事故ったのは玲奈だった 〜社長夫人はずっと離婚を考えていた〜【原作伏線回収・再構成】 作:山本山
夕方玲奈の元に翔太がやって来た。
「玲奈さん明日退院だって?大事なくてよかった。身体の調子はどう?頭はもう大丈夫?」
「お見舞いありがとう。順調よ。」
少し痩せた玲奈の顔を見て翔太はいてもたってもいられない様子だ。
「玲奈さん、何が好きか、わからなかったから、ケーキ何個か買ってきたんだ、どう?、、よかったら食べてみない?」
「うん。フルーツタルト頂くわ。翔太も食べよう。」
翔太は頭のメモに(フルーツタルト)をインプット。
「ひとつでいいの?もう一つ位食べてみなよ?」
「イチゴのムースにする。ありがとう。」
「青木おばあさんはどちらに?」
「もう、身体も問題ないし、おばあさんも疲れてしまうから、今朝早く帰ってもらったの。せっかくのケーキなのにごめんね。」
「そっか、、、青木おばあさんに気に入ってもらって、玲奈さんのガード下げて貰おうと思ったけど、ひと足遅かったね。作戦失敗だね。」と
言って満面の笑みで玲奈を見つめ返した。
夕焼けと相まって屈託の無い笑顔がなんとも美しかった。玲奈はまだ人の笑顔を美しく感じられる事に安堵した。
翌日退院の手続きを済ませ、玲奈はそのまま役所に向かった。智昭はもう到着していた。必要な書類を提出し役所を出るまで、2人はひと言も交わさなかった。ただ、智昭は玲奈の様子をずっと伺っていた。というのも、この間、玲奈からあんなにストレートな感情をぶつけられたのは智昭自身も初めてで咄嗟にどの様に行動をしたらよいか分からなかったのだ。戸惑ってるなか、突然そこに礼二が現れた。今まで感じた事の無い怒りが彼を支配していた。智昭はあの時の感情をおもいだしながら役所を出た。
その時、優里から着信があった。
出たくはなかったが今日商談があった。
「もう、終わったからそちらに向う」と
だけ返事をして返答も聞かず電話を切った。本当は玲奈と話をしたかった。が、彼女は1度も振り向く事なく帰っていった。智昭は声をかける事が出来ず強く手を握りしめ玲奈の姿を見送っていた。
ーーー
智昭は一旦会社に戻り和真を連れ優里と商談へ向う。
「大森社長、準備は大丈夫か?」
「大丈夫」
ニッコリと笑う優里。藤田総研の技術者清水部長と智昭と和真で商談の場所についた。
「川崎社長、今日はお時間頂きありがとうございます。こちら藤田総研の代表取締役の大森と技術部部長の清水です」
「藤田社長、お会いできて光栄です。大森社長、清水部長よろしくお願いします。」
智昭は続けた
「川崎社長、こちらの提案書は藤田総研からのものになります。詳しい事は大森と清水とご検討頂けたらと。」
「?では、藤田社長は直接管轄されないと理解してよろしいでしょうか?」
「はい。藤田総研も藤田グループの傘下でありますのでご挨拶にお伺い致しました。川崎社長の仰る通り直接の管轄は藤田総研になります。」
「なるほど。分かりました。では、早速具体的なお話に、、」
少し考える顔をした川崎社長だったが気を取り直して
「大森社長、よろしくお願いします」
「川崎社長お時間頂きありがとうございます。藤田総研の代表取締役大森優里ですよろしくお願いします。」
「藤田総研の技術部部長清水次朗です。よろしくお願いします。」
各々挨拶を済ませ、皆が着席する前に智昭は
「大変申し訳けありませんが、この後、別件がありまして席を外させて頂きます。川崎社長大変ご無礼申し上げますが宜しくお願い致します。私の秘書を同席させますのでご了承いただけたらと」
と、一礼して部屋を出た。優里は内心動揺していた。智昭がずっと側にいてると思っていたからだ。動揺を見抜かれる訳にはいかない。何事も無かったかの様に商談を進めていった。
川崎社長がその動揺を見逃す筈がなかった。大森社長の噂を知らないわけじゃない。だが、やはり商売とは切り離して置かないとリスクばかり跳ね上がる。藤田智昭というコネが最大メリットなのに直接管轄しないとなると危うい。この話は無いな、と、川崎社長は結論づけた。
ーーーー
和真は会社に戻り智昭に報告していた。報告しながらなぜ執務室に智昭がいるのか考えている。あんなに大切にしている恋人を、、なぜ?
聞きたくても聞けないもどかしさを持ちつつ、考えてもわからない事を気にしても仕方ないので仕事に戻った。智昭が呼ぶ
「和真、次の提案書だ。」
「えっ?次?、、」
「多分商談は失敗に終わるだろうから」
「えっ、、」
智昭は表現を変えない。和真は最近の社長がさっぱりわからない。
ーーー
優里は商談を終えて藤田総研へ戻る
清水部長は技術者のいる方へ、優里は執務室へとむかった。戻る途中にお茶室があり扉が少し開いていた。そこから聞こえてきたのは女性社員の噂話
「ちょっと聞いてー又彼氏が金欠でさほんと嫌になる、うちの社長が羨ましいわー。あんなイケメンで名家の御曹司よ。しかもとんでもない資産があるらしいわよ。」
「ほんとよね〜でもさ、名家ってだいたい出自にうるさいじゃん。やれ何代目だとかさ」
「じゃあ社長はそこもクリアーしてるじゃない。完璧ね。」
「んーあのねーこれ内緒だけどさ、社長今は大森性だけど前は違ったのよ。Y市に知り合いがいてね、教えてもらったんだけどさ。そもそも不倫。愛人の子なんだって」
「うっそ、あんなにお嬢様なのに?妬みなんじゃないの?」
「ううん、ほんとの事よ。大森家には既に正妻の子がいたのよ。離婚する際にお母さんについていったんだって。略奪婚なのは確かなのよ。Y市では結構有名な話らしいわ。」
「でさ、藤田社長もお子さんいるじゃん?大森社長の子供じゃないよね?だってさA国の博士課程卒業で帰国したはずだもん。これってさ、蛙の子はカエルってやつじゃない?」
「うっそ、まさか、えーー。でもイケメンでお金持ちなら耐えられるかも(笑)」
「えー私は無理だわ。いくらお金もちでもイケメンでも無理だわ。それならソコソコでいいわ。」
「あはは、なにそれ。まぁわからんでもないかぁ母も愛人自分も愛人じゃぁ、いくら本妻になったとしても続けては厳しいかも。男が1番悪いけどさ」
「大きな声で言わないでよ!気を付けて。」
「ごめーん。」
何となく立ち止まって話を聞いてしまった優里は血の気が引くのがわかった。
自分ではどうしようもない事に打ちのめされてる場合じゃない。自分に言い聞かす
「私はもう愛人の子ではないわ。父は母を選んだのよ。本当に愛されたのは母よ。あの女は間違いにすぎないわ。」
幼い頃の記憶がよみがえる。何かと玲奈と比較され負ける事など許されなかった。目標に達しなければ見下した様な母の表情を。ぎゅっと目を瞑って不快感が通り過ぎるのをじっと待ってから歩き出した。