事故ったのは玲奈だった 〜社長夫人はずっと離婚を考えていた〜【原作伏線回収・再構成】   作:山本山 

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番外編:敗北者たちの夜(湊礼二・辰也・翔太・瑛二)

 披露宴会場の華やかな喧騒から少し離れた、ホテルの最上階にあるバー。

 

そこには、タキシードを窮屈そうに着崩した男が三人、カウンターで高級なシングルモルトのグラスを並べていた。

 

「……なんだよ、結局アイツかよ。どこがいいんだよ、あんな根暗の変態執着男……。辰也さん、あなたも、そう思うだろ?」

 

「……激しく同意ですよ、礼二さん。何にも喋らないなんてありえます? そして、最後に玲奈さんを掻っ攫うなんて不条理にも程がありますよ」

 

 辰也の言葉に、最年少の翔太が身を乗り出した。

 

「そうっすよ!! 俺の方が若いし男前だし、つまんない意地なんか張らないし。実家もまあまあ力あるんっすよ? いつでもどこでも飛んでいくのに。なんで……あの人なんっすか? まだ礼二さんなら納得っすよ。あの人、泣かせてばっかりのくせに」

 

「お前、わかってるじゃないか、翔太……。ちょっと見直したぞ」

 

 礼二の言葉を聞いているのかいないのか、翔太はグラスをグイッと飲み干す。

 

「礼二さんが相手なら隙ができそうなのに……。藤田さんじゃ無理だ……。あんな変態執着初恋拗らせ男。おまけに稀代の実業家で天才……。振られたままでよかったのに……。なんで、玲奈さんあの人をまた選んじゃうかなぁ。見る目無さすぎだよ。どこがいいんだよ……隙ないじゃん……」

 

「おまっ……翔太、お前、さっきから何気に俺のこと馬鹿にしてんだろ?」

 

「……ふんっ……奪えなかったくせに偉そうにしないでください。長年の片思いなんですよね? 何してたんですか? さっさと行動してたらよかったのに……。そしたら僕にも絶対チャンスあったのに……」

 

「……確かに」

 

 辰也も急にもっともらしいことを言い出す。

 

「そもそも、礼二さん大学の時から結構密に過ごしてましたよね? その時から玲奈さんのこと好きだったんでしょ? なんでアプローチしなかったんです? そしたら、玲奈さんがあの変態無口野郎を選ばなかったかもしれない。そしたら、私にもチャンス訪れてましたよ。なんで指を咥えたまま止めなかったんです?」

 

「なっ! ……なんで俺のせいになるんだよ。辰也さん、あなたも今しれっと俺のこと馬鹿にしましたよね? あんたこそ全く見る目無いくせに黙っててくれません? ったく冗談じゃないよ。俺だってアピールしてきたさ。お前らに玲奈の鈍感度がわかってたまるか!! ちきしょう!!」

 

 礼二はグラスの酒を一気に飲み干した。

 

 辰也と翔太は、ちょっとだけ礼二を憐れんだ。確かに、玲奈の鈍感度は度を越していたことを各々思い出していたのだ。

 

「あんなに分かりやすい態度なのに……」

 

 二人は声を揃えて呟き、礼二を憐れむ気持ちに拍車がかかる。

 

 そんな三人のグダグダな酒盛りに、一人の男性が近づいてきた。体格も身なりもよく、精悍な顔立ちの男。同じ男でも聞き惚れてしまうような低音ボイスが響く。

 

「ご無沙汰してます。御三方は招待されたんですよね……? 僕のところには招待状も届かなかったんですよ。皆さんにわかりますか、この疎外感……。僕、結構ストレートに伝えてたんですよ? 手応えも無いわけじゃなかったし……。まさか元鞘に戻るなんて……」

 

 そう言いながら、負け犬の遠吠え席に腰を下ろす瑛二。

 

 智昭と肩を並べても決して見劣りせず、対等な立場であっただろうこの男の嘆き。その登場に、三人はまた謎の敗北感を味わう。

 

 礼二が氷をカランと鳴らして毒づいた。その顔はすでに赤い。

 

「ちょっと……瑛二さん。部外者はあっちに行ってくださいよ」

 

「断る。今日くらい、傷のなめ合いさせてくれ」

 

 核心を無意識につく瑛二の言葉に、他の三人がうなだれる。

 

 隣で翔太が、溜息をつきながら自分のグラスを煽る。彼もまた、完璧に整えていた髪を乱し、敗北感を隠そうともしない。そんな翔太に、礼二が男同士の情けをかける。

 

「翔太。俺たちは、あの男の『格』に負けたんじゃない。あの『執念』に負けたんだ」

 

「わかってますよ。……でも、悔しいじゃないですか。僕の方が、彼女の技術を、彼女の孤独を理解していると思ってたのに」

 

 礼二はフッと自嘲気味に笑った。

 

「理解なんて、あいつは最初から放棄してたんだよ。理解するんじゃなくて、ただ『自分の中心』に玲奈さんを置いていただけだ。あんな不器用で、一方的で、重たい愛……俺たちには真似できない。政府も利用する男だよ。無茶苦茶だ。不条理そのものだよ、あんな存在」

 

 辰也が急にしんみりと言った。

 

「玲奈さんも結局、あの変態初恋拗らせ執着男の孤独に共鳴したんでしょうね…。」

 

「あ、変態執着初恋拗らせ男です。辰也さん、そこ間違えないでください」

 

「うるさいよ、翔太」

 

 瑛二が言葉少なに、けれど重く呟いた。

 

「……ですね。あんなの、まともな男のやることじゃない」

 

 彼らは同時にグラスを飲み干した。

 

 

 瑛二は見ていないが、智昭が三人のためにわざわざ用意した「特等席」からの景色が焼き付いている。誰よりも美しく、そして誰よりも幸せそうに智昭の腕に抱かれていた玲奈の姿。

 

「……礼二さん。今日だけは、俺も認めますよ」

 

「何をだ?」

 

「玲奈さんを一番幸せにできるのは……あの、性格の悪い一途な男だってことです。今のところは! ですけどね」

 

翔太の悪あがきだ。

 

礼二は黙って、新しいボトルを注文した。

 

「……ああ。認めなきゃ、明日から仕事にならないからな…。」

 

 辰也も瑛二も頷く。

 

「玲奈の幸せに乾杯。クソ男くたばれ!!この野郎に乾杯」

 

 夜景を背景に、敗北者たちの乾杯が、静かに、そして少しだけ晴れやかに響いた。

 





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