21時の投稿後すぐに見た人は、前回の話の最後を読み直すことをオススメします。
姫野と共に部屋に戻ったアキは、デンジにまとわりついて騒いでいるパワーを大人しくさせた後、さっきまでの探索で得た情報を報告する。
「さて、お前らに良いのか悪いのか判断しにくいニュースがある」
「んだよ?水と飯のことならもう聞いたぞ」
「そっちじゃねえ、悪魔の方の話だ」
「おお!ワシらをここに閉じ込めておる悪魔が何処にいるか分かったのか!?」
「そっちでもない、パワー。お前が殺した悪魔の死体が忽然と姿を消した。俺が階段を調査して、廊下に誰もいなくなったタイミングでだ……」
「それって、悪魔が私達の目を盗んで死体を回収したってこと?一体何のために?」
アキのその報告に、悪魔の狙いについて考え込む姫野とは対照的に、頭の良くないデンジとパワーは退屈そうに聞き流していた。
「つまりよぉ~、悪魔は俺らの目が届かないどこかに隠れてるってことだろ?だったらよ、いっそのことこのフロア全部ぶっ壊しちまえばいいんじゃねえか?」
「いやいや、デンジ君それはないんじゃない?ねえ、アキ君」
デンジのあまりにも脳筋すぎる発言に、姫野はその案を否定するが、同じ意見だと思っていたアキに同意を求める。
「いえ、最終的には俺もデンジのその案には賛成です」
「マジ?」
「どうせ、このままここに居ても状況の改善が見られないんなら、その方法もありなんじゃないかと思います」
「まぁ、アキ君が言うなら……」
「んじゃそうしようぜ。今すぐぶっ壊そうぜ!いくぞ、ポチタ!」
「ワンッ!」
そう言って勢いよく立ち上がり、意気揚々とポチタの尻尾のスターターロープを引っ張って、フロア中にエンジン音を鳴り響かせる。
「おい、馬鹿やめろ!最終的にと言っただろうが!!フロアを壊した結果、中にいる俺らがどうなるかも分からない現状で好き勝手に動くな!!」
「ちぇっ、なんだよ!俺はもうたっぷり寝たから外出て体動かしたかったのによ」
「そんな理由でフロア壊そうとしたんだ。君、イカレてるね」
姫野はデンジの発言を聞いて、呆れるどころか感心したような声を漏らした。
もともとイカれた悪魔退治を生業にするデビルハンターがイカレてない訳がないのだが、目の前にいるデンジとのこの短い付き合いの中で、姫野はある師匠の言葉を思い出していた。
『悪魔が恐れるデビルハンターはな……、頭のネジがぶっ飛んでるヤツだ』
悪魔の力で閉じ込められている状況下で、無防備に眠ったり、体を動かしたいという理由だけでどうなるかも分からないままフロアを破壊しようとする。
しかも心臓が悪い筈で、さっきだってトイレで血を吐いたばかりなのに、それを全く感じさせず悪魔を殺そうという気迫に満ちている。
命を惜しむことのない狂って頭のネジがぶっ飛んだコイツなら、銃の悪魔を殺せるかもしれない。姫野はそう思い、思わず生唾を飲み込んだ。
「ひ、姫野先輩!早川先輩!!」
「荒井君!?どうしたの、そんな慌てて……?」
部屋に荒井が慌てた様子で飛び込んできたことによって、姫野は現実に引き戻される。
「じ、実はさっきエンジン音みたいな音が聞こえて!!」
「お~、そりゃポチタが出した音だぜ。もしかして、それでそんな慌ててんの?」
「ポチタ……?ああ、その悪魔の名前だったか。いや、そうじゃなくて!その音を聞いて部屋を出たら、さっきそこの魔人が殺した悪魔の死体が廊下で肥大化してたんです!?」
「なに?」
荒井の言葉を聞くや否や、アキはすぐさま部屋を飛び出した。全員がその後を追って廊下へ出ると、荒井の言った通り、廊下の奥には人の顔や手足が入り混じった肉の塊としか言えない存在があった。さらによく見ると、その塊の中にはパワーが殺したはずの悪魔の顔も混ざっており、一同はこの異様な光景に思わずゴクリと唾を飲んだ。
「ねえ、アキ君。さっきアキ君が確認した時は悪魔の死体は消えてたんだよね?だったらアレは?」
「さあ、恐らく、回収した死体を何らかの悪魔の力で蘇らせて利用したんじゃないですか?」
今の状況と持ち合わせている情報から、アキはそう推測するが、その悪魔の能力までは分からない。だが、そんなことは今どうでもいい。目の前の悪魔はどんどん体を大きくし、廊下を圧迫している。
「人間、人間達よ、愚かな人間達よ、私は契約を交渉する」
「喋った!?」
「契約だと……?」
知性のない悪魔だと思っていた存在が喋りだしたことに驚くデンジと、契約という単語に反応するアキ。
「そこの悪魔を私に食わせろ……。そいつの死体でもいい……、私に食わせろ……。そうしたら他のデビルハンターは全員無事に帰す。無事にかえす……、契約しろ……」
「ワウッ──!!」
契約しろ契約しろと何度も繰り返して迫る悪魔に注目していると、背後の部屋の扉が開く音が聞こえた。
「悪魔……食わせろ……」
半狂乱の状態で、包丁を握ったコベニがデンジの足元にいるポチタを狙ってきた。
「きゃエエエエエ!!」
奇声を上げながら突っ込んでくるコベニに、デンジが迎撃の構えと取ると、その後ろからアキが代わりに前に出て、包丁を前に出して突っ込んでくるコベニの手を蹴って包丁を手放させ、コベニの腹に姫野が肘打ちを入れて行動不能にさせる。
「あは、はは、あはははは」
「うっさいな〜アキ君、キツネで飲み込めば終わるんじゃない?」
人間の愚かしさを嘲笑う悪魔の声に、姫野は苛立ったように睨みつけながら、アキに狐を使うよう提案するが、どうにもこの空間は外界と隔離されているようで、契約した狐の悪魔が召喚されることはなかった。
「じゃ私のゴーストでやるか」
幽霊の右手で悪魔の肉を抉る姫野だが、悪魔は再生と同時に肥大化していき、攻撃してきた姫野を飲み込む勢いで迫ってきた。
「無駄……だ……、これは私の本体ではない。ここに私の心臓はない。ここは胃の中……、私の弱点は8階にはない。私と契約する以外生きては帰れない」
「はん!誰がテメェみたいなキモイのにポチタをくれてやるかよぉ!!」
攻撃するだけ無駄だと息巻く悪魔にデンジは中指を立てて挑発する。
だが、そんなデンジの胸ぐらを荒井が掴みかかる。
「悪魔を挑発してどうする!?いい加減少しは考えろ!?」
「んだとぉ!?そういうお前はなんか考えがあんのかよ?」
「──っ、俺は、お前の悪魔を差し出して契約を結べばいいと思っている。そしたら外に出て──っ!?」
ポチタを差し出せという悪魔との契約を結ぶことを提案する荒井に対し、デンジは胸ぐらを掴む荒井の手を取り、力強く握りしめる。
「ぐぁっ!?」
「ポチタはやらねえ。もし俺からポチタを奪うつもりだってなら、俺があの悪魔よりも先にお前を殺すぜ」
「うっ……!?」
骨が折れるかと思うぐらいの力で手首を掴まれた荒井は、デンジの目に宿る強い意思に恐怖心を抱いた。
噓偽りではない。今のデンジにはやると言ったらやる凄みがある。
「その手を離してやれ、デンジ」
「んだよ、パイセン。アンタもポチタを差し出せって言うつもりじゃねえだろな?」
「安心しろ、俺もポチタを差し出すのには反対だ」
「っ早川先輩!?」
「おぉ~、なんだかんだで早パイもポチタのこと大好きじゃねぇか」
アキのその言葉にデンジは嬉しそうに笑い、荒井は信じられないという表情を浮かべる。デンジが掴んでいた荒井の手を離すと、荒井は息を切らしながらアキの方へ駆け寄った。
「早川先輩!アンタ、このホテルに入る前に言ってましたよね?いつでもそこの悪魔を殺す覚悟があるって。あの時の言葉は噓だったんですか!?」
「噓は言ってねえ。俺はそこのポチタが俺らを裏切ったら殺すと言ったんだ。それに、悪魔側はポチタを殺したがっている……ポチタの死が悪魔の利益になるんだろう。だから契約は受けない」
「……了解しました。俺は……コベニちゃんをベッドで安静にさせときます」
アキの言葉に荒井は不満そうに黙り込んだ。しかし、現状ではアキの言うことが正しい。もしここで悪魔と契約して脱出しても、その契約によって悪魔がさらに力をつければ、ますます手がつけられなくなるだろう。
そう考えた荒井は仕方なく、床に倒れているコベニを部屋のベッドに運ぶ役を引き受けた。
「しかし、ちょんまげよ。それならここからどうやって出るんじゃ?ワシはノーベル賞を取るために外に出ねばならん。さっさとポチタを殺して渡せばいいだろう」
「言っておくが、魔人は悪魔と契約を結べない。だからお前がポチタを殺しても、悪魔が外に出す義理はない」
暴走の兆しを見せるパワーに、アキが先手を打って牽制を入れる。
自分が殺しても外に出られないと分かると、パワーはちぇっ!と舌打ちをして引き下がる。
「でもさ、アキ君。実際問題、ここから出るには悪魔と契約を結ぶ以外なくない?アイツは攻撃しても再生してデカくなるみたいだし、ここに弱点の心臓がないなら、ここから出られない私達じゃ勝ち目ないよ?」
「……いざって時は俺の刀を使います」
「アキ君。それはダメってさっきも言ったよね?」
身を乗り出してアキの提案を却下する。
「んあ?刀使って脱出が出来るなら使っちまえばよくねえか?」
「どんなことがあっても、アキ君に刀は使わせない。だから、その時は悪いけど、デンジ君のその悪魔、ポチタ君だっけ?には死んでもらうしかないかな」
可愛らしく言う姫野に、デンジはポチタを抱えて「絶対にヤダ!」と叫ぶ。
「……ずっと考えてたんですが、何故あの悪魔はこのタイミングで俺達に契約を持ち掛けてきたんでしょうか?」
「どういうこと?」
「俺が見回りしている時、最初に殺した悪魔の死体は消えていた。なのに、このタイミングで姿を現したのには何らかの理由があるはずです」
「確かに、言われてみるとその通りだよね。契約を持ち掛けるなら、私達がもっと疲弊したタイミングでも良かったはず。なのに、あの悪魔はこうして私達の前に姿を現した」
アキの疑問に姫野もそうかと納得する。何故このタイミングで悪魔が姿を現したのかと考え込んでいると、パワーが突然手を挙げて答える。
「それはあれじゃ!ワシが魔人になる前は超恐れられておったからのう、あの悪魔はワシに恐怖して姿を現したんじゃ!!」
「んなわけねえだろ。だってそうならずっと隠れてればいいのに、なんでわざわざ姿を出したんだよ?」
パワーの虚言にデンジがツッコミを入れているなか、アキは今の言葉を真剣に考える。
「いや、もしかしたら、本当にあの悪魔はビビッて姿を現したかもしれない」
「はぁ?」
「じゃろう!いや~、デンジと違ってちょんまげは分かっておるな!!」
アキの推測にデンジは意味が分からないと首を傾げ、パワーは我が意を得たりと嬉しそうに笑う。
しかし、姫野はその仮説には納得できないのか、アキの頭がおかしくなったんじゃないかと疑う。
「ねえ、アキ君。本当にあの悪魔が魔人ちゃんに恐れて姿を現したと思ってるの?」
「いや、正確にはパワーじゃなく、ポチタを恐れて姿を現したんじゃないかと俺は思ってます」
「ポチタを……?」
「ワ……ワフッ!?」
「はぁ~?ちょんまげ、ウヌはバカか?こんな雑魚悪魔がなんでワシよりも恐れられておるんじゃ!?」
アキの仮説にパワーが嚙みつくが、アキはそれを無視して言葉を続ける。
「まず第一に何故悪魔はポチタを狙ったのか?悪魔だから危険視したというのなら、パワーも契約の内容に組み込まれても良かったはず」
「確かに、魔人だって元は悪魔。そこのポチタ君を危険だと考えて殺すなら、魔人ちゃんだって殺せと言ってくるよね?」
姫野もアキの推測に納得する。パワーは未だに納得できないという表情を浮かべるが、構わずに話を続ける。
「第二に悪魔の姿を現したタイミング。これは、俺と姫野先輩が部屋に戻って、荒井君が部屋を出る前までの間ですが、その間に起きたことが1つあります」
「んぅ~、あっ!デンジ君がポチタ君のエンジンを吹かせたこと!」
「ええ、荒井君もポチタのエンジン音を聞いて部屋を出たら悪魔が現れていたと言ってました。つまり、悪魔も荒井君と同じように、ポチタのエンジン音を聞いて姿を現したんじゃないかと思うんです」
「けどなんで姿を現したの?デンジ君がさっき魔人ちゃんに言ったように、普通は姿を隠すものだよね?」
ここで生じた矛盾に姫野が疑問をぶつける。
「そこでさっきの契約に繋がるわけです。あの悪魔はポチタを恐がって、俺達に殺すように命令した。それはつまり、契約を持ち掛けなければ、ポチタによって殺される可能性があると判断したからじゃないでしょうか?」
ここまでアキの仮説を聞いた一同は、その可能性が最も高いと納得する。
しかし、そうなると新たな問題が浮かび上がる。弱点はここにはないから殺せないと言った悪魔を殺せる可能性があるポチタとは、一体何者なのかという疑問だ。
「それで、デンジ。ポチタは一体なんの悪魔なんだ?」
「なんの悪魔だって言われても、チェンソーの悪魔なんじゃねえの?」
「でも、チェンソーの悪魔ってだけじゃ、あの悪魔がビビる理由にはならないよね?」
う~んとポチタの正体について考え込んでいる間に、パワーがデンジの股の間にいるポチタを奪い取る。
「おう、ポチタ!ウヌはなんの悪魔なんじゃ!?さっさと答えんか、おうおう!」
「キャウン!」
「あっ、こら、パワー!ポチタに言っても分かるわけねえだろ。喋れないんだからよ!」
パワーはポチタの両脇を掴んで上下に激しく揺らして、問い詰めるが当然ポチタは喋れないので答えられるわけがない。デンジは慌ててパワーからポチタを奪い返して距離を取る。
「そ、その悪魔がどんな悪魔でも関係ありません!」
背後からコベニの声が聞こえてきた。どうやら、ベッドに少し横になって回復したようだが、それでも悪魔によって閉じ込められている環境に恐怖心が拭えないのか、再びパニックを起こしつつある。
「すみません!コベニちゃん、起きてからずっとパニクっていて、俺じゃ手がつけられません!」
コベニを介抱していた荒井が四つん這いの状態で部屋から這いずり出てきた。どうやら、包丁を持ってパニックになるコベニにビビって腰を抜かしたのだろう。
「どうする、アキ君。またアキ君と私でコベニちゃんを取り押さえる?」
「それしかないでしょう」
姫野の提案にアキも頷く。そして、もう一度コベニを取り押さえようとしたその時、コベニが持っている包丁を闇雲に振り回す。
「こ、こないでくださぁい!そこの悪魔を差し出さなきゃ、私達死んじゃうんです!!ここは悪魔のお腹の中だから、私達死んでゴハンになっちゃうんですぅぅぅ!!!」
あれだけ振り回せば、さっきのように迂闊に懐に入るのも危険だと判断して、アキと姫野の動きが止まる。
そんな中、この厳しい状況下でデンジはコベニの言葉に何かヒントを見出した。
「あっ、それだ!」
「へっ?」
デンジの気の抜けたような言葉に、パニクっていたコベニの動きが止まる。
「んだよ、やっぱしこれしかねえよな!」
「おい待て、デンジ。何するつもりだ?」
「そりゃ勿論、悪魔退治だろ!」
永遠の悪魔との戦闘準備を整える。
とりあえず、永遠の悪魔戦が終わるまで甚爾君の出番はカットで!!
(ネタがちょっと尽きた)