ソードアート・ザ・ブラッド~黒の剣士と第四真祖~   作:神話語り

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第一層攻略1

  《ソードアート・オンライン》の世界に転移して来て、もうすぐ一週間が経過しようとしていた。現在の古城改め、プレイヤーネーム《コジョウ》のレベルは11。たしかアニメでは第一層攻略時点で主人公が14Lv位だったはずなので、それが三週間後のことであると考えると、破格のLv数値だ。

 

 ここまでコジョウ達を後押しした要因は二つある。

 

 一つは、アニメ第二話でも話題になっていた、《アルゴの攻略本》。

 

 情報屋《鼠》のアルゴが執筆したSAOβテスト時代の情報を基に作られたガイドブックで、全ての街の武器屋に置かれている。

 

 そこには、様々なスキル、プレイヤーのできる事と言った基本的なことから、モンスターの特性、フィールドの特徴、クエストの詳細、さらにはプレイヤーやモンスターの使う《ソードスキル》…この世界をこの世界たらしめる技術。SAOには《魔法》が無い代わりにこのソードスキルが無数に設定されていて、システムアシストによって威力と速度の上がった剣技を繰り出せる能力だ。これを上手く扱うことで、戦況を有利に進められる…までもが完全網羅、事細かく記載されていた。

 

 コジョウ達はこれを頼りに、ここまで冒険を行って来た。様々なクエストを最速でクリアし、アイテムをそろえ、レベルを上げる。古城は片手剣使い、雪菜ことプレイヤーネーム《ユキナ》は槍使いビルドを中心としてステータスを上げてきた。《はじまりの街》にほど近い村で受けたクエストでそこそこ強力な剣を手に入れ、さらにそこ近辺の村で受けたクエストで、ユキナの槍も手に入れた。《雪花狼》ではない槍に最初は戸惑っていたものの、今では慣れているようだ。古城自身、ここ最近ですっかり片手剣士(ワンハンデッド・ソードマン)が板についてきた気がする。

 

 もう一つは、いったいどうしたことなのか、初日に気付いたら古城のスキル欄に納まっていて、以来取り外すことができない一つのスキル。

 

 名前は《吸血鬼》。《索敵》や《筋力増強》、《戦闘回復(バトルヒーリング)》などの様々なスキルの効果をカバーし、STR・AGI二倍、夜間の視力増強、さらには『吸血行動』によるHPの回復などの特典をもつスキル。

 

 このスキル、何がおかしいのかと言えば、その効果があまりにも『古城達の世界』の《吸血鬼》のそれに似ていたことだ。一般大衆が思いえがく吸血鬼のそれとは少し異なる内容。

 

 吸血鬼の《吸血行為》のトリガーとなるのは、食欲ではなく性的興奮……すなわちは《性欲》だ。それ故に、実際のところ、コジョウは性的魅力を感じた女性以外から血を吸えないことになる。

 

 さらにはこの《吸血鬼》スキル最大の能力――――《眷獣召喚》は、一般のイメージの吸血鬼には存在しない概念だ。いや、蝙蝠を呼び出す吸血鬼とかならいるかもしれないけど。

 

 この世界にはコジョウ達の思い描く吸血鬼どころか、魔族すら存在しないはずだ。だがその割には、このスキルはあまりにもコジョウの……吸血鬼の特性を反映しすぎていた。

 

 幸い、この世界に来てから吸血衝動は襲ってきていない。血はこの世界からは出ないので、普段は吸血衝動を抑える抑止力となってくれている鼻血が出ないのは少々不安だが、吸血衝動をどうにかして押さえれば今後もやって行けるだろう。

 

 気になるのは、《眷獣召喚》の欄だ。《召喚可能眷獣》の欄が全部で十二個あるのだが、そこは全て空欄になっており、何の名前も書いていないのだ。

 

 つまり、コジョウはリアルワールドで雪菜(ユキナ)と出会う前、まだ《第四真祖》の能力を制御できるようになる前のひよっこ吸血鬼に戻ってしまったということである。

 

 それは大きな戦力ダウンを意味していた。

 

 

 ――――まぁ、それでも十分チートなんだけどな。

 

 思わず溜め息をついてしまいそうになる。

 

 アルゴの攻略本に乗っていたスキル一覧には、《吸血鬼》の名前は載っていなかった。おそらく、現時点ではコジョウにしか発現していないのだろう。それに《戦闘回復》のような、やはり攻略本に記載されていないスキルがカバー範囲内に含まれていることも気になる。

 

 もし公になったとき、今の荒んだSAOプレイヤー達が何をするか分からない。最悪(PK)されたり、ユキナやアサギを人質にとられでもしたらたまったものではない。

 

 それが故、コジョウはユキナ、そして浅葱ことプレイヤーネーム《アサギ》以外には、このスキルのことを明かしていなかった。

 

 アサギ、と言えば。

 

 ここ暫くの間の、問題点もあった。

 

「アサギー、帰ったぞー」

「ただいま帰りました」

 

 コジョウとユキナは、アインクラッド第一層を三区画に分けた、その中央ラインにある街の一つを拠点にしていた。三区画のもっとも外側のラインの最大の街が、第一層主街区《はじまりの街》。最も内側のラインの最大の街が《トールバーナ》(β時代)……そして、この《メルム》の街が、中央ライン最大の街。

 

 その中の比較的大きめの宿屋の、一部屋。ベッドの上で、毛布をかぶってうずくまる少女が、一人。

 

「……おかえり……」

 

 力なく答えたのは、アサギだ。

 

 一週間前、コジョウ達と共にVRSの不具合でSAO世界にやってきてしまった彼女は、この事故が自らの責任であるとして、ふさぎ込んでしまっていた。何度もコジョウとユキナが彼女のせいではない、と励ましているのだが、言えば言うほど、彼女は責任を感じてしまうようだった。

 

 モンスターを怖がったりはしなかったので、戦闘には参加出来るだろうが、いかんせん精神が不安定になっている現状だ。

 

「アサギ、今日でLv11になったぜ」

「私も、今朝10になりました」

 

 初期装備のチュニックのまま、アサギはこの一週間を無気力に過ごしていた。そんな彼女を元気づけるために、コジョウ達は毎日進展報告をする。

 

「一週間でここまでこれた。一日に大体1レベルも上がってる。これからだんだん上がりづらくなってくるけど、頑張ればボス攻略までに15レベルまで行けるかもしれない。それに、一週間たっても接続が切られないんだ。どうやら矢瀬が気を聞かせてくれたらしいぜ」

 

 SAOの原作をもつ、元の世界で待つ友人は、どうやらコジョウの期待通りに動いてくれたようだ。

 

 これで、最大の懸念であった『タイムリミットがあるかもしれない』という一点は、解決されかけているに等しくなった。だが、それでもまだ『解決された』訳ではないのだ。素早くデスゲームをクリアするに越したことはない。

 

 古城の見立てでは、攻略ペースはアニメよりも少し速くなっている。一週間で第一層中腹まで来たし、最前線ではもうすぐ最奥部に――――つまりは迷宮区に到達するという噂も聞いた。

 

「なぁアサギ、そろそろ拠点を《トールバーナ》に移そうと思うんだが」 

 

 コジョウは椅子に腰掛け、ユキナが煎れたお茶(らしきナニカ)を飲みながら、アサギに言った。

 

 現在のコジョウとユキナは、この周囲のモンスター達との戦いでは苦戦する事もなくなった。コジョウには《吸血鬼》スキルによるステータスボーナスがあるし、ユキナは元々のプレイヤースキルが非常に優れているからだ。

 

 レベルも上がって、弱い相手なら剣の一撃で倒すことも出来るようになった。

 

 だかそれは同時に、これから先、レベル上げに必要な経験値が多くなり、レベルが上がり難くなることを示している。

 

 コジョウは、第一層攻略までに、レベルを15以上に上げたいと思っていた。だが、すでに、レベルを一つ上げるために必要な第一層のモンスターの数は最初期の倍近くになっていた。

 

 このままではいずれ、レベルが上がらなくなる。そのために、出来る限り強いモンスターと戦って起きたかった。

 

 現状、本当はソロで戦った方が経験値の入りは良いのだが、ユキナやアサギを置いて、一人で先へ進む気にはなれない。

 

 ――――その為に、多少の危険がアサギに迫るとしても。

 

「あの、別に私も先輩も、強制しようとは思っていないんです。この近くでも、多分もう少しレベル上げできますし……アサギ先輩のレベルが、もう少し上がってからでも……」

 

 ユキナが弁明する。

 

 彼女のレベルは3。コジョウとユキナとパーティーを組んでいるため、二人がモンスターを倒した時に得た経験値でレベルを上げたのである。だが、SAOでは倒したモンスターに与えたダメージの総量で獲得経験値量が決まる。あくまでも彼女が得た経験値は、戦闘に参加した全員に配られる基本値でしかないのだ。

 

 この街に来るまでは、それほどコジョウ達とアサギのレベルはかけ離れていなかった…当時、コジョウがLv5、ユキナがLv4、アサギがLv1…ことと、道中に出現したモンスターがそれほど凶悪でも強敵でもなかったことが古城達の助けになった。

 

 だが、今回は違うのだ。

 

 パーティーの中に、一人だけレベルの低いプレイヤー。

 

 それを守りながら、彼女よりもレベルのずっと高い、凶悪なモンスターの徘徊するフィールドを通り抜けなくてはならない。

 

 苦にはならないが、危険だ。何かの拍子にアサギを死なせては仕舞わないか……そんな不安が付きまとう。

 

 だが。

 

「……わかった」 

 

 アサギは、気丈にも頷いた。まあ、彼女はフィールドに出ることに恐怖を覚えているのではなく、自分に責任を感じて塞ぎ込んでいるだけなのだ。

 

 ――――きっと。

 

 そう遠くないうちに、アサギも戦えるようになる。それが戦場での事なのか、それともそうではないのかは分からないが、コジョウはそう確信した。

 

 もしかしたら、もう彼女自身、立ち直りかけているのかもしれない。コジョウ達が心配する必要は、不要なのかもしれない。

 

 アサギが毛布を剥いで起き上がる。

 

「アサギ……」 

「なによ。行くんでしょ、最前線」 

「あ、ああ」 

 

 頷く。

 

 だがコジョウとしては、もう少し待つ必要があるか、と考えていたのだ。まさかこんなにあっさり、アサギが行動を起こすとは考えていなかった。

 

「だったら早く行きましょ。あたし、やるって決めたら早くやりたいの!」 

「はは……そうだったな」 

 

 こいつは、そう言うせっかちなヤツだった。

 

 思いのほか、アサギの調子はいいらしい。全く、さっきまで怯えた猫のように毛布にくるまっていたのは一体どこの誰だったのやら。

 

「それじゃあ行こうか」 

「うん」 

「はい!」

 

 

 ――――数時間後、コジョウは強く後悔することになる。

 

 なぜ、この時、浅はかにも街を出ようなどと考えたのか、と。

 

 アサギの調子が、あまりにも良すぎることに、疑問を覚えなかったのか、と。 




 どうもこんにちは。『黒の剣士と第四真祖』の最新話をお届けしました。これから数話の間、第一層攻略の話となります。

 なお、現在作者はリアルが少々忙しいため、一日一話の更新は難しいと思われます。せめて第一層クリアまでは早めに更新したいと思っておりますが、ご了承ください。

 12月3日、ご指摘を受け、コジョウ達のレベルを修正しました。
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