事故ったのは玲奈だった 〜社長夫人はずっと離婚を考えていた〜【原作伏線回収・再構成】 作:山本山
今でこそ、笑い合いながら穏やかな時間を過ごせるようになった智昭と玲奈。
しかし、不器用で頑固な「稀代の天才」が、すんなりと素直に妻の元へ帰れたわけではない。
これは、二人が本当の意味で再構築を果たす少し前のお話。
智昭の裏の顔を支える精鋭チームが、命懸けのミッションの果てに「変態執着初恋拗らせ男」に特大のツッコミを入れた、知られざる舞台裏である――。
新田の偽装死が決行された夜の海。彼から直接情報を引き出した賢志と康明は、小型ボートでひと足早く港へと向かっていた。
智昭の裏の顔を支える5人の精鋭たちは、ここから即座に二手に分かれ、世界を跨ぐ極秘ミッションを開始したのだ。
まずは本国。現在は厳重な管理下に置かれている旧青木邸である。
深夜の静寂の中、玲奈の母・静香の部屋に音もなく侵入したのは、康明と賢志だった。
「……愛理、監視システムのループ処理は?」
康明がインカム越しに低く尋ねる。
「とっくに終わってますよ。向こう30分、警備会社のモニターには異常なしのダミー映像が流れ続けます。サクッと回収しちゃってください」
遠隔から鼻歌交じりで邸宅のセキュリティを完全に掌握する最年少・愛理の言葉に、
賢志がニヤリと口角を上げる。
「頼もしくなったな愛理。さて、本物のダイヤの在り処探し出しますか」
「あぁ、サクッといこうか」
化粧台、窓、ベッドの裏、床板を探るが出てこない。残るは静香の聖域、作業台だ。
「康明、やっぱりここだろうな」
「あぁそうだな。できれば荒らしたくなかったが…申し訳ない、時間がないな。急ごう」
賢志は作業台の後ろから細かにチェックを入れていく。康明は作業台の奥に置いてある分銅から手を付ける。カチャ。
「ビンゴ、あったぞ賢志。、、賢志?どうした?」
「康明、、これ、出生届?子供の名前は青木玲奈、届出人は青木静香」
「それも持って出よう、何となく意図は見えた。分析は後だ、行くぞ賢志」
「あぁ、行こう」
一方、賢志達と遅れる事1日、A国 ー新田の隠れ家。
末端構成員たちがうろついている可能性を考え、洋介は清掃ヘルパーに扮して新田が住んでいたあの家に入る。インカムで聡美から外の様子をうかがいながら作業にうつる。
「洋介さん、時間は10〜15分よ。新田の部下たちが巡回から戻る前に裏帳簿をお願いね」
通信機から聞こえる聡美の冷静な指示。
「了解。ターゲットの机は……これか」
洋介は暗視ゴーグル越しに、部屋の中央に鎮座する重厚な木製の机を見据えた。新田が命綱として隠し持っていた裏帳簿のデータ。それが、この机の裏板に仕込まれている。
洋介は迷いなく机の下に潜り込むと、特殊なスキャナーで板の構造を瞬時に解析した。
(ミリ単位のトラップ……なるほど、力任せに開ければデータごと焼却される仕組みか。だが、甘いな)
洋介は無駄のない洗練された動作で、仕掛けられた小型の発火装置の配線をバイパスし、無力化していく。ものの数十秒で裏板が外れ、そこに隠されていた漆黒の記憶媒体が姿を現した。
「……裏帳簿のデータ、回収完了。これより離脱する」
「了解」
聡美の安堵したような声が響く。
こうして、彼ら『超絶優秀なチーム』は、世界を跨ぐ難易度Sクラスのミッションを、誰一人傷を負うこともなく完璧に完遂してみせたのだ。
ーーーー
数日後。某所のセーフハウス。
世界を跨ぐ極秘ミッションを完遂した5人は、ボスの待つ部屋に集結していた。
重厚なデスクの上に、洋介が持ち帰った漆黒の記憶媒体と、康明たちが確保した静香のダイヤ、そして古びた出生届が並べられる。
「ボス。ご指示の品、すべて揃いました。新田の裏帳簿のデータも完璧です」
賢志の報告に、窓辺で外の闇を見つめていた智昭が静かに振り返った。
先ほどまで「玲奈に会えない捨て犬」のような悲壮なオーラを纏っていたはずが、部下たちの前では瞬時に、氷のように冷徹な『裏社会とも互角に渡り歩く男』の顔へと切り替わる。
(………だから、その完璧なオンオフの切り替えを、なんで夫婦関係で活かせないんだよ…)
そんな心の声はきっと表情に、ありありと出ていたであろう賢志。気づかれない様に溜息をつく。
そして智昭の次の言葉を待った。
智昭はデスクの上の品を一瞥し、恐ろしいほどの速さで脳内の演算を走らせる。その切れ長で冷酷な瞳が、一つの『完璧な結論』にたどり着き、薄く笑った。
「よくやった。この裏帳簿を使えば、組織(スパイダー)の目を完全に逸らすことができる」
「ええ。これでもう、奥様を組織の標的から完全に外すことができますね。やっと……」
康明が安堵の息を吐きかけた瞬間、智昭が冷たい声でそれを遮った。
「あぁ。だからこそ、ここからが本番だ。俺は優里を完璧な標的(デコイ)として使いながら、玲奈から徹底的に距離をとるためのシナリオを完成させる」
「……はい?」
「玲奈の母の誇りであるこのダイヤと出生届は、然るべきタイミングで彼女の手に渡るよう手配しろ。だが、俺からの干渉は一切見せるな。俺はさらに冷酷な夫として振る舞い、玲奈のプライドをへし折る。彼女が俺を完全に切り捨て、憎悪するルートを確定させる」
愛理は目で聡美に訴える。
(えっ?馬鹿になったの?一周まわったら馬鹿になるの?)
聡美はじっと愛理をみつめる。
(天才と馬鹿は紙一重って言葉があってね、彼、ボスはね、器用に使い分けてるみたいだわ。無駄な才能ね…)
賢志はもはや表情を隠す気がない。
(何言ってんだこいつ…。あっ近所に住んでた翼君思い出したぞ。『俺飛べるんだぞ』って言ってジャングルジムのてっぺんから飛びおりて、足の骨折ってたな…それだ、それと一緒だ!)
康明は先程から目ヂカラで智昭に訴えるという密かなミッションを繰り広げていた。
(……普通に好きって言えよ!!!)
その場にいた超絶優秀な5人のプロフェッショナルたちの心の声が、ポンコツ智昭に向けられる。
洋介がたまらず口を開いた。
「ボス。その……すべてを打ち明けて、共に組織の脅威を退けるというルートは……」
「却下だ。玲奈に指一本、悪意の欠片すら触れさせるわけにはいかない。あいつの才能が輝く光の世界に、俺の血生臭い影を落とすことなど許されない。俺一人で泥を被り、最悪の夫になれば済む話だ」
智昭は迷いなく、そしてどこか誇らしげに言い放った。
その揺るぎない自己犠牲の決意を前に、
賢志はそっと胃薬のパッケージをポケットの上から握りしめる。
洋介は無表情のまま天井を仰ぎ、聡美はこめかみを押さえ、康明は深く、ひたすらに深い溜め息をついた。
そして、最年少の愛理が、冷めきった目でコーヒーを啜りながらボソッと呟く。
「うちのボス、仕事はバケモノ級にスマートなのに、奥さんのことになると急に昭和の悲劇のヒーローぶるのは何なんですかね。普通に真実を伝えてハグすれば一秒で終わるミッションじゃないですか。バカなんですか?」
「愛理、お前それは口に出しちゃダメなやつ……いや、今回ばかりは俺も、全員同意するよ」
賢志が崩れ落ちそうになる横で、智昭だけは
『俺の完璧な愛のシナリオ』を信じて疑わない、孤高にして最高に厄介な顔をしていた。
皆が打ちひしがれている中、
聡美がこめかみから手を離し、
意を決して意見する。
「ボス、今おかしな事をおっしゃいましたよ? ダイヤも玲奈さんの出生届も、ボスの手から青木家へお渡しくださいね。他の誰が手渡せるのですか? もしかして、郵便で送るおつもりですか?それとも……まさかの、そっと玄関に?
Amazonじゃあるまいし……
ご冗談はほどほどになさってください」
極上の笑みを添えて、聡美がトドメをさす。
「ボスから手渡すから意味が深まります。本当はご理解なさってますよね? 大丈夫です。青木のおばあ様はすべてご理解なさいます。さぁ、奥様と向き合う勇気をお持ちください。必ず伝わりますから。……手放したくないんでしょ?」
5人は深く頷き、不器用なボスの背中をそっと押した。
「事故ったのは玲奈だった」
ー 完結 ー
ここまでご愛読頂き誠にありがとうございます。(◡ ω ◡)
某WEB小説プラットフォームの某コメント欄から派生して、(内容の良し悪しは別に)無事着地しました!
なにぶん、素人の思いつきで書き進めた為、
「んなアホな」展開にも関わらず、
あなた様の大切なお時間を割いてくださった事に、
この上ない喜びと感謝の気持ちでいっぱいです。
あと、そのコメント欄からこっそりと裏設定を拝借させてもらった箇所あります。勝手にごめんない(汗)
そしてありがとうございます。
皆様の考察の素晴らしさに乾杯です!
ありがとうございました
(≧▽≦) 山本山
【 お知らせです 】
本編のあとがきでもお伝えしておりましたが、
本日よりアルファポリスにて、本作をベースに一から作り直した
「完全オリジナル版」の連載をスタートいたしました!
ラブロマンスのつもりで執筆してるのに
ノアールらしいです(Gemini調べ)
本当に謎です。何故ラブロマンスにならないのか…
本日「プロローグ」を公開しましたので、ぜひ以下のURLから飛んでみてください!
『10年の嘘、その罪は愛にとけ ~壊れゆく幼馴染とキーホルダー。嘘に染まった10年、解けないはずの愛の演算が始まる~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/120729302/404058160】
ペンネームは「山本山海苔子」です( ー̀֊ー́ )✧
ちなみに「アルファポリス」は、
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新しい舞台でも、あなた様にお会いできたら最高に幸せです。
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これまで「事故玲奈」を読んでくださり、本当に本当にありがとうございました!
☆★皆様に沢山のラッキーが訪れますように☆★