ソードアート・ザ・ブラッド~黒の剣士と第四真祖~ 作:神話語り
太平洋に浮かぶ、常夏の人工島、絃神島。
その港に停泊した一席の豪華客船、《オシアナス・グレイヴⅡ》のVIPルームに備え付けられた大型液晶TVの前で、金髪の男と銀髪の少女、そして灰色の髪の少年と黒髪の少女の四人、及び警護と思われる人物たちが、一本のアニメを見終わった。
VR技術によって作られたゲームの仮想世界に閉じ込められたプレイヤー達が、HPの消滅が現実での死につながるという恐怖と戦いながら、様々な困難を乗り越え、デスゲームをクリアしていく、SFファンタジーだった。
金髪の青年――《戦王領域》の貴族である吸血鬼、《蛇遣い》ディミトリエ・ヴァトラーは、喜びを感じさせる爽やかな口調で言った。
「いやぁ、素晴らしかったね、この《ソードアート・オンライン》とやらは。ボクはあのヒースクリフとかいう男が気に入ったよ。気高い理想。そのためならば何もかもを犠牲にする覚悟……」
「わたくしはアスナですね。夫のためにその命を擲つだけの愛情……尊敬に値します」
ヴァトラーに続いて、銀髪の少女――アルディギア王国王女、ラ・フォリア・リハヴァインが笑う。それを受けて、灰色の髪の少年――この地、《暁の帝国》の(一応は)国家元首である《第四真祖》、
「……なぁお前ら。まさかこのアニメを見せるためだけに俺と姫柊を呼んだとか言わないよな?」
「言うけど何か?」
「言いますけど何か?」
「おい!!」
ことも無さげにあっさりと答えたヴァトラーとラ・フォリアに、古城は思わず殴りかかりそうになる。
「こちとら慣れない領主生活で忙しいんだ! お前らに付き合ってる余裕はないんだぞ!?」
「何を言っているんだい古城。映像観賞も立派な領主の仕事さ。いつでも余裕をもたないとやって行けないよ?」
「その余裕がないからこう言ってんだ……」
勘弁してくれ、と肩を落とす古城。
その古城に、隣に座っていた黒髪の少女が慰めるように声をかける。
「まぁまぁ……私も手伝いますから。それに、アルデアル公が言うように、余裕を保つことも重要ですよ、先輩。たまには息抜きもしないと」
「お前がそうさせないんじゃねぇか……」
「うっ……」
痛烈なカウンターに固まった少女は
政府や他の《
「まぁまぁ、古城も雪菜も、痴話喧嘩はそのくらいにして、次はセカンドシーズンを観ましょう。今度はとらわれたアスナを助けるために、キリトが妖精の世界で冒険するらしいですよ」
「ほぅ、妖精か。それはなかなか楽しみだね」
「観・る・か!! というか何が痴話喧嘩だ! ……ったく。くだららねぇ、帰るぞ、姫柊」
古城は立ち上がると、VIPルームの出口を目指して歩き出した。
「あ、待ってください先輩!」
***
半年前。古城達は、世界を滅ぼす《聖戦》を勝ち抜いた。復活した《魔族の始祖》カインを斃し、その《巫女》だった友人・
その過程で古城は、自らがおさめる第四のドミニオン、《暁の帝国》を建国せざるを得ず、結果、今は一介の高校生兼国家元首をやっている。
《暁の帝国》のトップは、何度も書いた様にもちろん古城だ。世界最強の吸血鬼として、《聖戦》を勝ち抜くために
絃神島の管理公社から、《第四真祖》を監視するために派遣されてきていた、親友の矢瀬基樹には、情報課のリーダー格として働いてもらっている。音波を操る超能力者であり、《
そして、もう1人の情報課のトップが……
「古城! ちょうど良い所に来てくれたわね」
目の前で笑顔を見せる、この金髪の少女である。
元《カインの巫女》、藍羽浅葱。コンピューターに関して圧倒的な才能を示し、国防省のデーターベースハッキングもお手の物。《カインの巫女》として授けられた『絃神島にいる限り不死』という異能こそ失ったものの、今でも彼女の腕前は衰えることはない。
彼女には《暁の帝国》のあらゆる情報管理を任せている。無理をさせてはいないかと心配しているのだが、彼女は「好きでやってるんだし、気にしないで」と言ってくれる。
それに、古城には彼女に頭が上がらない理由がもう一つある。
彼女は――――《暁の帝国》の、実質的な第二王妃なのだ。
半年前の最終決戦の後。古城は、雪菜と浅葱の両方から、自分に対する想いを打ち明けられた。二人とも嫌いではないし、どちらかと言えば『好き』だ。どちらかを選ばなければならないという苦痛に板挟みになっていた古城に、恐ろしい回答方法を提示したのは、第一真祖、《
即ち、『ドミニオンの領主が、一夫一妻などと言う律法に縛られる必要はない』。事実、第一真祖や第二真祖もまた、妾を何人か取っていた。
そんなわけで、雪菜と浅葱は、二人揃って《第四真祖》の王妃候補者ということになった。候補者、と言うのは、古城がどうしても正式な入籍を嫌がったためである。彼自身の願望として、せめて二人とも20歳になるまでは待つ、というものがあったからだ。今古城は高校二年生の17歳、浅葱も同じく高校二年生。雪菜に至っては高校一年生で、まだ誕生日が来ていないので15歳だ。前述の第一真祖の言葉通り、古城には『婚約は男子が18歳以上、女子が16歳以上』という二本の法律が適応されないのだが、それでも古城の中の何かが、どうしてもそれだけは許さなかった。
あれ以降、古城と雪菜は定期的に浅葱の元へ訪れている。《情報処理室》の一室を自室に改造してそこに暮らしており、古城の母親である
さて、そんなわけで彼女を尋ねてきた古城と雪菜だが、出会いがしらの浅葱の嬉しそうな声に多少面食らう。
「……どうした? なんかあったのか?」
「うん。今作ってる装置がやっと完成してね。古城には初使用の生贄になってもらおうかと思って」
「おい!? 生贄って何だよ生贄って!」
「だいじょーぶ。危ないモノじゃないし、あたしも一緒に使うから……あ、姫柊さんも一緒に来て」
「あ、はい……」
浅葱に押される形で歩く古城と、それについてくる雪菜。一時は浅葱との相性はあまりよくなかったように見えたが、最近では非常に仲が良くなってきたと思う。
友人たちの関係が円満なのはいいことだ。古城は内心で笑う。……実際の話では友人と言うか将来の嫁なんだが。
しばらく進んでいくと、《開発室》と書かれた部屋に付く。スライド式の自動ドアが音もなく開き、中の様子が目に飛び込んでくる。
その中央に置かれていたのは、巨大な機会だった。マッサージチェアにも似た形状のソファの周りを、様々な機械が取り囲んでいる。中でも目を引くのは、座った時に丁度頭が来るであろう位置に備え付けられた、無骨なヘッドギア。バイザーが付いており、どこかバイク用のヘルメットに似ている。ソファと相まって、医療検査用の機械に見えなくもない。数は十基ほど。
「なんだ、あれ……」
「
浅葱がすらすらと述べたのは、確かに絃神島の警備を行う《
アイランド・ガードは、基本的に絃神島の警護を行う、いわば自衛隊や国防軍のような存在だ。大規模魔導犯罪には獅子王機関や専門の攻魔師が立ち向かうが、それでも不測の事態にはアイランド・ガードが対応しなければならない。
そして彼らは、今まで悉くその『不測の事態』に対応できないでいた。理由は至極単純、訓練不足と準備不足だ。特に様々な事態への対応を行うための訓練が不足しているというのは痛い。かといって、実際に魔導犯罪を起こすわけにも行かない。
そこで案にのぼったのが、この《VRS》、ということだったらしい。
「一応対魔族戦闘のデータも完備してあるんだけど、まだ一回も起動させてないのよ。ってなわけで、古城に実験台になってもらおうと思って」
「だから何でそんな言い方になるんだよ、不吉だな……」
「あの、藍羽先輩……私にもやらせていただけませんか?」
愚痴をこぼす古城を遮るようにして言ったのは雪菜だ。真剣な表情で浅葱を見つめている。
「姫柊さんも?」
「はい」
「良いけど、何で?」
「……私、最近不安なんです。もし、何かあった時に、先輩の力に成れなかったらって。唯でさえ先輩は、完全な《第四真祖》に覚醒したことで私よりも強くなってしまったんです。足手まといにならないか、不安で……」
そんなことあるわけない、と言いたい。
雪菜は優秀だ。古城にはもったいないくらい優秀な監視役で、王妃候補だ。ストーカーっぽい所がたまに傷だが、それでも彼女が古城に与えてくれた影響は非常に大きい。古城は、彼女のおかげで《始祖》に勝てたようなものなのだ。
だが、古城がそう言う前に、浅葱がゴーサインを出してしまった。
「いいわよ。その内姫柊さんにも使ってもらう予定だったし」
「ありがとうございます!」
勢いよく頭を下げる雪菜。
「まずはアバターの登録ね。一応《第四真祖》のデータも入ってるけど、古城と姫柊さんの実際の身体データを測定した方が、二人とも動きやすいだろうしね。そこに座って、ヘッドギアを被って」
「お、おう」
浅葱に促されて、古城はVRSのソファに座る。心地よい感触。これなら長時間寝ていても体が痛くなったりはしなさそうだ。ほかにも座りやすい姿勢に合わせて角度が作られており、製作者の配慮がうかがえる。
「なぁ浅葱、このイス、作ったの誰だ?」
「決まってるじゃない、あたしよ」
「え!?」
「……なによ、え!? って……」
すねたようにそっぽを向く浅葱。
実際のところ、意外だったのだ。おおざっぱな性格をしている浅葱が、こんな細かい気配りのされた環境を作り上げたことが。
ガシャン、と音を立てて、半透明の扉が閉まる。同時に、緑色のライトが古城の体を一撫でして、それから消えた。数刻の後、半透明の扉の表面に、【allclear】という文字が。恐らく、今のでアバターとやらが完成したのだろう。
「じゃ、始めるわよ」
浅葱が機械を操作すると、ヘッドギアのバイザーが降りる。
――――同時に、視界が切り替わった。
そこは、真っ白い空間だった。浅葱が『試作段階』と言ったものうなずける。なるほど、面白みも何もあったものではない。
だが、その感情は、古城が自らの体を見下ろした瞬間に消え失せる。
そこにあったのは、リアルな自分の手。足を包むジーンズや、ぶかぶかのパーカーまでもが完全再現されている。青筋までは再現されていないなど、どこか生物味が薄いような気がしなくもないが、それでも恐るべき完成度だ。
「すげぇ……」
「でしょう? ここまで再現するのに二ヶ月もかかったんだから」
すぐ後ろから声がする。そこに立っていたのは紛れもなく浅葱だった。髪の毛一本一本までもが再現されているのではないか、と言うほど、本物にそっくり。
「これが、仮想空間だなんて……ちょっと想像できませんね」
反対側を振り向くと、そちらには雪菜が立っていた。もの珍しそうに、何もない空間をきょろきょろしている。
「ふふん。本番はこれからよ」
浅葱が指をそろえて小さく手を振ると、ちりりん、という音と共にホロウインドウが開いた。素早くその表面を操作する浅葱。
――――直後、世界ががらりと変わった。のっぺりとした白いテクスチャだけだった世界は、絃神島ににた近未来都市の風景に移り変わる。再びの絶句。近場にあった壁を触ると、ひんやりとした鋼鉄の、リアルな質感が伝わってきた。
「よくこんなものが作れたな」
「あたしを誰だと思ってるのよ……さ、それより実験、始めちゃいましょ。二人とも、ちょっと動いてみてくれる?」
そう言われて、古城は一歩足を踏み出す。すると浅葱が苦笑して、
「違う違う、そういうことじゃなくて。もっと激しい動きをしてみてってこと」
「ああ、そういうことか……分かった」
頷くと同時に、足に力を入れて、大きく飛び上がってみる。吸血鬼のチートじみた身体能力まで再現されているらしく、かるがると古城はビルのてっぺん近くまで飛び上がってしまう。
「うぉぉぉ!?」
猛烈な速度での落下。受け身を取って衝撃を受け流す。
「いってぇ……」
「……馬鹿なの?」
「激しく動け、って言ったのは浅葱だろうが!!」
思わず突っ込みを入れてしまう。すると浅葱は苦笑して、
「ごめんごめん。じゃ、今度は姫柊さんね。《雪花狼》も再現してあるから」
「え……本当ですか?」
「ホントホント。見たでしょ、さっきの古城」
そう言えば、浅葱が『《第四真祖》のデータがある』と言っていた。雪菜のデータが無い事はないだろう。
「さっきのあたしみたいに指をふって、そこの《アイテム》って欄を推せば出てくるから」
「はい」
言われたとおりに、出現したホロウィンドウを操作する雪菜。すると、しゅわっ、という軽やかな音と共に、白銀の槍が出現した。流線形を描く刃をもった、近未来的なフォルムな槍。間違いなく彼女の切り札、《雪花狼》だ。《
「――――《雪花狼》!!」
雪菜の声にこたえて、《雪花狼》が花のように展開する。穂先は開き、柄は伸びる。雪花狼本来の長槍の姿だ。その刀身を、半透明の《神気》の輝き光が覆っていく。魔力無効をなす核、《神格震動波》だ。
変形した雪花狼を、踊るように振るう雪菜。その斬撃を受けて、近くに在った壁が真っ二つに割れる。その様子を見て、浅葱が口笛を吹いた。
「やるじゃないの。……さ、次は古城の番よ」
「おいおい、俺はもう跳んだだろ」
「そんなの姫柊さんでもできるじゃない。あたしがやってほしいのは、眷獣の召喚よ」
《眷獣》――――それは、吸血鬼がその血に宿す、異世界からの召喚生物だ。召喚の際に負の魔力を食らうため、無尽蔵の負の魔力を保有する吸血鬼以外の生命には扱えない。唯一の例外が、古城達の担任教師である国家攻魔官、南宮那月が預かっている
そして、眷獣の強さはそのまま吸血鬼の強さにも直結する。強力な眷獣をもっている吸血鬼は、強い。年を取った吸血鬼になればなるほど眷獣は強力であり、名目上最初の吸血鬼である《第一真祖》の操る七十二体の眷獣は、どれもが強力な精神攻撃や物理攻撃を行う、まさに《悪魔》としか形容しようがない猛者たちだ。
人間としての年齢は若いものの、古城の中にある《第四真祖》の因子自体は、遥か昔、真祖たちと今はもういない古代種族《天部》の人々が作り上げた、人工真祖のそれだ。操る十二体の眷獣たちは天災に等しい力を発揮し、そう容易く制御できるものではない。
「一応一通りのデータはそろってるんだけど、再現できてるか心配でね。やってみてくれる? フィールドはぶっ壊しても大丈夫だから」
「……わかった」
古城は腕を突き出すと、そこから魔力を放出する。それは雷撃へと姿を変え、だんだんと巨大な獅子の姿を形作っていく。
「
「――――!? なっ……警告表示!? 待って、古城!」
その瞬間だった。浅葱が、悲鳴のような声を上げて古城を制止したのは。
同時だった。古城の視界を、無数の【warning】と描かれた真紅の六角形が埋め尽くしたのは。
「な、何だこれ……ッ」
「せ、先輩!」
「古城!」
雪菜が、浅葱が、古城に向かって手を伸ばしてくる。
一瞬の後、視界が、ブラックアウトした。
どうも、はじめましての方、はじめまして。お久しぶりですの方、ご無沙汰しております。神話語りです。
本作は作者の唐突な思いつきでスタートしました。基本更新速度優先なので、次話から4000~5000文字くらいになると思います。
今後数話は完成しているので素早く更新されますが、その後はたぶんしばらく放置になります。感想やお気に入り登録、UA数に非常にモチベが左右されやすい作者なので、ご支援をいただけるとがんばれます。
この作品で楽しんでいただけたらなぁ、と願っていますので、もちろん正当な批判や、「もっとこうした方がいいんじゃない?」といったご指摘・ご意見もお待ちしております。
それでは、次回もお楽しみに。