「いっちに、さんし!ご~ろく、しちはち!」
「ふぇっ、へぇあ?」
「デンジ君、マジでどうしちゃったんだろう?」
悪魔と戦う前に、寝すぎて凝り固まった体を、ラジオ体操でほぐしているデンジ。その姿を目の当たりにして、どういった反応をすればいいのか困惑するコベニと姫野。
「アイツにはアイツなりの考えがあるんでしょう。俺らも、いざって時にすぐ動けるよう、少し体を動かしておいた方がいい。幸い、あの悪魔はこちらを警戒して無理に襲っては来ないみたいですしね」
アキもまたデンジに倣い、いつでも戦闘態勢に入れるよう体をほぐし始めた。
そんなアキの指示に従って、姫野も動けるように軽い準備体操をしながら、一つ気になったことをデンジに尋ねる。
「でも、デンジ君。さっきコベニちゃんの言葉で何か思いついたみたいだけどさ、本当に大丈夫な策なわけ?」
「おう、そりゃもうバッチリだぜ!」
指で丸を作ってOKだと伝えるデンジ。けれど、どうにも一抹の不安が抜けきれない姫野は具体的にどんなことを思いついたのか聞いてみた。
「バッチリって言われてもな~……。悪魔の言葉が正しいなら、ここに弱点の心臓はないんでしょ。そんな場所でどうやって悪魔を倒すつもりなの?」
「さっきのビビり女が言ってたろ、ここは悪魔の腹の中だって!ったく、紛らわしいよな、腹なら腹って言いやがれよ、胃の中って言われてもピンとこなかったもん」
「おい、ちょっと待て、デンジ。お前、胃の意味を知らなかったのか?」
デンジのその発言に、アキは思わずズッコケそうになりながら、まさか嘘だろという気持ちで聞き返す。
「だって、そんなの教わったことねえし。俺はずっと胃なんて言葉使わずに、腹ん中って言ってきたからな」
「「「「…………」」」」
そんなバカ丸出しのデンジの発言に、デンジが考えた策への不安が一気に募ってきた。
「えっと、デンジ君。ここがお腹の中だって分かったからどうするわけ?」
姫野もどう声をかけたらいいのか分からない状態で、デンジに尋ねる。しかし、その問いに対してデンジは、自信満々のドヤ顔を浮かべて答えた。
「はっ!やっぱし、アニキの言ってた通り、やっぱし義務教はダメだなぁぁぁ!!!胃の意味知っててもよ、そっからどうすりゃいいか分かんねえもんな!?」
「へぇ~!じゃあ、デンジ君はここが悪魔の腹の中だって分かってどうすればいいか分かったの?」
「そりゃ当然よ。俺は義務教受けたテメェらと違って、難しい本とか全然読んじゃねえけどよ、ガキの頃にアニキから文字覚える為に読んでもらった本の内容は全部覚えてんだよな!!」
それがどうこの状況を覆すのかますます分からなくなった姫野は「え~っと?」と首を傾げる。
「んでよぉ、俺がアニキに読んでもらった本の中に、一寸法師っつうめっちゃ小さい奴が、鬼っていう悪魔みたいな化け物の腹の中に入ってぶっ倒してお宝を手に入れる話があったんだよな」
「デンジ君、まさか……!?」
ここまで聞けば、デンジが何をするつもりなのか全員が理解した。
十分に体をほぐし終えたデンジは、足元で待機していたポチタを抱え上げると、スターターロープに手を掛ける。
「だからよぉ!俺も一寸法師みてぇに暴れ回りゃ、あの悪魔も鬼みてえにぶっ倒れて、ベロキスのお宝は俺のもんだぜぇぇぇ!!!」
ポチタのエンジン音に負けないぐらい、大声で叫ぶデンジ。
そのテンションのまま悪魔に突っ込んでいくデンジを、姫野は止めることができず、呆然とその後ろ姿を見送るしかなかった。
「ちょっ、アキ君。デンジ君突っ込んで行っちゃったよ?どうするの!?」
「あの馬鹿!?さっき言ってたこれしかねえって、結局は暴れ回るってことかよ!!」
止めに行こうにも、デンジは既に悪魔の目の前まで突っ込んでおり、今から止めに入ったところで間に合わない。
アキと姫野が慌てている間に、デンジは悪魔へと飛び掛かって、そのままポチタのチェンソーを突き刺した。
「オラァ!?オメェも腹って言えばいいのに、小難しい胃なんて分かりにくい言葉使ってんじゃねえぜ!!!」
「ぎゃあああ!!痛い、痛いぃぃ!!だが、弱ってる。無駄だ、無駄ぁぁぁ!!いくら抵抗しても、私からは逃げられない、倒せない!!!」
ポチタのチェンソーで永遠の悪魔を切り刻むデンジ。しかし、悪魔の切られた箇所は瞬時に再生し、無数の手がデンジに向かって迫ってくる。
それに驚くことなく、デンジとポチタは伸びてくる手をかわしながら切り落としていくが、悪魔の手は切っても切っても減るどころかますます増え、次第に当たりそうになる場面が増えている。
「ああ、クッソォ!本じゃ暴れりゃすぐ鬼はぶっ倒れたのによぉ!!再生するとか反則だろぉぉぉ!!」
「無駄だチェンソーオオに人間んぅぅぅ!!!痛い!!私の心臓がここにない以上、私を殺すことは不可能ォォォ!!ぎゃああアアア!!!」
悲鳴と共に諦めろと叫ぶ永遠の悪魔。
「おらおらオラァ!無駄っつう癖に痛がって悲鳴上げてんじゃねえか!!つまりよ、俺の作戦は成功してるってことだよなぁぁぁ!?」
本来の世界線では、コベニと荒井の恐怖を糧にフロアが傾くほど巨大化していたが、現在は廊下の一部しか覆えていないため、攻撃範囲も正面に限られており、デンジは致命傷を避けている。
それでも、人間である以上スタミナには限界があり、この状況が続けばいずれデンジの動きが止まり、永遠の悪魔に殺されてしまうだろう。
ただそれはこの状況がそのまま続けばの話だが。
「すんすん!血の臭いじゃ!デンジぃぃ!!ワシもそのバトルに混ぜろぉぉぉ!!!」
「はぁ?コイツは俺が殺してベロキス貰うんだ!!パワーは下がってろよ!!!」
「ギャハハハハハハハ!!!!」
デンジの攻撃で大量に流れた永遠の悪魔の血の臭いに酔ったように興奮したパワーは、血の武器を作り出し、デンジと永遠の悪魔の戦いに飛び込んできた。
突然の参戦にデンジが「横取りするな!」と叫ぶが、悪魔の肉を切り刻むことに夢中なパワーには、その声は全く届いていなかった。
「ありゃりゃ、魔人ちゃんも行っちゃった。どうするの、あのまま二人に任せて私達は観戦しとく?」
「冗談はやめてください。魔人であるパワーはともかく、人間のデンジは長期戦は無理です。俺もデンジの援護に向かいますので、姫野先輩は後ろの後輩二人をお願いします」
「あっ、ちょっと!?もう、アキ君の馬鹿!?」
言いたいことだけ言ったアキは、パワーの後を追う形で、永遠の悪魔へと向かっていく。一人残された姫野は、いつでも援護できるようにコベニと荒井の前に立ち、ゴーストの手を出現させて備えている。
「おい、パワー!俺にも武器を作って寄越せ!!」
「はぁ?なんでワシがちょんまげに武器を作ってくれてやらねばならんのじゃ!?」
「ちっ!──だったら、帰ったら今晩のおかずはからあげにしてやる!!」
「ほぉ!からあげとな!!うむぅ、仕方ない。今回はからあげに免じて作ってやる。約束じゃからな!!」
渋るパワーに、少し考えたアキはからあげを条件に、パワーから血で作られた刀を投げ渡された。
それを受け取ると、デンジの隣に並び立つように立ち、永遠の悪魔と対峙する。
「あっ、お前まで来たのかよ!?言っとくけど、ベロキスの褒美は俺んだからな!!」
「そんなのいらん!それより、デンジ!あまり派手に動き過ぎるなよ!なるべく体力を温存して戦え!!」
「はっ!んなの、言われるまでもねえっての。俺がアニキにしごかれてまず覚え込まされたのが立ち回りだからな。まあ、お前には考えて動く才能はないって言われたけどよぉ!!」
互いに永遠の悪魔を斬りながら叫ぶ。デンジは甚爾から、アキは岸辺からそれぞれ叩き込まされた連携の基本的な立ち回りが功を奏し、初めての連携にもかかわらず、互いに攻撃範囲に相手が入らないよう配慮しつつ、死角となる部分をカバーし合う動きを見せている。
そんな二人から少し離れ、永遠の悪魔と孤軍奮闘するパワーはというと。
「ギャハハハハ!!!血じゃ!血の雨じゃああぁぁぁ!!──ぐえっ!??」
攻撃するたびに永遠の悪魔が血をまき散らし、それを浴びるようにしていたパワーは上機嫌で笑い続けていた。しかし、一人で暴れ回っていたパワーの死角から、永遠の悪魔の攻撃が腹部を貫通した。
「キャハハハハ!!まずは一匹ぃぃぃ!!!」
「パワーぁぁぁ!!!」
「落ち着けデンジ!パワーは魔人だ。血を飲ませば助かる」
腹を貫かれて倒れたパワーを見て焦りの声を上げるデンジとは対照的に、飛び出す前にパワーなら血を飲めば復活すると事前に覚悟していたアキは冷静な態度でデンジに落ち着きを取り戻させる。
「あっ、そうか。じゃあ、俺がどうにかしてくっから、道は任せたぜ!」
「言っておくが、そう長くは守ってやれないからな!!」
パワーの元へ駆け寄ろうとするデンジの行く手を阻む永遠の悪魔の攻撃を、アキが次々と切り落として道を作る。デンジたちの目的が倒れたパワーの救出だと察した永遠の悪魔は、触手のように伸ばした体の肉でパワーの前に肉の壁を作り、近づけまいとする。
「いかせるかぁぁぁ!!」
「バァカァ~!そりゃあこっちにとっちゃ好都合ってもんだぜ!」
デンジは目の前の肉の壁にポチタのチェンソーを振り下ろし、抉るように穴を開けた。その時、穴の向こう側へ飛び散った血が滝のように流れ、パワーの口元へと注ぎ込まれていった。
「んぐぅ……。カッ!ワシ、復活じゃあああぁぁぁ!!!」
血を飲んだ途端、閉じていた目がぱっと開き、貫通していた腹の傷もみるみる塞がる。両手を上げたガッツポーズで、パワーが声高らかに叫ぶ。
「復活だじゃねえんだよ!悪魔にやられてんじゃねえぞ、パワー!!」
「はぁ?ワシは悪魔になんぞやられてはおらんが?」
復活したパワーはいつも通り、自身にとって都合の悪い記憶を改ざんして、倒されてないと噓をつく。
その態度にデンジがキレて口喧嘩に入りそうになった気配を感じたアキが「それどころじゃねえだろ!?」と怒鳴ることでお互い永遠の悪魔との戦いに戻る。
「ガアアアあああ!!痛い、でも弱い!!チェンソー!チェンソー!!チェンソー!!!」
永遠の悪魔は心臓の代わりとなる部分を破壊されない限り、何度でも再生する。デンジたちが何度も悪魔の体を削り取っていくが、その度に永遠の悪魔は傷口を肉で塞いで再生してしまう。
その様子を離れた位置から見ていた姫野がこのままじゃマズイと危機感を覚える。
「アキ君らだけじゃ削り切れない。それに、魔人ちゃんが倒れる度にアキ君とデンジ君が助けに行ってちゃ、すぐにスタミナなんてきれちゃう」
かといって、あの魔人が連携プレーをする性格にも、出来る技量を持ち合わせているとも思えなかった。
完全なジリ貧に姫野は、守るべき後輩たちの方を振り向いて、お願いをする。
「聞いて、コベニちゃんに荒井君。このままじゃ皆あの悪魔に殺されて終わっちゃう。だから、私もあの悪魔の討伐に参加しようと思うの」
「えっ、そんな、じゃ……じゃあ、私達、どうなっちゃうんですか!?」
「あの中に入るんですか?危険過ぎます!!」
姫野の言葉にコベニと荒井が、不安を顔に浮かべて反対する。その反応は当然であり、引き止めようとするのが普通だ。
だがそれでも、ここで指をくわえて見ているだけは出来ない。
「大丈夫、私はここから離れたりはしないし、あそこに飛び込むつもりもないよ」
「ふぇっ?」
「じゃあ、どうするんですか?」
「こうするの。すぅ~、魔人ちゃぁぁん!!私にもアキ君みたいに武器ちょうだぁぁい!!なるべく大き目で痛そうなやつを!!!」
姫野はパワーに確実に聞こえるよう、大声で叫んだ。するとその声に反応したパワーは、戦闘中の手を一瞬止め、姫野の方を振り向いて叫び返した。
「はぁ!?なんでワシがウヌなんぞのためにそんな事せねばならんのじゃ!!作って欲しければ、ウヌもちょんまげみたいに何か寄越せ!おうおう!!」
案の定ともいうべきか、作ってやる変わりに対価を寄越せと言い出したパワーに、姫野がどうしたものかと少しだけ考える。
「う~ん、アキ君はからあげで武器を作ってもらったんだし、それに合うお酒……ってのは、魔人ちゃんの見た目的にアウトかな。だったら!魔人ちゃんの好きなジュース何本でも買ってあげるからさぁ~!!!それで手を打ってくれない!!?」
「ジュース……?肉ではないが……。まあ、よかろう!ほれ、受け取れ眼帯女!!!」
どうやら交換条件に納得してくれたパワーは、姫野の希望通り、姫野の身長と同じサイズのトゲ付きハンマーを投げ渡した。
クルクルと回転しながら飛んでくるそのハンマーを、姫野はゴーストの手で掴んで受け止める。
「おお!ナイス武器のチョイス!!!」
そのハンマーは姫野の身長ほどの大きさがあり、トゲが付いていて、見た目からして痛そうな、まさに希望通りのものだった。作ってもらった武器に満足した姫野は、パワーに向けて親指をグッと立てて感謝を示す。
そして、受け取ったハンマーを手に馴染ませるように軽く振ってみる。
「私さ、デビルハンターやってストレスとか溜まったら、バッセンとかゲーセンのモグラ叩きで発散するんだよね」
そう言いながら、姫野はゴーストの右手に意識を集中させる。
それを後ろで見ていたコベニと荒井は、雰囲気の変わった姫野に声を掛けることが出来なかった。
「だからさ、こうして悪魔退治でストレス発散出来るのって、初めてなんだよ──っね!!!」
瞬間、姫野はパワーから貰った武器であるトゲ付きハンマーで、永遠の悪魔を壁ごと粉砕する勢いで殴りつけた。
「ぎゃああアアア!!!!い、い、い、いたぁあいい!!!!」
「ヒュ~!今のは良い一撃だったんじゃない?」
結果、永遠の悪魔の体の一部が壁にめり込んでミンチとなり、その痛みと苦しみに絶叫を上げている。
それを見た姫野は、パワーから貰った武器の性能とゴーストの右手の相性が思っていた以上に良いものだと理解した。
「アキ君!!私はここから魔人ちゃんの作ってもらった武器で援護するから、後ろとか気にせずに戦っちゃってぇぇぇ!!!」
「了解です!助かります、姫野先輩!!!」
そうして、デンジとパワーが、アキと姫野の援護で永遠の悪魔を圧倒していく。
永遠の悪魔VSデンジ&ポチタ&パワー&アキ&姫野の戦いの決着は近い。
次回で永遠の悪魔戦は終わりらせます。
甚爾の出番を待つ読者も多いですからね。(アンチコメに涙しそうになったので、ネタはしっかりと考えておきます)