事故ったのは玲奈だった 〜社長夫人はずっと離婚を考えていた〜【原作伏線回収・再構成】 作:山本山
3人はお店を後にした。長墨ソフトへと戻る。行きと同じで玲奈は後部座席に座り翔太は助手席に。帰りの車内は甘い香りが漂っていた。玲奈は翔太が最後に言った
「藤田さんも優里を利用しているだけだ」の言葉を頭で反芻していた。何に利用している?
翔太の言ってる事は本当なの?茜の誘拐は何故黙っているの?犯人はどうなった?次から次と疑問が湧いてくる。こめかみを押さえて視線を動かすと花束が視界に入った。小さくあっと声が出た翔太が振り返る。
「何でも無い、花束が目に入っただけよ。お礼しなきゃと思っただけ。」と
スマホを取り出しショートメッセージでお礼を伝える。暫くして返信が届く。
「メールあると思わなかった。ありがとう」と
簡素な内容だった。少し意外にも思ったがそれはそれで安堵したのも確かだ。今の玲奈に誰かと恋愛できるほどの余裕は無い。好意を向けられているのも理解しているが目の前の不可解な出来事だけでも手一杯だ。ふぅーと息を吐き出し切り替える。再びあの言葉を反芻する。
礼二もハンドルを握りながら玲奈と同じ様に翔太の言葉を反芻している。藤田は何をしている?優里を利用するメリットはなんだ?いやデメリット回避か?翔太は信用に値するのか?と礼二の頭の中も忙しい。
翔太も2人が考え込んでいるのを横目にどうしたものか考えていた。藤田さんは優里の論文をチェックしてる時に優里のパソコンと藤田さん所有のパソコンを同期していた。藤田さんのパソコン自体は空っぽで優里のパソコンの内容だけが筒抜けだった。論文の助言の為の同期でそれは茜を助けた恩人への配慮と優里への好意だと彼女は捉えていたし、藤田さんもそのように振る舞っていた。
ある日翔太は智昭から助言をされた。
「スミスには気をつけて。君の家の家業は金融関係だろ?優等生など狙うな。なんの意味もない」とその一方で優里にはその助言はしていなかった。理由を尋ねたら彼女は箔をつけなきゃいけない。まだスミスの名前は影響があるからと。君には何の意味もないものでも彼女には意味があるからと。確かに彼女の家の事を思えば落ち目のスミスでも箔はつくと納得した。
智昭からは助言と共にスミスの動向と少しの協力をお願いされた。お礼にAIの個別指導と秋山家の事業の方で口利きをしてくれるとの事だったので不利益は無いと判断し翔太は引き受けた。
優里の博士課程修了論文も智昭は手を入れてはいないが翔太と優里に質問形式で完成させていった。優里には翔太の着眼点と今後の展開を隅々まで理解する様に指南していた。幸い優里は理解は出来た。繰り返し学ぶ事で自分の論文へと昇華していった。その頃の優里の一生懸命学ぶ姿は健気でもあり、これからの時代の女性にも見えて翔太は淡い好感を抱いた。智昭も同じかと思っていたが一方で2人で会う事を極力避けている様にも見えていた。翔太は智昭が既婚者でもあるので当たり前の反応と捉えていた。
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2年前
智昭は茜を連れてA国大学に訪れていた。
今回の訪問はA国での立ち上げたばかりの開拓事業の視察とスミスから招待され講演会でスピーチを依頼されていたからだ。当初は1人での渡航予定だったが茜がどうしても行きたいと駄々をこねて根負けした形になる。智昭も茜がやっと自分を父親と認識し始めて可愛くて仕方なかった。生まれたばかりの頃は多忙を極めて家に帰れる日が本当に少なかった。玲奈のサポートはお手伝いさんや藤田おばあさんが居るので心配はしていなかった。男の自分が居ても役にたつ事など無いとわかっていたし、父政宗も殆ど家に居ない生活だったので父親が不在である状態に疑問を持つことも無かった。
藤田智昭という立場は揺るぎないものになりつつあったが、代替わりはそれだけで不安定なものだ。そこにつけ入る者は現れる。案の定、留学から帰国して間もない頃に藤田グループ内に内通者が潜んでいた様で智昭は自身のパソコンにハッキングの痕跡をみつけていた。痕跡を辿るとA国からだとわかり犯人の目星はつけているが、まだ 確定していない。
智昭が以前薬を盛られたのもA国、ハッキングはA国からと踏まえた時、自身もターゲットになっていると考えた方が妥当だという考えに至った。この事を政宗にも相談したら政宗も智昭と同様の考えに至った。政宗の人脈から人材を紹介されA国の開拓事業所を拠点に独自のルートで調べる事にした。