新 お母さん無自覚美人過ぎです 大学生編   作:松田義和

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あしたのために

翌日。

大学はまるでお祭りだった。

 

校門の前からキャンパスの奥まで、

カラフルな横断幕と勧誘ボードが並び、

上級生たちが声を張り上げていた。

 

「新入生いらっしゃーい! フットサルサークル!」

「映画研究会です! 主演募集中ー!」

「テニス! 合コン多め!」

 

……最後の正直すぎない?

 

僕、〇〇、18歳。

大学生活2日目。

昨日の静けさが嘘みたいな騒がしさだ。

 

健太はさっそくバスケサークルのブースで

「体験参加OKっすか!?」と声をかけられて盛り上がっている。

彩花は美術サークルの展示ポスターを食い入るように見つめていた。

 

僕はといえば、ふと立ち止まって考えていた。

――自分は、何をしたいんだろう。

 

高校ではバスケとゲームが中心。

でも、大学ではもう少し違う自分になりたい気もする。

頭の中でぐるぐる考えていた、そのときだった。

 

 

突然の「ジャジャジャジャジャン!」

 

校舎の奥から、突き刺さるような音が鳴り響いた。

 

「ジャジャジャジャジャン! ジャジャジャジャジャン!」

 

周囲の学生が一斉に振り向く。

吹奏楽部でもない、スピーカーから流れるような音。

どこかで聞いたことがあるような……。

 

僕が耳をすませる前に、

隣で彩花がピクッと反応した。

 

「この曲……!」

 

目を丸くして立ち上がる。

その表情がいつになく真剣だ。

 

「え、なに? 知ってるの?」

 

「これは――力石徹のテーマ!」

 

「……誰?」

 

「“あしたのジョー”のライバルよ!

 この曲を聞いて心震えないなんて、人生損してる!」

 

僕と健太は顔を見合わせた。

 

「……彩花、なんでそんな昭和アニメ知ってんの?」

「おじいちゃんが大好きで、小さい頃から見てたの!」

 

そう言うと彩花は急に立ち上がって、

音のする方へ駆け出した。

 

「ちょ、彩花!? どこ行くんだよ!」

健太が慌てて追いかける。

僕も遅れて走り出した。

 

キャンパスのざわめきを突き抜け、

あの「ジャジャジャジャジャン」がどんどん近づいてくる。

 

……何が始まるんだ、これ。

 

桜の花びらが風に舞う中、

僕たちは音の正体を探して走った。

 

 

 

キャンパスを突っ切って、音の方へ駆けていく。

「ジャジャジャジャジャン!」がどんどん大きくなる。

その先にあったのは、体育館の脇に設けられたブース群。

そこだけ空気が違っていた。

 

赤いグローブ、ロープで囲まれた簡易リング、

そして立て看板に大きく書かれた文字。

 

ボクシングサークル・コンコルド倶楽部

 

……渋っ!

なんで大学のサークル名がそんな高級ホテルみたいなんだ。

 

周囲では上級生たちがミット打ちを見せながら、

新入生に声をかけていた。

 

「おい、君たち! 興味あるか?」

 

走ってきた彩花に、ひとりの部員が笑顔で声をかけた。

筋肉質で、見るからに体育会系。

 

「かわいいお嬢さん、ミット、やってみるかい?」

 

「え、わ、私が!?」

一瞬驚いた彩花だったが、

すぐに目を輝かせて言った。

 

「……いいんですか!」

 

え、即答!?

 

僕と健太が目を見合わせる間に、

彩花はスカートの裾を押さえてリングの上へ。

部員が赤いグローブを渡す。

 

「重くない?」

「大丈夫です」

 

手を通した瞬間、彩花の雰囲気が変わった。

 

さっきまで穏やかだった表情が、

なぜか凛と引き締まっている。

左の拳を軽く握り、構えた。

 

そのフォームが――ビシッと決まっていた。

 

「……おお?」

「構え、めっちゃキレイだな」

 

部員たちがざわめく。

 

彩花は小さく呟いた。

声が、聞こえるか聞こえないかの小ささで。

 

「……あしたのために、その一」

 

健太:「え?」

僕:「なに?」

 

次の瞬間、

彩花の瞳が鋭く光った。

 

「ひじを左わきの下から離さぬ心がまえで……

 やや内角をねらい、えぐりこむように打つべし!」

 

パーンッ!

 

ミットが爆音を立てた。

空気が一瞬、止まる。

 

「おい、今の音聞いたか?」

「いや、力入ってねぇだろ今の……」

 

もう一発。

そしてもう一発。

 

パパーン! パパーン!

 

三発連続の左ジャブ。

部員の腕がわずかに痺れている。

 

「す、すげぇ……」

 

彩花の口元が、わずかに笑った。

 

「――あしたのために、その二。」

 

「右ストレートは右拳に全体重をのせ、

 まっすぐ目標をぶちぬくように打つべし!」

 

パァァァン!!!

 

空気が裂けた。

ミットを構えていた上級生が、思わず一歩下がる。

 

「……うそだろ」

「これ、初心者のパンチじゃねぇ!」

 

周囲の部員が一斉に立ち上がった。

見物していた学生たちも思わず拍手。

「かっけぇ……」

「なんか映画みたい……」

 

健太が唖然と呟いた。

「……お前んとこの彩花、何者?」

 

僕も声を失ったまま、ただ見ていた。

 

拳を下ろした彩花は、息を整えながら照れくさそうに笑った。

「……あ、ちょっと楽しかったかも」

 

リングの周囲、拍手と歓声。

そして部長らしき男が一言。

 

「入部、確定だな」

 

健太:「まさかの……美術系じゃなく格闘系!?」

僕:「……あしたのために、俺たちの日常が壊されたな」

 

リングの上で、桜の花びらがひとひら、彩花の肩に落ちた。

 

春の風の中、

“コンコルド倶楽部”という名が、

僕たちのキャンパスライフを確実に変えていく――。

 

 

 

 

 

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