事故ったのは玲奈だった 〜社長夫人はずっと離婚を考えていた〜【原作伏線回収・再構成】 作:山本山
ー現在ー
追突事故から4日目久々に自宅に戻った。ほんの数日しか絶っていないのに、智昭と茜と暮らしていた日々が余りにも遠く感じていた。1カ月後にはあの関係も完全に終わると思うと虚しさは残る。別れを選んだ事にも茜を手放した事も何ひとつ後悔はないのだけれど、約7年の月日はそんな軽いものでもない。
「優里が茜の恩人とはね、どこまでも運は彼女の味方をするのね…」
いつ頃の話だろうかと思案したがA国での話だというのは容易にわかった。
「A国ね…相性が悪い。」
ふぅーとため息混じりの深呼吸をした。
あの時どんなに自分じゃないと訴えても無実を示すものが無かった。今思えば正雄の仕業なのは一目瞭然だけど、当時の私には成す術が無かった。それももう1ヶ月後には終止符をうたれるのだ。玲奈はぐっと眉間に力をいれて大森にはきちんと責任を取ってもらわないと、、玲奈は礼二に電話をかけ明日出社する旨伝えた。近くに翔太がいたようで青木さん明日待ってます。と聞こえてきた。電話を置いて翔太は大型犬みたいだなと漠然と思い何だか気が抜けた。検査異常無しで退院したけれど、やはり身体はびっくりしていたのだろうし、午前の緊張が一気に緩み眠気が襲ってきた。眠りのほとりで翔太、彼もA国大学出だわ、縁起が悪いのかしら?と思いながら眠りに落ちていった。
夕方に着信音で目が覚めた。
だいぶ頭がボヤけていて誰とも確認せず電話に出る。
「はい」
「玲奈さん、今日退院なんだって無事退院おめでとう」
辰也からだ。
「ごめん、寝てたかな?夕食はもう済ませたかな?と思って、体調崩れたの?」と
矢継ぎ早に聞いてきた。
「眠ってはいたけど丁度起きた所。お見舞いありがとう。」
このまま電話を切ろうかと思ったが案外お腹が空いてる事に気づいて辰也の提案に乗ることにした。
「夕食はまだ、お見舞いのお礼に食事はどう?」
と玲奈から提案した。
辰也は浮足立っていて、じつは、もう彼女のマンションの近くまで来ていた。この間有美のプレゼントをもらった場所に車を停車させていた。
「玲奈さんよかったら迎えに行くよ、いや退院したばかりなんだ迎えに行く。場所教えてくれる?」
辰也は拒まれるだろうと覚悟していたが、これ以上何もせずに過ごす事はできなかった。玲奈に会いたかったのだ。
玲奈は少し間を置いて
「わかった」と
返答し住所を送る。玲奈も少しは自分を労ろうと思い直していた。そして今まで自分の周りで起きてる事に余りにも受け身だったんじゃないか?と思い始めていた。勿論、智昭に全ての心血を注いでいた事を間違ってるとは思っていない。
ただ余りにも知らなさすぎるのでは?と。玲奈は軽くお化粧をしてシンプルなワンピースに着替え辰也が待つ車へ歩きだす。
空は夕方から夜へと変わるグラデーションになっていた。辰也が車の側に立って手を挙げた。
玲奈は少し頷いて彼の待つ方へ向う。既に助手席の扉を開けて待っていたのでそのまま車に乗り込んだ。
「何か食べたいものある?もし、希望がないなら薬膳のお店はどうかな?」
「うん。お願いします。」
簡単に返答する。
「有美ちゃん、有美ちゃんが君に会いたがっているんだけど、すぐにって訳でもないけど会ってくれる?」
伺う様に辰也は聞く。
「…離婚が成立するまで、少し待って欲しい」
その返答を聞いて辰也は焦りすぎたかとハンドルをぐっと握りしめた。
「わかった。成立した頃、又誘っても?」
「かまわないわ。でも仕事が立て込んでいると思う。有美ちゃんに期待させたら悪いから、何も言わないでおいて」
「わかった」
その後の会話は叔父の裕司との仕事の話しを少ししてレストランに着いた。
夕食時を少し過ぎているせいかすんなりと通されて席に着く。
「苦手な物ある?」
「いいえ」
返事を聞いて辰也は適当に料理を注文する。
「事故、ムチ打ちが少し残ってる?」
「うん、それだけよ。」
「それ以外は無事で本当によかったよ。もう、あんな思いは遠慮したいよ」
玲奈は不思議に思った
「?心配してくれてるのね、ありがとう。」
「あぁ、もちろんだよ」
辰也は玲奈と視線が合ってドキリとした。あと、1ヶ月の辛抱だと噛み締めていた所に玲奈が問いかけた
「A国での事覚えてるよね?貴方達が…私を疑っていた事と、それからの態度と。貴方の私に対する態度が何故かわったの?」
辰也は身体がビクッと動いた。今まで有耶無耶にして何とか雪解けを待っていたが、突然、こんな形で尋ねられるとは思っていなかったからだ。
「7年前A国で、起きた事は今なら君の意思じゃない事もわかっている。当時は君の言葉を信じられなくてすまなかった。」
辰也はとんでも無い罪を犯している気分だ。
「うん。もうそれはいいの。今ならあの時何が起きたか私も分かっているわ。あの時、智昭に薬をもったのは大森正雄よ。何故あの場所に彼がいたのか貴方達なら知っているのじゃなくて?」
辰也は言葉に詰まった。玲奈の言う通りあの後、かなり時間は掛かったが真相はだいたい掴んでいた。正雄の仕業である事も概ね理解していた。ただ決定的な証拠も無かった。辰也は全貌を掴んでいないのも確かだ。
「あぁ、大森正雄は優里を智昭に近づけようとしていたらしい。察しの通り薬で優里との既成事実を企んでいたのだろう。優里は次の年に入学だったから。あの日を逃すと接点が…」
そこまで言いって黙った。玲奈は淡々と聞いていた。
「あの男の計画が狂ってしまった訳よね。しかも濡れ衣を私にきせる事には成功したけど、まさか結婚するとは思わなかったんでしょう。真相はわかっていたのに私は無下にされ続けてきたって事ね。なのに貴方は今、何故、態度がかわったの?」
辰也は返す言葉が無かった。思い返せば彼女の結婚生活は忍耐の連続だったんじゃないか?と。
俺も彼女を誠意のない人間だと思っていた。それでも少し周りが落ち着き初めた頃、優里が現れたわけだから。
「確かに俺は君を信用しきれなかった。申し訳なかった」と
辰也は再び頭を下げた。彼女に見限られるのが怖いとさえ思った。
「別に怒ってる訳じゃないわ、ただ不思議だと思ったの。それにもしかしたら私の知らない事がまだある様な気がして…何が起きてるのかしら?」
辰也はただ黙っていた。言える事が何もないからだ。全貌を追ってるのは智昭でオレと清司は手を貸してるに過ぎない。それでも辰也は玲奈の信用を取り戻したくて、今回の事故映像を智昭が持っている事を思い出した。
「何が起こっているかは正直わからないんだ。関係あるかどうか分からないが、今回君の事故映像は智昭が探し出している。」
「そう。辰也、私に少しでも懺悔の気持ちがあるなら、その事故映像見せてくれないかしら?」
「善処するよ、時間をくれないか?」
「わかった」
玲奈は頷いた。その後は運ばれてきた薬膳を食べ有美ちゃんの事と叔父の裕司の事を話した。食事の最後に玲奈は
「おじさんの事ありがとう。本当に助かったわ。それと、仕事忙しいのにお見舞いに駆けつけてくれてありがとう。」と
微笑んでお礼を、告げた
食事の後は辰也は玲奈のマンションまで送り届け家路についた。