ソードアート・ザ・ブラッド~黒の剣士と第四真祖~   作:神話語り

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第一層攻略2

 既にあたりは暗くなり始めていた。時刻は六時半過ぎ。現実世界の季節をトレースするらしいSAOでは、この時期、日が沈むのも早い。

 

「急ごうぜ」

「はい」

「ええ」

 

 コジョウ達は街のゲートを目指す。できるだけ早く、休憩地点に設定した村に着きたい。

 

 アインクラッド第一層は、円錐体の最下層なだけあって非常に広い。そのため、一日で全ての箇所を回りきることは難しいとされていた。

 

 《アルゴの攻略本》第一層マップ編によれば、今いる街から目的地である最前線の街、《トールバーナ》に至るまでには、最低でも半日かかるらしい。それまでに何か所か小さな村があるので、コジョウ達はそこで休憩しつつ、最前線を目指すことにしたのだ。

 

 最初の村は《圏外》らしいので、二番目の《圏内》村が、とりあえずの休憩地点だ。翌朝、再び《トールバーナ》を目指す。

 

 《圏内》、《圏外》というのは、《犯罪防止(アンチクリミナル)コード》という、この《圏内》ではHPが減らない、モンスターが入ってこない、などの、プレイヤーを保護するためのコードの圏内外のことだ。コードが施されていない《圏外村》では、街中にモンスターが入ってきたり、何かの間違いでHPが減ったり、βテスト時代は暗殺も横行していたという。

 

 そのため、コジョウ達はそこを飛ばすことにした。結果、前述の通り、二番目の村が最初の《圏内村》だった、というワケだ。

 

 

 ゲートを出て、フィールドを歩き始める。コジョウとユキナが、レベルの低いアサギを守るような形だ。

 

 アサギの装備も一応整えた。店売りの中では多少ランクの高い片手剣と、軽金属鎧、それと駄目押しでフード。NPC鍛治による強化などは全く施してはないが、全くの初期装備よりはましだ。ちなみにフードは、この街に来る前の移動で、アサギとユキナの外見が注目を集めてしまったため、今回はそれを予防するための処置である。因みにユキナも同じものを被っている。こちらはNPC裁縫師による強化済みだ。

 

 周辺に出るモンスターの情報は、大抵頭に入っている。そのため、時折襲ってくるモンスターには、問題なく対応することができた。モンスターが出てくると素早くユキナが応戦して撃退してくれるため、コジョウはほとんど何もしなくてよかったのだが。

 

 パーティーを組んでいるため、コジョウやアサギにも微弱ながら経験値が入ってくる。アサギはまだレベルが低いため、レベルアップが速い。恐らく、そう時間がかからないうちにレベルが一つか二つは上がるであろうことが予測された。

 

 

 思ったよりも目的の村が遠いらしいことに気が付いて、コジョウ達が公開し始めたのはそれから三十分ほど後のことだった。

 

「なかなか着きませんね……」

「おいおい、見えてこさえしねぇぞ……」

 

 《吸血鬼》スキルのパッシブ効果で《遠視》スキルの効果がカバーされているため、コジョウの眼は他のプレイヤーよりもいい。だが、それをもってしても、目的となる村は見えてこなかった。

 

 日は落ちて、どんどん暗くなっていく。

 

 いつの間にか、真っ暗になっていた。

 

「しまったな……やっぱり明日にするべきだったか……?」

 

 そこまで呟いて、コジョウはしまった、と気が付いた。

 

 早く行動することを促したのはアサギだ。この発言は、遠回しにアサギを批判しているように聞こえなくもない。

 

 だが、アサギはそれを気にした様子もなく歩いている。コジョウはほっ、と安堵のため息をつくと、前を見据える。

 

 その時だった。

 

「先輩、あそこ……」

 

 ユキナが、何かに気が付いた。

 

 見れば、少し先の平原に、何かが形成され始めている。ポリゴン片のかたまり――――モンスターだ。

 

 その数、ひとつ、ふたつ、みっつ――――どれも違う形をしている。

 

「ちょ、ちょっと、コジョウ……」

 

 アサギが驚いたような、不安げな声を上げて近づいてくる。彼女の視線の先を見ると、そこにもモンスターがPopし始めていた。

 

「これは……」

 

 気が付けば――――コジョウ達は、二十を超える数のモンスターに取り囲まれていた。

 

「モンスター・ハウス!?」

「馬鹿な! ダンジョンにしかないって書いてあったのに……あっ!」

 

 ユキナの叫びに反応して、《アルゴの攻略本》の内容を思い出していたコジョウは、一つ、とんでもない失念をしていたことを思い出した。

 

 第一層のフィールド。

 

 《トールバーナ》へと至る道の途中に、一か所だけ、まるでトラップか何かのように設定されているエリア。

 

 《フィールドダンジョン》、《蛮勇平野》。一見何でもないフィールドに見えても、そこはダンジョン属性を持つエリア。Pop率は通常のフィールドの二倍ほど。どれも少々レベルが高く、そして――――

 

『なお、午後7時過ぎ以降の夜間には、モンスターのレベル・及び知能が上位の物に変更される模様』

 

 つまり――――ここに居るモンスターたちは、いつも戦っている奴らよりも、強いのだ。

 

「ユキナ! 気をつけろ! こいつら、いつもの奴より強いぞ!!」

「はいっ!」

 

 コジョウの叫びに、ユキナが返事を返す。すでに彼女は槍を構えて抗戦体制。頼もしい事だ。

 

 因みにこの時ユキナが、こんな時にもかかわらず「先輩が私のことを名前で呼んで……!」とかひそかに考えていたのは、コジョウには知る由もない。というか、そんな事推察している余裕がない。

 

「くぉっ……!」

 

 近づいてきた緑色の小鬼……ゴブリンに、片手剣ソードスキル《ホリゾンタル》を放つ。高レベル水準の、高め、さらには二倍化されたSTRによって繰り出された、横凪の一撃がその胴体を深く切り裂き、一瞬で四散させる。

 

 次のモンスターが迫る。犬のような、ブタのような頭をした獣人……コボルド。スキルディレイが終わった途端に、次の一撃。今度はソードスキルを使わずにあしらいながら、ほかのモンスターが近づいてきたところを狙って、今度は二連撃、《ホリゾンタル・アーク》。

 

 ユキナも安定して戦っている。見事な槍裁きでモンスター達をかく乱し、的確に急所を突いて斃して行く。

 

 だが、モンスターの数はなかなか減らない。というよりむしろ……

 

「ねぇ、コジョウ……何か、増えてない……?」

「ああ。くそっ! キリがねぇぞ」

 

 そう、モンスターは、後から後から再湧出(リポップ)していた。

 

『《蛮勇平野》では、夜間になるとモンスターのポップ周期が二倍速になる。レベルに相当な余裕がない限りは、夜間、このフィールドダンジョンに近づかないように』

 

 なぜ失念していたのか。

 

 アサギの調子がよさそうだから、浮かれていたのだ。

 

「ぐぁっ!」

 

 ついに、モンスターの一撃が、コジョウに入る。そのHPバーが大きく減り、コジョウに一瞬の隙ができる。

 

「きしゃぁぁっ!」

「ぐろぉおお!」

「きぇぇぇっ!

 

 ここぞとばかりに畳み掛けるモンスター達。だんだん、コジョウにもさばききれなくなっていく。

 

「ああ……あああ……」

 

 その時だった。

 

 ぺたり、と、アサギがその場に座り込んでしまったのは。

 

「アサギ!?」

「アサギ先輩!」

 

 自分の対応していたモンスターを突破し、ユキナが駆けつける。アサギは震える声で、小さく洩らした。

 

「あたしの、せいだ……あたしが、『早く行こう』なんて、言ったから……」

「馬鹿野郎!! この場所のこと忘れてた俺の責任だ!」

「いや……いやぁ……全部、全部あたしのせい……!!」

「何言ってんだ! 何度も言ってるだろうが、お前のせいじゃねぇ!!」

 

 だが、コジョウの声は彼女に届かない。アサギは頭を抱えて泣き叫ぶだけで、コジョウの声も、ユキナの説得も、耳に入っていない。

 

 やはり、甘かったのだ。彼女はたぶん、必死に取り繕っていただけに違いない。本当は、まだ、ずるずると責任感を引きずっていたのだ。

 

 どうして、「大丈夫そうだな」などと思ってしまったのか。抱え込むときはいつまでも抱え込む少女なのに。

 

「くっそ……!」

 

 そうしている間にも、モンスターの数は増え続ける。力任せの戦いにも限界が来る。今更になって、コジョウは自分の力量不足を痛感した。

 

「くうぅぅっ!」

 

 いよいよユキナの方にも限界が訪れる。裁ききれなくなったモンスター達が、溢れ出す。

 

 ――――まずい、まずい、まずい……!!

 

 ――――ここで、終わり、なのか……!?

 

 

 その時だった。

 

 黒い一陣の疾風が、モンスターたちの間を駆け抜けた。風の通り抜けた傍から、モンスターたちは軒並み爆散していく。

 

 それは、真っ黒な装備で身を包んだ、女顔の少年だった。武器は古城のそれと同じ。《はじまりの街》最寄の村、《ホルンカ》で受けられるクエスト、《森の秘薬》クリア報酬。第一層最強の武器であるその剣の名は、《アニールブレード》。

 

「大丈夫か!?」

「あ、ああ……!」

 

 少年の問いかけに、コジョウはうなずく。

 

「助太刀するか!?」 

「頼む! 仲間が一人、調子悪いんだ!」

 

 コジョウの嘆願に、少年は「わかった!」 と返すと、迫り来るモンスター達にむけて、ソードスキルをはなった。

 

 技自体は、コジョウのそれと同じ、《ホリゾンタル》。だが、コジョウはその一撃に、思わず見惚れてしまった。

 

 凄まじく、美しい一撃だったのだ。

 

 ユキナの戦いかたも美しいし、洗練されている。だが、少年のそれは、なんと言うか―――『慣れている』感じがした。

 

 そう、ソードスキルの扱いが、非常にうまい。同じ技のはずなのに。筋力値はむしろコジョウの方が高いのに。少年のそれは、コジョウの《ホリゾンタル》よりも早いし、威力も高かった。非常に綺麗に敵の弱点(ウィークポイント)にヒットしているのだ。

 

「先輩!」 

「あ、ああ!」 

 

 ユキナの叫び声で我に帰ったコジョウは、自分もまた、ソードスキルを放つ。少年はどうやら、攻撃の最中に、ただシステムアシストに任せるだけでなく、自分でも動いているようだ。恐らくあれが度を越しすぎても、ソードスキルが失敗するだけなのだろう。凄まじい技量だ。

 

 コジョウもなんとなく真似をしてみる。何とか成功すると、確かに何もしていない時よりも威力が上がっているようだった……が、やはり少年のように膨大な底上げにはつながっていないようだった。

 

 やっぱり自分には喧嘩殺法の方があってるよなぁ……と今更ながらに思い返しながら、剣を振るい続けること十分余り。

 

 やっと、モンスターのPopが一区切りついた。

 

「今の内に抜けよう!次の村でいいか!?」

「ああ、頼む!」

 

 そこからは、少年の先導だった。泣きじゃくりながら謝るアサギをなだめつつ、どうやら安全な近道を知っているらしい少年についていく。少年が自分たちをだまして殺そうとする、という可能性が思い浮かばなくもなかったが、コジョウは直感的にはそれはないだろう、と思っていた。

 

 それに、なんとなく、彼の顔に、見覚えがあるような……?

 

 そうこうしているうちに、あれほど辿り着くのに苦戦した次の《圏内村》に、あっさりと到達した。

 

「あそこのフィールドダンジョンを突っ切るより、迂回して回った方がモンスターに捕まらない分早く来れるんだ」

「そうだったのか……悪い、助けてもらっちまって」

「いや、良いんだ。無事だったみたいで……」

 

 少年はコジョウの謝礼に、バツが悪そうに頭をかきながら答えた。

 

「俺はコジョウ。君は?」

「……キリト。ソロをやってる」

 

 瞬間、コジョウの中で、先ほどの『見覚え』の正体が、明らかになった。

 

 分からないわけがない。その名前を、知らないわけがない。

 

 《黒の剣士》。SAO最高の反射速度を持つ男。ユニークスキル《二刀流》の使い手。全SAOプレイヤーをデスゲームから解放した、英雄。

 

 彼こそが――――『ソードアート・オンライン』の、主人公だった。




 お待たせしました!

 今回は原作主人公も登場、やっと題名が揃った、『黒の剣士と第四真祖』最新話をお送りしました。

 思いがけず多くの方が意見を下さっていて、感涙の限りです。これからも本作をよろしくお願いします!

 ……あれ? 前回も言ったような……?
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