事故ったのは玲奈だった 〜社長夫人はずっと離婚を考えていた〜【原作伏線回収・再構成】 作:山本山
1度解放してしまった怒りの感情は、もう止められない。玲奈自身自分の、感情の発露に驚いていた。心拍数が上がり、よろめいて危うく倒れそうになった。が、後ろからしっかり抱きとめられた。振り返ると礼二がいた。
「玲奈!無理するな、」
声をかけると同時に智昭を睨みつけていた。
「いえ、違うの、、言いたい事を言っただけよ。大丈夫。お見舞いに来てくれたの?仕事は問題ない?」
「大丈夫だ、これでも、君が現れるまで天才と呼ばれていたんだ、大抵の事はできるさ」
礼二は智昭と玲奈が2人になり始めた頃から、少し離れた所で、様子を見ていた。玲奈が智昭の頬に平手打ちをした時、驚いて駆け寄ったのだ。智昭と向かいあった礼二は黙って智昭を見ている。
智昭もやっと我に返り、目の前の男を真正面から捉えた。
「これは、、湊社長お忙しい中妻のお見舞い感謝する」
「っ、、本来の妻である玲奈を隠しながら、愛人を連れ歩いてた人間が今更、妻?!、玲奈の才能が急に惜しくなったのか?」
「優里は愛人ではない」
「はっ!世間はそう捉えてないぞ?賢いその頭は錆びついたのか?お前の言い分が通じるとでも?」
「…世間が何か言ったところで事実は変わらない。俺は玲奈の夫で、玲奈は俺の妻だ」
玲奈は目を見開いてまた血圧が上がるがわかった。
「離婚するのよ!今まで知らぬ顔をしてきたクセに!今更、夫面する気?冗談はよして。、、礼二、部屋まで送ってくれるかしら」
「わかった。行こう」
智昭を残し、振り返る事なく病室へ向かった。
智昭は去っていく2人を苦笑いしながら見送っていた。
着信音がなった。優里からだ。
「どうした?その件は技術者に全て任せてある、、、わかった。時間をつくる」
軽く息を吐いた。
続けて、着信音がなった。
「藤田社長、事故の映像が見つかりました。」
慎也からだった。
智昭は踵を返し会社へとむかった。
礼二は玲奈を病室まで付き添い、そのまま仕事の報告する。
「ひとまず、藤田グループの件もテッショウテックの件も問題ない。事故の事も理解を示してくれているので、何も心配はないよ。そういえば、先生から連絡あった?」
先ほどの智昭との事を聞きたかったが、聞く勇気がなかった。
「先生からはメール貰ったよ。「やすむように」だって先生らしいわ。」
礼二も先生らしいと笑った。
「玲奈、何かあればいつでも頼って欲しい。俺では頼りにならないか?」
玲奈は少し間をあけて
「さっきね、智昭に、、今まで胸に閉じ込めたものをぶつけてみたのよ。自分がこんなにも怒っている事に気付かなかったわ。自分の事なのに案外わかっていないものなのね。」
礼二は柔らかな表情で玲奈をみつめ、
「天才玲奈嬢もわからない事があるんだな?うん。君も普通の女性って事だよ。」
そういうと、玲奈の頭をポンポンと優しく撫でた。いつもの玲奈なら嫌がるが、今はなんとなく素直にされるがままにしていた。
「湊社長、ご迷惑お掛けしました。問題なければ明日退院です。」
「わかった。明後日から出社でいいかな?君は我が社にとっても俺にとっても大切だからな。では、また会社で。」
礼二の瞳は深い愛情を示していた。玲奈は伏せ目がちにお礼を告げた。
「ありがとう。気を付けて」
礼二は抱きしめたい衝動をぐっと堪えて病室を後にした。
ーーーー
智昭は会社の執務室で、清司と共に、慎也の報告を聞き事故映像も見ていた。
「この運転手はどうなったんだ?」
慎也が答える
「A国からの旅行者の様です。レンタカーでの事故でしたので、適切な処理後本人はA国に戻った様です。」
「わかった。下がっていい。」
「承知しました。何かあればお呼び下さい。」
「清司、ここみてくれ、」
「これだよな運転手の手の甲。」
「そうだ、あの時見たタトゥーと同じだ」
「清司、このタトゥー調べてくれるか?」
「了解。それと左頬が赤いが大丈夫か?痛むのか?」
「心配ない。痛みか、、この痛みもまた貴重だからな」
「そうなのか?、、まぁ、お大事に?か?」
言い終えると少し笑った。
清司は時々不器用なこの男を哀れに思う事がある。能力も地位も財力も抜きんでている。勿論それに付随するものも多い。背負ってるものも軽くはない。まさか、茜を助けた娘があの大森の娘とはな、、
「どうした?」
智昭は自分を見ながら動きをとめてる清司に声をかけた。
「いや、なんでもない。まっアレだオレはお前を応援してる。って事だよ」
「…タトゥーの件頼んだ」
怪訝な顔した智昭は執務室を出て和真と共に藤田総研に向かった。
藤田総研ではブレイクスルーを終えひと山こえたが技術者達はその後技術の安定に心血を注いでいた。
一方提携企業との話し合いが進まない。
その事で優里は智昭に電話をしていた。
智昭は藤田総研の執務室に向う。彼の前を藤田総研の社員達が歩いていた。
「ねぇ、大森社長って突然居なくなるじゃない?この間の長墨ソフトとの契約解除も社長の失態でしょ?物凄い人かと思ったけど結局お飾り社長ってこと?」
「何言ってんのよ藤田社長の恋人ってだけでここまできたんだもん、凄い人には変わりないわよ(笑)」
「それもそうね、羨ましいわ。何しても尻拭いしてくれる大金持ちの彼氏つかまえたんだから、まっ私達には関係ない話だけど、仕事はして欲しいわね」
社員は振り返る事なく職場に向かった。
和真はこっそり智昭の顔色をうかがったが態度が変わっていないのに驚いた。
「社員に何か通達しますか?」と
問うたが智昭は
「いや、いい。そのままで。」と
返答した。
藤田総研の執務室で優里が座っている。智昭が提案書を渡す
「こちらを俺から先方に渡してある。何か問題でもあるのか?」
「いえ、これで4社目なの」
「あぁそうだな。それがどうした?心配か?」
優里はその問いになんと答えるべきか考えあぐねいていた。長墨ソフトの契約解除は、この業界内で藤田総研の評判に色濃く影を落としていた。違約金を払った経緯も、当然人伝えに漏れていくものだ。本来社長の自分が駆けずり回る所を智昭が担ってる。その行動の背景には、自分への愛情があるからだと優里は疑ってはいない。だが、玲奈の事故以来、漠然とした不安が消えない。
「いいえ、上手くやれるか少し心配しただけよ。あなたが側にいてくれるでしょ?」
「あぁ。提案書で不明な所は無いか?先方のリサーチはしっかりしておくように。」
「わかった。色々ありがとう。」
「かまわない。技術者と一緒に商談にむかってくれ」
「えぇ、わかったわ。」「智昭、、」と
玲奈との離婚の事を聞こうとしたが、ここで、焦ってはいけないと思い直した。智昭も優里が何を気にしているのか理解していたが慎重にならざるを得ない。刺傷事件の事もある。智昭の中の疑念がいよいよ形になりそうだからだ。
優里が智昭の行動を見ているのを予測し、少し離れた場所から玲奈に電話をした。
「俺だけど、明日退院と聞いた。時間はあるか?わかった。明朝よろしく。」
優里が聞き耳を立てているのを確認して電話をきった。
ーーー
明日退院を控えていた玲奈に智昭からの電話。明日、離婚手続きに行く事になった。電話のきり際に
「無理はするなよ」と
言い残し返事を待たず電話が切れた。
玲奈がはじめて智昭に感情をぶつけてからの会話だった。
玲奈は心が凪いでいるというよりは波が止まった様だった。
智昭にとっては、私の怒りも、とるに足らない出来事だったんだと痛感していたからだ。
「少しの言い訳も無いなんて…。あぁ優里は茜の恩人とか言っていたわね。では、尚更ね。」
もう本当に何も感じなくなっていた。
最後の残り火が静かに消えていくのを感じていた。