深海棲艦って怨霊の類じゃんよ   作:鳩胸な鴨

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クソルールの押し付けは妖怪の特権


海より出るもの

「マズいでいす!マズいでいす!」

「テメェ、トロばっか食ってんじゃねぇ!!」

「でいす!?」

「ワシのウニ食ったな!!」

「ぶべら!?」

「テメェ客だろうがガリでも食ってろ!!」

「客ならもてなせノドグロ出せー!!」

「あだぁっ!?ふ、踏んでる!!2人とも私の髪踏んでる!!」

『わーお、地獄絵図』

 

シャコ星人ことドーバーデーモンが起き、不戦の誓いを立てて少し。

現在、綾瀬さんの祖母が出前で取り寄せた寿司を巡り、乱戦が起きていた。

浮輪さんは乗っていた駆逐艦から身を投げ出された際、たまたま通りがかったダツに喉を突かれて死んだという経緯から魚が苦手らしく、魚介を使った寿司には手をつけていない。

 

「テメェ河童だろうが!!

河童巻きでも食ってろ!!」

「ウニ残してたでしょうが!!」

「最後に食おうと思って取っといたんだよクソだらあ!!」

「このブスボケハゲェ!!」

「ブスクズボケハゲェ!!」

「踏ンデルッツッテンダロ!!テメェラノ髪毛根ゴト毟リ取ッタロカイ!!」

 

怒りのあまり、カタコトに戻ってしまった。

私が怒号の大合唱に飛び入り参加すると同時、怒りを溜め込んだ綾瀬さんの祖母が叫んだ。

 

「どいつもこいつもクソが!!今後二度と寿司は出さねぇからな!!」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「息子が病気なんでいす」

 

乱闘が収まり、少しして。

片付けを終えた私たちは床に座し、シャコさんの話に耳を傾ける。

どうやら彼の故郷は紛争地帯で、傭兵家業で日銭を稼ぐ者がほとんどらしい。要するに、強くないと安定した食い扶持すら確保できない生まれなのだ。

しかし、シャコさんは同族の中でも弱い方らしく、アウトローな仕事しかないという。今回ネッシーを引き連れてきたシマシマ星人…セルポ星人の依頼を引き受けたのも、金を稼ぐためらしい。

彼は妻に先立たれ、死病を患う息子を育てるシングルファザー。息子の治療のみならず、延命するためにも多額の金が必要で、なおさら仕事を選り好みできる立場ではない。

それを聞き届けた私は、足元に座す浮輪へと目を落とす。

 

『………………』

「浮輪さん…?」

『悪ィが、今は話しかけないでくれ。べらぼうに強いのが共感のあまり荒れてるの抑えてるとこだから』

「あ、うん」

『多分、シャコさんの故郷のお偉いさん何人かくたばってるぜ』

「それは言わないで欲しかったかな…」

 

星を隔てても呪い殺せるのか。どんなバケモノが私の中に棲みついてるんだか。

シャコさんの故郷の治世に大した影響がないといいけど、と呆れをため息として吐き出す。

 

「ジブンのイチモツがあれば、息子さん救えますか!?」

「何言っちゃってんの、やめとけって…!」

 

難しい問題だ。高倉くんが自分の「イチモツ」をシャコさんに譲渡して治療費を賄うことを提案するも、「毎日新しい血を取り込まねばならない病気」という観点から「一回きりの治療費をもらっても意味がない」、「頑張って働いてお金を稼ぐべき」と反論する綾瀬さん。

しかし、彼には仕事がない。仕事をしたいにも関わらず、仕事が取れるだけの力がない。

「困ってると聞いたのだから、聞かなかったことにはできない」と主張する高倉くんの気持ちもわかる。というか、この場にその気持ちがわからない人間がいるとは思えない。

しかし、今の私たちに理想的な解決法があるなんてことはなく。

どうしたものかと悩み、皆が議論を重ねていると、シャコさんが重々しく口を開いた。

 

「綾瀬 モモさんの言う通りでいす。私が真っ当に働くしかありません。

高倉 健さんの心遣い、とても嬉しいでいす。

でも、もう十分過ぎるほど良くしていただきました。私はあなたたちを傷つけないと約束しましたから…。

長居をしてすいませんでいす…。本当に、お世話になりました…」

 

居た堪れなさを感じたのだろう。

シャコさんは涙交じりに感謝を述べ、その場を去ろうとする。

と。それを阻むように綾瀬さんの祖母が立ちはだかった。

 

「待ちな。お前ェの血よォ、臭ェんだよ」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「同じでいす!私たちの血と同じでいす!!」

「ドーバーデーモンの血は牛乳…!」

「安上がりな体だなぁ」

 

綾瀬さんの祖母…星子さんが用意した「はげしい牛乳」を飲み干し、喜びと驚愕に雄叫びをあげるシャコさん。

地球の牛乳を手に入れることができれば、根本的な治療ではなくとも、すぐに死ぬことはない。

希望を見出し、喜ぶシャコさんに浮輪さんが歩み寄る。

 

『シャコさん。一ついいか?』

「でいす?」

『息子さんの病気って、結構流行ってるか?』

「いえ、別にそんなことはないでいす」

『そっか。ありがとうな』

 

質問の意図が見えない。

高倉くんもそう思ったのか、メガネの位置を整えながら浮輪さんに問いかけた。

 

「えっと、なんでそんな質問を?」

『だからお前はしみったれたメガネなんだ。

もしその病気が流行ってたら、牛目当てにこの星を手に入れようとシャコさんの同胞が攻め込んでくるかもしれないだろうが』

「え、ヤバいじゃん」

「大丈夫でいす。もし息子の病が星を苛むようなものだったとしても、私のような弱者には発言権がないでいす。行政にどんな報告をしても聞き入れてもらえないでいす」

「腐ってんなー…」

 

格差がひどいこともそうだが、シャコさんの星は治世があまり上手くいってないようだ。

綾瀬さんが呆れる横で、私は浮輪さんになんとなく疑問をぶつけた。

 

「もしそうだったらどうしてたの?」

『決まってんだろ』

 

─────シャコさん親子以外、きっちり皆殺しだぜ

 

絶句。唐突に剥き出しになった悪意を前に、シャコさん含む全員が言葉を失う。

今、目の前でふんぞりかえっているのは、本当にあの情けない浮輪さんなのだろうか。

皆が愕然とする中、白鳥さんが訝しげに眉を顰め、問いかける。

 

「やれるの?そんなこと」

『俺たちは「海」さえあればどこにでも行ける。シャコさんの星にだってな』

「…海、ある?」

「呼吸できる液体で満たされているでいす。海と定義できるかは謎でいすが」

 

判断に困るが、海といえば海なのかも。

私たちが無理矢理に納得しようとするのを遮るように、浮輪さんは天井に指を向けた。

 

『アルダロウヨ、上ニモ。デッケェ「海」ガ』

 

私は多分、彼らをどこかで舐め腐っていた。

人が聞けば「あれだけ散々な目に遭っておいて今更何を」と思うだろう。言い訳にしかならないが、私は浮輪さんの敵意のなさを理由に、彼ら深海棲艦を友好的な存在として見ようとしていた。

 

それは間違いだった。私たちは「彼らが敵意を向ける条件を満たしていない」だけ。

 

条件が揃えば、彼らはその牙を剥く。どこにだって届き得る幾千万の悪意を持って。

それを冗談と笑えればよかったのだが、星子さんとターボババアが黙って睨んでいたことでその線は消えた。

「なんの力もない」と謳う浮輪さんでこれなのだ。先ほどの鯨2匹が本気を出せばどうなのか、考えたくもない。

沈黙と緊張が漂う中、綾瀬さんが半目をこちらに向けた。

 

「……頼むからそいつらの機嫌損ねないでよ、『鎮守府ちゃん』」

「私からもお願いするでいす…」

「ハイ、頑張リマス…」

 

またカタコトになっちゃった。




深海棲艦…「海」ならどこにでも現れる。政治家の呪殺もこの能力によるもの。地雷さえ踏まなきゃ無害だが、言い換えれば「地雷を踏み抜いたら問答無用で殺しにくるやべー奴」。その牙から逃れた人間は誰1人としていない。
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