに今度は豪華なデザートが現れた。

 

 

「あの、どうかした・・・?」

 

「ううん。それより、いつの間にこんなにデザートが出てきたんだろ。全部好きなだけ食べていいなんて夢みたいだね。」

 

「・・・ほんとに夢みたいだ。食べよう。」

 

 

ハリーは一瞬シオリの顔が陰ったように見えたのに、急に明るく振る舞い出したのを変に思った。

しかし、もうこちらを向いていない彼女の横顔が、決して怒っていないのにもう話しかけないでくれと言っているように見えてハリーもデザートに向き直った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スネイプは、一人だけほとんど人と話さず黙々と皿を山盛りにしては空にしていくシオリを見ていた。

唯一まともに会話をしたのはハリーだけのようだ。

わずかな時間のことだったが、ハリーと話す彼女の後ろ姿はなぜか引っかかるものがあって目を離せなかった。

どんな表情でハリーと話しているのだろう。

なぜ自分は長年恨みながらもその成長を待ち続けたハリーではなくシオリの背中を見ているのだろう。

 

ジェームズに生き写しのハリーの顔は見ているだけで気分を害する。

その顔の中で、瞳だけが緑に輝いているのもスネイプが苛立つ理由だった。

せめて全てがジェームズのままならよかったのに。

様々な記憶と感情が勝手に思い起こされていくうちに、スネイプはハリーがジェームズによく似ているからハリーが誰かと話しているのを見るだけでも気に障るのだと腑に落ちた。

その時ちょうど二人が話し終わって、スネイプも皿に手をつけようとした。

 

 

「セ、セブルス。ワインはい、いかがですか?」

 

「結構。杯はまだ空いていない・・・それにこの後もやることがあるのでね。」

 

「そ、そうですか。先日は、連れの方にぶ、ぶつかってしまってすみません。一年生だったのですね。」

 

 

スネイプはクィレルを見ずに黙ってフォークを持った。

 

 

「シオリ・アオツキ。どういった関係ですか?」

 

「クィレル教授。ホグワーツでともに教鞭をとる身とは言え、それだけのこと。私的なことを答えるつもりはない。」

 

「し、失礼しました。あなたが誰かと連れだっているのをは、はじめて見たものですから・・・」

 

 

それ以上スネイプが何も言わず食事を続けるとクィレルももう何も聞いてこなかった。

スネイプはグラスを持って葡萄色の揺らめきを見た。

なぜクィレルがシオリに興味を持つのか。

ダイアゴン横丁でのことについて、彼女は気分が悪くなったの一点張りで結局何も分からなかった。

クィレルには何か分かったことがあるのだろうか。

何かあるのだとしたら、シオリが頑なに話さない理由は?

その"何か"の可能性を探れるほども情報がないことに短くため息をついてスネイプはグラスを煽った。

 

その後もクィレルの目が何度も忙しなくシオリを捉えていることには誰も気づかなかった。

 

 

 

 

 

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