事故ったのは玲奈だった 〜社長夫人はずっと離婚を考えていた〜【原作伏線回収・再構成】 作:山本山
一時前、辰也と清司はなかなか帰ってこない智昭を探していた。そろそろパーティーも終わりに近づいて来ている。
2人はてっきり飲み過ぎたからしばらく席を外しているだけだと思っていた。智昭に限って何かあるとも思えないが、辰也と清司は二手に分かれてい大学構内を探す事にした。
清司が中庭を抜けて数十メートル程離れた目立たない位置に男性が建物の扉の前で俯いているのが見えた、何か知らないか聞いてみようと歩み始めたら男は扉の中に入って行くのが見えたので早足で近づくと大きな男の声で
「れな、、なんて事を、、あれほど止めろと言ったのに、、なんてことを、、、」
「どこで手に入れたんだこんな物、、、貸しなさい、、」と
聞こえ、すぐさま辰也に連絡をいれた。
スマホを操作してる間に男が立ち去る後ろ姿が見えた。1人で立ち去っていったので先程の事はその場で解決したものと思った。本国の学生も多くもないが少なくも無いので、痴話喧嘩だろうと納得した。ただ、「れな」と聞こえた事が気にはなった。まさか、青木さん?いや、彼女は離婚して母についていったはず。先程の声は男性だったので、清司はホッとした。
智昭に電話をかけるが繋がらない。
辰也に電話をかける
「辰也、智昭見つかったか?」
「いや、まだ、今日1日朝から出ずっぱりで疲れ果てたんだろう、もう少し待ってみようか」と
お互い確認して電話を切った。
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一方、正雄は腸が煮えくり返る思いであの部屋を離れた。こうなったら自分の存在がバレる事の方が問題だ。薬の出どころも万が一バレたら、何もかもが終わってしまう。一刻も早くこの場所から離れるのが先決だ、と判断した。
幸い目立たない様にパーティーに参加していたので優里を連れて急いで帰った。優里は終始無言だったが、我慢できず正雄に尋ねる
「お父さん、結局、藤田さんに挨拶できなかったけど、どうして?あの部屋には誰がいたの?」
「うん、、玲奈が、藤田さんに薬、多分媚薬を飲ませていた」
優里は絶句した
「優里、黙っておきなさい。玲奈はお前の姉だから、もし、噂が回れば優里にも影響があるかもしれない。幸いお父さん以外誰もみていない。」
帰りは手配したタクシーを途中で降りてその後は流しのタクシーを2回乗り換えて家路に着いた。
正雄はすぐさまチケットを手配してもらった者へ会いにいった。電話で予めアポを取り向こうが指定する場所に向かう。
見た目は普通の一軒家。隣には仲の良さそうな家族の声が聞こえてくる。玄関のチャイムを押し許可をへて扉を開けた。黒い革張りのソファーに座りソファーの前のテーブルに茶器セットを並べてお茶を嗜みながら悠々と座る男が1人いた。
正雄が口を開く
「あの薬は大丈夫か?」
「なんだオヤジさん、失敗したのか?」
手の甲に見事な蜘蛛の入れ墨を入れた男が喋る。
正雄は黙る。
男はゲラゲラ笑いながら
「それで、足がつくのを恐れてココへ確かめに来たって訳だな。」
正雄の身体は強張る。
「安心しな、そう簡単にはわからんさ。」
「ただ、足が着いてしまった時にはコチラにも被害が及ぶからなそん時は肩代わりしてもらうよ?」
急に肩に手を置かれ、正雄に緊張が走る。いつの間にか背後に人がいた。
「振り向かないでくださいね。手間が増えるので、あなたが喋らなければ問題無い事ですから。しかし万が一の時は覚悟してくださいね。それくらい出来ますよね?」と
嘲る様に笑った。肩に置かれた手の甲には入れ墨もなく荒事をする様な手では無かった。言い終えると男は足音も無く去って行った。
ソファーに座る男が
「いいか、同郷のよしみで手を貸してやっただけだ。身の丈に合わん事はするな。もう帰れ帰れ」
正雄は何も言いわずその場を後にした。
先程の男にもソファーに座ったままの男にも嘲笑われた事に憤りを感じていた。
「あの虫けら共め」と
吐き捨てて何とか気持ちを立て直した。
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辰也と清司は少し焦り始めていた。構内を探してみたが見当たらない。いつも用意周到な彼なのに。辰也と清司もそれぞれの父親からサイバーテロが頻発している事は知らされていた。智昭もその分野に才能を見せていたので余計に心配していた。清司は青木さんの姿が見えない事も気がかりだった。彼女はここにいる者の中で最年少だ。それに目を引く容姿をしている。清司は視線をぐるりと見回し、まばらになった人々の中に智昭と青木さんの姿を探した2巡したところで視界の右端に男女の姿を捉え、そちらに向き直し姿を捉える。先程の男が入って、、「れな、、」と叱責していた部屋だ
「まさか、青木玲奈の事か、、」
清司は愕然とした。2人の今迄の距離感では無い雰囲気も漂っている。智昭はこめかみを抑えながら明らかに体調不良な様子だ。玲奈は智昭のジャケットを羽織って智昭を支える様に歩いている。清司は辰也に知らせ辰也は智昭に電話をした。「何処にいたんだ?探したぞ」
「心配かけた。今から青木さんを送って家に戻る。」と
告げて電話は切られた。
清司は思い返していた。
席を離れる前に玲奈は智昭に水を渡していた。端にある建物の扉の中から、男の声で「れな、」と呼んでいた。叱責もしていた。そして智昭と共に部屋から…清司は辰也に何も言わずに
その場で智昭に電話をかけ尋ねる
「薬盛られたのか?」
智昭は機嫌が悪そうに
「あぁ。心配するな。」と
それだけ告げて今回も一方的に電話が切られた。清司の中で確信に変わってしまった。
「青木玲奈が智昭に薬を盛ったに違いない」
清司は唐突に辰也に話した。
辰也と清司は智昭がこれまでにこの類の事に気をつけていたのも知っている。藤田智昭という人間が幼い頃から積上げてきた、ありとあらゆる努力を見てきている。そして、彼が珍しく気に掛けていた青木玲奈という存在。
青木玲奈は智昭の信頼を裏切ったのだ。
辰也と清司の胸中に言いようのない怒りがわき起こった。