森野ホテル内部の8階にて、永遠の悪魔と遭遇した公安特異4課らはコベニと荒井を除く4名と1匹が交戦を開始。
体感時間にて丸一日近くの戦闘を継続している4名のうち、最も早く限界が来たのはアキだった。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……。っあ!?」
息を切らして刀を振るった途端、ふらついた体が刀を振った勢いに引っ張られ、一瞬アキの体が無防備になる。
その隙を狙って永遠の悪魔は、触手と化した肉の塊をアキ目掛けて振り抜いた。
「オッラァ!!ったく、もうフラフラじゃねえかよ。さっさと姫パイの方に行って休んでこいよ」
その攻撃をデンジが防ぎ、片膝をついて倒れるアキの体を引っ張って起き上がらせる。
「っ、こんなの普段のお前らの相手をしている時の方が百倍しんどい……」
「ちぇっ、こんな時くらい素直に礼ぐらい言やいいのによ」
「……今晩のからあげ、大盛りにしてやるから、帰りの荷物持ち手伝えよな」
「おっ、やりぃ!」
素直じゃない礼を言って、アキはこのままでは足手まといになると判断し、姫野の元まで退避する。
「おつかれ、アキ君。少し休んでなよ。この中で一番働いてたのアキ君なんだから。逆に、デンジ君の方は戦う前でゆっくり寝てたから、体力万全のようだけどね」
今もポチタを振り回しながら永遠の悪魔を切り刻むデンジの姿を見て、あの時の一見ふざけたように見えた行為も、こうして振り返ると大正解だったとデンジの評価を姫野は改めた。本当にこの男なら、銃の悪魔を倒せる可能性があるのではないかと確信しそうになるほどに。
「すみませんが、俺はちょっと仮眠します。戦況が動きそうなら、無理矢理にでも叩き起こしてください」
アキはそう言って、刀を抱いたまま、壁にもたれかかって眠りに入った。
「ごめんだけど、コベニちゃんに荒井君。アキ君の警護をお願い。もし悪魔が何か仕掛けてきたら、アキ君を守ってあげてね」
「「は、はい!」」
姫野の指示を受け、今まで棒立ちだった二人は眠っているアキのそばに寄り、それぞれ手に持った武器を構え、いつでも守れるように身を固めた。
こうして、戦場からアキが一人消えたことで戦況が変わるかといえばそうではなかった。
永遠の悪魔はチェンソーマンを恐がっていた。地獄の悪魔も恐れる存在に恐怖するのは間違ってはいなかった。
しかし、その為にある存在を見落としていた。永遠の悪魔である自分にとって天敵に成り得る可能性を持つ存在のことを。
血が噴き出し、血が降り注ぎ、血が飛び散る。戦場のどこを見ても、永遠の悪魔が流した血が染み付いていた。まさにここは血の海とも言える状況だ。この惨状を引き起こしたのはデンジやポチタを含む公安のデビルハンターたちだが、実際にこの血の海を作り出した大部分はパワーの仕業だった。
「ギャハハハハ!!!血が溢れんばかりに湧き出よるわぁぁぁ!!!」
腹を貫かれ、永遠の悪魔の血を飲んで復活してからのパワーの活躍は凄まじかった。
デンジとアキが永遠の悪魔を攻撃して出した血を飲み、姫野が叩き潰した肉を食らい、自身の血の武器を投げつけては永遠の悪魔を刺し貫いて流れた血を浴びる。
「今ならば何でも出来る!湧き上がるインスピレーション!!!」
銃の悪魔の肉片を取り込んだ永遠の悪魔は、パワーにとって格上の存在である。しかし、そんな悪魔の血と肉を大量に摂取した場合、どうなるのか。
結論として、パワーの魔人としての能力は、悪魔だった頃の力にほぼ追いついていた。血を飲めば飲むほどその力を増す血の悪魔であるパワーは、初撃で仕留められなければ永遠の悪魔の天敵にまで成長する存在だった。
「ほれほれ、どうした?ワシを止めれぬか?」
血の剣、血の槍、血の金槌、血の矢、血のドリル──……。無数の血の武器がパワーによって生み出される。
今のパワーが繰り出す攻撃は、さしずめ
「ゾクゾクするのう!!ワシという才能に!!あぁワシって……!!ワシこそが!!!『悪魔』じゃ!!!!」
この瞬間、パワーの脳裏に浮かんだインスピレーションが導き出した答えは、圧縮と解放だった。取り込んだ血も、作り出した血の武器も、周囲に飛び散っている血さえも、パワーは完全に支配した。そして、その支配した血を、ただ無造作に飛ばすのではなく、手の中に収まるほど小さく纏めていった。
本来ならばパワーの手の中に収まりきらないほどの膨大な量の血が、圧縮された状態から一気に元に戻ろうとすれば、その威力がどれほどのものになるか、技を生み出したパワー自身ですら想像できないだろう。
だからこそ見てみたい。血の悪魔である自分が生み出したこの技がどういった結末を生み出すのかを。
「ッッッ!なんか、やべぇ!?お前ら、今すぐここから逃げろぉぉぉ!!!」
デンジは本能的にパワーの手に収まる血の危険性を察知し、後方にいる姫野たちに逃げるよう叫んだ。デンジたちが廊下の反対方向へ全力で走る中、永遠の悪魔は恐怖と共に魅入ってしまっていた。目の前にいる雑魚同然だった魔人が、自身が恐怖するチェンソーマンにも追いすがるほどの成長を遂げた、パワーという大悪魔の原石に。
「
一点、圧縮された血の僅かな部分だけ支配を緩めると、そこから解放された膨大な血の噴出が光線のように広がり、永遠の悪魔をホテルのフロアごと消し去った。
まるで、ドラゴンボールのかめはめ波でも撃ったかのような衝撃的な光景に、急いで逃げていたデンジ達は目を丸くして驚いていた。
「パ……パワーってこんなに強かったのかよ。マジで大悪魔じゃねえか……」
「これ、本当にマキマさん、あの魔人ちゃんを管理出来てる?」
「あわ、あわわわ……」
「ホテルの壁が貫通して、外の景色が……!?」
その破壊力にデンジたちが呆然としている中、パワーだけが平然と立ち、腰に手を当ててホテルの崩れた壁越しに見える空を眺めながら、自慢げにドヤ顔を決めている。
「んぅ……。なにかあった……のか……?」
逃げる際に、コベニと荒井によって左右から担ぎ上げられていたアキが今の騒動で目を覚ますと、そこで見たのはホテルの壁に空いた穴と、その前に立つパワーの姿だった。
一体自分が眠っている間に、何があったのか気になるアキだったが、寝起きでこの意味不明な状況の整理に時間が掛かって何も言えないでいる。
「ん?おお、起きたかちょんまげ!どうじゃ、見たかワシの活躍を!!今晩のおかずのからあげに追加してステーキも用意するがいい!」
「あっ、いつものパワーだ……」
先程の桁違いの強さを見せたパワーに若干の警戒を抱いていたデンジだったが、今の小学生丸出しな発言に、その警戒を解いて肩の力を抜いた。
「ねえ、これであの悪魔は倒せたのかな?あいつ、ここには自分の心臓はないって言ってたでしょ?」
「どうでしょう?壊れた壁の穴から外が見えるってことは、悪魔の力は解除されたんじゃないでしょうか?」
姫野が永遠の悪魔が本当に死んだか疑うが、荒井は悪魔という存在の仕組みから逆算して、この騒動はこれで片付いたと予想した。
姫野もその言葉に納得し、安堵の息を吐いている中、まだそうではないと一人……いや一匹が警戒を解かずにいた。
「ウゥ~~、ワンッ!!」
「あっ、おい、ポチタ!?何処に行くんだよ!?」
デンジの腕の中から抜け出したポチタが階段へと走り出した。その後をデンジが追いかける。
その様子に、まだ戦いは終わっていないのかと、パワー以外の全員が気を引き締め直してデンジとポチタの後を追った。
「うぐぐ……。クソぉ、チェンソーマンは確かに弱体化していた筈なのに、私の能力で閉じ込めた筈なのに!?あんなに強い魔人がいるだなんて聞いていないぞ!?」
先程の姿とは打って変わり、ボロボロで瀕死状態の永遠の悪魔が9階のフロアから逃げ出そうとしていた。原因は血を流し過ぎたことだ。いくら永遠の悪魔とはいえ、悪魔である限り血はエネルギーであり、恐怖が力の源だ。あの場で永遠の悪魔に恐怖していたのは、後方にいたコベニと荒井だけだったが、その二人もパワーの無茶苦茶な戦いぶりに恐怖の対象を移してしまった。
その結果、弱体化した永遠の悪魔は最後にパワーの攻撃を受け、弱点である心臓を狙われることなく瀕死の重傷を負ったのだった。
「しかし、能力が解かれた今なら、奴らも私が死んだと思い込んでいるはずだ!だからこそ、今のうちに……」
「ワンッ!」
「へっ!?」
永遠の悪魔の本体が最後に目にしたのは、自分を見下ろすように立ちはだかるポチタの迫りくるチェンソーの刃だった。
「お~い、ポチタ!!」
「ワワンッ!!」
「お~、何しにこんなとこ来たんだよ?」
ポチタの後を追ったデンジが9階フロアに辿り着いてポチタの名を呼ぶと、仕事を終えたポチタがデンジの胸の中に飛び込んだ。
そんなポチタを抱きしめて、デンジがポチタの顎下をこちょこちょと撫でていると、その後ろからパワー以外の全員がやって来た。
「おい、一体どうした?」
「いや、ポチタが急に走り出してよ……」
「ポチタ君が?あれ、そのポチタ君が咥えてるのって!?」
姫野がポチタが咥えている物体に気が付くと、ポチタがその咥えてる物をペッと吐き出した。
アキがその吐き出されたそれを確認しようと拾い上げると、それはまさしく銃の悪魔の肉片だった。
「お前、もしかしてまだあの悪魔が生きてるのに気が付いて、ここまで登って来たのか?」
「ワフッ!」
アキの疑問に、その通りだと言わんばかりにポチタは吠えた。
こうして、完全に永遠の悪魔との戦いを終わらせたデンジ達は、事件の報告を纏めようとしたのだが、今回の功労者であるパワーが「からあげ!!」と叫ぶので、今回何も出来なかったコベニと荒井がその任を買って出た。
「からあげはちゃんと作ってやるが、その為の材料を持って帰るのは手伝えよ」
「え~~~?」
「へぇ~い……」
荷物運びの手伝いを言い渡されたパワーとデンジは不満そうにしていたが、からあげという報酬の前に渋々と頷いた。
「なんか三人共、家族みたいだね」
「やめてくださいよ、姫野先輩。こんな手のかかる子供はいりません」
「またまた~、手のかかる子ほど可愛いって昔から言うじゃん」
そんな風にからかう姫野に、アキは本気で嫌そうな顔をして否定する。
「あっ!そうじゃ、ウヌ。ワシにジュースを買う約束、忘れてはおらぬだろうな!?」
「約束……?あっ、俺もベロキス!ベロキスの約束あったよな!?」
「勿論、ちゃ~んと覚えているよ。ジュースはからあげの材料買う時のついでに買ってあげる。デンジ君のベロキスはそうだなぁ~……」
どうしようかと迷う様子に、デンジは焦りと不安が入り混じった表情を浮かべながら次の言葉を待っていた。 そして、悩んだ末に姫野はデンジにその続きを告げるのだった。
「こんな街中で、それもシラフの時じゃ恥ずかしいからさ、今晩アキ君が晩御飯に招待してくれるなら、酒に酔った勢いでめちゃくちゃ濃いキスしちゃうんだけどな~」
「それなら大歓迎だぜ!」
「おい、デンジ!その眼帯女が来たら、ワシの食うからあげの量が減るじゃろうが!!」
「あの家は俺の家だ!まずは家主の俺の了承を取ってから許可を出せ!!」
勝手に許可を出すデンジに、パワーとアキが言い争うのを、姫野は笑いながらその光景を見守っていた。
「あっはっはっは!!君たち、最高ぉ!!」
「ワン!ワン!」
夕暮れ時の帰り道、四人と一匹の影が仲良く並んで歩く。
甚爾が潜伏拠点としている無人島、その砂浜にて1つの技の実験が行われていた。
「よ~し!これでようやく技の完成の輪郭が見えてきたな」
「いやいや、これもう輪郭どころか、完成って言ってもいいでしょ、旦那!!?」
砂浜は焼け焦げるどころか、一部の砂がガラス化し、その先の海も真っ二つに割れ、海底には焦げた跡が残っていた。それだけで圧倒的な高火力の技だとわかるが、その代償は甚爾の右腕の一部が炭化しかけるという深刻なものだった。
すぐに海水で冷やしたことで最悪の事態は避けられたが、もし甚爾の頑丈な肉体でなければ、右腕どころか全身が火傷で使い物にならなくなっていただろう。
「な~、旦那。もういいんじゃないですかい?地獄ならともかく、この世界で旦那が本気で戦うような悪魔なんて、せいぜい銃の悪魔くらいのもんでしょう?正直なところ、やり過ぎて戦うどころか、準備の段階で死にかけちゃったら、本末転倒ですぜ」
「そうかい。まあ、そうだろな。だけどな、俺は未来を──この世界の辿る展開ってのを中途半端に知っちまってんだ。だからこそさ、今の俺の強さが中途半端なレベルだってよ~く知ってる。正直、この世界に転生させるなら、甚爾よりも五条悟か両面宿儺にして欲しいと願ったし、もっと欲を言えば孫悟空に転生させてくれたなら、俺ももっと楽に生きれたんだがな……」
そう言って、甚爾は溜息交じりに背筋を伸ばして、実験を終えた砂浜から海を眺めた。
その見つめる海の先には東京があり、きっとそこにデンジとポチタがいるのだろう。
「まあ、俺よりもクソ生き辛れえ奴らなんざ、この世界には大量にいるだろうし、不貞腐れずに精一杯生き延びてやるさ」
アンチコメントに負けるなという内容のコメに心温かくしてます。
俺、これから先も頑張るよ!!!
ちなみに、ウルススはラテン語でヒグマという意味なので、パワーが使うならラテン語で血を意味するサングィスに改名しました。