事故ったのは玲奈だった 〜社長夫人はずっと離婚を考えていた〜【原作伏線回収・再構成】 作:山本山
ー10年前ー
智昭はT大学卒業後A国に大学院生として留学していた。スミスの門下生として博士課程コースを学んでいた。
智昭はAIの世界が元々好きであった。留学して数年後に本国で開発され発表されたプログラミング言語CUAPが発表されてからは一段と魅了されていた。真田教授率いるグループが開発したとの事で尚更だった。
真田教授とは面識があり、じつのところお誘いはあったが藤田家の後継者でもあり、今後、藤田グループを率いる立場の自分では持て余すと考えていた。それに既に自分より凄い人がいる事を知っていたからお断りしたのだった。スミス教授もCUAPには強い関心を示していた。その開発者について何度か質問を受けたが知らないと智昭は返答していた。と、いうのも父政宗から開発者及び核心的技術については政府の機密契約を結んでいる旨伝え聞いていた。智昭もその重要度を理解しているので他言など禁忌だ。開発者はおおよその検討はついていたものの実際に知ると幼い頃の思い出が蘇っていた。
その頃のスミスはアルゴリズ厶の権威でもあり影響力はあるがその影響も陰りをみせ始めていた。
AIの分野はA国と本国の熾烈な競争を繰り広げていた所にCUAPが開発されたのだからスミスが異常に興味をもつのも無理はない。智昭は博士課程に進む前に1度藤田家に顔を出すため帰国した。T大学の催しに招待されたのと父からの呼び出しもあった。藤田家に戻ると丁度おばあさんの昔から交流のある青木家のおばあさんと孫の玲奈も遊びに来ていた。玲奈は控えめで大変聡明な娘だった。智昭が留学する前にも何度か会っていたので飛び級でT大学に来年入学すると聞いて納得だった。会話の中で彼女もAIの世界が好きなのはすぐにわかりお互い色々と話して智昭は始めて心躍るという感情を抱いたのだ。
玲奈も自分がこよなく愛する世界でこんなに会話が弾むのは初めてで智昭に好感を抱くのも自然な流れだった。
智昭は青木おばあさんと玲奈に挨拶をした。
「おばあさん、玲奈ちゃんご無沙汰してます。変わりないですか?」
青木おばあさんはにっこりと笑って
「お久しぶりね。学業のほうも順調と聞いているよ。藤田家の今後も安泰だね。立派な事だよ。おばあさんを大切にね。」と
返答した。智昭は頷いたあと玲奈に
「あちらにA国から持ってきた資料があるけど、読む?」と
誘って2人すぐに意気投合して話始めていた。その様子をみて藤田おばあさんは目を細めて微笑ましくおもっていた。
「智昭、明日、T大学での催しに玲奈ちゃんを連れてっておやり。来期入学だし案内しておやりよ。」と。
智昭は快く引き受けた。翌日、智昭は玲奈を連れてT大学に訪れた。丁度、智昭の留学先の友達から電話があり合流する事になった。
「しばらくぶりだな。こちら青木玲奈さん。来年T大学に入学予定だよ。」
「?!まだ大学生には早い様に思うけど、もしかして飛び級して入学?」と
智昭の友達の廉は尋ねる。
「はい」
「すごいね!才女とは貴女の事をいうんだね」と、
にっこりと笑う彼は美しいと言う言葉がピッタリだった。
「いえ、智昭さんに比べればまだまだですが、智昭さんとAIについて話す時はとても楽しいんです。」
玲奈は素直に答え、あどけない笑顔を廉に向けた。他にも心地よい会話が3人の間で交わされた。廉は玲奈の清楚で飾り気のない笑顔が智昭とよくお似合いだなと感じていたので、思わず
「君たちはベストパートナーだね」と
話す。智昭と玲奈はお互いどう返事をすればよいのか分からず少しぎこちなくて恥ずかしさも加わり、しどろもどろに2人返答していた。
廉はその様子をみてまたクスクスと笑っていた。
智昭はこの日の事を、写真で切り取った様にピン留めしていた。思い出す度にあたたかい気持ちで満たされるからだ。
またこの日の夜に父の政宗からここ最近A国からのサイバー攻撃が増えてる事を聞いた。未然に防いでいるが智昭にも充分気をつける様に伝えていた。真田教授から声が掛かった智昭も充分気をつける必要があるからだ。
短い滞在を経て智昭はA国へと戻った。智昭は今までA国での生活を気楽に感じていたが、父との会話で個人的にも力をつける必要性を感じていた。頭の中にある、あらゆる分野の構想を実現するために会社を立ち上げる事にした。
数年後、有言実行した智昭の立場は揺るぎないものになりつつあった。
智昭の大学院卒業をあと3ヶ月を残した頃玲奈は短期留学として智昭の大学へやって来た、玲奈のT大学卒業は確定していたので見識を広げる為にやって来たのだ。大学に入ってからは本格的に真田教授の弟子として学びつつ兄弟子の礼二と共に長墨ソフトを立ち上げていた。大学卒業後も専門分野で学ぶ未来を夢見ていた。
A国大学では智昭が留学している。幼い頃に話し込んだ楽しい思い出が彼女の胸を躍らせていた。この年頃になると男性からの声掛けもあったが、あの時のドキドキした気持ちには及ばなかった。
玲奈と居る時でも智昭はいつもと同じ調子で特別何か変化がある訳でもない。
玲奈の淡い恋心は玲奈だけの秘密だった。が、分かりやすい玲奈の態度は周りも承知の事実だ。もちろん智昭にもそれは伝わっていた。
知り合いの居ない異国の地に女の娘ひとり危ないからと藤田おばあさんは心配して智昭に連絡をしてくれていた。
玲奈は美しい女性に成長していた。
智昭は空港に迎えに行った時ひときわ目を引く女性がいて、まさか玲奈とは思わず見惚れていた。
「智昭さん!わざわざお迎えありがとうございます。海外が初めてで、お世話おかけしますがよろしくお願いします。」
「うん。おばあさんから連絡をもらったからね。ようこそ。」と。
智昭の心臓は早鐘の様に動いている。悟られない様に微笑んで歓迎の態度を示していた。
一方玲奈はおばあさんから頼まれたから気にかけてくれるんだと理解し、自分だけがはしゃいでしまって恥ずかしくなり少し落ち込んだ。
少し落ち込みはしたが初めて降り立つ異国の地に、以前より好意を抱いていた人と並んで歩ける事に玲奈は浮足立っていた。
これから先の未来が全て明るい気さえしていた。自然と笑みもこぼれてた。
智昭は横に並びながら喜びを隠しきれない様子の玲奈が可愛いらしく思わず微笑んでしまう。
本国では何かとしがらみがあるので表情と表現管理とが欠かせない。それが当たり前で、もはや、癖みたいになっていた。が、今くらいは素のままでいたかった。何より智昭にとっても玲奈と居る時間は心が温まるのだ。
彼女の飾り気のない振る舞いや、はにかむ様子はどんな男でも虜になるんじゃないかとふと心配になってきた。
「玲奈さん、どんなに親切にされても男性は半分は下心でできているからね、それだけは覚えておいて」と、
玲奈は少し考えて
「智昭さんも?」と
尋ねてみた。智昭の心臓は跳ね上がったがにっこり笑って
「おばあさんに電話してあげて、きっと無事に到着したか心配していると思うから」と
返答した。玲奈はちょっとだけ期待してしまった事を後悔した。わかっている事なのに。ほんの少しだけでも女性と見られているか聞いてみたかっただけだった。
「お腹空いてない?オレの行きつけのレストランがあるからどう?」
玲奈は頷いて横にならんでついて行った。