深海棲艦って怨霊の類じゃんよ   作:鳩胸な鴨

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書けたから投げる


御霊信仰

シャコさんが去り、綾瀬さんの初恋の人だという青年、円城寺仁…通称ジジくんが来て数日。

私を呼び出した星子さんは、バカ殿のビデオを見ながら告げた。

 

「休日潰すようで悪ィが、テメェにはこれから『巫女』になってもらうべく、修行を積んでもらうぜ」

「………えっ、と。ジジくんの件を手伝え、とかじゃ、なくて?」

「そっちはメガネがやってらぁ」

「はぁ」

 

何から何まで話が見えない。

浮かぶ疑問に首を傾げていると、バカ殿のビデオを止めた星子さんが「よっこらせ」と身を起こした。

 

「鎮守府ちゃんよぉ、『御霊信仰』ってのは知ってるか?」

「いえ、あんまり…」

「祟り神を守護神として祀ることを言うんだがよ、これで神様になった妖怪もそれなりにいるんだわ」

「……えっと、深海棲艦もそうなれる…と?」

「そういうこった」

 

あのバケモノたちが神様かぁ。想像できない。浮輪さんなんて特に。

駆逐艦から海に放り投げられた直後、ダツに突っ込まれて死んだなんて微妙な死因の男性が神様だと言われても、反応に困る。

 

「御霊信仰ってのは、ワシらみたいな霊媒師じゃどうしようもねー妖怪をどうにか鎮めるためにやるんだが…、全ての妖怪にできるもんじゃねぇ。

祀られる妖怪が『これさえ守れば譲歩してやってもいい』って妥協ラインを引かなきゃ成立しねーんだ。

例えば、カシマレイコっつー強すぎてワシ含む霊媒師連中が手出ししねぇ妖怪がいてな。

こいつは現時点で人間に対する恨みが強すぎて、御霊信仰ができねー。だが…」

「敵対しない条件が明確で、かつ友好的な深海棲艦ならいけるかも…と?」

「ああ」

 

確かに条件は整っている。

…というか、最後の駆け込み寺みたいな扱いを受けてる星子さんでもサジを投げるのがまだいるのか。

世界の魔窟っぷりに戦慄いていると、星子さんが「と言ってもだな」と付け足した。

 

「数千万規模の集合霊の御霊信仰は流石に前例がねえ。

できるかどうかはぶっちゃけ賭けだ」

「すみません、面倒な爆弾抱えて…」

「本当だぜ」

 

つくづくあの日の軽率な自分を恨む。

しかし、私が彼らの「鎮守府」とならなかったらどうなっていたのだろうか。

…やめよう、嫌な未来しか思い浮かばない。

 

「で、巫女になる修行というのはなにを…?」

「お前ェの場合はメガネや桃と違って、自分を鍛えてもどうにもならねーからな。

修行っつーより、『そいつらが神様になる実績づくり』っつったほうが正しい。

そのために、お前ェさんらにはワシが出す課題をクリアしてもらう」

「べ、勉強はちょっと…」

「安心しな。頭は使わねェ。ちっとばかし命は張ってもらうがよ」

 

それはそれで嫌だ。

…なんて言える立場ではないので、私は甘んじて彼女の次の言葉を待った。

 

「お前ェがやる課題は、ワシの仕事の手伝いだ」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「なんでいるのよ、アンタ」

「……その、星子さんのお手伝いで…」

 

次の日、京都の舞鶴にて。

新幹線、電車を乗り継いできた私は、何故かいた白鳥さんに言葉を返す。

 

「なるほど。帰巣本能とかじゃなく、お姉さまに言われてこのシーズン大外れの海に向かってるわけね」

 

私のことを海鳥か何かだと思ってるんだろうか、このスーパーぶりっ子は。

愚痴を飲み込み、私はハリウッドスターばりの絢爛おしゃれを着こなす白鳥さんに問う。

 

「……で。白鳥さんはなんで来たの?」

「お姉さまに言われて仕方なくよ、し・か・た・な・く!バイト代出るって話だったから来たらアンタがいたの!!」

「高倉くんたちがいなくて暇だったからねじ込んでもらったとか?」

「そっ…、それは…、そうだけど…」

 

この間の一件で友人から距離を置かれたと聞いたし、1人でいるのが辛かったのだろう。

暖かい視線を向けると、白鳥さんは誤魔化すように私の髪を手ですくった。

 

「…ってか、ちゃんと髪は切ってるの?

その長さだと邪魔くさくて仕方ないんだけど」

「これ、ハサミ通らないの」

「難儀な体ね」

 

変身した白鳥さんみたく、伸縮自在だったら不便もなかっただろうに。

今からでも改造してくれないだろうか、と愚痴をこぼそうとし、やめた。

たかが髪のためにもう一度アレを味わうなんてごめんだ。

 

「で、お姉さまが言ってた仕事ってのは?」

「どんなものかまではまだ聞いてないけど、依頼主が迎えに来てくれるって話だよ。

………あっ。多分、あの人かな?」

 

駅のホームから出ると、それらしきお坊さんが立っているのが見える。

かなりのご年配だ。米寿は超えているだろう、シワだらけの顔に曲がった腰。

遠目では開いてるかもわからない瞳がこちらを向くと、見た目からは考えられないほどの速度でこちらの元へと駆け寄る。

 

「おお、あんたらかい。星子んとこのバイトってのは」

 

星子さんのことを呼び捨てにしているあたり、彼女よりも年上なのだろうか。…いや、星子さんがいくつかは知らないけど。

星子さんの実年齢を疑問に思いながら、私たちはお坊さんに軽く会釈する。

 

「は、はい。鎮守(しずもり) 海彩(みさ)といいます」

「白鳥 愛羅ですっ」

「わしゃここの寺で住職しとるもんじゃ。ハゲで構わん」

「そ、それでいいんですか…?」

「ええ、ええ。『ハゲさん』で広まっとるからのう。ここらの子はみぃんな『ハゲさん』言いおるわ」

「はぁ」

 

いいのかな?…本人はあまり気にしてないようだし、いいのか。

 

「それで、依頼というのは…」

「あー…、こんなとこで話すもんじゃないわ。

『出る場所』まで行くから、乗りなさい」

 

言って、あちこちがボコボコに凹んだ軽自動車の扉を開くハゲさん。

中古で安く買い叩いたのか、それとも自分でぶつけてそのまましてるのか。

 

「………………」

「………………」

 

白鳥さんを見ると、笑顔が明らかに強張ってる。どうやら彼女も不安になったらしい。

しかし、断るわけにもいかず、私たちは覚悟を決めて軽自動車に乗った。

 

(大丈夫ダゼ、鎮守府チャン。助ケテヤルカラ)

 

事故が起こる前提で話しかけてくんな。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「……運転、お上手なんですね…」

「10年ほど前までは新車乗り回しとったよ。

今はそれを売った金で新しい車を孫に買ってな。友だちがやっとる車屋から廃車寸前のもんを安く買ったんじゃ」

 

車に乗り込んで数分。

私たちの不安は形になることなく、ハゲさんの運転する車は町内を進む。

からからと笑うハゲさんだったが、ふとその顔から笑顔が消えた。

 

「…さて。ここからは堅苦しい話をしようかの。今回、アンタらになんとかして欲しいのは『邪視』に近いもんじゃ」

「…『邪視』ってなんですか?」

 

私は妖怪の被害者ではあるものの、あまり詳しくない。知っていたとしても、一つ目小僧とかのメジャーなものくらいだ。

星子さんから遣された人間の発言とは思えなかったのだろう。ハゲさんは目を見開いたのち、重々しい声音で語った。

 

「近代妖怪の一種でな。睨むだけで人を自殺させるっちゅう妖怪じゃ。

…ま、ここいらに出ておるのは少し違うがの」

「……?」

「『睨む』んじゃなく、『顔を見せる』ことで殺しおるんじゃ。

出没して一年で30人は殺されとる。行方がわからん人間含めると、48人じゃ」

 

ひと月に4人は殺されているのか。

顔を見なければいいと分かってるなら対処できそうなものだけど。

疑問に思っていると、浮輪さんの声が頭の中で響く。

 

(甘イナ、鎮守府チャン。殺シハ『ヨーイ、ドン』デ始マラネェ。

『気ヅイタ時ニハ死ンデタ』ナンテ、ヨクアル話ダゼ)

 

そりゃそうか。「今から殺しまーす」なんて宣言するのは、快楽殺人鬼くらいだろう。

納得する傍ら、私はハゲさんの話に意識を戻した。

 

「最初はわしがどうにかしようと思ったんじゃが…、ありゃ無理じゃ。わし程度じゃ逆立しても勝てやせん。

そこで、星子ならなんとかできんかと思って頼んだんじゃが…」

「私たちが来た、と…」

「そうじゃ。正直言って、学生さんに任すのは気が進まんが…」

 

ハゲさんの車が赤信号で止まる。

それとともに、ハゲさんがミラー越しに深々と頭を下げた。

 

「星子が遣した人だと見込んで、頼む。

あの『海からくるモノ』を倒しておくれ」




鎮守府ちゃん…深海棲艦を鎮める巫女になるべく修行開始。ジジの件にはノータッチコース。奇しくもオカルンたちと同じような妖怪を相手にすることになった。

白鳥 愛羅…暇を持て余していたのでオカルンが来てないかと綾瀬家に訪れたところ、星子にバイトを頼まれた。鎮守府ちゃんの気苦労を知ってか、彼女に対しては態度がそこそこ柔らかい。

深海棲艦たち…「お前、神様になれ」と言われて全員がエネル顔。
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