ソードアート・ザ・ブラッド~黒の剣士と第四真祖~   作:神話語り

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剣の世界へ

「いててて……」

 

 目を覚ました古城を襲ったのは、痛覚のようで痛覚ではない奇妙な感覚。何と言うか、痛みが軽減されているような気がする。

 

 頭の後ろをさすりながらあたりを見回すと、そこは先ほどまでの近未来都市を再現した仮想世界ではなかった。

 

 確かに、雰囲気は仮想世界のそれだ。だが、街並みはどこか前時代のヨーロッパを思い起こさせるシックなもので、電子機器の一つもありはしない。通路の所々に暗い顔をした男達が横たわっていたり、座り込んでいたり。不気味、としか言いようがない。入り組んだ裏路地を通り越して、遥かむこうには球形の屋根をもった、漆黒の城が見える。

 

 まるで、どこかの国のスラム街のようだ。

 

「(ここは……どこだ……?)」

 

 男たちが纏っているのは、ファンタジーなどでよく見かける中世チックなインナー。ただ、その顔はどれも現代日本人のそれ。例外なく絶望にとらわれている。背中には多くの人間が何かを背負っている。長く伸びた柄――――あれは、《剣》だ。柄の長さからして、《片手剣》。

 

 それが、引っかかった。それになんとなく、男たちの纏っている服装を見たことがあるような気がしなくもない。

 

「おい、聞いたかよ」

「ああ、また出たんだってな。飛び降り自殺した奴」

「畜生……俺の友達もそれで死んだんだ」

「どれもこれも全部あのクソ茅場のせいだ……」

 

 男たちは暗い声で、ぶつぶつと会話している。

 

 不気味だ。だが、彼らは何か情報をもっているだろう。

 

 とりあえず、彼らに何か聞いてみるか。そう思い、立ち上がりかけた瞬間。

 

「ぅう……」

「んぅ……」

 

 超至近距離…しかも両隣…から聞こえた、可愛らしい寝息に、古城は凍り付いた。

 

 恐る恐る右隣を見ると――――そこには、黒髪の少女が眠っていた。男達のそれとよく似たデザインの、青いインナーを纏ったその少女は、まぎれもなく姫柊雪菜だった。

 

 まさか、と思い、左隣を見ると――――案の定、そこにいたのは金髪の少女、藍羽浅葱だった。こちらもはやり青いインナー……なのだが、雪菜のそれとはほんの少し色合いが違う。

 

 よくよく見れば、古城自身の服もいつものパーカーではなく、こちらは男たちとほぼ同デザインの、灰色のインナーだった。ちらりと後ろを見れば、古城にも片手剣が装備されているらしい。

 

「なんだこりゃ……」

 

 浅葱の用意したVRSのデータなのだろうか。その割には、やけにリアルだ。それに、どこか見覚えがある風景なのも気になる。

 

「ん……先、輩?」

「古城……?」

 

 うっすらと、少女たちが目を開ける。数刻ののち、彼女たちはぱっちりと目を見開いて、ほとんど同時に古城を殴りつけた。

 

「ぐはぁっ!?」

「「な、なななな、ななな」」

「落ち着けお前ら!」

 

 顔を真っ赤に染めてどもる少女たちをなだめながら、ふと、古城はとあるものに気が付いた。

 

 雪菜と浅葱に殴られた場所。そのギリギリ上に、紫色のホロウィンドウが開いている。そこに描かれた文字を読むまでもなく、しゅわっ、という音と共に、それは消滅してしまった。

 

「……なんだ、これ」

 

 同時に、古城はもう一つの異物を見つける。

 

 視界、左端。

 

 そこに、緑色の棒線が一つ。黒い枠の隣に、白い文字で【Kojo(古城)】と記されている。よく見れば、雪菜と浅葱の周囲にも、白い枠で囲われた緑色の棒が、それぞれ一本ずつ浮いている。こっちには名前は書いていない。

 

 ほぼ同時に、少女たちもそれに気づいたようだった。

 

「なによ、コレ……HPバー?」

「HPバー? ゲームとかによくある?」

「うん」

 

 その手のモノにそこそこ詳しい浅葱が、訝しげに眉をひそめてそう言った。

 

 その瞬間。

 

 古城の中で、何かがつながった。

 

「あっ……」

 

 黒い城。

 

 ファンタジーの服装をした、日本人。

 

 絶望にとらわれた表情。

 

 HPバー。

 

 ゲーム。

 

 そして――――茅場。

 

「まさか……」

 

 そんな馬鹿な。だってあれは、アニメの中の物語のはず。

 

「くそっ……」

 

 古城は近くに座り込んでいた男をめがけて走り出す。「あ、ちょっと、古城!」「先輩!?」という、浅葱と雪菜の声がするが、それを無視する。

 

「おい、あんた!」

「……なんだよ」

 

 のろのろと顔を上げた男に、古城は勢いよく問いかける。

 

「ここは……SAOなのか!? 《ソードアート・オンライン》!? HPがゼロになったら死ぬ、脱出不能のデスゲーム!?」

「何、言ってんだよ……知ってんだろ、あんたも。おかしくなっちまったのか?あのクソ茅場のせいで、俺は……俺達は……!!」

 

 そう言ってうずくまる男。古城もまた、呆然とした気持ちになっていた。

 

 もはや疑う余地もあるまい。

 

 ここは、SAOの世界なのだ。何の間違いがあったのかはわからないが、古城達は、天才科学者茅場晶彦が創り出した、脱出不能のデスゲームに巻き込まれてしまったのだ。

 

 幸い、ゲームハード、とでも言うべきものは、同じヘッドギア型であってもあの《ナーヴギア》とかいう装置ではない。この世界で死んでも、現実世界での死につながる、ということはないだろう。

 

 だが、恐らくは――――

 

 古城は、その嫌な予感と共に、アニメで主要キャラクターたちがおこなっていたように、指先をそろえて小さく振る。ちりりん、という、VRSで作られた仮想世界で、浅葱がホロウィンドウを出した時と同じような音が響き、これまたよく似た色合いのウィンドウが開いた。

 

 そこに描かれた、【Name:Kojo】、【Lv:1】、【EXP:0】、【Next:100】などといった全ての情報をすっ飛ばし、古城は右隣――――メニューバーをスクロールする。

 

 その最下層ほど近く――――そこには、アニメと同じように、『ログアウトボタンが存在しなかった』。

 

「マジかよ……」

 

 やはり、この世界からのログアウトは、不可能。

 

「ちょっと古城、どうしたのよ」

「何かあったんですか?」

 

 呆然と立ちすくむ古城に、浅葱と雪菜が追いつき、問うてくる。古城は振り返ると、すこし離れたところまで二人を連れ戻し、真剣な表情で彼女たちの顔を見つめた。

 

「二人とも、よく聞いてくれ……ここは、俺達のいた世界じゃない」

「……は?」

「それは……どういうことですか?」

「姫柊は俺と一緒にヴァトラーのところで見させられただろ。《ソードアート・オンライン》だよ」

「あっ……」

 

 雪菜が、口元を抑えた。

 

「《ソードアート・オンライン》……?」

「ああ」

 

 そして古城は、浅葱に一通りの説明をする。《ソードアート・オンライン》の大まかなあらすじと、その舞台となった架空の同名ゲームの詳細を。

 

 アニメ自体は流し観だったはずなのに、思いのほかスラスラと説明が出てきた。雪菜が手助けをしてくれた、と言うのも大きいのだろう。今日ばかりは、彼女がいつでもどこでもついてくるという現状に感謝した古城だった。

 

「……じゃぁ、私達、帰れないってこと?」

「ああ。忠実……忠実…? まぁ、とりあえずその通りの展開なら、あと二年後にログアウトできるらしいけど……」

「一応、ナーヴギアと違って、VRSには脳を焼く機能は無いと思うんですが……」

 

 だが、浅葱は震える声で、首を振った。

 

「ある」

「……え……?」

「あるの。VRSにも、その電子レンジみたいな機能が。あれ、動かすのにものすごい電力がいるのよ。だから、人工島管理公社から、直接電力を流してもらってるの」

「ってことは……」

「SAOのシステムが、VRSをナーヴギアと誤認してるなら……」

「俺達にも、死ぬ可能性があるってことか……」

 

 古城は目を抑えてうめく。

 

 ――――なんてこった。

 

 古城はまだいい。吸血鬼の真祖として、嫌になるくらいの再生能力を保有している古城は、たとえ脳が焼かれても、心臓を消し飛ばされても、体の何処かが残っているならば蘇る。だが、雪菜と浅葱は違う。

 

 雪菜は度重なる古城の吸血行為で《血の眷属》という疑似吸血鬼に近づいて来てはいるものの、今だ(一応は)ただの人間である。

 

 浅葱に至っては、《カインの巫女》として異能を失った今、ただの高性能な女子高生でしかない。そして彼女の技能も、この世界ではほとんど生かせない。

 

「ごめん、なさい……あたしが、あたしが古城と姫柊さんを誘ったりなんかしたから……」

 

 そう言って顔をゆがませる浅葱。

 

「な、泣くな! 別に誰もお前が悪いなんて言ってねぇだろ!」

「そうですよ。幸い、二年後にはクリアされることが確定しているのですから……――――ッ!!」

 

 雪菜が口をつぐむ。同時に、古城も気が付いた。気が付いてしまった。

 

 SAOにおける、《死の枷》が発動する条件は二つ。一つは、ゲーム内でHPがゼロになること。《ゲームオーバー》が《現実の死》に直結する、最大の理由だ。

 

 そして、もう一つは――――外部から、ナーヴギアを取り外すこと。

 

 これは、外部からプレイヤーの親族たちがナーヴギアを外して、ゲームが強制終了されるのを防ぐための措置だ。実際、これによって犠牲者が出ていることが、冒頭で開発者である茅場晶彦に語られた。

 

 この二つ目の条件が、古城達を今、非常に危うくしている。

 

 SAOの世界では、デスゲーム開始と同時に、茅場晶彦が様々なメディアを通じて、『ナーヴギアの取り外し厳禁』をリアルワールドに指示した。

 

 だが、古城達の世界では、それを知る者はいない。つまり、なかなか戻ってこない古城達を案じて、誰かがVRSを解除してしまう可能性がある。例えば、古城の妹の凪や、雪菜の元ルームメイトである煌坂紗矢華などが。

 

 それによっても、古城達が殺される可能性はある。それに、いくらなんでも二年間も姿を現さないのは不自然だ。下手をしたら、二日後にでも取り外しをされかねない。

 

「矢瀬のあたりが機転を利かせてくれるのを期待するしかねぇな……」

 

 たしか彼は、SAOのアニメではなく、原作である小説の方を読んだ経験があったはずだ。今の状況からそれに結び付けて、何か手を打ってくれることを期待するしかない。

 

「どうしよう……あたしの、あたしのせいで……」

「あー、もうっ! だからお前のせいじゃねぇって言ってるだろうが!」

 

 古城は、浅葱の頭を乱暴に撫でる。

 

「いいか? タイムリミットがあるなら、それまでにゲームをクリアすればいい。さすがに一日二日は無理かもしれないけど、一年以内に収めるのは恐らく不可能な話じゃない。たしかSAOクリアが大きく遅れる原因になったのは、第一層攻略までに一か月もかかったことが大きな要因の一つだったはずだ。それを、どうにかして早めるんだ」

「「第一層、攻略……」」

 

 雪菜と浅葱が、異口同音に繰り返す。ああ、と頷いて、古城は宣言した。

 

「行くぞ、姫柊。浅葱。俺達で、このゲームをクリアするんだ」




 さっそく文字数がガクッと減りました。次回もこんなもんだと思います。

 今回は古城君達がSAOにIN。ちなみに時系列は、デスゲーム開始から数日後、『大切断』が起こったあたりです。その時の回線復旧に巻き込まれてログインして来ちゃった感じですね。

 早くも感想を下さった方々、ありがとうございます!これからも本作をよろしくお願いします。

*2014年12月2日、ご指摘を受けて少々改稿しました。
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