フィジギフゴリラのデビルハンター   作:リーグロード

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今回はちょっと先の伏線とか入れる為に難産でした。


ドナーカード

『公安に悪魔の駆除要請。森野ホテル内部で悪魔の目撃。ホテル宿泊客の生存不明。駆除に当たった民間のデビルハンター複数人が死亡しているみたいです』

 

 その報告に加えて、銃の悪魔の肉片が反応したことにより、公安特異4課からデンジとポチタを含む6人プラス1匹が出動を命じられた。

 

「このホテル内の何処かに潜んでいる。それもこれはただの悪魔じゃない。銃の肉片を食べた悪魔がいる」

 

 アキが弾丸のような肉片をホテルに向けて掲げると、その肉片が何かに引き寄せられるかのように勝手に動き始めた。それこそが、ホテル内にいる悪魔が銃の肉片を食べた存在であることの何よりの証拠だった。

 

「なあ、銃の悪魔って、確か前に先輩が言ってた、倒せばマキマさんが絶対に喜ぶ悪魔の名前だったよな」

「ああ、そうだ。その悪魔の肉片を食った悪魔があのホテル内にいる。気を抜くなよ」

 

 アキの忠告に、デンジは聞き流したような軽い返事で答える。

 そして、ふと気になったことを尋ねてみる。

 

「でもさ、もしかしたら、銃の悪魔本人がいるかもしれねえじゃん」

「肉片がこの程度の動きなら、本体の可能性はない」

 

 銃の悪魔本人ではないと断言されると、デンジのやる気はさらに低下していった。さらに、パワーがアキの持っている銃の肉片を玩具か何かのように気に入り、よこせとせがむ始末。

 まるで子供を引率しているようだ、とアキはため息をついた。

 

「お前ら、こっから先はマジで危険だ。俺の言うことがちゃんと聞けないなら、こいつは無しだ」

 

 長い時間ではないが、決して短くもない時間を共に過ごしてきたアキにとって、二人の扱いは慣れたものだ。懐から取り出したガム2個を見せるだけで、やる気のない態度や我儘な振る舞いも表面上は大人しくなった。

 

「ったく、ほれ、ポチタ。お前の分だ」

「ワフッ」

 

 ガム1個で単純な奴らだと二人を横目に、飼い主と違ってちゃんと大人しくしているポチタにアキはガムを渡す。

 

「早川先輩、これから一緒に悪魔と戦う仲間として……、そいつらに背中任せて大丈夫なんですか?」

 

 先ほどからの態度や、ガム一つで簡単に態度を変える様子に、荒井は我慢できずアキに問い詰める。

 

「片方は魔人で、もう片方はチンピラ。それに、アキ先輩がガムやってるそいつは悪魔じゃないっすか。自分は信用していいんすか?」

 

 初めてともいえる本格的な悪魔との戦闘を前に、色々と不安なのだろうとアキは荒井の心情を察する。

 

「別に背中を預けようだなんて考えなくてもいい。血の魔人はマキマさんの実験的な意味合いで生かされてるだけで、悪魔駆除に役立てるように使うだけだ。ポチタも、悪魔との戦闘になれば、そこのデンジと組んで俺らよりも率先して戦うだろう。それに、お前は俺がこの悪魔に絆されて油断してると思ってるだろうが、俺はこいつが人を裏切った時には迷わず殺す。それくらいの覚悟なら常にしているから心配はしなくていい」

「っ、そう……でしたか……。すんません、失礼なこと聞いてしまって」

 

 アキの真剣な表情から噓はないと悟った荒井は、頭を下げて謝罪する。

 そんな荒井とアキの会話を聞いていたパワーとデンジは不満そうな顔でアキを睨む。

 

「畜生どころか、モルモットみたいな扱いじゃな」

「つか、ポチタ殺すとか常日頃思ってんのかよ。家ではあんなにポチタのこと可愛がってるくせによ」

「黙れ、殺すぞ。違反行為なしでも、俺はお前らの首は許可さえあれば、いつでも斬り飛ばすつもりだぞ」

 

 静かに怒気を滾らせて、パワーとデンジに釘を刺す。

 

「コイツめっちゃキレてんじゃ~ん。朝のアレのせいだな……」

「あのイタズラはさすがにまずかったの……」

「あれは!いたずらレベルじゃねえ!!ポチタが事前に知らせてくれなかったら、テメェら今頃俺が殺してたぞ!!!」

「ワフ~……」

 

 コソコソと朝のイタズラが原因で怒っているのかと話し合うデンジとパワーの声はしっかりアキに届いており、新人と先輩の手前クールを装っていたアキの顔は阿修羅のごとく怒りに染まり叫んだ。

 

「コワっ……、何があったの……。しかも、悪魔に助けられてるみたいだし。アキ君、本当にそこの悪魔に絆されてない。大丈夫?」

「俺は大丈夫ですよ、姫野先輩。それにですね、この悪魔が俺を騙そうと接してたとしても、そこの馬鹿二人に比べれば、全然マシですから」

「ワン!」

 

 なんだか疲れ切ったお父さんみたいな哀愁を漂わせながら、朝のイタズラを防いだ功労者であるポチタの頭を撫でる。

 そんな悪魔嫌いのアキが悪魔に好意的に接している珍しい光景を目にした姫野は、その原因である二人に興味を抱いた。

 

「ねえ、君たち。今回のお仕事、私と一緒に頑張ろっか」

「はあ?ワシは人間なんぞと一緒に頑張る気はないが」

「俺も、マキマさんが殺せば絶対に喜ぶっていう銃の悪魔じゃないなら、そんなやる気出ねえ~……」

 

 魔人であるパワーの反応は予想通りだったが、公安に入ったのにやる気を見せないデンジの態度から、彼がここに入った理由はコベニちゃんと似たようなものだと推測する。

 だったらと、姫野の脳裏に妙案が浮かぶ。

 

「やる気が出ないか~。だったら、私が一肌脱いであげる!今回の悪魔を倒した人にはなんと!私がほっぺにキスしてあげま~す!」

「え!?」

「ええ!?」

 

 そう宣言した瞬間、デンジの態度が一変する。その様子を見て釣れたと思ったら、ついでに荒井も反応を示してきた。

 そんな荒井の慌てた様子を目にして、冷静さを少し取り戻したデンジは、その言葉に過去の経験を重ね、姫野に疑いの目を向ける。

 

「そんなこと言って、どうせ美味い話で俺を釣ろうとしてるんだろ?悪魔を倒しても、あれこれ条件つけて、結局最後はうやむやにするつもりなんだ!」

「もう~!デンジ君ってば顔に見合わず疑り深いんだから。じゃあ、デンジ君が悪魔を倒したら……ベロ入れたキッスしてあげる!」

 

 耳元でサキュバスの如く誘惑する姫野の唇から紡がれる吐息と、最後の一言でデンジの体温は急上昇し、先程まであった疑心も吹き飛んでしまった。

 

「えっへっへっへ~!!」

「おい!待て!単独行動は危険だ!!とまれ!!」

「ワワンッ!!」

「男の子からかうのが一番おもしれ~や!」

 

 ホテルに入るなり、ご褒美目当てで一番乗りを競うように競歩するデンジとそれを阻止しようとする荒井。その後ろをポチタが追いかける。その様子を見て、事の発端である姫野が笑う。

 そんな童貞丸出しのデンジと荒井が争ってると、面白半分でパワーが野次馬に加わり、さらにコベニが仲裁に入るという騒ぎになる。

 そうして残された姫野とアキがそれぞれの新人の評価を確認する。

 

「姫野先輩の新人達は使えそうですか?」

「荒井君は実力不足だけど、やる気は十分って感じ。逆にコベニちゃんは引っ込み思案だけどかなり動けるかな。アキ君の方は?」

「血の魔人は強いですが、短気でまだ裏切る可能性があります。デンジとポチタのペアはヒルの悪魔の戦いを見て分かってると思いますが、それぞれ個人での戦闘力は全然ですが、お互いが組んだ際の実力はかなりのものだと思います」

 

 アキのデンジとポチタへの予想以上の高評価に、姫野は悪魔が出現したとの報告を受けて駆け付けた現場での二人の戦いぶりを思い出す。

 確かに、悪魔や魔人と共闘したとはいえ、公安が出動するような悪魔を2匹も連続で倒したデンジの価値を上方修正して、使える新人の枠に入れる。

 

「この新人4人……。生き残れると思う?」

「コイツは強いなと思ったヤツも、そうでないヤツも、1年もあれば死ぬか民間に行きます」

「答えになってないな~……」

 

 それはつまり、答えたくないということなのだろうとアキの心情を察した姫野は、それ以上追及しなかった。

 そして、姫野とアキは争う二人を止め、ホテル内に潜む悪魔の捜索を再開した。

 

「バウッ!」

「んあ?なんかいるぞ……」

 

 急に警戒の鳴き声を上げるポチタを見て、デンジがこの先に敵がいると察する。

 それを受けて、皆が警戒態勢となって足を止める。

 その予想は正しく、ホテルの部屋の扉がひとりでに開き、中から顔に手と足が生えた化け物が現れた。

 

「んばぁっ」

「ひっ!」

 

 にたりと笑う悪魔を見たコベニが恐怖で短い悲鳴を上げた。それを合図に悪魔が飛び掛かってくる。

 

「捕まえた」

「う、あうあ……」

「浮いた……!?」

「バトルじゃ!」

 

 宙に浮いた悪魔に皆が動揺して動けない中、パワーだけが後先を考えずに血で作った武器で悪魔を一撃で仕留めた。

 

「悪魔め!ワシにビビッて浮きおったわ!ガハハハ!!」

「違う違う、私の力!私のゴーストが捕まえたの!」

 

 勘違いして高笑いするパワーに、姫野がネタバラシと契約した悪魔の力と代償を説明する。

 倒した悪魔も、目的の悪魔じゃないと確認すると、悪魔の死体を放置して探索に戻る。

 

「さっきみたいに、ワシの前で己の力をベラベラ喋ってよいのか?ウヌらがおるのは、ワシを制御する為じゃろ?」

「力を知ってた方が連携とれやすいでしょ?それに、切り札は隠してるから、オッケーオッケー」

「ホントかの~?じゃ、ワシがコイツ殺すと言ったらどうする?」

「ひっ!」

 

 悪魔を殺して調子づいているパワーは、さっきからずっと怯えまくっているコベニに血の武器を向ける。

 

「う!」

「武器をひっこめな。悪いコトしたら。いつでもクビを絞め殺せるぞ」

 

 さすがはベテランのデビルハンターというべきか、特に慌てることもなく、パワーの暴走を子供のイタズラを怒る程度の態度で流してお仕置きする。

 

「お、ぐうう!触れな……い……」

 

 首を絞められて苦しそうにもがくパワーの様子に、お仕置きは十分かと判断した姫野が解放する。

 力関係を思い知らされたパワーはへこたれることなく、「いつかそのうち食ってやる……!」と豪語する。

 

「お前たち、まだ悪魔が潜んでるんだぞ。もう少し静かに……」

 

 上の階へ向かい、そのフロアを探索しようとした荒井の目に飛び込んできたのは、見覚えのある血に染まった廊下だった。

 

「あれ……?」

 

 慌てて来た道を引き返し、階段のところにある現在の階層を示す表示を確認する。

 しかし、そこに表示されていたのは9階ではなく、8階だった。

 

「どうした」

「俺達、今……、8階から9階へ行く階段を上りましたよね?」

「ああ」

「ここも8階ですよ?」

 

 この明らかな異変に、荒井が下の階層に降りて見間違いの類ではないと確認しに走ると、その下の階に行った荒井が上の階から降りてきた。

 

「あれ……?」

「荒井君いま……、階段降りて行ったよね……?」

 

 さすがにこれはもう、悪魔の攻撃に間違いないと確信した姫野が詳細の確認の為にコベニにダブルピースでじっと待てと命令して荒井と同じように下の階に走った。

 

「ありゃりゃ……」

 

 そこで見たものは、ダブルピースで待機を命じられたコベニ含む皆の姿だった。

 

「え~!?えっええっえ~!?」

「アキ君……。なんだこりゃ……」

「悪魔の力でしょうね……」

 

 この異変を悪魔の力と結びつけたアキは、現在のフロアの状況を確認するため、手前の部屋に乗り込んで探索を始めた。

 その結果、どの部屋も階段と同様に窓の外からは脱出できず、向かいの部屋の窓と繋がっていることが判明した。

 その後も、部屋以外の様々な場所を調査した結果、この8階からの脱出は不可能であると結論づいた。

 

「パワーがさっきの悪魔を殺したからじゃねぇのか~?閉じ込める力を使ったまま死んだんだ!その悪魔が『ウヌが殺せと言ったんじゃ!』なんて言ってねえ!」

 

 即座に責任転嫁するパワーにキレるデンジ。喧嘩を始めそうになる2人を止めるように、アキが「悪魔は死ねばその力は解除される」と説明し、デンジとパワーのいがみ合いは収まった。

 

「んじゃよ、俺らをここに閉じ込めた悪魔がどっかに潜んでるってことだよな?おい、ポチタ!お前の鼻でその悪魔が何処にいるか探せねえか?」

「無駄だ。そんなの既に俺が出来るかどうかやらせたが、どうにもフロア全体から悪魔の臭いがするばっかで、本体の居場所が判明しなかった」

「ワウ~……」

 

 役に立てずに申し訳なさそうに鳴くポチタに、アキは慰めるように背中を撫でた。

 

「はぁ~?お前、いつの間にポチタ使ってそんなことしたんだよ!?」

「お前がフロアの天井を調べてる間にだ。悪魔は鼻が利くのは知ってるからな。利用しない手はないだろ」

 

 確かに、天井を調べるのに小さいポチタじゃ役に立たないから一人で調べてたが、まさかその間にアキと行動しているとは思っておらず、デンジは不貞腐れたような顔でアキを睨む。

 

「それじゃ、アキ君。銃の悪魔の肉片はどうなの?」

「そっちもこの通り、反応なしです」

 

 ホテルに入る前までは反応していた肉片も、今は宙ぶらりん状態で動く気配がなかった。

 こうなってしまえば打つ手はなく、完全にお手上げとなった。

 この状況に荒井はまだ救助の可能性を信じるが、その可能性に姫野がバッサリと最悪の未来を付け加える。

 

「私達、ここで全員死んじゃうんだ……。お腹ペコペコで死んじゃうんだ……」

「こっ……、コベニちゃん!気張れ!デビルハンターやって兄を大学に行かせたいんだろう!?」

 

 8階に閉じ込められた状況で、コベニが恐怖に負けてパニックを起こし、周囲に不安を広げてしまう。

 そんな中、荒井が希望を捨てるなとコベニを励まそうと、公安に入った理由を前に出して元気づけるが、逆に彼女の不安を煽ってしまう。

 

「半分無理やりなんです……。親が優秀な兄だけは大学に行かせたいからって私に働かせたんですぅ~……。風俗かデビルハンターしか選択肢なかったんですぅ~!」

 

 色んなものを堰き止めていた何かが切れ、感情的に泣き始めるコベニ。

 

「私も大学行きたかったんですう~!!でも、ここで死んじゃうんですう~!!」

「がはっ、ガハハハハハ!!その顔……!見よ、ポチタ!!面白い顔じゃ~!ガハハハハハ!!」

「wwwww!!」

「貴様らア~……!笑うな!!」

 

 酷い顔で泣き叫ぶコベニの表情を気に入ったのか、ベッドの上で大爆笑するパワーの隣で、声を出さずケラケラと楽しそうにしているポチタ。

 人間の姿をしていても、どれだけ人に懐いていても、その本性は悪魔であるパワーとポチタに荒井がキレる。

 

「コベニちゃん……。悪魔は恐怖が大好物だからね。恐がってたら相手の思うつぼだよ」

「でも恐いんですう~~!!」

 

 泣いて恐がるコベニを慰める姫野が窓際に寄りかかって神妙な顔つきでいるアキの様子に気が付く。

 

「部屋の時計……。さっきから8時18分です……。どの部屋の時計も8時18分で止まっていました……。この8階だけ時間が止まっているとしたら……助けは来ないかもしれません」

 

 そのアキの推測に、先程まで泣き喚くコベニを笑っていたパワーとポチタも動揺で嗤うのを止める。

 だが、その中で一人だけ平静さを保つ者がいた。

 

「すげえ!じゃあ寝放題じゃねえか!!」

 

 デンジのその発言に、パワーすらも呆れた目線を送っていた。

 

「馬鹿か、貴様は……。俺達はここで永遠に閉じ込められるかも知れないんだぞ……」

「そうなるかもしれねーし、ならないかもしれねーだろ?だったら、俺は普段寝れねえようなフカフカのベッドでゆっくり寝る贅沢ってのを堪能するぜ。ポチタも俺の隣で一緒に寝るだろ?」

「ワワンッ!」

 

 布団を持ち上げてポチタが入れるスペースを作ると、ポチタは嬉しそうにそこに入る。

 こうして、デンジとポチタはいつも通り横に並んで布団に包まる。

 

「寝た……」

 

 悪魔に捕らえられているこの状況で、危機感を全く感じさせないデンジの行動にアキは呆れると同時に、今も恐がっているコベニと荒井を見て、恐怖で悪魔を強くするよりマシかと考えて放置する決定を出す。

 そうして、デンジとポチタが眠っている間に、各々が再びフロアを探索して、悪魔の捜索と脱出の糸口を探す。

 それから、かなりの時間が経過し、皆が探索を中断して体を休めている時だった。

 

「────っ!!」

「あっ、起きた」

 

 突然、眠っていたデンジが目を覚ます。急にデンジが起きたことに姫野が反応して声を上げる。

 しかし、デンジはそれどころではないと言わんばかりに、慌てて飛び起きると、姫野の声を無視して部屋のトイレへと駆け込んでいった。

 

「ありゃりゃ、無視されちゃった。それとも、相当に限界だったのかな?」

 

 デンジが入っていったトイレを見つめながら、今の状況説明はトイレから出た後でもいいかと姫野は判断した。

 

「うっ──、おえっ!!」

 

 トイレの鍵をかけ、便座にもたれるように座り込んだデンジは、大量の血を吐き出した。口だけでなく鼻からも血が垂れ、それらを便器に吐き出した後、トイレットペーパーをティッシュ代わりに使い、口元や鼻についた血を拭き取り落ち着きを取り戻す。

 

「はぁっ、はぁっ、俺ももうすぐ死ぬかもな。そんときゃポチタに体あげてーな。そしたら、ポチタもパワーみたいに魔人になんのかな?」

 

 金は公安のデビルハンターになって沢山稼げてるし、家もアキの住んでるアパートがある。俺一人いなくなっても、ポチタならアキとパワーの二人と一緒にそれなりにやっていけるだろう。

 その為にはまず、このホテルにいる悪魔を殺して生きて帰らなきゃな。

 

「おっ、出てきた。お~い、デンジ君、もうトイレは大丈夫かな?」

「そりゃもう、バッチリっすよ!」

 

 親指をビシッと立てて、姫野にトイレの無事をアピールするデンジ。

 その様子から漏らしちゃいないと判断すると、未だに眠っているポチタも起こして現状の説明に入る。

 

「まず結論から言うと、8階からの脱出はまだ無理!その代わり、水道と電気はちゃんと使えるみたいだし、食べ物はホテルの宿泊客が逃げた時に置いていったのがいくつか見つかったの」

「だったら、飢え死にする心配はまだ大丈夫ってコトっすね!」

「ワンッ!」

「うん、そうだね。でも、他にも問題が出来ちゃって~……」

 

 飲み水と食料の問題はひとまずは解決したが、他にも問題が発生したと姫野は続ける。

 アキは休まずに悪魔の探索。荒井は最初こそ耐えてアキの手伝いをしていたが、今は状況に恐がって閉じこもり。コベニは恐怖でおかしくなったから気絶させた。

 

「それで魔人ちゃんなんだけど……」

「パワーがどうかしたんです?」

「ワウ?」

 

 見れば早いと言われてパワーがいる部屋まで連れてこられた。

 

「ワシは暇だからノーベル賞を考えておった!ノーベル賞を発明すれば人間はワシにひれ伏すじゃろうて!そのあとはノーベル賞を踏み台にワシは総理大臣になる!」

 

 言っていることが今時の小学生以下の知能の発言のようで、正気かどうかの判断が難しかったのだろう。

 デンジとポチタを連れてきて、正常かどうかの判断を任せると、デンジが「普段からこんなもの」と答え、姫野は安心する。

 

「ん?んぅ~?デンジ!ウヌめ、さてはワシに隠れて血を飲んだじゃろう!ワシにもよこせ!!」

「はぁ?血なんざ飲んでねえよ!?やめろ、うざってぇ!!!」

「ワン!ワン!」

 

 デンジの口から血の匂いを嗅ぎ取ったパワーは、デンジが血を隠し持っていると勘違いして襲いかかる。ポチタがそれを止めようとするが、パワーは無視して暴れ続ける。

 

「姫野先輩……。これ今どういう状況なんですか?」

「あっ、おかえりアキ君。なんか魔人ちゃんがデンジ君の口から血の臭いがするって言い出して暴れてるの。デンジ君は人間で悪魔じゃないんでしょ?だったら血なんか飲むはずないし、魔人ちゃんの勘違いだと思うんだけどね」

 

 姫野から事情を聞くと、アキはすぐさま神妙な顔になってデンジを見つめる。

 今も襲い掛かるパワーの首を後ろから絞めて動きを封じているデンジを少し観察すると、手招きで姫野を廊下へと呼び出す。

 

「どうしたの、アキ君。私だけ廊下に呼ぶなんて。みんなには聞かれたくない話?」

「姫野先輩、これを……」

 

 そういってアキが姫野に差し出したのは自分の運転免許証だった。

 

「なにこれ、運転免許証?どうして急にこんなものを?」

「裏面の方を見てください」

 

 そう指示され裏面を確認すると、そこには死亡後に自身の臓器提供する欄のうち、心臓に丸をつけられていた。

 

 デンジの口から血の臭いがするというパワーの発言と、アキがこのタイミングで臓器提供の意思を見せてきた意味が結びつかないほど、姫野は鈍くはない。

 

「まさか、デンジ君って心臓が悪いの?」

「まだその可能性があるだけです」

 

 運転免許証を返してもらい、それをしまい込みながら、自分の知る詳細を話す。

 

「ヒルの悪魔との戦いの後にデンジが病院で入院した際、医者がデンジの様子と怪我の具合から内臓を損傷してる可能性があるからと精密検査をした結果、心臓病の疑いがあると診断されました」

「それって、デンジ君は知ってるの?」

「あくまで疑いだけなので、この件は俺の胸の内だけに留めてますが、自分の体の事ですし、本人は薄々とは気が付いているんじゃないですか」

 

 口寂しさにタバコを吸おうとするアキだが、ちょうど切らしてしまっていることを思い出し、姫野にジェスチャーで持ってないかと尋ねると、残り最後の一本を差し出した対価に、一つの質問をアキに投げかける。

 

「ねえ、アキ君は自分の心臓を、デンジ君に上げるつもりなの?」

「この隊の中で順当に行けば、真っ先に死ぬのは俺です。だったら、銃野郎を倒せる可能性のあるデンジに死んだ後の心臓くらいくれてやりますよ」

「それはダメ……」

 

 決して大きな声ではないが、否定を許さない力強さのある声で却下された。

 

「アキ君はさ、いざとなったら刀を使うつもりでしょ。だから私にドナーカードを見せて、デンジ君の心臓の事を話した。違う?」

「フー……。ええ、そうです。この状況だけじゃない。銃野郎の肉片を追っていたら、この先も似たような悪魔と戦う機会は増える。だったら──」

「だったら私もデンジ君に心臓をあげる!」

 

 姫野は自分の運転免許証を取り出して、裏面の提供する意思表示の欄の心臓にサインペンで丸をつけた。

 

「デンジ君だって、自分の心臓になるなら、野郎なんかよりも、私みたいな美女がいいでしょ!」

「はぁ〜、自分で自分のこと美女って言いますか、普通?」

「いいじゃない!だって、私のキスでデンジ君も荒井君もやる気出たんだし、自他共に認める美女でしょ!」

 

 ダブルピースで笑う姫野に、アキは吸い切ったタバコを握りつぶしてから、「精々、先輩の墓を拝むまでは死にませんよ」とだけ言って、未だに騒いでいるデンジ達のいる部屋へと戻る。

 




ポチタは可愛いだけじゃなくて、悪魔なんだから悪魔らしくないとね。
あと、ドナーカードのアイデアはエンジェルビーツを参考にしましたね。
あれは感動する回でしたし、デンジ君も死後はあの世界に行くのかな?
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