事故ったのは玲奈だった 〜社長夫人はずっと離婚を考えていた〜【原作伏線回収・再構成】 作:山本山
約束の週末、朝からソワソワしてる翔太は髪型も念入りに服装もやり過ぎ無いようにと鏡をみながら整えて…忙しなく身支度をする。が、ふと我に返る。流石に浮かれすぎてると苦笑いした。玲奈の真剣なあの眼差しを思い出し気を引き締め直す。
いつもより早く出社し定時で仕事を終わらせるべく目の前の仕事をこなして行く。目処がたった頃時計に目を向けると定時まであと1時間。
ひと息ついて、A国での事を思い出していた。優里との関係は大した事じゃ無い。姉を通じて偶々出会っただけの関係だが、それでも少し後ろめたく感じるのは当時、優里に惹かれていたからだ。AIの世界を知ったのも優里がきっかけだ。
後に優里からA国に仕事で来ていた藤田智昭を紹介された。そして時間がある時は彼にAIの指南をしてもらっていた。翔太は2年前の事をなるべく誤解が生じない様に慎重に話す事を肝に置き、礼二と玲奈がいてるオフィス階に向かう。
扉をノックして入る。
このフロアには玲奈と技術リーダー達が机を並べている。オフィスの奥に社長室がある。翔太は玲奈のデスク近くまで歩み寄り仕事の邪魔にならない距離で空いている椅子に座る。玲奈は画面に集中している。彼女の美しい横顔をただただ見つめいた。誰かを想うという事は想い人の世界が丸ごと美しく見えてしまうものなんだなと漠然と思っていた。玲奈の意識がデスクトップから離れて翔太へ移る。
「翔太いつから?片付いた?」
玲奈の言葉は淡白だ。
「うん。楽しみにしてたからね。朝早くから取りかかったから終わったよ」
椅子の背もたれの上に両ひじを組んで顔を乗せたまま嬉しそうに応える翔太。
玲奈はやっぱり大型犬みたいだと密かに思っている。玲奈の仕事も大方終わって礼二を待つ。
上半分がガラス張りの社長室。ガラスの向こう側で電話をしている。こちらの視線に気付き手を挙げて合図をする。暫くして礼二も仕事終えて社長室から出てきた。
「お待たせ。いこうか」
眉間をもみながら駐車場へ向かう。礼二の車で向かう事になった。運転は勿論礼二なのだが、玲奈が後部座席に座ったものだから翔太は助手席に座らされた。礼二と翔太は終始無言だった。
店内に入り窓際から少し離れた所に座る。玲奈の前に翔太、右側礼二。フルーツタルト3つとホット2つにアイスコーヒーひとつ注文する。
「ありがとう、お見舞いのケーキもここで?」
玲奈が翔太に尋ねる
「いや違うお店。あの時玲奈さんがフルーツタルト選んだから」と
アイスコーヒー飲みながら答えた。礼二と玲奈は翔太が人気なのもビジュアルだけじゃないんだと妙に納得した。
翔太は礼二もフルーツタルト食べるんだと意外に思っていた。
ゆっくり珈琲を飲みながら玲奈が口を開く
「翔太、先に聞くわ何か質問ある?」
「ん。何故優里の事知りたいの?」
「この前話した通り優里は異母妹なの、そして私は大森を許さない。今はこれ以上は言えないのだけれど私は信用に値しない?」
首を横に振りながら翔太は
「いいや、、そんな事ない。信用してる」
静かに答えた。
「ありがとう」
玲奈は少しホッとした。翔太は続けて話す。
「俺の姉が優里と知り合いで、それで知り合ったんだ。優里からスミスの研究内容を聞いてこの世界に興味を持ったんだ。」
「君は金融が専門だっただろう?」
礼二が口を挟む
「はい。そちらが専門でした。家の関係で、、」
「君のプライベートには口を出すつもりは無いが、ご両親はよく許したね。秋山家の後継者じゃなかったか?」
「、、そうですね、ただ姉もいてますので、そこまで心配はしてませんよ。たしかに俺は好き勝手にはしてますが…。」
「そうか」
礼二はそれ以上は聞かなかった。
「翔太、1〜2年でここまでの知識と技術は素晴らしいわ。独学?それとも優里に?」
玲奈が聞くと
「大森社長にそこまでの能力はないよ」
間髪入れず礼二が答える。続けて
「スミス教授に個人的?」
「いえ、専攻を変えてからは藤田さん、藤田社長に指南してもらいました。」
礼二と玲奈は顔を見合わせた。
「優里から紹介されて時間がある時に優里と一緒に指南してもらってたんです。」
「あなたが優里と知り合う前から藤田社長と優里は知り合い、、いえ、恋人だったの?」
玲奈は至って冷静に聞く
「いや、恋人とは違うはず。藤田社長の娘さんの恩人が優里だったはず」
「その経緯翔太は知ってる?」
「聞いた事しかわからないけど、大学内の正門近くで1人遊んでる女の子がいたらしく珍しく感じて優里が声をかけたらしい、その直後に男女の不審者が女の子を連れ去ろうとしたんだけど優里が女の子の手を引いて庇ったらしい」
「犯人は?」
「そのまま走って正門を出て車で走り去ったらしい。聞いた時も不思議だったんだけど、優里が声をかけてる時に拐おうとする間抜けがいるのか?と思ったが、優里曰くとても酒臭く手の甲に汚いクモのタトゥーもあって、思いつきのチンピらモドキなんじゃないかって、、で、その女の子が藤田社長の娘さんだったって。」
玲奈は机の下で手が震えるのを必死に抑える。
その様子をみて礼二が続けて聞く
「藤田社長は何してたんだ?」
「すぐ駆けつけたらしい。近くにはいたみたいだけど、少し人に囲まれてたらしい。校内だから多少気は緩んでたのか?見たわけじゃなく聞いた話だからなんとも言えない」
玲奈はもう一度確認する
「優里から聞いたの?」
「優里からと姉から聞いた」
「そう、わかった」
玲奈は落ち着く為タルトをひとくち口に運ぶフルーツに意識を向け喉を通るのを感じていた珈琲を飲み小さく息を吐く。
玲奈は何も知らされていなかった事実をゆっくり受け止める。
礼二は玲奈の様子を見ながら翔太に聞く
「翔太が優里と出会う前の話だな?」
「そうなりますね、ただそんなに間を置かず紹介されてると思います。校内でもちょっとした話題にはなっているの聞いてましたから。その後すぐその噂はなくなったけど。その日も藤田社長はスミス教授に招待されてたはずです。」
淀みなく答えていく翔太。
一方玲奈は自分が知らない所で茜が危険にさらされていた事に怒りを感じ言葉を発せずにいた。
礼二が翔太に聞く
「大森さんはその女の子が藤田社長の娘だと知っていたのだろうか?」
「え?知らなかったと思いますよ。」
「根拠は?」
「え?根拠?知っていた可能性があるって事ですか?」
翔太は首を傾げ思案し始めた。
玲奈の電話が鳴った茜からだ。病室で話して以来の茜からの電話だ。玲奈が席を外し扉の方へ向かい扉をあけた。風が店内に流れ込み玲奈の声が微かに聞こえた
「茜ちゃんどうしたの?」
翔太は玲奈の方向に目線を向けそれからゆっくりと礼二の方に視線を向けた
「礼二さん、玲奈さんのお子さんは女の子で名前は茜ですか?」
礼二は本人がいるのに自分から話すのが正しいのか分からず黙っていた。
翔太は礼二の沈黙を肯定と捉えた。
以前玲奈の病室でママと駆け寄った女の子と
A国で智昭が連れていた女の子が同一人物だと気づかなかった。
玲奈は店先で茜と電話していた。茜からは退院おめでとうと、また青木家に遊びに行きたいという話だった。
電話をしているその姿を帰宅途中の車中から偶然瑛二が見つけた。瑛二は車を路肩に止め玲奈に声をかけようと外に出る。玲奈の電話が終わるのを待って声を掛けた。
「玲奈さん、無事退院したんだね」
思わぬ再会に喜びを隠せない瑛二。
対象的に驚く玲奈
「田淵さん、お休み?ですか?、それからこの間はお見舞いありがとうございます。お花もありがとう」
「当然だよ。それよりも瑛二と呼んでくれる?」少し悲しそうな顔をする
「そうだ、お見舞いのお礼は瑛二と呼ぶ事でお願いするよ、どう?難しい?」
少しばかり困った顔の玲奈だが了承した。
「分かりました、瑛二さん」
玲奈は店内に待たせている礼二と翔太が気になり視線を向けた
「人が待ってるんだね、時間を取らにせてしまった。すまない。時間があったら僕のおすすめケーキ屋さんにも付き合ってよ、じゃぁまた」と
玲奈に店内へ向うよう促した。
彼女はなんと返事すべきか分からず曖昧に頷いて2人の待つ席へ戻る。
瑛二はこの場所から1番近い花屋さんを探し出し花束を注文し買いに走った。別れてから15分程してタルトのお店に戻り店内へ。
玲奈と礼二と翔太が真剣な面持ちで話しているのを見て、瑛二は直接渡すのを諦めた。
定員さんに
「貴女の1番のオススメはどれかな?」と
ケーキの並んでいるショーケースを眺める。
「こちらの季節盛り合わせのフルーツタルトとプリンもオススメですよ」
「そうか、じゃぁそれ1つ、づつと、こちらの苺タルトをホールで」
「かしこまりました」
商品を受け取りおすすめしてくれたら定員に
「この花束あそこの美女が帰る時に渡してもらえないか?」と
自分の名前だけの名刺に(退院おめでとう)とメッセージを記入して定員にお願いした。
「奥に座られている女性ですね、かしこまりました。」
「無理を聞いてくれてありがとう。これお礼とお詫び受け取って」と
先程のおすすめタルトとプリンを差し出してお店を後にした。
定員は瑛二の風貌も合わせて洗練された行動に完全に心奪われていた。
第1話の玲奈の病室で茜がママと駆け寄った場面に翔太も居たのを失念しておりまして、少々強引ですが加筆致しました。
ご容赦ください、(ペコリ)