事故ったのは玲奈だった 〜社長夫人はずっと離婚を考えていた〜【原作伏線回収・再構成】 作:山本山
席に戻った玲奈は先程より緊張感が漂っている気がした。礼二と翔太、2人が何か話す様子も無い。
「席を外してごめんなさい。続き、いい?」
「優里が藤田社長の娘さんだと認識していたか?だけど、俺は知らなかったと思う。確かめた訳じゃ無いけど」
翔太は先程聞こえた玲奈の声には触れずにいた。
「そう、わかった」
礼二は玲奈に動揺が残ってる様に思えたのでひとまず、目の前にあるフルーツタルトでも食べようと2人を促した。
翔太が唐突に
「玲奈さん苺が好きなの?ムースが好きなの?」と尋ねる
「ん、苺味が好きかな」
「そっか」
満面の笑みで返す翔太。
少し気持ちがほぐれた玲奈は続けた。
「翔太はなぜ長墨ソフトに?」
「えっ、また面接?!A国に魅力を感じなくなったのとCUPAに惹かれたからだけど?俺解雇されるの?」
「お前次第だ、俺は玲奈程甘くないぞ」
ここぞとばかりに礼二は翔太を煽る。玲奈はそれを無視して
「ほんとにそれだけで長墨ソフトに応募したの?貴方も気づいてた思うけど、度々優里は貴方に視線を送っていたわ」
「……出来る人は全然違うね。誤解されたくなくないんだけど、、初めはチョロいと思ってたんだ。」
観念して翔太は打ち明ける。
礼二の目が今まで見たことない程に鋭くなった。若干殺気を帯びている。
「スミマセン。玲奈さんの面接の時に見せたプログラムあれは優里が作った物。と、言っても殆ど俺だけど(笑)問題点はあったけどあれで優里はスミスの優等生枠勝ちとったから。それに少し手を加えて、玲奈さんがどれ程の者か試したんだ。優里が長墨ソフトから断られてたのも知ってたし。玲奈さんに会うまでは私情を挟んだふざけた人だと思ってた。だけど玲奈さんは話をしながら問題点をみつけて簡単に書き換えちゃったからさ、、ほんとめちゃくちゃカッコ良くて一目惚れした。」
翔太は照れを隠す様に手に持ってるフォークでタルトを軽くつついてる。場違いだけど彼の素直さと潔良さが玲奈の心を少し軽くした。
礼二は多少気分が優れないが彼の最後のひと言は黙認した。
「優等生枠を勝ち取ったとは?どういう事なの?」
「言葉通りスミスの試験があり称号を与えるんだ。毎年数名しか貰えない。それを餌に研究を吸い取ってるのがスミス」
礼二と玲奈は顔を見合わす。噂には聞いていたがなりふり構わずだなと。
礼二が口を開く
「翔太、お前はスミスとは?」
「面識があるくらい」
礼二は、玲奈の論文発表から再三にわたってスミスから引き抜きがあった事を思い出していた。長墨ソフトは政府関連事業を抱えているので情報漏洩には非常に厳しい体制を取っている。
「翔太、コレは社長として聞くが契約覚えているな?」
「勿論です。心配は無用です。以前の優里の言葉を鵜呑みしてしまったのは完全に落ち度ですが、それ以外の意図は断じてありません。入社してからは優里との接触自体、俺から取る事もありません。姉を通じて優里から接触はありましたが、信じてもうしかありませんが、情報漏洩は一切ありません。家の名誉をかけても構いません。」
翔太はこれまでの態度とは打って変わって真摯にこたえた。
「わかった」
ひとまず礼二は頷く。今度は玲奈が質問する。
「翔太、先程のスミスの優等生枠なんだけどあのプログラムでその枠が取れたの?」
「そうだと優里が言っていたよ。なぜ?」
「翔太、この分野が1〜2年の貴方が組んだのなら改善は必要だったけどよく出来ていた、これは本当よ。貴方は非常に優秀よ。間違いない。貴方を長墨ソフトに迎え入れた理由はあなたの持つその才能よ、、ただ博士課程を学んできた人間となると別よ。これが博士課程修了の研究論文とは思えない。」
「いや違う、それはあくまでも優等生枠のものだから」
「詳しいね。」
「…藤田社長に共に指南してもらったから」
「共に学んだ、、物は言いようね」
「優里の論文のチェックは藤田社長ね?」
「…やっぱ凄いや、チェックだけしてたよ。質問形式で共に学んだよ。」
「7割翔太ってところかしら?礼二どう思う?」
「同じ見解だな藤田社長も手の込んだ事を、」
「藤田社長もスミスをとても警戒していたよ」
その言葉を聞いて礼二はCUPA発表後を思い出していた。発表後すぐには動きは無かったが暫くして徐々にサイバーテロが増えている事を聞かされていた各国から満遍なくあったがA国からの痕跡が多数発見されていた。こういものは企業が狙われやすいので神経をとがらせていた。立ち上げて間もない会社なので尚更だ。
「礼二、優里はアルゴリズムの天才、そういう触れ込みだったよね?」
「あぁ、そうだ、どうやら噂だけが独り歩きしたようだな。スミスのところもよく修了できたなと思っていたが、手厚い補助輪があったって訳だな。スミスも落ちたもんだな間抜けにも程が、いや、それでも優里は基準を満たしてないよな?」
「えぇ、そう思うわ。優里は何故長墨ソフトに入社希望したのかしら?彼女ほんとにCUPAに興味があるのかしら?」
「ないだろうな。余りにもお粗末すぎる。興味があるのはスミスの方だろ」
翔太は2人の会話を聞いてひとしきり関心してた。藤田さんの言う通りだ。彼等はいずれこの事に気づくだろうと話していた。
礼二が翔太に
「翔太、優里とスミスの関係は教授と門下生か?」
玲奈は驚いた様子で礼二見る。礼二は肩をすくめて答える。翔太は2人の阿吽の呼吸を見せつけられ胸がズキリと痛み目を伏せたながら答える。
「教授と門下生だと思う。が、明らかスミスは優里を誘導してたと思う」
「そうね、あれだけ自己顕示欲が強ければ利用されやすいでしょうね。」
玲奈はやりきれない気持ちになっていた。それでも愛されていたら守ってもらえるものなんだなと。せめて優里が大森でなければ私もここまで苦しまなくて済んだのに、智昭には最後まで私の気持ちは届かなかった。玲奈は胸の奥で消えてしまった情熱の跡をなぞっていた。
翔太は玲奈の様子を見ていた。殆ど変化は無いが一瞬眉間にシワが寄ったのを見逃さない。店先から聞こえたあの言葉、自分が導き出した答えは間違いない。彼女の苦しむ姿は耐えられない
「玲奈さん、そうじゃない。藤田さんも優里を利用しているだけだ」
「どういう事?」
礼二と玲奈の言葉が重なる。翔太の胸の痛みも重なる。互いに言葉につまり沈黙が続く。
そこに定員がおずおずと近づき言葉を発した。
「お取り込み中大変申し訳ございませが、当店の閉店の時間となりました。どうぞ召し上がってからで結構ですので、ご理解くださいませ、、それからそちらの女性の方へ花束を預かっております。お受け取り下さい。」と
瑛二からの花束を玲奈に渡す。定員としてはいつまでも美男2人と美女を眺めていたいが、そういう訳にもいかなかった。
「大変失礼した。ショーケースに残っているケーキ全部頂けるだろうか?非常に美味しく頂いたよ。帰って社員にも振舞いたいから、手間を取らせるがお願いできるかい?」
礼二は咄嗟にかつ優雅に対応する。
定員は凡人とは別次元のオーラを放ちながら完璧紳士の振る舞いの礼二に驚愕しながら、何とか返答する。
「かしこまりました。ホールケーキもお包みしますか?お会計は後ほどこちらにお持ちしてよろしいですか?」
「ありがとう。ホールケーキもお願いする。助かるよ」
続いて翔太がにっこり笑って定員に答える。
「噂通りとても美味しかったとパティシエにお伝えしてくれる?」と
破壊的な笑顔を向けられて顔が赤くなる定員。そこへ玲奈も微笑んで詫びた。
「長時間お邪魔してしまって、心地よい空間でしたのでつい長居してしまいました。ケーキも美味しく頂きました。それから花束預かってくれてありがとう。」と
定員は女神の如く微笑む美女に釘付けになりノックアウト寸前だが、何とか会釈だけして持ち場に戻った。